「売れる会社」ってどんな会社?イグジットで会社売却を成功させるための心構え
「売れる会社」の3つの条件とイグジットを考えるタイミング
あなたが将来(あるいは直近で)イグジットで会社売却を考えている起業家だとしよう。会社売却に際し「売れる会社」である条件を知りたいのではないだろうか?様々な見方があるだろうが、以下の「売れる会社」の条件は3つだと考える。
- 「売れる会社」の条件
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1.安定した事業基盤
2.魅力的な顧客
3.信頼できる社長(オーナー)
財務状況や株主の分散などは技術的な課題になりうることはあるが、これらは会社売却の際に「売れる会社」の本質的な課題ではない。
そもそも「売れる会社」とは何か?「売れる会社」とは「買収者が興味を持つ会社」という定義をしよう。そして「買収者が興味を持つ会社」とは、買収者が投資(M&A)をして十分な利益をあげられると考える会社や事業のことだ。
つまり、「売れる会社」とは「買収者が投資をして利益をあげられると考える会社」ということになる。
商品やサービスを販売するときは、顧客の立場に立って「どんな商品・サービスが欲しいか?」と考えるだろう。会社を売却するときも同様である。自分が買収者側の立場に立った時に「買収者が投資をして利益をあげられる会社」とはどういう会社なのか?という視点で考えることによって、「売れる会社」に必要な条件を具体的にイメージしやすくなるはずだ。
今回は、基本的な「売れる会社」の3つの定性的な条件と起業家がイグジットを考えるタイミングについて考えてみよう。
この記事の目次
1.1. 売れる会社の条件①:安定した事業基盤
投資をして損をする可能性が少ない事業とは何か?
この問いかけに対して答えを用意してくれる会社や事業は、「安定した事業基盤」を持っているケースである。
- 安定した顧客基盤を確保しており、毎年同じような売上をあげられる可能性が高いし、マーケットもこの先数年は維持される可能性が高い。
- 参入障壁が高く、激しい競争を回避して安定して顧客から収益を確保できる可能性が高い。
- 代替される可能性が今のところ低く、顧客の囲い込みができている。
- ある特定の地域で圧倒的な強さがある。
以上のような要素が実現できている会社や事業は、安定した事業基盤をもっていると言ってよいだろう。
買収する側からすると、こういった会社や事業は、投資に対する損失リクスが小さい(ローリスク)。買収者が同じ事業をおこなっているのであれば、M&Aによって様々なシステムの共通化や効率化でコスト削減を実現でき、シナジー効果を生み出して収益を最大化できる可能性がある。
したがって、起業したら安定した事業基盤をもつ会社に育成するように心がけるようにしたい。これは将来のイグジットでの会社売却を想定しない場合であっても、健全な経営をおこなう上で必須の心構えである。
1.2. 売れる会社の条件②:魅力的な顧客
将来伸びる可能性がある事業は何か?
この問に対して答えを用意してくれる会社や事業は、「魅力的な顧客」を囲い込んでいたり、あるいは「魅力的な顧客」に対してリーチできているケースである。
- 多数の顧客(不特定、特定の属性を持っている層を問わず)を囲い込み、あるいはリーチすることでネットワークが形成されている。
- 買収者が提供する商品やサービスと相性が良い顧客を持っている。
- 買収者が持っていない魅力的な顧客を取引先として持っている。
- 買収者の取引先として魅力的な技術やサービスを持っている。
以上のような要素を実現できている会社や事業は、魅力的な顧客を持っていると言ってよいだろう。買収する側からすると、こういった会社は、投資損失のリスクはあるものの、大きな投資収益を実現できる(ハイリスクだがハイリターン)可能性があると考えるのである。
1.3. 売れる会社の条件③:信頼できる社長(オーナー)
この会社を安心して(信用して)買収しても大丈夫なのか?
