合同会社の現状。AppleやAmazonが合同会社にしたのはなぜ

創業手帳

大手企業から学ぶ合同会社のメリット!小規模スタートアップこそ選択肢に


会社形態を何にすべきかで迷っていませんか?選択を誤ると創業コストが膨れ上がったり、事業スピードが遅くなったりしかねません。

選び方のヒントはズバリ大手の外資系企業です。AmazonやGoogleの日本法人は「合同会社」の形態を選んでいます。

この記事では、外資系の大手企業が合同会社を選んだ理由、国内でも合同会社が増えている情勢から、合同会社に向いているのはどんなケースかを徹底解剖。実は小規模事業やスタートアップにおすすめなことがわかります。

初めて合同会社を設立するとき、やるべきことが多すぎて整理しきれない起業家は多く存在します。「創業カレンダー(無料)」を使うと、やるべきことを”お金”や”モノ”などのカテゴリー別に仕分け可能です。「これって何のこと?」「次は何をやる?」といった悩みがキレイに整理できます。


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合同会社と株式会社の違いについてはこちらもあわせてお読みください
合同会社と株式会社の違いは?それぞれのメリット・デメリットを徹底比較

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なぜ増えた?合同会社を選ぶ外資系企業

アメリカで始まり、さらなる増加を続けている合同会社(LLC)ですが、日本に進出してきている外資系企業の中にも合同会社が増えています。

節税で有利だからでは?と思われがちですが、実は税制面の取り扱いに大きな違いはありません。アメリカの親会社にメリットはあっても、日本法人そのものには特別な税制メリットはないのです。

ではなぜ、大手外資系の日本法人はこぞって合同会社を選んだのでしょうか。代表的な企業と、選択の理由を深掘りしていきます。

合同会社を選んだ外資系企業3つ

主な外資系大手の合同会社として「Apple Japan」「グーグルジャパン」「アマゾンジャパン」があります。

社名 日本法人の形態変更の経緯 アメリカ本社の形態
Apple Japan 2011年に当時のアップルジャパン株式会社を吸収合併する形で合同会社に変更 株式会社
グーグルジャパン 2001年の設立当初はグーグル株式会社、2016年に合同会社に変更 合同会社
アマゾンジャパン 2016年にアマゾンジャパン・ロジスティクス株式会社との吸収合併で合同会社に変更 株式会社

iPhoneやMacで知られるApple Jpan、世界的なネット通販大手のアマゾンジャパンは、アメリカ本社の形態は株式会社としつつ、日本法人は合同会社を選択しています。

インターネット検索エンジンとして知らない人はいないであろうGoogleは、日本でもアメリカでも合同会社(LLC)の形態をとる会社です。

名の知れた外資系企業が続々と合同会社を選択している背景には、株式会社にはないさまざまなメリットがあるためだと考えられます。

外資大手が合同会社を選んだ理由

外資大手が合同会社を選んだのには、経営の柔軟性が関係しています。会計監査基準などのルールを母国に合わせやすいためです。

日本の株式会社では、株主総会や取締役会、監査役や会計監査人などが必要となります。手続きは煩雑で、すべて日本のルールに則って進めなければいけません。こうした機関設計と手続きは大きな負担になります。

ところが合同会社には機関設計が必要なく、さらに会社経営のルールが比較的柔軟です。会計監査基準も日本ではなく母国のルールで行えます。

パススルー課税もその一例です。パススルーとは、企業の利益には法人税がかからず、税金は出資者が支払うという、アメリカ法人の税法になります。日本のルールではないので国内では適用されませんが、アメリカ企業の日本法人が合同会社であれば、アメリカ本社がパススルーの恩恵を得られる仕組みです。

経営の柔軟性は、意思決定のスピードにも関係しています。合同会社には株主の採択が必要ないので、現地の日本市場に合わせて素早く意思決定が可能です。

AppleやGoogle、Amazonなどの大企業が合同会社に舵を切ったのは、株式会社にはない経営の柔軟性をフル活用したかったのが大きな理由だと推測できます。

合同会社の歴史と増加している現状


合同会社の歴史はまだ浅く、日本国内ではようやく認知度が高まってきた状態です。

しかし、合同会社の基礎形態を作り発展させてきたアメリカでは、合同会社を選択することも多くあります。アメリカ大手の日本法人が合同会社を選ぶことで、日本国内でも合同会社への認知が広がっているようです。

