GENDA 申 真衣|ゲームセンター文化は海外のホワイトスペース

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2022年11月に行われた取材時点のものです。

東大から外資証券を経て起業! モデルや子育てとの両立も


30代から40代の働く女性やママから絶大な人気を誇る女性ファッション誌『VERY』の専属モデルでありながら、エンターテイメント事業を展開する『株式会社GENDA』の創業者で代表取締役社長という唯一無二の経歴を持つ申氏。東大出身で、創業前はゴールドマン・サックス証券に勤めていたという華々しいキャリアを持ちながら、なぜ起業したのでしょうか。

エンターテイメント業界の中でも、日本では昔からあるアミューズメント事業で起業した理由、今後の展望などについて、創業手帳代表の大久保がお聞きしました。

申 真衣(しん まい)
株式会社GENDA代表取締役社長
東京大学経済学部経済学科卒。
2007年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。金融法人営業部で金融機関向け債券営業に従事。その後、2010年より金融商品開発部にて、金利・為替系デリバティブの商品開発・提案業務、グローバルな金融規制にかかる助言業務等幅広い業務に従事。2016年4月、金融商品開発部 部長、2018年1月、マネージングディレクターに就任(当時最年少)。2018年5月、株式会社GENDAを共同創業。2019年6月より現職。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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「なんておもしろいんだろう」と感じたアミューズメント業界


大久保:東大を出て、外資証券に入社。最年少でマネージングディレクターに就任されたとのことで、人も羨む順風満帆な人生を送られていたと思いますが、そこから起業されたのはなぜだったんでしょうか。

:外資証券時代、10年以上商品開発を担当していました。そんな中でこれからの人生を考えたときに、人生100年時代と言われる今、できれば80才ぐらいまで長く働き続けたいなという思いがありまして。

外資だと、キャリア的には40代半ばからリラックスしたムードになっていくので、80才までのイメージが持ちにくいなということで、大きくキャリアを変えることについて考え始めました。1年半ぐらいかけて起業家の方を始めいろいろな方と会ったり、自分の中で考えたりしている中で、今の共同創業者である片岡(株式会社GENDA代表取締役会長の片岡 尚氏)と出会ったんです。

イオンファンタジーにいたことがあり、アミューズメント事業に詳しい片岡に業界の話を聞いて、なんておもしろいんだろうと感じました。

また、片岡と私はお互いにまったく違うバックグラウンドを持っていて、そういった2人が一緒に会社を経営することで事業の領域が広がるんじゃないかという思いもあり、GENDAをツートップで創業したという経緯があります。

大久保:どのような事業内容なのでしょうか。

:主にアミューズメント施設運営事業やアミューズメントマシンのレンタル事業、オンラインクレーンゲーム事業、キャラクターライセンス事業とセールスプロモーション事業を展開しているグループ各社の事業成長支援、及び経営管理です。

立ち上げ当初は、ゲーム機を購入してゲームセンターに置かせてもらうレンタル事業がメインでした。いわゆるテック企業のような、人件費が多くかかるようなタイプの事業ではなく、人件費が少なくて固定資産が多い、デットがつきやすいところから事業をスタートしました。リセール価格もあるような事業になるので、そういう意味では最悪ゼロにはならないということであまり不安なく始められましたね。

大久保:スタートアップ界隈では、物への投資が大きい事業は避けた方がいいというのが定説なので、それは新しい視点ですね。やはりそのあたりは外資金融時代のご経験が活きているのでしょうか。

:そうですね。やはり経営に金融的な視点というのは不可欠だと思っていますので、外資金融時代の経験は強みになっているかなと感じます。

大久保:アミューズメント施設に注目した理由はなんだったのでしょうか。

:私はプリクラ世代だったので、ティーンの頃はよくゲームセンターに行っていたんですが、それからずっと行く機会がなく、市場規模すら知りませんでした。でも片岡に最近のアミューズメント業界について話を聞き、5000億程ある市場であること、大手企業もメインではなく事業の一部分として手がけていることが多く、上位の寡占が進んでいない事業であることなどを聞き、その中での戦い方を工夫しやすい業界なのかなと感じました。

立ち上げ当初は、実際にゲームセンターなどのアミューズメント施設を運営するようになるのはもう少し先かなと考えていましたが、思ったよりも早い段階で形になりました。

大久保:そうなんですね。わたしの世代はゲームセンターといえば「ストリートファイターⅡ」でしたね。既に成熟した市場という印象がありましたが、最近のアミューズメント業界事情はいかがですか。

:ゲームセンターって、それぞれの世代がそれぞれのイメージを持っている場所なんでしょうね。ただ、中身としては変化してきています。

「ストリートファイターⅡ」などのビデオゲームもプリクラもありますが、売上げとしては小さくなってきていて、最近ではクレーンゲームが約6割を占めます。

今ゲームセンターに入ると、1階にクレーンゲームがずらっと並んでいるところが多いと思います。中にどういった景品を置くかというのもとても大事で、もうこれは小売と同じですが、そこで差別化を図っていますね。

大久保:ビデオゲームはスマートフォンでもできる時代ですが、プリクラやクレーンゲームは物がからむので場所としては残り続けますよね。

:そうですね、それこそ今や写真はスマートフォンのアプリなどでいくらでも加工が可能な時代ですが、やはりお友達と出かけた日の思い出としてプリクラをその場で撮って、物として持つと同時に、データをスマートフォンにダウンロードしてSNSにアップするといった、オンラインとオフラインをミックスしたような遊び方を今の若者はしているなと感じます。

YouTuberさんから取材依頼が来ることがあるんですが、例えばクレーンゲームで遊んでいるところを撮影してアップロードするというのも、オンラインとオフラインのミックスですよね。

「今後はすべてがオンラインになっていくから、ゲームセンターのような場所は不要になる」というわけではないですし、そこでシェアをとっていくメリットはまだ大きいと思っています。

モデル業、子育てとの両立は「いろんな人の手を借りながら」


大久保:起業で役に立ったスキルや経験などはありますか?

