元日産社長 西川廣人|老害をぶっ壊せ!若手が会社を変えるための7つの力【後編】
「会社に頼らない」男が社長になった理由とは
2017年に日産自動車株式会社の代表執行役社長兼CEOに就任した西川さん。2018年に当時会長だったカルロス・ゴーン氏が逮捕され、自らも事件後の社内の混乱の責任責任を取る形で2020年に退任しました。ゴーン氏が来る以前と以後の日産を、途中からは幹部というポジションで体験されたことになります。
今は社長を退任し、個人事務所でベンチャーの顧問などをしています。前編ではゴーン改革や西川さんの会社での立ち位置などについてお聞きしましたが、後編にあたる今回は、これからの社会でグローバルに活躍するために大切なことについて、創業手帳代表の大久保がお聞きしました。
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株式会社西川事務所代表
1953年生まれ。1977年東京大学経済学部卒業後、日産自動車株式会社入社。米国留学、米国、欧州駐在、ルノー日産共同購買等を経て、2005年日産自動車、取締役副社長、欧州事業統括、北米事業統括、アジア、日本事業統括、モノづくり機能統括を歴任。2017年4月同代表取締役社長兼CEOに就任。
2019年9月同代表執行役、社長兼CEO退任。2020年2月同取締役退任。
他にRenault SA. 取締役、東風汽車有限公司、董事、日本自動車工業会会長歴任。
現在、株式会社アイディーエス(本社:東京都港区)等ベンチャー企業数社の顧問として活動。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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群れるな。事業を立ち上げられる力をつけよ
大久保:日産自動車という巨大なグローバル企業のトップを務められていたわけですが、変わり続ける社会に対応するためにはどんな人材が必要になってくるのでしょうか。
西川:経営陣が変化に対応することも大事ですが、次世代を支える人材が変化に応じて自然に出てくることが健全だと思っています。ただなかなか自然には人材が育たない。
1990年代、当時の経営者は日本で車を作って海外に売るという輸出型のビジネスから、海外に拠点を持って現地で作って売るという多国籍型のビジネスになかなか切り替えられませんでした。
その下の主流派の日本人も、それまでうまくいっていた輸出型のビジネスにしがみついていたわけです。「この人たちは変化に対応できない人材だから、次に期待しよう」と放置した結果、不満分子しか残っていないというような状況になりました。
今後は、変化に柔軟に対応できる人材を育てるという意識が必要になってくるでしょう。
大久保:人材として見たときに日本人と外国人にはどんな違いがありましたか。
西川:ゴーン氏と同時に欧米から来た若手チームがいましたが、彼らは皆それぞれが事業を立ち上げてもいいぐらいのセンスやキャリアがありました。
これは環境も影響していると思いますが、欧米では独立を若いうちから考えるのに対して、日本では人事や開発などの枠組みの中でしか仕事を考えないという傾向があると思います。
例えば購買の責任者には日本人を指名できても、会社の経営に近いところで適した人材を考えると、日本人の候補はほとんどいなくて、欧米人ばかりになってしまったんですね。
これは社長になった時にもそうですし、ゴーン事件後に自分が後継者を探す時にも感じたことです。
例えば世界を見渡してみると、中国のIT企業の活躍は目覚ましいですし、アメリカのIT企業の社長って日本人はいないけど中国系の方はいます。インド系や中国系のアメリカ人も世界中で活躍していますよね。
これはなぜなんだろうと考えたときに、日本人は同じ属性で集まりたがる傾向がありますよね。絆なんて言い方をしますが、私は群れているだけだと感じます。
多様性を経験していないから、違うバックグラウンドの人が来た時にそういう人たちをまとめることができないんです。やたらに遠慮してみたり高圧的に出てみたりね。
日産の中でもそういう人たちを束ねられる人材がなかなか出てきませんでした。これが世界で通用する経営者が日本人になかなか出てこない理由のひとつで、日本人が陥りがちな欠陥といえるのではないでしょうか。
これからは、多様性があるグループを引っ張っていける日本人の人材育成が必要になってくると思います。
リーダーの7つの力
大久保:リーダーシップを身につけるため、具体的にどのようなことを意識すべきなのでしょうか。
西川:起業を考えたり実際に起業した方は持っていると思いますが、私は「Empathy(共感力)」「Diversity(多様性)」「簡素化」「伝える力」「目標設定能力」「目指す姿を持つ」「変化に対する感度」の7つの力が次世代のリーダーには必要だと思っています。
「Empathy(共感力)」「Diversity(多様性)」の2つは、まだ正確に理解されていないと感じます。例えばさまざまなバックグラウンドを持っている人たちが集まったときに「フランスはこう、アメリカはこう」というふうに思わないことです。
