2024年中小企業白書のポイントは?中小企業の動向などを徹底解説

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2024年版中小企業白書は5月10日に閣議決定・公表された公的文書


政府は、中小企業の動向や、中小企業に対して政府が行った施策の報告を毎年行い「中小企業白書」として発表しています。
2024年版の中小企業白書は5月10日に閣議決定されました。
2024年版中小企業白書・小規模企業白書では、中小企業や小規模事業者の現状や課題、将来的な展望などを調査・分析しています。

今回は、そのような中小企業白書において、どのような点がまとめられているのか、ポイントを解説していきます。
2024年版中小企業白書について知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

2024年版中小企業白書の概要やポイント


2024年版中小企業白書では、中小企業の現状や課題について調査・分析した上で、どうすれば企業の成長につながるのか、環境変化にどう対応すべきか、などを紹介しています。
2024年版中小企業白書のポイントは大きく3つに分けられます。

  • 令和5年度(2023年度)中小企業や小規模事業者の動向
  • 環境変化のために中小企業が対応すべき取組み
  • 経営課題に小規模事業者が立ち向かうための取組み

各ポイントについて詳しく解説していきます。

1.令和5年度(2023年度)中小企業や小規模事業者の動向

中小企業白書では、令和5年度(2023年度)における中小企業や小規模事業者の動向についてまとめられています。動向をまとめると以下のとおりです。

中小企業のBCP策定状況

2024年1月1日に最大震度7の能登半島地震が発生しました。この地震により、石川県を含む北陸3県や新潟県などで、建物や設備が損傷するなどの被害が多数発生しています。
ストック毀損額は約1.1~2.6兆円にも上ると推計されています。
いつどの地域で地震などの災害が発生するかはわかりません。そのため、企業は起こり得る災害に対して事前に対策を講じておく必要があります。
中小企業白書では、中小企業のBCP(事業継続計画)策定状況を調査したところ、2023年で策定率は15.3%であることがわかっています。
全体の1~2割程度しかBCPを策定できていない状況です。

新型コロナの影響と対応

2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大にともなって、政府は様々な対応を行ってきました。
特に影響を受けやすい事業者に対しては、事業継続や雇用維持に向けた緊急的支援策も実施したことで、失業率・倒産件数は比較的低い水準で推移しています。
コロナ禍で中小企業向けに実施された「ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)」は、コロナ禍により悪化した資金繰りを支援するために2020年3月から開始されました。
ゼロゼロ融資を利用した企業の倒産件数の推移では、全体の倒産件数と比較して2023年2月は8.3%、2024年1月は5.7%となり、1割を切っている状況です。

つまり、ゼロゼロ融資を利用した企業は資金繰りが改善され、倒産を免れていることがわかります。
しかし、ゼロゼロ融資の返済が2023年7月から本格的にスタートしており、今後過剰債務により倒産の危機に追い込まれる企業が出てくる可能性もあります。
政府はこうした企業への対応として、2024年3月末までになっていた資金繰りの支援策を、同年6月末まで延長することを決定しました。

人手不足の問題

新型コロナウイルスの感染拡大による売上高の落ち込みから、人手不足の問題は深刻化しています。
有効求人倍率は、2020年1月に約1.1倍近くまで落ち込んでいるものの、2023年1月には約1.3倍近くまで上昇しています。しかし、1月以降からまた徐々に下がり始めました。

中小企業白書では、企業は人材を確保するために、経営戦略と共に人材戦略を策定した上で職場環境を整備する必要があるとしています。
職場環境の整備を行っていない企業で従業員数が増加したのは18.9%、積極的に整備を行っている企業は48.9%が従業員数の増加に成功しているようです。
また、人材育成に関する取組みを増やしたことで、中核人材・業務人材の定着効果もみられています。

物価に見合う賃金の引き上げ

年々上昇する物価に見合うよう、中小企業でも賃金の引き上げが行われている傾向にあります。
中小企業での春闘の賃上げ率は2022年で1.96%だったものが、2023年には3.23%まで上がりました。2024年の第1次集計では、中小企業の賃上げ率は4.42%まで上昇しています。
また、最低賃金の推移も2019年の時点で901円だったものが、2023年には1,004円まで引き上げられました。

業績の改善がみられない中でも、賃上げを実施する予定と回答した企業は2023年で36.2%、2024年で36.9%に増加しています。
業績の改善がみられないにもかかわらず賃上げを実施する理由(複数回答)として、「人材の確保・採用」を挙げているのが75.7%、「物価上昇への対応」を挙げているのが61.0%でした。
人材流出を防ぎ、業績を改善させるためにも賃上げを実施する中小企業が増えていることがわかります。