合同会社の始まりと、日本国内の現状について確認してみましょう。

合同会社の誕生はアメリカ

合同会社は、日本ではなくアメリカで生まれました。その歴史は古く、遡ること40年、1977年の話になります。

アメリカのワイオミング州でパートナーシップ制度を発展させた新しい組織形態として「Limited Liability Company」が誕生したのが始まりです。「Limited Liability Company」とは「有限責任会社」を意味します。

法制化された当初は、アメリカでも税金の扱いが不明瞭だったことから設立を躊躇する動きもありましたが、制度が整うとともに増加の一途をたどりました。

アメリカ国内の合同会社は、今や大きな一角を占めるといえるでしょう。

国内の新設法人でも合同会社が増加

日本国内では2006年に合同会社という形態ができましたが、しばらくは認知度の低い状態が続きました。

2006年には3,392社の合同会社ができましたが、それでも一般的には知らない人が多く、知名度のなさから高い信用を得られないこともあったようです。

しかし合同会社の設立数は徐々に伸びてきています。

東京商工リサーチの調査によると、2023年には40,655社の合同会社が設立され、新設法人約15万社のうちの26.5%を占めました。産業別では「サービス業他」がもっとも多く18,016社、さらに「情報通信業」の4,941社、「不動産業」の4,425社と続きます。ほかにも小売業や建設業、製造業などで合同会社を選ぶケースが多い傾向です。

2023年まで、合同会社の設立数は右肩上がりで伸び続けています。AppleやAmazon、Googleの日本法人が合同会社の形態を選択したことで、一般的な認知度も高まっているのではないでしょうか。

合同会社が増えた理由


アメリカで始まり日本の外資系企業で増えてきた合同会社ですが、国内の企業でも、廃止された有限会社に代わるように合同会社を選ぶケースが増えています。

日本で合同会社が増えてきた理由にも、合同会社ならではのメリットを享受したい狙いがあります。

設立コストの低さ

株式会社と比較すると、合同会社の設立コストは低くなります。そのためコストを抑えたい場合には、合同会社を選ぶことが多いようです。

また手続きもシンプルなので、面倒な手間を避けることができます。

項目 株式会社 合同会社
登録免許税 【いずれか高いほう】

15万円

資本金額×0.7%

【いずれか高いほう】

6万円

資本金額×0.7%

定款印紙代 4万円(電子定款の場合は0円) 4万円(電子定款の場合は0円)
定款認証手数料 3万~5万円 なし(0円)
認証した定款の謄本発行手数料 約2,000円(1枚250円) なし(0円)

株式会社と合同会社の費用で大きく異なるのは、登記の際に必要となる登録免許税です。登録免許税の最低金額が異なり、合同会社のほうが低くなっています。

株式会社の設立では定款を公証役場で認証してもらう必要がありますが、合同会社では必要ありません。よって、合同会社では認証に関する手数料がすべて0円となります。

さらに株式会社は枚数単位で謄本手数料がかかり、おおむね2,000円を見込むのが一般的です。

会社組織のシンプルさ

合同会社は出資者である社員が経営の意思決定を行い、利益分配も自分たちで決めるという、シンプルで分かりやすい組織形態です。株式という概念がなく、出資者と経営者が同一になります。

会社組織がシンプルなので、経営の自由度も高くなり、意思決定も迅速です。利益の分配をはじめ、定めたい規定を定款に記しておくだけで、経営ルールを自由に決定できます。

株式会社のように出資の比率に縛られたり、株主の意向を気にしたりする必要がなく、シンプルな構造の中で柔軟に経営ができるのです。経営の柔軟性は、大手外資系が合同会社を選んだ大きな理由にも考えられます。

個人の法人化のしやすさ

日本国内で合同会社が増えたのは、費用や手続きの観点から設立しやすくなり、個人事業主の法人化が進んだことも関係しています。

個人が法人化し、一人で会社を設立することは以前からありましたが、合同会社の誕生によってより低コストで実現できるようになりました。

株式会社のように株主総会や取締役会といった機関設置の義務もありません。選任手続きなどに頭を悩ませる必要がなく、設立のハードルを下げたと考えられるでしょう。

法人化すると信用度が高まり、大きなプロジェクトに参入したり、消費税が免除されたりするなど、個人では得られないメリットもあります。法人化の恩恵を得る手段としても、合同会社は注目されるようになりました。

個人からの法人化に大切なのは、正しい情報のキャッチアップです。「法人化する前に知っておきたかった……」と後悔する人も少なくありません。

創業手帳(無料)」では、創業手続きや法人に課せられる税金など、合同会社の設立前に知っておくべき情報をまとめました。正しい知識が身につき、設立後の失敗回避に役立ちます。

