アクサ生命 安渕 聖司|「外に出て人に会おう」起業家と投資家の世界を広げる双方向のコミュニケーション

創業手帳
※このインタビュー内容は2026年02月に行われた取材時点のものです。

エンジェル投資家として社会的課題の解決や日本の伝統継承をテーマとするスタートアップを応援

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国内外でのさまざまなキャリアを経て、現在はアクサ生命保険株式会社のCEOを務められている安渕氏。創業手帳では以前にも、日本のキャッシュレス化や人生全体を経営する意識などについてインタビューにお答えいただきました。

今回はエンジェル投資家としてさまざまなスタートアップが出演するイベントに参加する理由や、投資を決める条件などについて、創業手帳代表の土屋がお聞きしました。

アクサ生命安渕氏

安渕 聖司(やすぶち せいじ)
アクサ生命保険株式会社 代表取締役社長兼CEO
三菱商事を振り出しに、外資系投資銀行などを経て2009年から2016年までGEキャピタル・ジャパン社長兼CEO、2017年ビザ・ワールドワイド・ジャパン社長、2019年から現職。経済同友会幹事。学校法人至善館理事、ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ理事、ヒューマンライツウォッチ東京委員会委員、学校法人UWC-ISAK ファウンダーなども務める。早稲田大学政経学部卒、ハーバード大学経営大学院卒(MBA)
創業手帳代表 土屋貴幸

聞き手 土屋 貴幸(つちや たかゆき)
創業手帳株式会社 代表取締役
1973年生まれ。法政大学卒業後、セールスプロモーション分野で営業・マーケティング業務を経て、デジタルサイネージ事業の立ち上げに携わる。その後、ヤフー株式会社(現・LINEヤフー)にて事業開発およびM&A業務に従事。2020年に弥生株式会社へ入社し、事業支援サービスの責任者として、中小企業や個人事業主の経営支援に取り組む。
現在は、創業手帳株式会社の代表取締役として、起業家の成功を後押しするサービスの推進に尽力している。

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最先端のトレンドや新しいアイディア、課題に触れられるのが投資の醍醐味

アクサ生命 安渕聖司

土屋:アクサ生命として、どのようにスタートアップや中小企業への投資や連携に取り組まれているのでしょうか。

安渕:アクサの本社はフランスなのですが、前身である日本団体生命は、企業福利の先駆けとなる団体保険の専門会社として1934年に設立され、2000年にアクサに経営統合をしました。1934年の設立以来、商工会議所との提携などを通じて、法人向けの福利厚生制度として事業を拡大してきました。

保険のサポートももちろんですが、全国の中小企業を対象に健康経営のサポートも無償で行っています。経済産業省と日本健康会議が、従業員の健康管理に戦略的に取り組む優良法人を「健康経営優良法人」として毎年春に表彰する制度がありますが、当社がサポートさせていただいている企業が毎年4分の1ほど表彰されています。

スタートアップに関しては、アクサとしては、主に健康やテクノロジー分野での情報収集・支援を行っています。同じくスタートアップの支援を行っている創業手帳さんとも、何かの形で協業できたらと思っています。

土屋:ありがとうございます。ぜひお願いします。アクサ生命という大企業のトップでありながら、個人でスタートアップに投資をしていらっしゃる理由を教えてください。

安渕:大企業の中にいるとなかなか知ることができない、世の中の最先端のトレンドや新しいアイディア、課題などに触れることができるからです。「ともに学び、ともに産業を創る」をコンセプトに、起業家や経営者、投資家などが集まり、議論やネットワーキングを通じて新たなビジネスや産業を生み出すことを目指す「ICCサミット」という会員制の参加型カンファレンスがあります。数年前から毎回参加していますが、スタートアップのピッチコンテストがあり、起業家が実際に何を考え、どんな思いで事業を立ち上げているのかを知ることができます。

障害のある作家のアート作品を軸に、ライセンスビジネスや商品開発、企業コラボなどを展開して話題になっている「ヘラルボニー」は、2024年に京都で行われた「ICC KYOTO 2024」のピッチコンテストで優勝した企業です。私もネクタイを何本か持っていますが、特徴があるデザインなので、ブランドを知っている人はすぐにわかり、話題になっていいですね。JALともコラボしていて、ビジネスクラスのフライトを利用するともらえるポーチも気に入っています。それまでは福祉ということで価値が低く抑えられていた、障害者が生み出すアートにきちんとした価値を与え、持続可能なビジネスモデルを構築している企業です。ヨーロッパでも人気があり、フランスにも店舗を出しています。こちらには、アクサとして、ファンド経由投資しています。

また、各界の次世代リーダーが集まり、日本や世界の未来について学び、議論し、行動を起こすための場である「G1サミット」にも長年参加しています。こちらもスタートアップの方が多く参加されていて、学ぶものは多いです。小さい組織でも熱狂的なファンを作ってビジネスを立ち上げられることに驚きましたし、「こういうものを作ったらこういう人たちが喜んでくれるだろう」というように、お客様のペルソナを細部まで設定するマーケティングスキルに感心しました。こういったことは大企業にいたらなかなか学べないことだと思います。

土屋:確かに、小さい組織だからこそできることもありますよね。

安渕:日本ではまだ「大きい方がえらい」と思っている人が多いですが、小さいからスピード感を持って進んでいる組織も多く存在します。会社にも学んだ内容などを伝えることもありますが、実際に起業家に会って話を聞いていると、日常生活に埋もれているニーズを最先端の技術で解決する様子がわかり、刺激になります。先ほどのヘラルボニーのように、必ずしも最先端の技術がポイントではない事例も興味深いですね。

