【最大50万】キャリアアップ助成金の社会保険適用時処遇改善コースとは?要件や対象者をわかりやすく解説

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社会保険適用時処遇改善コースを活用して2024年10月の法改正に備えよう


2024年10月より、社会保険の加入範囲が拡大されます。社会保険に加入する労働者が増えると、手続きが発生するだけでなく事業主負担分の社会保険料が増加します。

今回の改正では従業員数が51人以上100人以下の事業主が影響を受けるため、該当する事業主は早い段階で準備を進めましょう。

事業主負担分の社会保険料を軽減し、労働者のキャリアアップをサポートするうえで有用なのがキャリアアップ助成金の「社会保険適用時処遇改善コース」です。

今回は、社会保険適用時処遇改善コースの内容や活用するメリットなどを解説します。法改正への備えを進める必要性に迫られている事業主に役立つ内容となっているので、参考にしてみてください。

ただし、本助成金については現段階では令和7年(2025年)度末までの時限措置であることは注意しましょう。

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社会保険適用時処遇改善コースの内容


キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するために設けられている助成金制度です。

中でも「社会保険適用時処遇改善コース」を活用すれば、非正規労働者を新たに社会保険に適用させて収入を増加させたときや週所定労働時間を延長したときに、助成金を申請できます。

以下で、社会保険適用時処遇改善コースの基本的な内容から解説します。

対象労働者

社会保険適用時処遇改善コースの対象労働者は、2023(令和5)年10月1日から2026(令和8)年3月31日までの間に新たに社会保険の適用となった労働者が対象です。

また他の詳しい要件は以下のとおりです。

  • 週所定労働時間を延長した日または新たに社会保険の被保険者とした日のいずれか早い方の日の前日から起算して6か月前の日から継続して、支給対象事業主に雇用されている有期雇用労働者等
  • 社会保険の適用日の前日から起算して過去6か月間、社会保険の適用要件を満たしていなかった者であって、かつ支給対象事業主の事業所において過去2年以内に社会保険に加入していなかった者
  • 手当等の支給又は労働時間の延長、あるいはその両方の措置を講じた事業所の事業主、又は取締役の3親等以内の親族以外の者
  • 支給申請日において離職していない者※1

※1
本人の都合による離職および天災その他やむを得ない理由のために事業の継続が困難となったこと、または本人の責めに帰すべき理由による解雇を除く

上記に該当する労働者に対して、賃金総額を増加させる取り組みや週の所定労働時間を延長する取り組みを行った場合、助成金の対象となります。

なお、具体的に増加させる賃金額や延長させる労働時間に関しては、後ほど詳しく解説します。

対象事業主

社会保険適用時処遇改善コースの対象事業主は、以下のとおりです。

  • 新たに社会保険の被保険者とした対象労働者を、メニュー毎に定める支給対象期※2の期間以上継続して雇用し、当該労働者に対して同支給対象期分※2の賃金を支給した事業主
  • 新たに社会保険の被保険者とした対象労働者について、基本給および定額で支給されている諸手当を社会保険の適用前と比べて減額していない事業主
  • 新たに社会保険の被保険者とした対象労働者について、社会保険の被保険者要件を満たすこととなった日以降の全ての期間、雇用保険および社会保険の被保険者として適用させている事業主
  • 新たに社会保険の被保険者とした対象労働者について、社会保険加入状況(労働時間延長の措置を講じる場合は、週所定労働時間含む)を明確にした雇用契約書等を作成および交付している事業主

※2社会保険の適用後、最初の6か月間を第1期、以後次の6か月毎に第2期、第3期となる

メニュー 要件
手当等支給メニュー、併用メニュー 雇用する有期雇用労働者等について、基本給の増額、労働時間の延長または適用拡大等によって、新たに社会保険の被保険者要件を満たし、その被保険者とした事業主
1で被保険者とした労働者に、支給対象期における労働者負担分の社会保険料額以上の額を、一時的に支給する手当、恒常的に支給する手当または基本給として、各支給対象期分の賃金として新たに支給した事業主など
労働時間延長メニュー 雇用する有期雇用労働者等について、週所定労働時間を4時間以上延長、または1時間以上4時間未満延長するとともに基本給を増額した事業主
社会保険の適用拡大、基本給の増額または労働時間の延長等によって、対象労働者が新たに社会保険の被保険者要件を満たし、当該者を新たに社会保険の被保険者とする場合であって、適用日の1か月前の日から起算して3か月が経過する日の前日までの間に、1の措置を講じた事業主または1の措置を講じ、それによって、新たに社会保険の被保険者としての要件を満たした対象労働者を、その被保険者とした事業主