省力化投資と生産性の引き上げ

人手不足に対応するために、省力化に向けた設備投資も重要です。しかし、規模が小さい企業ほど省力化投資が進んでいません。
人手不足対応の取組みの内訳を調査したところ、採用・正社員登用や臨時・パートタイムの増加、在職者賃金改善などは多くの企業で取り組まれているものの、省力化投資や外注、下請化に取り組む企業は少ないことがわかっています。

日本は就業者数の減少が本格化しており、OECD加盟国の中でも日本の労働生産性は低いとされています。
さらに、国内の企業規模別の労働生産性(中央値)では、大企業が605万円であるのに対し、中規模企業が315万円、小規模事業者が168万円でした。
今後、国際競争力を維持していくためにも、中小企業の労働生産性を引き上げていくことが重要です。

海外需要の増加と国内企業の決算状況

近年は国内製品の海外需要も増加しています。年間輸出額の推移は年々上昇傾向にあり、2023年時点で100.9兆円にまで達しています。
また、日経平均株価や東証株価指数の推移も、日経平均株価で39,166円、東証株価指数で2,551ptと、いずれも史上最高水準を記録しました。
大企業を中心に決算が良い状況で、当期純利益の推移は大企業が51.1兆円、中規模企業が9.3兆円、小規模企業が3.4兆円となっています。
繰越利益剰余金も全体的に上昇しており、企業は貯蓄超過にあることがわかります。

価格転嫁の促進が重要

中小企業でも賃上げを実施する企業が増えていますが、この原資を確保するためにも価格転嫁の促進が重要です。
「価格交渉を希望したが交渉は行われなかった」という企業は2023年3月の17.1%から2023年9月には7.8%にまで減少しています。
しかし、コストが変動したことによる価格転嫁率の推移は2023年9月時点で45.7%と、十分に転嫁できていないのが現状です。
十分な価格転嫁に向けて、適切な価格交渉も重要となります。
価格転嫁に関する話し合いを実施することはもちろん、商品の原価構成もきちんと把握した上で交渉を進めることが大切です。

経営改善・再生支援のニーズ拡大

新型コロナウイルスの感染拡大から現在に至るまで、経営改善や再生支援のニーズが拡大しています。

中小企業活性化協議会への相談件数は、2020年度で5,580件、2021年度で4,244件であったのに対し、2022年度は6,409件まで増えました。
実際に金融機関からの経営支援を受けたことで、財務内容の改善や事業の継続、売上げの増加につながったと回答する企業は多く、十分な効果が期待できるといえます。
経営改善・再生支援のニーズは今後も拡大していくことが予想できるため、関係機関が一丸となり経営改善・再生支援に取り組むことが求められるかもしれません。

2.環境変化のために中小企業が対応すべき取組み

中小企業が様々な環境の変化に対応していくためには、どのような取組みを行っていくべきでしょうか。
ここでは中小企業白書が対応すべき取組みとして、どのようなことを挙げているのか解説していきます。

約9割もの中小企業が投資行動に意欲的

2023年に中小企業の経営方針について調査した結果、「新たな需要を獲得するために行動すべき」と回答した企業は41.3%、「付加価値の向上に向けて行動すべき」と回答した企業は47.1%、「損失を回避するために静観すべき(投資行動などは実施しない)」と回答した企業は11.6%でした。
この結果から、約9割もの中小企業は投資行動に対して意欲的であることがわかります。

実際に、投資行動に対して意欲的な中小企業は、経営利益・労働生産性の変化率が全体の割合を比較して高水準であり、経営に良い効果をもたらしているといえます。

企業の成長に有効な投資行動とは

中小企業白書では、企業の成長に有効な投資行動として以下の4つを挙げています。

  • 人材への投資
  • 設備投資
  • M&A
  • 研究開発投資

2017年度に設備投資を実施した企業とそうでない企業の売上高推移を比較した結果、2017年度を100とした時に2021年度の数値は設備投資をしている企業で106.3、行わなかった企業は99.7でした。
設備投資を行わなかった企業でも売上高が上昇した年度はあるものの、約5年間で大きく売上高に開きが出ていることがわかります。

ただし、大企業の設備投資額は大幅に増加しているものの、中小企業は伸び悩んでいるのが現状です。
設備投資に伸び悩む理由として、投資コストが大きい点が挙げられます。
特に円安や資源高の影響を受けて機械設備や建設資材の価格が上昇しており、中小企業が投資行動を控える動きが強まっています。
それでも省力化を図る動きは活発になることも考えられることから、設備投資は増加に転じる見込みです。

