BLUEPRINT 安田光希|バーティカルSaaS特化のスタートアップスタジオ。DXが果たす役割やインパクトとは?
中学1年生で投資を開始!大学生で起業したBLUEPRINT COOに聞く「DXやSaaSの未来」
企業において、DXの推進は必須ですが、自社の利益を上げていくためには、DXをどう導入し活用していけばよいのでしょうか。
今回は、機械学習の勉強や研究開発を行うサークル活動をベースに大学3年生の時に株式会社STANDARDを創業。4年後に会社をグループ化させ、現在、合同会社BLUEPRINTのCOOを務める安田さんに、DXや機械学習の効果的な導入方法について創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
合同会社BLUEPRINT COO/株式会社STANDARD Founder
灘中学校時代から株式投資に興味を持ち、世界的なヘッジファンドの創業者Ray Dalioの存在を知って機械学習の世界へ足を踏み入れる。石井・鶴岡とともにHAIT Labを運営しながら、複数のメガベンチャー・スタートアップでの事業立ち上げを経験し、2017年に株式会社STANDARDを共同創業。2022年にSTANDARDの親会社である合同会社BLUEPRINT専任となり、同社COOとしてVertical SaaSの立ち上げ事業をリード。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
ソフトバンクからの打診で、学生起業を決意
大久保:起業の理由や起業までの流れを教えてください。
安田:今から6~7年前になりますが、慶応義塾大学在籍中に、東京大学や早稲田大学の学生とともに「東大HAIT(現:東大人口知能開発学生団体HAIT Lab)」というサークルを作り、AIの勉強や研究開発を行っていました。当時はAIブーム全盛期だったこともあり、学生たちの間でもAIが盛り上がりをみせていたのですが、機械学習を勉強するための文献は海外のものが多く、日本の文献は難しい内容のものしかなかったんです。そこで、サークル活動の一貫として、機械学習をより素早く簡単に勉強できる教材を作り、後輩たちに無償で教えていました。
すると、教えていた後輩たちが、最先端のAI事業を行う企業で次々と活躍するようになりまして、その中の1社であるソフトバンクから非常に高い評価をいただき、「社内のエンジニア研修で教材を使いたいから、会社を作ってみないか?」とお話をいただいたんです。それで、大学3年生の時に、当時東大HAITを運営していた僕と石井(現株式会社STANDARD取締役会長 Founder、合同会社BLUEPRINT CEO)、鶴岡(現株式会社STANDARD Founder、合同会社BLUEPRINT CBO)の3人で株式会社STANDARD(以下STANDARD)を創業しました。
大久保:学生時代に起業されたのですね。
安田:はい。当時、僕の周りにも学生起業家は多かったのですが、我々は最初から売上の目途が立っていて、それもソフトバンクでAIエンジニアを育てるためのトレーニングに活用していただけるという箔がついた状態で会社を立ち上げることができたので、非常に経営がやりやすかったです。
大久保:起業時にすでに太い顧客を掴んでいたのは非常に大きいですよね。ちなみに、当時AIが盛り上がりを見せていたこともありますが、機械学習に興味を持たれた元々のきっかけは何ですか?
安田:僕は灘中高出身なのですが、中学1年の夏に「高3で習う微分積分まで勉強し終わった」という友人の話を聞き、衝撃を受けまして。僕は「微分積分って何?」という状態でしたし、彼のような学友に勉強では敵わないと思い、「勉強以外のことを頑張ろう!」と、お年玉などを使って日本株の投資を始めました。祖母が薬局を経営していたことから薬関係の銘柄などを買っては、「僕だったら、こういう風に経営する」と経営方法を考えていましたね。そして、アメリカの投資家であるレイ・ダリオの著書から投資に機械学習やAIが使われていることを知り、機械学習に興味を持ちました。その後も投資を続けていくなかで、機械学習を使うインパクトについて可能性を感じていたことが、東大HAITで機械学習を勉強するきっかけになりましたね。
大久保:トレーダーが自ら行うより、機械学習の方が強い場合もありますからね。投資をしていくなかで「これからは機械を極めていった方がいい」と機械学習に着目されたのですね。
安田:そうですね。もちろん、人間が意思決定しなければいけない部分も多分にあるのですが、人間が追いつかないような膨大なデータ量を基に投資の意思決定をしていくという点では、機械学習が果たせる役割やインパクトは大きいと感じましたね。
DXの推進に必要なこととは?
