CHIBAビジコンで大賞受賞! 介護施設と医師をチャットでつなぐ「ドクターメイト」青柳代表インタビュー

創業手帳
※このインタビュー内容は2020年03月に行われた取材時点のものです。

青柳直樹代表に、起業エピソードを聞きました

(2020/03/03更新)

社会的な高齢化による医師不足問題を解消する手段の一つとして、「遠隔医療」の推進が叫ばれています。そんな中、ドクターメイト株式会社は、介護施設のスタッフ向けに、施設利用者の健康状態をオンライン上で医師に相談できるサービスを展開しています。

同社は、介護施設の負担軽減や、医療機関との円滑なやり取りにつながる公益性の高さが評価され、1月に開催された「CHIBAビジコン2019」の最終プレゼンで「ちば起業家大賞」を受賞するなど、注目されています。ドクターメイトの代表であり、皮膚科医でもある青柳直樹氏に、起業エピソードを聞きました。

青柳直樹(あおやぎ なおき)ドクターメイト株式会社 代表/医師
千葉大学医学部卒業後、千葉市内の病院皮膚科医として臨床診察に従事。介護施設から受け入れた患者を診察する中で、介護施設によって、ケアの対応に大きくムラがある課題を見つける。課題解決のため、2017年12月にドクターメイト株式会社を設立。翌2018年8月には、介護施設のスタッフと医療従事者専用のコミュニケーションツール「ドクターメイト」を開始する。「CHIBAビジコン2019」では、ちば起業家大賞を受賞。

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介護施設のスタッフが、チャットで気軽に医師に相談できるサービス

ーサービスの概要を教えて下さい

青柳介護施設のスタッフ(施設利用者のケアをしている人)が、医師に対してチャットツールを使って遠隔で気軽に医療相談できるサービスを提供しています。

介護施設ごとに契約する、定額サービスの形を取っています。弊社からチャット利用のための専用端末を貸し出すので、介護施設側が用意するものはほとんどありません。

相談できる医師は、皮膚科、内科、精神科など、介護現場で相談が多い領域の専門家を集めています。さらに踏み込んだ対応が必要になった場合は、全国の医師と繋がっている相談ネットワークを活用することもあります。

ー事業のユニークポイントを教えて下さい

青柳:介護施設に特化している点です。チャット相談だけでなく、介護施設から来た患者の診療データを収集し、特に多い相談については対応を動画や研修プログラムという形でまとめ、コンテンツ化しています。

サービスを紹介する時、「施設に医者がいるのに、他の医者に相談する必要はあるのか?」という質問をいただくこともありますが、昔に比べて医療に必要なノウハウが増加・多様化している現代において、「一人の医者が介護施設の利用者全員を満足に診るのは難しい」のが現状です。ドクターメイトは、この課題を解決できるサービスだと考えています。

介護施設での医療のムラと、スタッフの不安を解消するために起業

ーこれまでのご経歴と、起業した経緯を教えて下さい

青柳:2013年に千葉大学医学部を卒業し、千葉の病院で研修医をしていました。その病院は地域の中核病院という感じで、介護施設からの受け入れが多く、病院から退院後に介護施設へ戻っていく方も多かったです。

介護施設から来た方を診察する中で、「なんでこれくらいの軽い症状で病院に来るのか?」という場合と、逆に「なんでここまで症状が悪化するまで病院にこなかったのか?」というケースが非常に多く、疑問を感じていました。ほとんどの介護施設には、医者と看護師がついています。専門家がいるにも関わらず、利用者の健康状況の把握にムラが出る原因がわからなかったのです。

そこで、介護士の勉強会に参加したところ、

  • 医者が週に限られた回数しか施設に来ないことが多い
  • 介護施設に入った時点で何かしら身体トラブルを抱えている人が多い

という現状が見えてきました。同時に、そんな状況下で働く介護士のみなさんもまた、医療に対する専門知識を持たないまま不安を感じながら働いていることがわかりました。「医療は病院だけでは完結せず、介護領域も併せて解決する必要がある」と実感しました。

そこから、介護スタッフと医療従事者をつなぐハードルを下げるため、遠隔で気軽に相談できるサービスを作ろうと考えました。これが起業のきっかけです。

ーきっかけから、事業を立ち上げるまでにどんなプロセスを経たのでしょうか

青柳:いきなり事業を立ち上げたのではなく、まずはLINEを使って、現場で1年ほど実証実験を行いました。結果、医師への遠隔相談を実際に体験した現場の方から、「こんなサービスがあると助かる」という反響を多くいただいたので、事業化を決めました。実証実験と同時並行で、事業化に向けたメンバー集めを進めました。

