コロナが教えてくれた!宿泊業に求められる新たな視点をホテル旅館業務の達人が解説
アフターコロナで宿泊業に求められるものとこれからの宿泊業のあり方について
(2020/05/04更新)
新型コロナウイルスの影響を受け、社会は大きな変革を目の当たりにしています。
オリンピックの延期、インバウンドの消滅、緊急事態宣言での営業自粛、今後も追い討ちをかけるように宿泊業界は様々な問題に直面することとなりそうです。
「宿泊業において、今後起こりうる環境の変化や運営のあり方」について旅館業務の達人にお話を聞いてみました。
ホテル旅館勤務一筋25年。フロント、予約、会計、ブライダル、レストラン、客室、などホテルの各セクションを経験し、リアルエージェント契約、オンライントラベルエージェントの在庫管理、プラン料金調整などを統括している。現場業務から30以上の予約サイトやツールでの集客、コンサルまで幅広い経験がある。
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この記事の目次
宿泊業における現状の予約状況
緊急事態宣言が発令されてから、ゴールデンウィーク明けの5月6日までの休業を決めた宿泊施設が多かったのですが、4月20日を過ぎたあたりから5月末日までの休業延長を表明した宿泊施設が多くなりました。
特に、リゾートホテル・観光地のホテル・旅館では、休業を公表しなくともインターネット上の予約カレンダーが6月末まで予約が出来ない状況になっている宿泊施設も多くあり、夏休み需要に間に合うかどうかがボーダーラインになっています。
国内OTA(*1)の5月、6月、7月のオンハンド(*2)を見ても20%以下で推移しており、新規の予約はまだほとんど動いておらず前年より9割近く少ない状況です。
(*1)OTA:オンライントラベルエージェントの略。オンラインによる宿泊予約サイト運営会社
(*2)オンハンド=前年同日比
アフターコロナの対策について
まだ正式に決まってはおりませんが、政府は恐らく大規模なキャンペーン施策を打ち出すものと考えられます。過去に自然災害などの被災地では、復興支援割引などの施策がありました。今回は対象が全国におよび、インバウンドの減少分も国内需要で賄う必要がありますので、1兆円規模の予算が投じられるのではないかとの声も耳にします。
復興支援策の内容としては、1人あたり数万円のクーポン配布などが有力で、そうなると旅行業者経由の宿泊予約が対象となる可能性が高くなります。
宿泊業は、宿泊施設のみならず旅行代理業も含まれます。そのためJTB、KNT、NTAなどのリアルエージェントや楽天トラベル、じゃらん.netなどのオンライントラベルエージェントも恩恵を受けられる仕組みを導入しなくてはなりません。
ここで注意したいのは、もし復興支援策のクーポンや補助金などが旅行代理店経由でなければ使えないとなると、宿泊施設への直接予約が激減してしまう恐れがあるということです。
復興支援策の恩恵で昨年と同じ売上が出たとしても、旅行業者を経由しない直接の電話予約や自社サイト経由の予約が減少します。そうなると、宿泊施設は前年よりも旅行代理店に支払う送客手数料が増える事となり、自社比率の高い宿泊施設にとっては大きな打撃となります。
それらの回避策として、各旅行業者と直予約の宿泊基礎売上の前年実績を確認し、自社比率を計算しておきます。さらに、自社比率が0%になった場合の旅行代理店に支払う手数料を計算し、その手数料分の値上げを検討する事で自社比率が低下しても対応することができるでしょう。
ビフォーコロナの宿泊料金のままでは純利益が大きく下がる可能性がありますので、今後の政策やその詳細に注意を払いながら準備を進めるようにして下さい。
コロナでわかった!? 宿泊施設から新しいサービスの創出を
ZoomなどのWeb会議、LINEのビデオ通話など、存在は知っていたけど実際に体験したことのある人、そもそも体験する機会がなかった人など様々だと思います。新型コロナウイルスの影響でテレワークが勢いよく広がり、それらのツールについて初めて知った人も多いのではないでしょうか。
それらのツールを快適に使いこなすために、Webカメラやヘッドホンなどを買い求める人も増え、一部品薄状態が起きているほどです。
同時に、テレワークに適した環境を求める人も増えており、その人たちの為に宿泊施設の部屋をワーキングスペースに改装し、新たなサービスとして提供するビジネスモデルが誕生しています。
観光ホテルや旅館では、食材や料理を家庭でも楽しめるように真空パックにして商品開発をしたり、売店のオリジナル商品のネット販売を強化したりと、独自の方法を考案しています。さらに、ホテル・旅館の商品に特化したECサイトも新たに誕生して注目を集めています。
コロナがきっかけで誕生するサービスはこれからまだまだ出てきそうです。
新たな衛生基準やホスピタリティ規範の設定を
コロナウイルスの世界的大流行により、マリオット・インターナショナルなど外資系のホテルチェーンでは、社内外で専門家も交えた協議会を設立し、新たな衛生基準やホスピタリティ規範を整備する事で、お客様と従業員を守る安全措置を強化しています。
世界保健機関(WHO)が推奨する消毒剤の使用、静電噴射器でのロビー、客室の表面部分の消毒作業、人と人が一定の距離を保つ為の看板や標識の導入、フロントカウンターでの仕切りの導入なども整備されつつあります。
また、ルームキーや自動精算機など不特定多数の人が触れる機会の多いものは、お客様のスマートフォンで対応可能になるシステムやツールに入れ替わろうとしています。
これから宿泊施設に求められるのは利便性の向上と安全性に対する信頼
テクノロジーは日々進化を続け、現在ではスマートフォンでありとあらゆることができる世の中になっています。
アフターコロナで宿泊業の再生を求めるなら、お客様、従業員、経営者、それぞれの行動がスマートフォンで完結できるかを基準の一つに取り入れてみてはいかがでしょう。
現在でもお客様による宿泊予約はスマートフォンでできますが、チェックイン、部屋の鍵の解錠、施錠、フロントへの電話、朝食券、チェックアウト精算、などはいかがでしょう?
従業員目線でも、予約業務、フロント業務、客室清掃業務に置ける社内での情報共有や、経営者目線での売上予実管理など、まだスマートフォンではできない事も沢山あると思います。
新型コロナウイルスを経験した事でこれから様々なシステムの開発が進み、それらが感染防止にも繋がる事も多いと思います。しかし、IT化が進む事で利便性は格段に上がりますが、安全性が見落とされがちです。
新たなホテルシステムの導入の際には、利便性と同時に安全性も十分に考慮していく必要があります。また、システムに不具合や欠陥が見られた際に、迅速かつ的確に対処していく体制を整えておくことも非常に重要です。
ホスピタリティとおもてなしの心を大切に
宿泊業は、サービス業でありホスピタリティ業でもあります。
お客様に求められた事を行動に移す事は、人でなくシステムやロボットでも対応可能で、人より優れているかもしれません。
しかしながら、お客様にお喜びいただける事を考えて行動に移す事は、人の方が優れていると私は思います。
新型コロナウイルスを経験した我々だからこそ、そこに数多くのヒントがあるのではないでしょうか。
前回に引き続き、今回もとてもためになるお話が聞けました。
今後の宿泊業に求められる具体的な対策方法や、宿泊業のぶれてはいけない軸の部分であるホスピタリティへの考え方など、緊急事態宣言で自宅待機を余儀なくされている今だからこそ、ゆっくりと向き合って考えることができるのではないでしょうか。
創業手帳冊子版では、宿泊業だけでなく様々な業種の創業者にむけた情報なども発信しています。お困りごとの解決にぜひお役立てください。
(編集:創業手帳編集部)