スキルや経験よりも「諦めないこと」これに尽きると思っています。今でこそ業績も好調ですが、コロナ禍の際にはあと何か月で資金が尽きる、といった状況に陥りました。その時に諦めていたらそれで終わりでしたが、諦めずに続けていたからこそ今があります。

他にも、新規事業にいくつか挑戦した中で、上手くいったものもあれば、上手くいかなかったものもありました。レジリエンス(トラブルや困難な状況の際に、逆境をはねのけて回復する力のこと)を大事にしたいと思っています。

大久保:やはりコロナの影響は大きかったですか。

:2020年の4月から5月にかけて、ゲームセンターはほとんどクローズしていたので、ゲーム機のリースをしていた我々の売上げはほぼゼロでした。制度融資でなんとかピンチを切り抜けられたという感じです。

大久保:人気の女性誌『VERY』の専属モデルもされていらっしゃいますね。モデルをやっていることで、メリットはありますか。

:やはり会社の知名度が上がるということでしょうか。立ち上げたばかりの時は誰しも人の採用が難しいと思いますが、私がほかのメディアに出ていることで、信用度はプラスになっていると思います。

大久保:2人のお子さんのママということで、起業やモデルとの両立は大変だと思いますが、どのように両立されているのでしょう。

:それはもう、いろんな人の力を借りながら両立しています。保育園やシッターさんを利用していますし、夫とは半々で家事や育児を行っている状態ですね。

1人目と2人目の年齢が4才半と少し離れているので、赤ちゃんが2人いるという感じではないのもよかったと思っています。

10年後、20年後の日本を作っていく


大久保:組織作りについておうかがいします。共同創業者であるお2人が、性別も年齢も違うというのはかなり珍しい気がします。

:そうですね。ただ、だからこそ役割も分担できて、うまく経営できているのかなという思いもあります。2つエンジンがあるということはすごく大きいですし、もともと経営陣にいろいろな年齢や性別の人間がいるということが、みんなの働きやすさにつながるのではないかと思っているんです。

経営陣が男性ばかりの組織だと男性が出世しやすく、経営陣が女性ばかりの組織だと女性が出世しやすいという話を聞いたことがあります。やはり女性ばかり、男性ばかりの経営陣というのは偏った組織になりがちなので、今の経営陣で多様性を実現できているのかなと感じています。

片岡とは12才年齢が離れているのですが、ビジネスパートナーとしていい関係性が築けています。

大久保:なるほど。今後の展望についてはいかがですか。

:アメリカ、台湾、中国でも事業を展開していますが、今後は日本の市場も大きくしつつ、海外比率も上がっていくのが目標です。

世界一のエンタメの会社を作ろう、20年でそこまで行こうという夢を掲げて起業しました。その道のりを細かくブレイクダウンできているわけではないですが、創業4年半としてはなかなかいい地点まで来られていると思います。これからをみんなで楽しみにしているところですね。

大久保:ゲームセンターの海外進出は現在どんな状況なのでしょうか。

:例えば北米のゲームセンターではラウンドワンさんがフロンティアを開拓していて好調と聞いています。

アメリカには、レストランの一角にゲームコーナーがあるという業態は昔からありましたが、日本のようなゲームセンターと全く同じような業態はありませんでした。

海外ではゲームセンター自体が日本のカルチャーという意味で人気があり、まだまだホワイトスペースがあり、可能性があると思っています。

片岡はイオン時代に東アジアや東南アジアへの進出を手がけていたので、その経験を活かし、今までその業態がない場所に、その土地にアジャストして展開するということを今後もやっていきたいと考えています。

大久保:起業家はファイナンスに関してはあまり詳しくなく、情熱で行動する人も多い印象がありますが、申さんには独特の強みを感じました。最後に読者へのメッセージをいただけますか。

:日本は新しい産業が生まれにくいといわれていますが、今起業される方というのは10年後、20年後のこれからの日本を作っていく方だと思います。

私も頑張りますので、一緒に未来の日本を作っていきましょう。応援しています。

大久保写真創業手帳 代表・大久保のコメント

創業手帳の大久保です。

多くの起業家の方を取材してきましたが、GENDAの申さんは根本的な発想や行動が異質な新しいタイプの起業家です。

スタートアップやベンチャーでは、人件費の比率が高く投資が比較的少ないネット系やサービス系などソフト産業を選ぶのが定石です。

簡単に言うと「資本を使わず、人を使うビジネス」です。
起業家の多くはこのタイプです。

しかし、今環境の変化が起こっています。
それは昔は余っていた若者が少子化で希少になり、一方で従来より資金調達が大幅にしやすくなったということです。

GENDAの申さんは金融出身ということもありますが、人をあまり使わず資本を使うというタイプの事業展開をして大成功しています。

大きい資本を使い、人の割合が低いビジネス」ということになりますが、これは従来のスタートアップや起業家の考え方と全く逆です。

起業家は大手が目をつけていない、あるいは参入が遅いところにスピードで勝負していくという意味では起業家らしいですが、資本を使いこなして短期間に大きく成長したという意味で全く新しい起業家です。
このタイプの起業家が今後、ほかにも出てくると思います。

こうした古い業界に対してチャレンジし再構築、進化させていく経営者が増えていくと日本はより活性化していくと思います。
GENDAの申さんの活躍を今後も見守りたいと思います。

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(取材協力: 株式会社GENDA代表取締役社長 申 真衣
(編集: 創業手帳編集部)



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