また、プレゼンテーションの後に商品を作る段階で失敗する例もありますが、失敗というのはどこがダメだったのかを理解する実験のようなもので、なぜ失敗したのかを突き詰めていけば成功のヒントがあります。失敗しても何度でもチャレンジできる社会になってほしいと思いますし、そんな社会にするのがシリアルアントレプレナーの役割ではないかと思います。私は起業家にはなれないので、そういった方から学び、出資することで応援しています。

海外ビジネスをするなら、日本の文化をしっかり理解してから

土屋:安渕さんが投資を検討する際、必ず見るポイントはどこですか。

安渕共感できるところや、学ぶところがあるかですね。心から応援したいと思える事業に投資しています。熊本発の「ファクトリエ」というブランドがあるのですが、日本伝統のものづくりを大切にするために、選りすぐりの技術力を持ち、シャツならここ、カシミアならここ、靴下ならここ、とそれぞれ専門性の高い工場と契約しています。もともと日本の伝統や日本のものづくりには興味があったので、CEOの山田さんと会い、「つくり手の思いを感じられる服を長く着よう」というコンセプトに共感して株主になりました。バッグや服などいくつも実際に使用していますが、品質のよさに感動しています。伝統を伝えていくというのは非常に大切なことです。伊勢神宮では社殿や神宝を20年ごとに新しくする式年遷宮(しきねんせんぐう)という儀式がありますが、これも宮大工の技術を伝承していくという目的があります。

外資系企業にいると特に、海外とビジネスをする上で日本についてしっかりした知識を持っていることがとても大事だと感じます。例えば「なぜ日本には寺と神社があるのか?」という質問にすぐ答えられますか。答えは「古くから日本にある神道の施設が神社であり、大陸から伝来した仏教という異なる宗教の施設が寺だから」ですね。

ビジネスの相手だからといってずっとビジネスの話をしているわけではないので、日本の文化について聞かれたときにきちんと説明できるとスマートだと思います。

土屋:浮世絵を海外へのおみやげに持っていくと喜ばれると聞きます。そういった視点も持っておくと役立つことがありそうですね。

安渕:そうですね。また、社会的に意義がある事業も応援しています。「LivEQuality大家さん」というスタートアップは、シングルマザーや外国人は家を借りるのが難しいという課題を解決しようと、優良な不動産物件を母子家庭向けに低価格で提供し、NPOと連携した支援も行うサービスを展開しています。ICC KYOTO 2024の「ソーシャルグッド・カタパルト」で優勝しました。

住宅取得のための資金としてインパクトボンドを発行していて、私もインパクト投資家として参加させてもらっています。投資家の集まりも盛んで、ソーシャルマインドを持つ人が多いため、情報交換をしたりコミュニティが広がったりとメリットが大きいですね。

好奇心を持っていろいろな人に会い、情報を幅広くキャッチしよう

土屋:さまざまな企業に投資されている安渕さんですが、起業家から相談をされることはありますか?

安渕:「組織が大きくなってきたけれど、今のやり方のままで通用するのか?」というご相談や、「2~3人で起業して今まで来たけれど、この先どうすればいいのか」というご相談が多いですね。今までの私の経験をご紹介したり、大企業の組織づくりの進め方について話したりしています。双方向のやりとりから生まれる気づきやヒントには大きな意味があるため、やはりAIに相談するのではなく、生身の人間に話をしてアドバイスをもらうことが非常に大切だと思います。

土屋:スタートアップや大企業を問わず、社長という立場の人間にもっとも必要な資質は何だと思われますか?

安渕人・場所・プロダクトへの好奇心だと思います。3Dプリンタが出てきたときに、どんなものなのか理解したいと思い、会社で研究をしてもらいました。見ているとずっと同じような動きをしているだけに思えますが(笑)、海外では家を作る事例もあると聞き、「すごいものが登場した、今後の新規事業にきっと役立つ」と感じたからです。

また、今は宇宙ビジネスにも興味があります。宇宙で日本酒を作るプロジェクトなど、まだ理解が追いついていないのですが、宇宙でどんなことができるのか知りたいですね。経営は難しい顔をしてやるものではなく、面白くやるものだと思っています。好奇心を持ち、フットワーク軽く経営している社長には、社員もついていきたいと思うのではないでしょうか。

学生の方に「これから役に立つ勉強は何ですか?」と聞かれることもありますが、正直言ってこちらが教えてほしいぐらいです(笑)。未来は誰にもわかりません。私たちにできることは、いろいろな人に会っていろいろな話を聞き、時にはステップバックして「これってどういうことなんだろう?」という問いを立て、情報を幅広くキャッチしていくことなのだと思います。

土屋:私も2025年に創業手帳の代表取締役に就任し、好奇心を持って会社を率いていければと思います。最後に、起業家の方々にメッセージをいただけますか。

安渕:起業すると事業を回していかなければならないので忙しいとは思いますが、なるべく外に出て行っていろいろな人に会ってください。それが自分の世界を広げていき、きっとあなたの力になってくれます。私はスタートアップの方々と会う機会が多いですが、まだまだ一般的な企業の人がスタートアップの人と会う機会は少ないですよね。今後、そういった機会が増え、一般的な企業とスタートアップ双方向のコミュニケーションが増えていくことを切に願っています。

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