HataLuck and Person 染谷 剛史|「はたLuck®️」で店舗サービスに革新を!
「はたLuck®️」で店舗業務を効率化&スタッフの付加価値の向上を実現!働くのが楽しい店舗作りに貢献
日本企業の多くを占める「サービス業」を元気にするために、店舗サービス業に特化した生産性向上プラットフォーム「はたLuck®️」を開発・提供しているのが,HataLuck and Personの染谷さんです。
起業の経緯や店舗サービス業界の課題や可能性について、創業手帳代表の大久保が聞きました。
株式会社HataLuck and Person 代表取締役 CEO
1976年、茨城県生まれ。1998年、リクルートグループ入社。中途・アルバイト・パート領域の求人広告営業に従事。新人賞を受賞。マーケットプロデュース部門に異動し、WEB・モバイル系新商品開発に従事。2001年、株式会社デジットブレーン入社。副編集長、広告局マネジャー。大手ホテルやハウスウェディングのPRコンサルティングに従事。2003年、株式会社リンクアンドモチベーション入社(東証一部上場)。大手小売・外食・ホテルといったサービス業の採用・組織変革コンサルティングに従事。2012年には同社執行役員に就任。以後も新規事業開発(グローバル事業立ち上げ、健康経営部門の立ち上げ)を経て、サービス業に特化した組織人事コンサルティングカンパニー長を担う。2017年、ナレッジ・マーチャントワークス株式会社を設立し、代表取締役に就任。多店舗展開型企業の経営・組織変革を目的にサービス産業に特化したHRコンサルティング全般を行う。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
日本の店舗サービス業を元気にするために起業
大久保:まずは起業した経緯を教えていただけますか?
染谷:起業する前は14年間、「日本を元気にする」というミッションを掲げる「リンクアンドモチベーション」という会社でコンサルタントをしていました。働く中で色々と調べてみると、日本の雇用形態として正社員よりも非正規雇用の労働人口が年々増えていることがわかりました。日本は製造業が盛んなイメージを持っている方が多いかもしれませんが、いつの間にかサービス業を中心とした企業が多くなっていることに気付きました。
しかし、取引先を調べてみると多くは銀行や商社が中心で、サービス業の企業はほぼありませんでした。
そのため、会社が掲げる「日本を元気にする」というミッションとの違和感を感じるようになり、社内起業のような形で、サービス業に特化したコンサルティングを提供する新規事業カンパニーを8名でスタートしました。
会社が提供していたコンサルティングサービスは1.5日ほどの長時間かつホワイトカラーに最適化された研修が中心で、サービス業に従事する方々にはなかなかフィットしづらい内容でした。
サービス業に特化したコンサルティングや研修を開発したくても、利益を出していない新規事業カンパニーに会社として予算を出すのは難しく、悩ましい時間を過ごしました。
この間にも「日本を元気にする」ためには「サービス業を元気にする」必要があると営業先に話をすると、やはりお客様の共感や反応はかなり大きく、そうであれば「真っ直ぐにサービス業に向けてみんなが待ち望んでいるITを使ったソリューションを提供したい」という思いが強くなっていきました。
そこで「独立起業」という選択肢が頭に浮かびました。そんな中、グループ会社への異動の内示が出たことをきっかけに、リンクアンドモチベーションを退職し、「株式会社HataLuck and Person」を起業しました。
店舗スタッフは「売り手」ではなく「助け手」になる必要がある
大久保:HataLuck and Personが提供する「はたLuck®️」というサービスはどのような業界に分類されますか?