大久保:起業後は、どのように事業を展開されていったのでしょうか。
安田:創業当初は、機械学習のエンジニア向けトレーニングの提供をメイン事業として、ソフトバンクをはじめ様々な企業に導入していただきました。ただ、企業の方とお話をしていくなかで、「育てたエンジニアを活かせるプロジェクトはどうやって生み出せばよいのか」と質問をされることが非常に多かったんです。また、「プロジェクトを生み出すためのトレーニングや、プロジェクトの推進を手伝ってほしい」という要望が多かったことから、徐々に現場寄りのトレーニングやプロジェクトの支援事業に力を入れていくようになりました。
大久保:なるほど。徐々にシフトチェンジされていったのですね。
安田:はい。これまで、コンサルティングファームの多くは、会社の役員などから困っていることや課題をヒアリングし、プロジェクトを進めていくことが多かったようです。しかし、ユーザー企業にヒアリングしてみると、役員などレイヤーが高い方から課題をヒアリングしプロジェクトを創成しても、いざ現場でやっていこう!となった段階で現場との摺り合わせができていなかったり、現場とのニーズの不一致が露呈してちゃんと実行まで進まないことが結構あることが分かったんです。そこで、まずは社員全員の知識の土台を統一したうえで、現場のアイデアを吸い上げ、プロジェクトを提案していく形にしました。
DXリテラシー講座の導入事例として、大手ガス会社の場合は、まずグループ企業含め8千人ほどの社員に「DXの基礎トレーニング」をeラーニングで3時間ほど勉強していただき、「DXとは何か」「具体的にどんな事例があり、どんなことができそうか」など、全社員のDXリテラシーを統一しました。
そして、現場でプロジェクトを動かしやすくなるよう土台を整えたうえで、8千人それぞれが現場で感じている現況の業務課題と、基礎トレーニングで得た知識を組み合わせ、実際にどういうDXができるかを1人3案考えてもらったんです。eラーニング上で集まった2~3万件のアイデアを我々でテキストマイニング技術(文章を単語やフレーズに分解し、出現頻度や相関、時系列などを解析することで、情報を抽出する手法)を活用しながら分析し、プロジェクトを提案しました。そうすることで、現場やお客様のニーズにマッチした事業を推進することができるので、プロジェクトの成功度が高くなるんです。プロジェクトを進めるにあたり人材リソースが足りない場合は、プロジェクトの推進や開発支援も行っています。
大久保:DXにおいては、どうしても「デジタル化」に着目しがちですが、むしろ「X=トランスフォーメーション」の方が重要ですからね。
安田:そうなんです。大企業にありがちなのですが、DX推進部を作るにあたり、とにかく「デジタルに強い人材を集めよう」と、今まで情報システム部門などにいた方をDX部門に異動させ、「とにかくDXのアイデアを考えろ」と指示してしまうことがあるんです。でも、DXにおいて最も重要なのは「事業とどう組み合わせるか」ということなので、実装を担当されていたITに強い方よりも、実際に事業を動かしている方に「最低限のデジタルの技術で何ができるか」をインプットしてもらい、そのうえで具体的にどう業務効率ができるのか、お客様に付加価値を提供するにはどのような仕組みが必要なのかを考えてもらうことが大切です。
大久保:形だけではなく、ちゃんと現場で使えるDXを推進することが重要なのですね。
安田:はい。AIや機械学習、ディープラーニング(深層学習:音声の認識や予測、画像の特定など、データの特徴を自動的に判別し、判断条件を生成できるようコンピューターに学習させる技術)は、あくまで企業が収益を上げるための術の一つでしかないので、どう活用していくかが重要なんです。
もちろん、機械学習やディープラーニングが果たせるインパクトは大きいのですが、様々な企業の方から意見をヒアリングしていると、まだまだその手前の段階として、やらないといけないことが山のようにあるんですね。
例えば、本質的なDXをやる前にデジタイゼーション(今までアナログで行っていた業務をデジタル化すること)をやる必要があったり、データセット(機械学習のために一定の形式に整理されたデータの集合体)を作るために、データベースを作らなければいけなかったり。
そのため弊社では、企業の収益を中長期的に上げていく支援を行うために、単にシステムを導入するのではなく、現場サイドで「このシステムを使うとどうなるのか」を知ってもらうことを大切にしています。そして、現場サイドからアイデアを出していただくことで、企業の収益が上がるようなプロジェクトを生み出していければと考えています。
具体的に、STANDARDでは「DX人材育成」「DX戦略コンサルティング」「技術開発支援」の3つのサービスを提供し、これまでに600社以上のDX推進の内製化を支援してきました。半年~1年という短期間で、人材育成プランニングや組織変革、DXの成果創出、収益化まで実現しています。
大久保:なるほど。では、企業がDXを上手く活用するコツやポイントがあれば教えてください。
安田:日本でもDXは進みつつありますが、やはり日本は製造業の割合が高いので、町工場などのいわゆる伝統的産業に関しては、まだまだポテンシャルがあると思います。
DXを推進していくためには、業界や業務に関する知見と、社内外のキーパーソンと交渉しプロジェクトを推進していく力、そしてプロダクトの開発力が必要だと考えています。ただ、現状として、この3点すべてを持ち合わせている組織やチームは少ないですし、それが伝統的産業となるとより少なくなりますね。
大久保:AIという新しい要素を入れることによって、職を失う人が出るのではないかと心配される人もいるようですが、それに関してはどうお考えですか?
