【第1回】「ヘルスケアの革命児」溝口勇児社長・独占取材!元LINE森川さんも経営ジョイン!FiNCの裏側
LINE森川さん、ナイキ元社長など豪華経営陣のFiNCの秘密とは?代表取締役・溝口勇児氏インタビュー
(2015/10/23更新)
トレーナーや栄養士といったダイエットの専門家からモバイルアプリを通じて60日間ヘルスケアのサポートを受けることができる「FiNCダイエット家庭教師」や、プライベートジムの運営、企業の健康課題をトータルで解決する法人向けサービス「ウェルネス経営ソリューション」のほか、遺伝子や血液などの各種検査サービスをも手掛ける株式会社FiNC。
元みずほ銀行常務の乗松文夫氏と元ゴールドマンサックス幹部の小泉泰郎氏が代表取締役副社長を務め、社外取締役に元ナイキジャパン社長の秋元征紘氏、他にガリバーインターナショナルを創業から株式上場へと導いた吉田行宏氏やクックパッドのCFOを務めた成松淳氏、元ミクシィ代表取締役の朝倉祐介氏、元LINE代表取締役の森川亮氏など、スタートアップとしては異例とも言える錚々たるメンバーが経営陣に名を連ねています。
2012年、27歳で起業し、自身が得意とするフィットネス、ヘルスケアの分野で着実に力を付けてきたFiNC代表取締役の溝口勇児氏は、どのようなビジョンを持ってここまで辿り着いたのでしょうか。プロのトレーナーでもあった溝口氏に、起業した経緯や社内でのユニークな取り組みについて話を伺いました。
1984年生まれ。FiNC代表取締役社長CEO。高校在学中からトレーナーとして活動。延べ数百人を超えるトップアスリート及び著名人のカラダ作りに携わる。トレーナーとしてのみならず、業界最年少コンサルタントとして、数多の新規事業の立ち上げに携わり、数々の業績不振企業の再建を担う。2012年4月にFiNCを創業。
1対1で提供できるサービスには限界があると感じた
溝口:高校在学中からスポーツクラブのトレーナーとして働いていて、20代前半でたまたまあるスポーツクラブの支配人を任されたんです。でもそこはもともと赤字続きの店舗で、結局その店を潰して従業員をリストラせざるを得なくなってしまった。これは本当に辛かった。起業しようと思ったのは、その経験が一番大きかったですね。
それから、僕はアスリートのトレーナーをやっていて、彼らに対する劣等感のようなものもありました。日本代表クラスの野球やバスケットボール選手を見ていた時もあって、彼らが球場などから出て行くとものすごいファンに囲まれるんですね。
自分と同世代の選手がサインをするだけで、子どもや異性のファンが泣きながら去って行く。僕がサインを書いても当然誰も喜ばないですから、これはすごい世界だなと思うわけですよ。
起業したもう1つのきっかけは、2011年に起きた3.11です。あの時僕はいてもたってもいられなくて、インターネットで募金を募るサイトを作って300万円必死にかき集めました。ところが孫さんは100億、柳井さんや三木谷さんも10億円という桁違いの金額を寄付していて、孫さんと比べると自分はたった3333分の1しか用意できなかった。その時彼らとの差を突きつけられた感じがして、これは悔しいなと思いました。
溝口:はい。スポーツクラブを運営している従業員100名ほどの会社で働いていましたが、そこの社長が高齢で健康状態もあまり良くなかったこと、またリーマンショックの影響や先ほど話した店舗の閉鎖もあり、経営は極めて危険な状態にありました。
そこで最後の賭けに出たのでしょう、当時24歳で勢いだけはあった自分に白羽の矢が立ち、経営を任せていただくことになりました。この案件は、周囲にライバル施設が続々と新規参入していたこともあって、業界では経営改善が難しいと言われていましたが、業績のV回復に成功し、それが元で業績改善コンサルの依頼も舞い込むようになりました。
起業した理由はもう1つあります。当時自分は、スポーツクラブ等で1対1で提供できるサービスには限界があると感じるようになっていました。多くの人により健康になってもらうために正しい知識や知恵を届けたいと思っても、対面で提供できる人数やサービスには限りがありますよね。