ーこのサービスで、どのような社会課題を解決したいと考えていますか

青柳:一つは高齢化問題です。これから高齢者の数がどんどん増える中で、全ての人に行き届いた適切な医療が提供できるかどうかには不安があります。ドクターメイトによって、ムダな通院や、治療の手遅れを防げるような仕組みを作り、老後を不安なく過ごせる社会を作りたいですね。

続いて、介護施設で働いている方々の心理的負担の軽減です。ドクターメイトは、介護人材不足の解決にも貢献できるのではないかと考えています。

医療業界としては、埋もれている医療人材の活用や、医者の偏在問題の解決を目指しています。今の日本では、医者が都市部に集中して、地方では医療人材が足りていない問題があります。一方で、出産を期に現場から離れてしまった女医など、医療領域の専門スキルをもちながらも埋もれてしまっている人材も多いです。

ドクターメイトは、インターネットを使ってオンラインで専門家と介護施設をつなぐことができるので、医者が少ない地域のフォローや、現場で働くことが難しい医療人材の活躍の場を作ることができると考えています。

とにかく「現場の声」を事業に反映することを意識

ー事業を進める上で意識しているポイントを教えて下さい

青柳:医療領域でのビジネスなので、特に法的な部分は慎重に対応する必要があります。中でも遠隔医療の規制は年単位で状況が変わっていくので、しっかり対応できるように、常駐メンバーに弁護士がいます。

また、私は医療領域の専門的な部分はわかりますが、ビジネスを行う上で必要な要素については明るくないので、その部分はビジネスに強いスタッフに携わってもらっています。

医療・介護という専門的な領域を扱う事業であることもあり、メンバー同士での情報共有が重要です。毎週、医療領域に携わっているメンバーと、ビジネス領域のメンバーとミーティングを開き、医療制度の変化についての話や、営業やマーケティングでの対応など互いの領域について情報を交換しています。

また、常駐メンバーには介護福祉士や看護師もおり、執行役員には医師や介護施設長もいるので、とにかく「現場の声」を聞き、ユーザー視点に立ってディスカッションするようにしています。自分たちが考えるいいサービスではなく、現場の課題をいかに反映するかがとても重要ですね。

ー起業から今に至るまでの、資金調達の流れを教えて下さい

青柳:自己資金200万円で立ち上げ、その後日本政策金融公庫さんから500万円の融資を受けました。その後、エンジェル投資家からの出資と、追加で一度融資を受けています。

資金を調達するにあたっては、公庫には創業計画書ベースで、いつまでにこれくらいの売上が立ちそうなので、いくら融資を受けたいという具体的な数字を伝えることを意識しました。エンジェル投資家には、「こんな世界を作りたい」という想いベースで事業を伝えました。

この事業が自分の専門分野であり、スタッフも現場経験が豊富な専門家・ビジネスに強い専門家がいるので、「事業を成功させることができるメンバーが揃っている」ということを全面に打ち出しました。これが調達に成功した理由だと考えています。

社会のインフラになるサービスを目指す

ー今後の事業の展望を教えて下さい

青柳:市場規模は250億円くらいのマーケットで、特別養護老人ホーム約1万施設、有料の介護施設・老人ホーム約1万施設、介護老人保健施設(老健)約5000施設がターゲットです。

将来的には、全ての介護施設でサービスが利用されるような、インフラ的サービスにしたいです。展望としては、エリアごとの拡大を考えていて、まずは主要都市部に展開し、続いて地方に進出していく予定です。2025年までには全国的なサービスにする計画を立てています。

ー経営者・医療従事者として大切にしているモットーを教えて下さい

青柳:経営者としては、やることに対してビジョンとミッションを大事にしています。そのために、現場の方の声をなるべく聞き、それに対してできることを探すよう心がけています。当然ながら、ビジョン・ミッションだけではなく、そこからしっかり収益を出すことも大事です。

医療従事者としてですが、皮膚科のトラブルは、正しい薬を処方するだけでは足りません。患者さんに正しい治療を行ってもらうためには、診療に対して納得感を持ってもらう必要があります。患者さんの理解度・納得感を得られるようなケアを心がけています。

もちろん、この視点をドクターメイトのサービス作りにも活かしています。その点、診察もサービスづくりも同じですね。

ー起業家へのメッセージをお願いします

青柳何よりも顧客の声を聞くことが大事だと思います。事業の分野を決めたら、その分野のプロフェッショナルや現場にいる人に会いに行き、声からPDCAを回していくと良いと思います。

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(取材協力: ドクターメイト株式会社代表/青柳直樹
(編集: 創業手帳編集部)



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