安田:インターネットが普及していったときと同じだと思います。
例えば、インターネットが普及するまで検索やリサーチ業務を行っていた方たちが失業したかというと、そうではなく、今まで国会図書館で行っていたリサーチをインターネット上にシフトしただけだと思うんです。
シフトした先で新たな雇用は生まれますし、新しい選択肢が増える前と増えた後では、どちらが社会全体のためになったかというと、新しい技術が出てきたことでマイナスになった事例はあまりないですよね。
仮にマイナスになるのであれば、普及しないまま淘汰されていくと思うんです。だから、新しい技術の出現や導入を怖がって躊躇するより、チャンスと捉え、新たな職や雇用を創出することが大切だと思います。
大久保:海外と比べて、日本のAI業界の状況はいかがでしょうか。
安田:流通の差分はもちろんありますが、AI技術は結構オープンになっていて、論文が出ればそれを基に世界中の人々が新しいライブラリを出していく文化があるので、技術の差分はそこまでないと思います。
では、どこで差が出るのかというと、データ量と資金力です。AIにおいて重要なことの一つは、いかにデータを集められるかということですし、やはり、資金が多ければ優秀なエンジニアを世界中から集めることができるので、エンジニアの質も変わってきます。データ量や資金量という点では、日本はアメリカや中国に比べて大きく負けていると思います。
データ量については、携帯の購買履歴一つとっても中国の人口には適わないので。また、データ量が多いということは、それだけ購買力も大きいということですから、世界中の投資家からお金が集まってきますよね。それによって技術の投資もされるので、ポジティブなサイクルが回っていくんです。
今後、世界で日本が戦っていくためには、日本の強みである製造業において、自動化・無人化・省人化した工場を作り、その技術を世界に輸出していくといったことが考えられますね。
伝統的産業にこそバーティカルSaaSが必要
大久保:現在は、BLUEPRINTの役員を務められていますね。
安田:はい。今年1月にSTANDARDの役員は退任いたしまして、2月からBLUEPRINTのCOOに就任しました。STANDARDは100%子会社で、BLUEPRINTグループとして運営しています。
STANDARDは、現在600社ほどとお付き合いさせていただいているのですが、多くの企業に導入いただくことで、産業や業界共通の課題が見つかりました。
そこで、BLUEPRINTでは、業界に特化したSaaS(Software as a Service:インターネットを経由してユーザーが利用できるソフトウェア)を作っています。
導入事例として、例えば建材メーカーでは、外壁やブロックなどのエクステリアやインテリアなどを多数取り扱っているのですが、エンドユーザーが「リフォームをしたいな。どんなエクステリアやインテリアを使おうかな」と商品を選ぶ際、これまでは分厚い紙カタログを見ないといけなかったんです。
でも、昨今はコロナウイルスやSDGsの影響を受け、紙カタログを削減しようと各社がDX化を進める動きがありました。しかし、各社がそれぞれDXを進めてしまうと、エンドユーザーが商品を閲覧するには、各ホームページを見に行く必要が出てきてしまいます。
そこで、業界標準を弊社で作り、1カ所で主要な建材メーカーの建材や商材をすべて見ることができるプラットホームを作っています。
大久保:コンサルとDX、SaaSをすべて組み合わせたようなサービスですね。
安田:はい。このほかにも、町工場向けのSaaSや、リース業界や不動産管理会社の管理組合の事業化に特化したSaaSなどに取り組み始めています。
デジタル化が進んでいない業界では、各社でDXをするよりも業界全体でやっていく方がコストメリットもありますし、エンドユーザーのためにもなりますから、デジタル化が遅れている産業にフォーカスしながら、バーティカルSaaSをいろいろな業界に作っていければと考えています。
大久保:それでは最後に、これから起業する方に向けてメッセージをお願いします。
安田:1回目の起業は19歳の時で、現在26歳で2回目の挑戦をしていますが、時代が変わってきているので絶対に勝てる自信があります。
人生のどこかで起業したいと考えているなら、早い段階で起業することに越したことはないと思いますが、まずは今後伸びそうなスタートアップに入り、事業が伸びる感覚を見ておくといいと思います。
事業が伸びる感覚を知っているか否かで、事業のスケールに大きな違いが出てきますし、伸び方も全然違いますよ。
(取材協力:
合同会社BLUEPRINT COO/株式会社STANDARD Founder 安田光希)
(編集: 創業手帳編集部)