でもその頃ちょうどスマートフォンが普及し始めて、スマホを使って検査結果に合わせたサービスを提供できれば、時間と場所にとらわれずしかも効率的に、多くの方に1人1人に合った最適なソリューションを届けられると思ったんですよね。
溝口:24歳頃から、現在FiNCの社外取締役をお願いしている秋元(征紘)さんが運営するジャイロ経営塾に通っていました。塾と言っても毎回5人ぐらいしかいない絞られた人数で開催していたんですけど、錚々たるメンバーが集まっていましたね。
秋元さんの他に御木本製薬の代表取締役をやっていた田所邦雄さんなんかもいて、そこで毎回違うテーマに沿って学び、そしてディベートをするんです。僕以外はみんな2、30歳上の経営者だったので最初は緊張していたんですけど、議論になると僕も止まらなくなるので、やっていたらすごく面白くなって毎回行くようになりました。その頃に起業したいと思ったんですよ。
だけど当時は経営に携わっていたとは言え、閉ざされたフィットネスという世界の中小企業しか知らなかったので、自分がどこまでやれるのか、どんな能力があるのかが分からなかった。でもそうやって一流の人たちと対峙していく中で、自分でも頑張ればやれるんじゃないかと思うようになり、徐々に起業に対してのハードルが下がりました。
社長ってみんなすごいと思っているじゃないですか。こっちが勝手に解釈して神格化しているというか。でも自分が社長になってみてそうでもないということが分かったので、起業したいと思っている人にはよく「社長はあまりすごくない」と言っています(笑)。
溝口:そうですね。ただ僕は、基本的には萎縮しない性格なんですよ。だから今でも、優秀な人やすごい実績を持った人で、かつ性格の良い人に出会ったらすぐに「うちに来ませんか?」と言ってしまいます。
パーソナルデータという次なるインフラを作りたい
溝口:ジムをやろうと思った理由は大きく2つあります。
1つは、ジムのサービスの質を上げながら、対面で提供するレベルのサービスをいかに非対面にしていくかということを自分たちで実践していこうと思ったんです。
もう1つは、僕はもともとジムの立ち上げや再生のコンサルをやっていたので、それらの領域であればキャッシュを生む1つの事業を作れるなと。ある程度キャッシュが回る事業を作れると、シードアクセラレーターから出資を受けなくてもその資金を元手にアプリ等のサービスに投下できますよね。
ですから僕らは、まず借り入れと社債で3,000万円ほどの資金を作り、そこからジムを立ち上げて、そのキャッシュである程度会社を成長させてから初期は外部株主を入れずにここまで来ました。お陰で最初のエクイティファイナンスでも、そこそこの株価で集めることができました。ダイリューションの観点から事業を持っているというのは強いですよね。
溝口:はい。最初の3,000万円は3カ月ほどですぐに投資して尽きてしまったので、ジムだけでなくコンサルの仕事も始めました。コンサルはもともと前職の時からやっていましたが、起業してからはやらないと決めていたんですね。でも資金がないと始まらないので、7社ぐらいのコンサルを自分1人で引き受けていました。検査事業を立ち上げたり、その先のソリューションを作るのにはお金がかかりましたね。
我々は創業時から、遺伝子、血液、尿、生活習慣、食習慣、身体症状などの各種検査サービスを行なっていて、次なるインフラを作るということをずっと考えています。インフラというと、電気、ガス、水道、交通網と来て今は通信ですよね。見ての通り完璧と言っていいほどインフラは整備されましたが、そうは言っても医療費は上がり続けているし、鬱病の人も増えている。そういった問題を解決するために必要な次のインフラは、僕はパーソナルデータだと思っています。
