「創業手帳」送付データから各県の起業家数を調べてみた
調べて分かった、過去一年間の都道府県別の法人登記数と法人登記数偏差値
(2015/4/23更新)
創業手帳も、4月に法人登記1周年を迎えることができた。創業手帳編集部では、今までの冊子版「創業手帳」の送付実績をもとに、都道府県別の1年間の法人登記数を調査してみた。
この記事の目次
冊子版『創業手帳』って?
日本では、月間9000社~1万社程度の法人が新たに設立されている。新設された法人は法務局に登記されて公開されるが、冊子版『創業手帳』は、日本中の起業情報を集め、その月に新たにできた法人全てに無料で郵送されるという、今回の調査にはうってつけの手帳なのだ。
今回、創業手帳編集部は「会社を立ち上げたら必ず届く創業手帳」の送付リストを利用し、過去1年間の都道府県別の法人登記数や人口当たりの法人登記数を、ざっくりと調べてみた。
以前の記事では累計の起業家数を調査したが、今回は新たに生まれた起業家数を調査した。
やっぱり多い東京の法人登記数
会社の設立数は、単純な総数で比較すると、東京都が26,712件とダントツで多く、全体の28.7%を占めている(表1)。第2位以降、比率が10%未満であることを考えると、東京の法人登記数が突出している。
さらに、東京と隣接する神奈川、埼玉、千葉の各県も上位10都道府県に入っており、南関東で日本全体の法人登記数の4割以上が集中していることがわかる。
また、日本の三大都市圏である大阪府、愛知県の法人登記数も多い。
一方、法人登記数が少ない都道府県は、鳥取県、佐賀県、島根県となった(表2)。
ただ、表1にランクされるのは人口が多い大都市を有する都道府県が多く、表2にランクされるのは比較して人口の少ない県が多い。都道府県ごとに人口にバラつきがあるため、起業家の絶対数の比較では、地域の起業マインドまではわからない。
そこで、次に都道府県別に人口当たりの法人登記数を調査した。
人口当たりでは沖縄、福岡、福島が躍進!
人口当たりの会社設立数で比較すると、東京都、大阪府、沖縄県がトップ3となり、1万人当たりの法人登記数はそれぞれ20件、9.2件、8.4件となった(表3)。
やはり、創業においては若年人口が重要な要素になるため、若者を引き付ける大都市圏が有利という面はあるだろう。
しかし、人口当たりにすると、沖縄3位、福岡4位、福島5位と人口とは違うエリアが上位に食い込んでいる。
4位の福岡は、「独身者が単身赴任したい街ナンバーワン」と言われる都市の魅力はさることながら、福岡市役所をはじめ行政が創業を積極的に支援しているという事実を忘れることはできないだろう。地域の魅力を生かした起業支援の取り組みは、他県のお手本になるかもしれない。
一方、人口当たりの法人登記数のワースト1位は秋田県で、佐賀県、山形県がそれに続く。小数点第2位を四捨五入しているため、1万人当たりの法人登記数はそれぞれ3.1、3.1、3.2と、秋田県と佐賀県が同数になっている。また、法人登記数偏差値は、それぞれ40.8、41、41.4となった(表4)。
ワースト1位の秋田県だが、意気盛んな地元の若手起業家も多い
しかし、昨年開催の「創業手帳セミナーin秋田」には活発な起業家が多く集まっている。そこで、秋田の起業家熱の実態を探るべく、秋田県の伝統文化「秋田舞妓」をビジネスにしたベンチャー企業、「株式会社 せん」の水野社長にお話を伺った。
舞妓さんが1時間1万円でお座敷に出張してくれるというサービスで大ヒット、引っ張りだこの美人社長だ。
起業家の秋田代表として一言お願いします!という編集部の取材に水野社長は
「秋田はどうしても若者の人口が少ないので起業が少ないですが、秋田の強みを活かして起業している人も多いです。秋田舞妓も秋田の強み、伝統を生かした事業の一つ。秋田の良さを伝える仕事ができるのは、価値があることだと思っています。」
起業が少ないエリアでも、地元の強みを活かしてビジネスを成功させている起業家もいる。そんな水野社長のお話に、不思議と元気が湧いてくる編集部であった。
専門家に聞いてみた
地域の偏りの傾向について、明治大学経営学部の教授で、多数の起業プロジェクトに参画している明治大学岡田教授にご意見を伺った。
「かつては京都(任天堂・京セラ)や浜松(ホンダ・ヤマハ)など、特長のある地方が巨大なベンチャー企業を輩出してきました。その地域の成功した企業が富を生み出し、さらに成功した起業家に刺激を受けて次の起業家が生まれるという良い循環が生まれていました。今は東京への一極集中が進みすぎています。地方は地方で強みが生かされていないところも多いです。ポイントは人材。地元の若手有志で積極的に勉強会をやっていたり、起業の芽、チャンスはまだまだ地方にもあります。」
地方には都市圏にはない良さが多くあるが、それらが生かされずに眠っているのではないだろうか。観光業に代表される海外需要の流入や、ITの発達、政府の「地方創生」の流れもあり、今後地方の起業にも思わぬチャンスが舞い込んでくるに違いない。
今後も、創業手帳編集部は各県の起業家の分析を進めていきたい。
(監修:明治大学経営学部教授 岡田浩一)
(創業手帳編集部 H.A.)