染谷:「はたLuck®️」は店舗の生産性向上のプラットフォームに分類されると考えています。
店舗経営には、店舗で働く人の能力を引き出して、お客様に購入していただく商品数や客単価を上げるといった付加価値の高い仕事が求められます。
コロナ禍に入りオンラインショッピングが普及した現代で、店舗が持つ役割は「接客によるお客様の課題解決」だと思います。例えば、自分に合う服を買いたくても自分に合う服がわからないお客様は、店員からのアドバイスを必要としています。
このように、これからの店舗で販売員は「売り手」ではなく、専門知識を持ち、お客様の「助け手」になることが求められるのです。
各店舗のベストプラクティスをより早くより簡単に共有
染谷:現在の店舗経営では、経営者が考える店舗運営の方向性やブランドや商品に込めた想いが店長までしか届いておらず、従業員の大半を占めるアルバイトの方々には届いていません。
そのため、本部から届く在庫を補充したり、空いた段ボールを片付けたりすることが仕事の中心だと捉えているアルバイトの方もいて、それでは店舗がお客様の「助け手」にはなりません。理想の店舗を作るためには、店舗で働くスタッフ全員に、会社やブランドの方向性といった情報が届き、接客に必要な知識や技術を個別に習得できる環境を作る必要があります。そうして初めて全従業員が「助け手」になり、理想の店舗運営が可能になります。
そこで「はたLuck®️」では、店舗で働くスタッフが学習するための機能や個人に溜まっているノウハウを共有する機能を搭載しており、常にアップデートされたベストプラクティス(課題克服、問題解決のための優れた実践例)に自分のスマホで簡単にアクセスできることを中核機能にしています。
今までは各店舗に蓄積されているベストプラクティスは、月に1回の店長会議を待たないと各店舗に共有されないことが多かったと思います。しかし、「はたLuck®️」を使い各スタッフの方々がその日のベストプラクティスをタイムリーに更新することで、「より付加価値の高いスタッフの教育」や「労働生産性の向上」に繋がっていきます。
他社のサービスの中には、「業務効率化」「省人化」にフォーカスしているサービスがありますが、人を削ることを主眼にしているため、それでは事業全体が縮小傾向に陥ってしまいます。店舗サービス業は、人を削りすぎると逆に顧客満足度が下がってしまうからです。
「はたLuck®️」では、シフト作成や情報共有の部分の作業を効率化して、空いた時間にベストプラクティスを学び、スタッフが付加価値の高い業務を習得し、その業務を実行できるような環境作りを提供しています。
店舗での立ち仕事中でも使いやすい「スマホ操作」に特化してサービスを開発
大久保:店舗の商品や顧客の分析ができる人材は限られていますが、それを誰でもできるようにしたのが「はたLuck®️」でしょうか?
染谷:日々の情報入力は店舗のスタッフがスマホで簡単に行えて、それらの情報をCSVやエクセルで出力し、すぐに経営会議で使う資料の作成が可能です。
大久保:一般的なビジネスマンはパソコンを主に使っていますが、サービス業の方々はスマホを使い慣れているなど、業界ごとに適したデバイスが違うということでしょうか?
染谷:サービス業界で働く方々は立ち仕事が基本なので、立ったままで片手で操作できる「スマホでの作業」を想定して「はたLuck®️」の開発をしています。
インターフェースも簡潔で入力項目も最低限に絞っているため、店舗で働き始めたその日から誰でも操作できるのが「はたLuck®️」の特徴です。
大久保:リンクアンドモチベーションと競合する部分もありますか?
染谷:リンクアンドモチベーションは「エンゲージメントサーベイとコンサルティング」が主軸なので、競合することは全くありません。
全国の約9,000店舗に導入されている「はたLuck®️」が選ばれる理由
大久保:現在「はたLuck®️」が導入されている店舗はどれくらいありますか?
染谷:ショッピングセンターを含めると約9,000店舗ほど導入されています。1社で100〜300店舗ほどの全店舗に導入していただくこともあります。
また、三井不動産様のららぽーとや三井アウトレットパークなど41施設全てで導入していただいています。商業施設の運営側としても、デジタル従業員証で全ショップスタッフの入退館管理としての利用や、ショップスタッフへのお知らせ通知、従業員用クーポン発行など、働きがいを上げる施策の推進に繋がるため、「はたLuck®️」にメリットを感じていただいています。
大久保:「はたLuck®️」には具体的にどのような機能がありますか?
染谷:シフト管理、情報共有、教育、データマネジメントなどが中心です。
スタッフの業務の付加価値が上がるまでには時間がかかるため、まずはシフト管理ツールで時間の効率化や、連絡ノートを使っての情報共有の効率化を図っています。
また、マニュアルを搭載する機能もありますので、効率化して空いた時間でしっかりと学習していただくような仕組みを整えています。
店舗が求める付加価値の高い仕事をしてくれたスタッフや、自分のノウハウを提供してくれたスタッフには星(サンクスカード)やクーポン(2022年5月中旬実装予定)を送れる機能や従業員用クーポンの提供で、瞬時に評価することも可能になります。
店舗サービス業に特化した「はたLuck®️」の他との違い
大久保:サイボウズやキントーンはホワイトカラー向けなので、店舗向けの「はたLuck®️」は少し違うということですか?
