9月30日施行 派遣法改正のポイント4つ
派遣業者が倒産するかも!? 影響を受けるのは誰か、何に注意が必要か、まとめました
(執筆:あおいヒューマンリソースコンサルティング代表 榊裕葵 社会保険労務士)
(2015/09/30更新)
平成27年9月11日、改正派遣法が国会で成立し、同年9月30日より施行されることとなりました。
そこで、今回の派遣法改正によって、何が変わったのか主要なポイントをまとめてみたいと思います。
この記事の目次
1.派遣制限期間の見直し
これまで、専門性が高いとされてきたソフトウェア開発や秘書などの26業務に関しては派遣期間の制限はありませんでした。
一方で、26業務以外の業務については、派遣期間は3年以内とされていました(派遣される労働者を変えたとしても、同一業務について3年を超えての派遣は不可)。
今回の改正では、26業務か否かという区別をなくし、全ての業務について、
1人の派遣労働者が同一企業の同一組織単位(「課」など)で働くことができるのは3年まで※というシンプルなルールに改められました。
※
例外1:派遣元に無期雇用されている場合は、1人の派遣労働者を無期限に派遣できる
例外2:派遣される労働者を変えた場合は、同一業務について無期限に派遣をできる
まとめると、下表の通りです。
区分 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
26業務 | 無期限 | ※派遣元に無期雇用されている場合、 または、3年毎に人を変えれば無期限 |
26業務以外 | 3年以内 |
働く人にとっては、雇用の安定が損なわれるという見方もありますが、起業家にとっては、3年働いてもらって直接雇用を打診することもできるし、人を変えたり所属部署を変えたりして派遣の受入を継続することもできます。
選択肢が増えて、プラスの効果がある改正と一般的には解釈できるのではないかと思われます。
2.特定労働者派遣の廃止
改正前は、労働者派遣には、「一般労働者派遣」と「特定労働者派遣」の2形態がありました。
一般労働者派遣は、仕事があるときのみ派遣元と雇用契約を結ぶタイプの派遣形態で、俗に「登録型派遣」とも言われています。これに対し、特定労働者派遣は自社の常用労働者のみを派遣するタイプの派遣形態です。
一般労働者派遣は許可制、特定労働者派遣は届出制とされていました。
この点、改正後は一般労働者派遣と特定労働者派遣の区別をなくし、全ての労働者派遣が許可制に一本化されます。
自社で常用する労働者のみを派遣する場合も、今後は新規に許可を得る必要があるため、一般労働者派遣同様の厳しい許可基準のクリアが求められることとなります。
現在特定労働者派遣の届出を済ませて事業を行っている会社も、経過措置として定められた3年以内に、一般労働者派遣と同様の基準をクリアしなければ、廃業をせざるを得なくなってしまいます。
とくに影響があると思われるのは、資産に関する要件です。
特定労働者派遣では、届出にあたり資産要件はとくに求められていませんでした。
ですが、一般労働者派遣では、労働者派遣を行う1事業所ごとに、2000万円の資産があり、しかも、うち1500万円は自己名義の預貯金等であることが求められていますので、今後は零細事業所が労働者派遣事業を行うことは難しくなるのではないかと思われます。
3.雇用安定措置の義務化
先ほど、「1.派遣制限期間の見直し」の項目で、1人の派遣労働者が同一の事業所で就労できるのが3年までということを説明しましたが、3年たって派遣期間が満了した後に労働者はどうなるのでしょうか。
これまでも努力義務のレベルでは、派遣労働者の雇用安定が求められていましたが、今回の改正により、法律上も雇用安定措置の義務化が明記されました。
具体的には、派遣期間の上限に達した労働者に対し、派遣元は、次のいずれかの措置を講ずる必要があるということになりました。
(1)派遣先への直接雇用の申し入れ
(2)新たな就業機会(派遣先)の提供
(3)派遣元で無期雇用
(4)教育訓練その他雇用の安定を図るために必要な措置
なお、派遣期間の上限の3年未満の派遣労働者が離職した場合は、上記は努力義務にとどまりますが、2年11か月でわざと契約を打ち切るなど、脱法行為を行った場合は、派遣許可の次回更新が却下されるなどのペナルティが与えられる見通しです。
4.派遣労働者のキャリアアップ支援・派遣先労働者との均等待遇
派遣元はこれまでも派遣労働者に教育訓練を行ってきましたが、これが義務化されます。
雇用する派遣労働者が、派遣就業に必要な技能及び知識を習得することができるよう、教育研修の段階的・体系的実施や、キャリアカウンセリングを受けることに対する支援などが義務化されます。
また、派遣労働者から求めがあった際には、賃金や福利厚生などに関し、派遣先の同種の業務に従事する労働者と差異が生じないよう、派遣労働者の均衡待遇の確保の際に考慮した内容の説明義務が追加されています。
5.総括
今回の改正は、労働者派遣を行おうとする事業者に対し、許可や更新の要件の厳格化、また、派遣労働者の雇用維持や教育、待遇などに関する義務の強化など、負担の大きな内容になっています。
これを受け、派遣業界では淘汰が進むものと予想されますが、逆に、しっかりと法改正に対応して、生き残った派遣業者には、大きなビジネスチャンスがあるのではないかと思われます。
(監修:あおいヒューマンリソースコンサルティング 代表 榊 裕葵)
(編集:創業手帳編集部)