資金調達(エクイティ・ファイナンス)の活用

成長に向けて投資行動を行っていくためにも、資金を調達する必要があります。
中小企業の資金調達手段として、中小企業白書では「エクイティ・ファイナンス」の活用を紹介しています。

エクイティ・ファイナンスは株式を発行することでエクイティ(株主資本)を増やし、資金調達を行う方法です。
中小企業では自己資金からの捻出、または金融機関から借入れることで資金調達を行うケースが多く、エクイティ・ファイナンスはあまり普及していませんでした。
しかし、エクイティ・ファイナンスは借入れと違って定期的な償還が不要であることから、新規事業や研究開発など、挑戦的な取組みを行うための資金として活用することが可能です。

ただし、エクイティ・ファイナンスを活用する際には、外部株主からの支援を獲得するためにガバナンス強化が必要です。
株式発行にともなうリスク(株式買い取りを求められたり、事業売却時にトラブルが発生したりする可能性)があることも考慮した上で、エクイティ・ファイナンスによる資金調達を行うか検討する必要があります。

企業の成長を促すM&Aが増加傾向

企業の成長に有効な投資行動のうち、M&Aを行う企業も増加傾向にあります。
M&Aを実施した企業の経常利益(2021年度)は、2017年度の経常利益を100とした時に、2017年にM&Aを行った企業は146.9、行わなかった企業は118.2となっています。
また、労働生産性の推移に関しても2017年度を100とした時に、2017年にM&Aを行った企業は105.0、行わなかった企業は100.7という結果が出ました。

M&Aをうまく活用することで、譲渡企業・譲受企業の双方にとってメリットのあるものになります。
中小企業が経営戦略としてM&Aを実施する際には、十分に準備を進めることや最適な相手企業を選別することが重要です。

3.経営課題に小規模事業者が立ち向かうための取組み

2024年版中小企業白書では、小規模事業者が直面する経営課題に立ち向かうために、どういった取組みを行っていくべきか紹介しています。
小規模事業者の経営状況や課題を理解した上で、取り組むべき内容を把握してください。

小規模事業者の経営状況

小規模事業者の経営状況は、中小企業に比べて売上不振に陥っている企業が多く、厳しい経営状況にあることがわかっています。
特に重要と考えている経営課題については、以下を挙げている小規模事業者が多くみられました。

  • 販路開拓やマーケティング
  • 人手不足
  • 資金繰り

そのため、売上げを十分に確保し、長期にわたって事業を発展させていくためにも、これらの経営課題に対応していく必要があるといえます。

小規模事業者は売上げの確保が重要

小規模事業者が売上げを確保していくためには、適切な価格設定と顧客ターゲットの明確化が重要です。
コストを把握している事業者ほど、自社製品やサービスの優位性を確実に理解し、価格に反映できている傾向にあります。
また、顧客ターゲットの明確化ができている事業者は、2023年の年間売上高が増加する見通しであることがわかっています。

新たな担い手の参入で労働生産性の向上も期待

現在は開業費用の少額化が進んでいることもあり、以前に比べると開業のハードルは低くなっています。
実際に、29歳以下の企業者数は2017年の7.7万人に比べて、2022年は11.3万人にまで増えています。
また、開業企業と存続企業の労働生産性を比較した際、開業企業の中央値は198.1万円、存続企業の中央値は187.3万円でした。
創業に挑戦しやすい環境になってきている中で、新たな担い手が参入することは労働生産性の向上にもつながることが期待されています。

中小企業や小規模事業者を支える支援体制をより強化


中小企業や小規模事業者の経営を支えるために、支援体制を強化することも重要です。
事業者における支援機関の活用状況は、「頻繁に活用している」と回答した人は37.8%、「ある程度活用している」と回答した人は49.4%にあり、約8割以上が支援機関を活用しています。
2023年度の営業利益の見通しを調べた結果、「黒字」と回答した事業者の割合は支援機関を活用している事業者で51.5%、活用していない事業者で41.1%となっています。
そのため、支援機関の活用効果は高く、今後も欠かせない存在といえるかもしれません。

ただし、支援機関の活用が広がっている中で、相談内容も高度化し、その結果支援機関の人員不足やノウハウ・知見の不足などの問題が浮上しています。
これらの問題を解決するためにも、他機関との連携も含めて支援体制を強化していくことが必要です。

2024年版中小企業白書のポイントを押さえて経営課題の解決に役立てよう

中小企業白書では、中小企業や小規模事業者の現状や課題、どういった取組みで効果が出ているかなどが紹介されています。
中小企業白書のポイントを押さえることで、経営課題を解決させるために自社がどのような取組みを行っていくべきかが見えてくるため、ぜひ本記事の内容を参考にしてみてください。

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(編集:創業手帳編集部)

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