キャリアアップ助成金には、そもそも非正規労働者のキャリアアップを促進する目的があります。そのため、継続した賃上げの取り組みや労働時間の延長が求められています。

助成額

続いて、社会保険適用時処遇改善コースの助成額を解説します。複数のメニューがあり、それぞれ要件や助成額が異なるため、自社に適したコースを選択しましょう。

手当等支給メニュー

手当等支給メニューでは、新たに社会保険の被保険者となった労働者に対して、以下の取り組みを行った際に助成金が支給されます。

<事業者が労働者に対して必要な取り組み>

  • ①②:労働者負担分の社会保険料相当額(標準報酬月額等の15%以上)の手当支給又は賃上げ
  • ③:基本給の総支給額を18%以上増額(賃上げ等、労働時間延長あるいはその両方による増額)

<事業者へ支払われる助成額>

中小企業 ①1年目の取り組み ②1年目の取り組み ③1年目の取り組み
中小企業 40万円(10万円×4期)※ 10万円
大企業 30万円(7.5万円×4期)※ 7.5万円

※1期は6か月

たとえば、社会保険に加入した労働者(標準報酬月額が10.4万円以下の者)に対して、「社会保険適用促進手当」などの名称で手当を支給した場合も①②の助成金の支給を受けられます。

なお、③の3年目の取組を1年間前倒しして1年目に①の取り組みを行い、2年目に③の取組を行った場合、2年目の支給額は中小企業30万円・大企業22.5万円となります。

労働時間延長メニュー

労働時間延長メニューとは、新たに社会保険の被保険者となった労働者の週の所定労働時間を1時間以上延長した場合、または週の所定労働時間を延長した結果として社会保険の被保険者要件を満たしたとき、以下の助成額が支給されます。

<事業者が労働者に対して必要な取り組み>

  • 4時間以上の労働時間延長
  • 3時間以上4時間未満の労働時間延長+5%以上の賃金引き上げ
  • 2時間以上3時間未満の労働時間延長+10%以上の賃金引き上げ
  • 1時間以上2時間未満の労働時間延長+15%以上の賃金引き上げ

<事業者へ支払われる助成額>

延長時間:4時間以上 延長時間:3時間以上4時間未満
賃金引き上げ率:5%以上
延長時間:2時間以上3時間未満
賃金引き上げ率:10%以上
延長時間:1時間以上2時間未満
賃金引き上げ率:15%以上
中小企業 30万円
大企業 22.5万円

延長時間が4時間以上の場合、賃金引き上げの要件は設けられていません。しかし、延長した週の所定労働時間が4時間未満の場合は、上表の賃金引き上げ率分、基本給を引き上げる必要があります。

併用メニュー

社会保険加入後、1年目に手当等支給メニュー①の取り組みを行い、2年目に労働時間延長メニューの取り組みを行った場合はそれぞれの助成額が支給されます。

たとえば、中小企業の場合は手当等支給メニューで20万円(10万円×2期)と労働時間延長メニューの30万円を合算し、受け取れる助成額は合計で50万円です。

なお、以上の併用メニューによる活用方法を除いて、同一の労働者について2つ以上のメニューを受給することはできません。

支給対象期間

社会保険適用時処遇改善コースの支給対象期間は、それぞれのコースで以下のように異なります。

手当等支給メニュー 社会保険に適用した日の属する月に係る賃金算定期間の1日目から起算して6か月を第1期支給対象期、次の6か月を第2期支給対象期、その次の6か月を第3期支給対象期という
一時的に支給する手当等を2年間支給し、3年目に基本給の総支給額を18%以上増額する措置を講じる場合、第3期支給対象期の次の6か月を第4期支給対象期、その次の6か月を第5期支給対象期という
労働時間延長メニュー 週所定労働時間延長後の6か月
併用メニュー 基準日から起算して6か月を第1期支給対象期、次の6か月を第2期支給対象期、その次の6か月を第3期支給対象期という

助成金は支給対象期間ごとに申請するため、「いつからいつまでが対象なのか」を把握しておきましょう。

支給申請期間

支給申請期間は、措置を講じたメニューに応じて「支給対象期分の賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内」となっています。

たとえば、賃金が「末締め・翌15日払い」というケースで考えてみましょう。2024年11月分から2025年4月分が第1期支給対象期となる場合、第1期支給対象期の最終給与支払日は2025年5月15日です。

この場合、2025年5月16日から7月15日までの間に、支給申請を行う必要があります。

支給申請時に必要な書類

助成金の支給申請を行う際の必要書類は以下のとおりです。

  • キャリアアップ助成金支給申請書
  • 社会保険適用時処遇改善コース内訳
  • 支給要件確認申立書
  • 支払方法・受取人住所届
  • 対象労働者の雇用契約書または労働条件通知書等(写)
  • 対象労働者の賃金台帳等(写)
  • 対象労働者の出勤簿またはタイムカード等(写)