合同会社が向いているケース


合同会社が向いている事業は、大きく3つのパターンです。それぞれどのような事業かを紹介します。

BtoC(一般消費者向け)事業

合同会社に向いているBtoC事業とは、一般消費者向けの商品やサービスを提供する事業のことです。ネットショップやITサービスなどのインターネット事業、カフェ・サロンや学習塾などの店舗系もBtoC事業に含まれます。

合同会社に向いている理由は、消費者は店舗名を気にしても会社名を気にする人は少ないからです。店舗名は有名でも、会社名は知られていないケースは少なくありません。

会社名よりサービスの内容や質を気にする人が多く、商品のブランド力で認知されている場合もあります。例としては「SK-Ⅱ」のスキンケアブランドを扱うP&Gプレステージ合同会社です。

株式会社に比べて信頼性が低いといわれる合同会社ですが、BtoC事業であればデメリットにならないケースが多くなります。

小規模事業

小規模事業も合同会社に向いています。1人で経営している個人事業主、家族や仲間の少人数で経営する事業などです。オーナー1人で運営する不動産投資も合同会社が向いているでしょう。

小規模事業は複雑な組織構造を持つよりも、少ない人数の利を活かしてスピーディーに展開するほうが合理的です。意思決定が速やかな合同会社のほうが好相性となります。

スモールビジネスであれば多額の資金調達がいらないケースも多いので、株式会社にこだわる必要がありません。また合同会社は設立や維持にかかるコストが低く、リソースの少ない小規模事業者にとってリスクヘッジになります。

アイデアやノウハウを持ち寄る共同事業

アイデアやノウハウを持った人が共同で事業を始める場合は、利益配分の面で合同会社が向いています。株式会社では、ノウハウの提供者へ平等な利益配分ができないからです。

合同会社であれば、出資額だけでなくアイデアやノウハウを出してくれた人にも平等に利益を分配できます。定款にルールを記載することで、出資額以外の指標で利益を分けられるのがメリットです。

合同会社で気になるトラブルの実態


合同会社だからこそ起こりやすいトラブルもあります。

合同会社の会社形態を選ぶ際には、合同会社ならではのリスクについて考えておくことが大切です。

利益配分率でトラブル

合同会社では、社員への利益配分率を自由に決めることができます。出資額(株式数)によって決まる株式会社とは違い、1円しか出資していない社員と100万円出資した社員が同じ利益分配率であっても良いということです。

個々の業績を正しく評価することにもつながりますが、トラブルの原因になることも少なくありません。

例えば、少額の資本金で参加した社員と多額の資本金を出した社員が同じ利益配分になっていたら、多額の資本金を出したほうは不満に感じるでしょう。資本金は少額でも売り上げに貢献すれば話は別ですが、売り上げにも貢献せず出資も少額となると、不満が出るのは自然です。

利益分配の不平等感が生じると、社員同士の不和や感情のすれ違いが生まれ、トラブルに発展することがあります。

決議の意見対立でトラブル

合同会社は、出資額の割合に関係なく、全ての出資者(社員)が同じ決定権を持っています。定款に定めのない限り、社員の人数の過半数で決定するルールです。

そのため決議で意見が対立した場合に意思決定できず、経営がまったく進まなくなる恐れがあります。社員はすべて対等なので、誰も譲らなければいつまでも意思決定できません。

こうした事態を防ぐためには、出資額に応じて決定権を変える社員の人数をあえて奇数にする、といった対策があります。決定権は原則1人1票ですが、定款に定めておけば変更が可能です。

また、安易に友人などを社員として迎え入れずに自分1人で経営することも、合同会社を選択する上で重要になります。

まとめ・AmazonやGoogleの事例を学んで合同会社の設立に活かそう

合同会社は、外資系の日本法人のように、大手企業も採用する会社形態です。メリットも多く、日本国内においても個人事業主の法人化の手段として魅力があります。

一方、合同会社の仕組みやルールの中にはトラブルの火種となることも含まれるため、定款へのルール記載を徹底しなくてはなりません。ですが定款の作成は非常に手間で、計画性がなければ時間を無駄にしがちです。

創業手帳カレンダー(無料)」を使えば、定款の作成を含め創業1年前からのやるべきことを時系列に管理できます。設立前の道筋がクリアになり、合同会社の設立がトントン拍子に進むでしょう。


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(編集:創業手帳編集部)

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