裁量労働制、正しく理解していますか?経営者が知っておくべき労働環境のあれこれ

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労働問題の専門家が解説します

(2018/12/27更新)

国を挙げた大きなプロジェクトとなっている「働き方改革」。その大きな柱が「長時間労働の是正」です。
減り続ける労働力人口、慢性的な人手不足、その上、時間外労働が当たり前となった影響で精神疾患を発症し過労自殺、といった問題が後を絶たないことから、政府は対策を行ってきました。
その一つが、営業職のような1日の大半を社外で労働するなど労働時間の算定が困難な業務などが対象になる「みなし労働時間制」です。
今回は、その制度の中でも、特別な業務が対象になることで注目されている「裁量労働制」について、社会保険労務士の森川友惠さんに、解説していただきました。

法律で「時間外労働」は禁止されている?

労働時間は労働基準法32条で、1週間に40時間(特例事業所は44時間)、1日に8時間を超えて労働させてはならないとされています。いわば、時間外労働は法律上「禁止」されているのです。

ですが、労働基準法は今から70年以上前に制定された法律です。その間に社会環境は大きく変わり、当時は想定されていなかった新たな業種も生まれてきました。
すると、定めた原則だけでカバーすることが難しくなり、労使で協議した上で、時間外・休日労働協定届(通称36(サブロク)協定)を所轄労働基準監督署に届出することにより、時間外労働に就かせることが特別に許される、というルールになったのです。

現在は、特別条項付の36協定届を提出すると、年6か月までは時間外労働を企業ごとに自由に設定できる、つまり青天井の状態です。「この状態のままでは長時間労働は是正されない」と、政府は時間外労働の時間に上限を設けました。

注目される「裁量労働制」

改正労働基準法では、原則、時間外労働は月45時間、年360時間。特別条項を締結しても年720時間、月100時間未満、複数月平均80時間限度といった上限が設けられました。(※適用猶予・適用除外の業種・職種あり) 

これと同時に、企業には労働時間の把握を義務づけています。これは、労働時間を把握していないと時間外労働が上限を超えるかも知れず、また、賃金の未払いリスクが生じるからです。

企業内では、上限規制内で運用できる業務もあれば、そうではない業務も存在するはずです。その実態に合った労働時間制を採り入れるといった側面から「みなし労働時間制」と呼ばれる制度の中にある「裁量労働制」が注目されています。

裁量労働制の種類

裁量労働制は、対象となる業務によって2つに分かれています。

専門業務型裁量労働制(労基法38条の3)

対象になる業務は、クリエイティブな職種・専門的な業務に限られており、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるものに限られます。
使用者が時間配分等の指示を出すことが困難であるため労働時間をみなすという制度です。

ちなみに、対象となる業務は、以下の通りです。

  • 新商品若しくは新技術の研究開発、または人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
  • 情報処理システムの分析又は設計の業務
  • 新聞若しくは出版事業の事業における記事の取材もしくは編集の業務やテレビやラジオの番組制作のための取材もしくは編集の業務
  • 衣服や広告などデザインの考案業務
  • 放送番組や映画制作等のプロデューサーやディレクターの業務
  • 1~5のほか、弁護士や公認会計士、建築士の業務といった厚生労働省が指定する業務

特徴は、日々の労働時間は労働者本人の裁量に任されるので、相当の長短が発生することになりますが、実際の労働時間ではなく、労使協定で定めた時間働いたものとみなされることです。

例えば、協定した1日の労働時間が9時間とすれば、法定労働時間を超えている1時間に対してのみに割増賃金の支払いが必要ですが、時間外手当の計算において実労働時間は問題にはなりません。つまり、実際の労働時間が規定された時間より長い・短いは、割増賃金の計算とは関係がないのです。

ですので、労務費の管理といった側面ではメリットがある制度ではありますが、協定する労働時間と実労働時間の間に大きな開きがないように事前に労使で十分に協議をしておいたほうがいいでしょう。また、休日や深夜労働に関する時間規制は排除されませんので、注意が必要です。

企画型業務型裁量労働制(労基法38条の4)

対象となる業務は、主に、企画・立案・調査・分析などで、会社の大きなプロジェクトの舵を取るような重要な業務。その中でも、業務の遂行手段や時間配分を自らの裁量で決定し、使用者からの具体的な指示を受けないものです。

専門型はその業務の専門性が高いがゆえに使用者側が「具体的な指示ができないもの」であり、企画型は、労働者が知識や、技術的や創造的な能力をいかし、仕事の進め方や時間配分に関し、主体性を発揮させる環境を整えるために、使用者側は「あえて具体的な指示をしないもの」という違いがあります。

導入にあたっては、まず賃金や労働時間その他の労働条件に関する事項を使用者側と労働者を代表する者で検討し、意見を述べることができる労使委員会の設置が必要です。この委員会で導入にあたっての決議を得なければなりません。

そのため、他のみなし労働時間制度と比べても導入率は非常に低く、厚生労働省が出した平成29年の就労条件総合調査によるとわずか1.0%にとどまっています。

しかし、導入することで、労働者自身が企業の中枢で能力を発揮させる環境を自ら整えることができます。企業そのもの活力を生み、競争力を高めるといったメリットも期待できるでしょう。

現在は、裁量労働制の対象労働者は労働時間に基づき割増賃金の算定するため、労働時間の把握義務の通達対象外とされていましたが、法改正により2019年4月から企業に対し、健康管理の観点から、裁量労働制の対象労働者も労働時間の状況が客観的な方法その他適切な方法で把握されるよう法律で義務付けられますので、あわせて確認しておきましょう。

まとめ

裁量労働制は、時間外労働時間数を削減できるといった部分のみにとかく注目が集まる傾向にある制度ですが、最も大切なことは、自社の実態にあわせた労働時間制度を導入することと、法律を正しく理解して、正しく運用することです。

「あと5年は続く」と言われている超人手不足社会を生き抜くためには、労働者が「働きやすい」と感じる環境を整えることが必要です。その基本が労働時間管理です。この機会に、自社の労働時間制度を見直してみてはいかがでしょうか?

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(監修:社会保険労務士 森川友惠
(編集:創業手帳編集部)

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