パーソナルデータとICTを組み合わせて1人1人に合ったサービスを安価で届けることができれば、心と身体の健康領域において最適のサービスを提供できる。それによって幸せな人が増え、より多くの人の笑顔を作ることができますよね。そう確信したので、この領域でなおかつ自分だったらできると思って始めました。
いずれインフラとなるためにはより多くの人に届ける必要があるので、そのためには初期コストを下げなければいけない。そしてそれを実現するためには、価値あるソリューションがないと前に進めないということで、今はソリューションを作っています。
価値観を合わせることには時間をかけている
溝口:会社は1人で立ち上げて、時間差で以前の職場から1人だけ許可を得て社員を連れて来ました。それ以外は周りの友人や知人、社員の友人を採用していったという感じです。初期はヘルスケアやフィットネス関連、美容関連の仕事をしていた人間が多かったですが、今はコンサルティングファームや外資系金融、名のあるIT企業などで活躍していた人が多いですね。
FiNCの特徴は、社長やCTOといった経験と実績を持った人材が多いことです。合わせると10人は超えています。今はアルバイトとインターンを入れて従業員は100名ほど、社員はその半分です。昨年の今頃は全員で25名ぐらいだったので、1年で4倍になりました。
溝口:まず僕らが絶対的に伝えているのはビジョンです。次に重要なのはバリュー、価値観ですね。価値観は人それぞれ違うので、1つ1つの言葉・行動の定義づけをしっかりしないといけないと思っています。
創業時に「FiNC SPIRIT」という会社の行動規範を作りましたが、そこでは「Family Value -絆-」「Integrity -誠実-」「Insideout -自責-」「Responsibility -責任-」「Trustworthy -信頼-」などといった10の行動指針を掲げ、それらに対して社員みんなが共通の解釈ができるように日々いろいろな制度を作っています。
人間関係の問題って、物事の捉え方やそれの齟齬なんですよね。例えば今目の前あるお茶は半分ぐらい飲んでいますが、これを少ないと思う人とまだたくさんあると思う人がいる。価値観が合わないとこの問題に対してもケンカが発生してしまうので、僕らは互いに互いの価値観を理解すること、1つの言葉にしてもきちんと定義を決め、解釈が多様にならないように共通言語化することに時間をかけています。
溝口:それはフェーズによって変わると思うんですよね。創業して最初の1年は、自分の能力以上の人を採用するのは難しい。そうなってくると、現実的にはそれほど実績も経験もないけれど、ビジョンに共感して、薄給でもとにかくやる気はあるみたいなガッツのある人たちを採用して、結果を出さないといけないですよね。
溝口:それは絶対に重要だと思います。ただそれ以外にも、起業家はパラドクスを超えないといけません。いい人材を採るにはお金が必要で、お金を集めるにはいいプロダクトが必要で、いいプロダクトを作るには人が必要になります。鶏が先か卵が先かというパラドクスが常に存在していて、起業家はここを超えられる人でないとダメですよね。
溝口:本当に優秀な人を採りたいんだったら「この地区で1番になる」では誰もワクワクしないですよね。銀座で1番のドーナツ屋を作るという夢にワクワクする人はなかなかいないけれど、世界で一番美味しいドーナツ、あるいは世界で一番尊敬されるドーナツショップとか、アイディアが大きくなればなるほど当然それに対して魅力を感じる人は出てくる。
さらにそれを実現できそうもない経営者には誰も付いていかないじゃないですか。この人だったらやるなと思ってもらえる何か、それが手持ちのお金なのか、実績なのか、あるいは情熱なのか。僕の場合、情熱とこの領域における知見と実績はあったので、この会社だったら、あるいは僕だったらやってくれるんじゃないかと思ってくれたのではないでしょうか。
(編集:創業手帳編集部)
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