この問に対して答えを用意してくれる会社や事業は、信頼できる人柄の社長(オーナー)が会社や事業を創って運営してきたというケースである。
社長(オーナー)が放漫な経営をし、会社の中身がグチャグチャであったり、あるいは粉飾に粉飾を重ねた決算であったり、こういったことが見受けられる会社は、買収する側の立場から考えると、M&Aを実行した後に問題が発覚する可能性が高いため、敬遠される場合がある。
将来的に第三者に会社を売却をすることを考えているのであれば、日頃からしっかりと会社や経営と向き合い、周囲から信頼を勝ち取れる行動を意識することが必要である。
以上の3要素が全て必要だということではない。しかし、最後は「経営者がどういう人なのか?」という人格評価にたどり着くことが多い。よって、会社売却によるイグジットを考えているのであれば、「信頼できる社長(オーナー)」であるように努めることは必須条件だと言えるだろう。
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1.4. M&Aを活用して会社を「渡す」
会社は永続することが前提とされているが、人は終りが来ることが前提だ。そして、このギャップを埋める選択肢は、会社を「渡す」か「潰す」かしかないのである。
会社を「渡す」というのは、身内かもしれないし、第三者への会社売却をするかもしれないし、あるいはIPOで上場企業となって社会のものになることかもしれない。他方、会社を「潰す」というのは廃業かもしれないし、あるいは場合によって法的債務処理による清算かもしれない。
そんな中でも、会社を「渡す」という場面で力を発揮する経営手段の一つが「M&A」である。M&Aを活用するためには、「辞めどき」を決め、会社を売却したいときまでにあなたの会社を「売れる会社」にしておくことが肝要である。
2.1. 会社の「辞めどき」をどう考えるか?
起業して苦労をして経営を安定させ、着実に事業を成長させてきた創業者が、必ずといって良いほどぶちブチ当たる課題がある。それは、「自分の辞めどきをどこに設定するのか?」という課題である。
この問いに対する一つの答えとしては、「まだ会社として成長できると信じることができ」なおかつ「もう少しやれると思う気力がある」うちが程よい「辞めどき」ではないだろうか?
一般的な企業で働いていれば、60歳(あるいは65歳)前後に定年退職を迎えることが多く、定年退職がよい「辞めどき」となる。一方で、自分の会社においてはそういったものもないため、働こうと思えばいつまでも働くことができてしまう。
もちろん、何歳になっても働く、あるいは働く喜びを受け取り続けることは幸せなことだと思われるが、他方では「自分を自分でクビにできない」という悩みも付きまとうものである。
事業に対する強い意欲や熱意、体力があるうちは、事業経営を続けていくのが良いだろう。しかし、年齢を重ねることによる体力の低下、あるいは他にやりたい事業が見つかり、そちらに気持ちが移り始めることで、経営者として今の事業に対する意欲や熱意がなくなってくることがある。そうなると、そろそろ「辞めどき」を意識するのが得策である。
2.2.肉体的に元気なうちにイグジットを考える
もし完全に体力がなくなった場合、例えば、病床につく、あるいは究極的には死を迎える場合など、その事業を「渡す」ことさえ難しくなるケースがある。経営者不在となると会社として上手に回らなくなるケースも多い。
こうなると、結果としては「辞めどき」を迎えることになるが、まわりが混乱し、うまくいくはずの会社や事業を「渡す」という行為がうまくいかないというケースも多い。
2.3. 意欲や熱意があって業績が良いうちにイグジットを考える
また、精神的な問題で経営意欲や熱意が無くなってくると、それが業績に反映されることがある。積極的に投資を行ってきたものの、意欲や熱意の減少にともなって投資が減り、売上や利益が先細りしていくというパターンである。
会社の業績が芳しくなくなってくると、企業価値の減少とともに会社売却によって得られる対価(=創業者利得)も少なくなる。せっかく苦心して事業を育成してきたにもかかわらず、精神的に経営への意欲や熱意を失い、投資に消極的となり、事業環境の変化についていくことができず、最後は誰かに会社を「渡す」こともできず借金だけが残るというケースも決して少なくはない。
つまり、辞めどきを間違うと、せっかく積み上げたあなたの事業の価値を毀損させてしまう可能性があるということである。
3. まとめ
起業した以上、いずれ妥当な会社の辞めどきと辞め方を決めなければいけない。イグジットの方法として会社売却を行う場合は、それまでにあなたの会社を「売れる会社」にしておく必要がある。
「売れる会社」の基本的かつ重要な3つ条件を紹介したが、これらの条件は健全な経営がなされている企業には必須の条件であるため、イグジット方法としてM&Aによる会社売却をするかどうかにかかわらずメリットは大きいはずである。ぜひ心構えとして「売れる会社」を意識して企業経営に携わりたいところだ。
(監修:株式会社共生基盤 代表取締役 中村亮一)
(編集:創業手帳編集部)