染谷:他社サービスの多くは掲示板のような静的な要素が強いサービスだと考えています。一方で「はたLuck®️」は日常の気づいたことを瞬時に投稿できる動的なサービスだと考えています。
店舗で立ち仕事をしているスタッフがわざわざウェブ上の掲示板を見に行くことは少ないので、お客様にとって良いことなどを気づいた人が瞬時にアプリに投稿できて、それがみんなに通知されて分かるように、スマホアプリを中心に開発しています。
一般的なデスクワーカーが使っているようなITツールを店舗で働くスタッフが使うのは難しいため、スマホアプリの機能は最低限に絞り、詳細のデータ分析などはPC画面で本部の方や店長権限がある方が行えるようにしています。
大久保:「はたLuck®️」は導入先の企業ごとにカスタマイズできますか?
染谷:個別にカスタマイズしたいというご要望はよくいただきますが、その内容が「はたLuck®️」の利用者全体に必要な機能であれば、個別カスタマイズではなくシステム全体をアップデートするようにしています。
個別企業毎にカスタマイズをしてしまうと、そのお客様のソフトウェアだけ機能のアップデートができなくなり、どんどん古いシステムになり、結果的にお客様は損をしてしまいます。
より良いサービスを使い続けていただくためにも、個別カスタマイズではなく、システム全体のアップデートという方針を取っています。
大久保:今後の方針としてはコンサルティングやSaaSなど、どの方向に注力する予定ですか?
染谷:基本的には「はたLuck®️」のサービス開発・運営に注力します。しかし、「はたLuck®️」の導入の際に、システム導入サポートの延長として、DXを進めるための経営陣や管理職向けのワークショップを行う可能性はあります。
事業の安定と成長のどちらを優先すべきか?
大久保:起業した後に大変だったことはありましたか?
染谷:色々と大変なことがありました。
まず開発当初に狙っていたサービス内容が店舗での利用に合わず、試行錯誤を続けた結果、今の「はたLuck®️」の形に落ち着きました。
特に大変だったのが、プロダクト開発におけるジレンマと選択です。サービスリリース当初はGoogleが提供するCloud Firestoreを使ってデータベースの管理を行っていましたが、ユーザー数が急増すると対応できなくなり、システムが不安定になることが発生しました。
事業計画では色々な機能を実装する計画を進めていましたが、保守メンテナンスを優先しなければならず、計画通りに新機能をリリースできないこともありました。
新機能をリリースできないことで、計画していた売上が立たず、売上が立たないと資金調達が困難になるという様々な問題が連鎖的に起こりました。
限られた人員と資金を考えると「既存顧客を優先したサービスの保守メンテナンス・品質向上」と「資金調達を優先した新機能の開発での月次収益の獲得」のどちらかしか実行できない状況に追い込まれました。
私がHataLuck and Personという会社を設立したのは「日本のサービス業界を盛り上げる」ためだったので、起業の原点に立ち返り、既存顧客に提供しているサービスをより良くするための「保守メンテナンス・品質向上」を選びました。
現在も経営を続けられていることから考えると正しい判断をしたと思いますが、悩んだ時には起業した原点に立ち返ることで、企業としての軸がどんどん強くなっていくのだと思います。
経営判断に悩んだ時には初心に立ち返る必要がある
大久保:「保守メンテナンス」と「新機能リリース」のどちらかを選択する際に、社内で反対意見など出ませんでしたか?
染谷:会社を経営する上で最も大切なのは「組織」なので、経営方針を決める際にはしっかりとその理由をメンバーに共有しました。
特にエンジニアは新しい機能をリリースしてお客様の課題を解決したいという気持ちが強いです。しかし、そのお客様の課題を解決し続けるためには、保守メンテナンスをして、品質を上げて、顧客のライフタイムバリューを上げることが最も重要だと説明しました。
お客様の課題を解決することも、新機能をリリースすることも、会社の継続が前提にあります。会社の経営には、会社を潰さないための「守り」に4割のリソースを使い、会社を成長させるための「攻め」に6割を使うというバランスを私は意識しています。
大久保:最後に、経営方針に悩む起業家に向けてメッセージをいただけますか?
染谷:企業のミッションは顧客や投資家に対する「約束」なので、その約束を守り続けることが何よりも大切で、難しいことだと思います。
しかし、この約束を守り続けることで、投資家からも評価と信頼に繋がりますし、顧客からも選ばれる理由になります。
経営判断に迷うたびに初心に立ち返り、ブレないミッションを築き上げられると、組織として強くなれると思います。