先入観で決めつけず、それぞれの違いを意識しリスペクトしながら、仕事をするときの目標は一緒で同じ方向を向いて進んでいくという心構えが大事です。いろんなマーケットでビジネスを進める際に、多様性が強みになります。
自分はこう思っていて、相手は違う考え方をしているから相入れないというのではなく、わからないことをわからないで終わらせずにできるかぎり理解しようとする姿勢が重要です。
1990年代に海外事業を手がけた日本人にの中にはフランス通やアメリカ通がいっぱいいましたが、この人達のようにわかったつもりになってマネージメントをするのではなく、先入観を持たずに通訳の言葉を解さないで話をして、できる限り理解をするようにということを私自身も心がけていました。
今はスタートアップ支援に注力。若い人を応援したい
大久保:ベンチャーの顧問をされているのはどういった経緯だったのですか。
西川:日産を辞めたときに契約をして、2年間は日産自動車関連の仕事をしないということと、グループ会社の顧問などにはならないことを決めました。
仕事は続けたかったので、日産とは距離を置いて個人事務所を立ち上げました。個人的な知り合いから話が来て、この人なら協力してもいいと感じたベンチャーのお手伝いをしたのが最初ですね。あとは口コミで仕事が広がりました。
今はITベンチャーやAIの会社などの顧問をしたり、日産を辞めてから2年が経ったのでものづくりを手がける会社の海外進出のお手伝いなどをしています。日産時代の人脈はなるべく使わないように意識していますね。
大久保:徹底して会社からは独立独歩なんですね。
西川:妻も小さな英語教室を開いて、扶養から抜けました。会社の枠組みでやるっていうのが嫌いで、フリーランスや起業っていいなと思います。時代が許すなら、40〜50歳ごろにフリーランスとして契約して仕事したかったですね。楽しかっただろうなと思います。
最近、事業承継、継続が単独では難しい会社を集めて再生、再構築を目指す会社のアドバイザーを始めました。会社を束ねたあとどうすればいいのか?という相談があり、海外のお客さんとつながる事を考えて英語のパンフレットを作り、シンガポールの会社とのマッチメイクをしています。
小規模でやっているので、業種を問わず、社長の方の姿勢などを大事にしていて、こちらも信頼できて先方にも信頼していただけることを重視しています。
技術的な支援や、スケールや海外展開のお手伝いができたらいいなと考えています。起業家の皆さんにはいったん始めた事業が持続的に発展していく事、事業の持続性を責任感をもって考えるようなリーダーであってほしいですね。
大久保:日本の企業のグローバル化についてどう思われますか。
西川:日本って現状、1世代前から続いているグローバル企業しかほぼないような状態です。物を作り、その高い品質でそれを輸出してきた自動車や家電会社ですよね。
そういった企業は大きなオペレーションから生み出したキャッシュフローをまた投資するということを繰り返して成長してきたわけですが、彼らが失速してしまったら日本経済は危機に直面することになります。
既存のルールを壊すような牽引者が出てきてほしいですね。ユニクロなどはグローバル展開も巧みで、いい会社になってきたと思います。
ITの人たちに言っているのは、今後は彼らが作り上げたシステムで使用料を取るというビジネスモデルが必要なのではないかということです。
車の世界でいうと、欧米のダッソー・システムズという会社の3次元の設計をするソフトをトヨタもホンダも日産も使っていて、図面1枚書くたびに使用料を払っています。
逆に自分たちが作ったものを世界中が使っていて、その使用料やロイヤリティを得るということが日本の次の技術立国の核心になるのではないかと考えています。
大久保:次世代のビジネスリーダーに期待することはなんでしょうか。
西川:日本だけでなく、外を見てほしいということですね。アジアの若手事業家やベンチャーに世界市場で負けないこと、うまく連携すること。売り上げの2〜3割は海外で、またはドルリンクで持つことなどを意識していただきたいと思います。
アメリカ主導のグローバル化から新たな枠組みへと変化が始まっています。これからが勝負時です。皆さんの活躍に期待しています。
創業手帳 代表・大久保の感想
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(取材協力:
株式会社西川事務所代表 西川廣人)
(編集: 創業手帳編集部)
今回は西川さんの取材でしたが、日産という割と伝統的で保守的な会社のトップにも関わらず、反主流で歩んできた起業家に通じる独立精神を感じました。
起業家は無から有を作っていくのが得意ですが、西川さんのような大企業で実績を残したタイプは物事を整理して仕組みを作るのが得意。
西川さんは顧問や投資などの形で、スタートアップ関連にもチャレンジし続けており、今後の活躍にも注目ですね。