なお、キャリアアップ助成金を申請する前準備として、コースの実施日の前日までに「キャリアアップ計画書」を労働局へ提出する必要があります。たとえば、2024年10月1日までに取り組みを開始する予定であれば、2024年9月30日までに計画書を提出しましょう。

キャリアアップ助成金の社会保険適用時処遇改善コースを活用するメリット


社会保険適用時処遇改善コースを活用することで、事業主はさまざまなメリットを受けられます。

以下で、具体的に考えられるメリットを解説します。

短時間労働者の就業調整を防げる

家族の扶養から抜けない目的で、「106万円の壁」または「130万円の壁」を超えないように就業調整を行う短時間労働者は多くいます。就業調整を行う主な理由は「手取り額を減らしたくないから」でしょう。

しかし、社会保険に加入したとしても、社会保険適用時処遇改善コースを活用すれば労働者の実質的な手取りの減少は起こりません。これにより「手取額を減らしたくない」という労働者のニーズを満たせるため、就業調整を行う必要性がなくなります。

短時間労働者といえども、事業主にとっては貴重な労働力です。特に人手不足の状況にある事業主にとって、就業調整を行われると事業運営に悪影響が出てしまう恐れがあります。

「短時間労働者の就業調整を防ぎ、労働力を確保したい」と考えている事業主にとって、社会保険適用時処遇改善コースを活用して労働者の希望を満たすことは有用です。

賃上げを通じて短時間労働者の就業意欲を向上できる

賃上げを通じて、労働者の就業意欲が向上するメリットが期待できます。手取額の減少を防ぐだけでなく、労働時間を増やして得られる収入が増えれば、労働者自身にとっても経済的メリットが大きいはずです。

年収の壁を気にした就業調整を行う必要性がなくなる以上、可能な範囲で働いたほうが事業主にとっても労働者本人にとっても有益でしょう。

配偶者特別控除に関する「150万円の壁」や「201万円の壁」があるとはいえ、壁の範囲内に年収を抑える経済的メリットよりも、働いて稼ぐメリットのほうが大きければ「もっと働きたい」というモチベーションもつながります。

キャリアアップの道を拓くことで優れた人材を確保できる

新しく社会保険の適用対象になる際には、事業主と労働者同士でコミュニケーションを取る機会があるはずです。希望の働き方をヒアリングする中で、短時間労働者が「将来的にはキャリアアップを目指したい」と考えている場合、可能な範囲で希望を叶えられるキャリアプランを用意しましょう。

たとえば、高いスキルを有しているものの、介護や育児などの理由でパート勤務している労働者がいるとします。本来であれば付加価値を生み出せるスキルを有しているにも関わらず、短時間労働者としてキャリアの可能性を狭めてしまうのは、本人だけでなく事業主にとっても損失です。

そこで、段階的に正社員登用までのキャリア形成を支援する枠組みを整備すれば、優れた人材を確保できます。将来的に正社員登用して、より大きな付加価値を生み出してくれるポジションに抜擢すれば、生産性の向上にも寄与してくれる可能性も考えられるでしょう。

なお、キャリアアップ助成金には、社会保険適用時処遇改善コース以外にも正社員登用したときに助成を受けられる「正社員化コース」もあります。あわせて活用を検討してみてください。

事業主の社会保険料負担を抑えられる

「社会保険に加入する労働者が増えると、事業主負担分の社会保険料が増える」というお悩みをお持ちの方もいるのではないでしょうか。

しかし、社会保険適用時処遇改善コースを活用すれば事業主の経済的負担を軽減できます。

たとえば、標準報酬月額が98,000円の労働者1人あたり、事業主が支払う社会保険料は年間で約234,000円です。

社会保険適用促進手当として労働者に年間234,000円を支給すると仮定した場合、合算すると事業主の負担増は年間で約47万円です。手当等支給コースを活用すれば、年間で労働者1人あたり20万円の助成を受けられるため、実質的な事業主負担分は約27万円です。

労働時間の延長や労働者のモチベーション向上により、労働者一人あたり年間で27万円以上の付加価値を創造できればトータルでプラスになります。

まとめ

新しく社会保険の加入対象者がいる場合は、キャリアアップ助成金の社会保険適用時処遇改善コースの活用を検討しましょう。

短時間労働者が年収の壁を気にせずに働けるようになれば、事業主にとっては労働力を確保しやすくなるメリットが期待できます。労働者本人にとっても、収入増やキャリアアップの可能性をつかめるチャンスが生まれるため、双方にメリットがあります。

労働力人口の減少に伴って、今後ますます人手を確保する重要性は増していくでしょう。人手を確保する一環として、社会保険適用時処遇改善コースの活用は有用です。

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(編集:創業手帳編集部)

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