アルサーガパートナーズ 小俣 泰明|「ニアショア開発」の活性化で日本国内のDX産業が世界に負けない未来を作る
日本のDXコンサルティングサービスで世界企業に挑む
日本は1995年〜2020年の間にIT投資を行うも経済成長は横ばい。かつて見た日本企業の勢いは衰え、日本市場は多くの外資系企業にシェアを奪われつつあります。
この現状を打破し、日本のDX産業を世界に通用するレベルに押し上げるため「ニアショア開発」に乗り出しているのがアルサーガパートナーズです。
今回の記事では、同社を立ち上げた小俣さんのこれまでの経歴や、アルサーガパートナーズで世界企業に挑む経営戦略について、創業手帳の大久保が聞きました。
アルサーガパートナーズ株式会社 代表取締役社長 CEO/CTO
日本ヒューレット・パッカードやNTTコミュニケーションズなどの大手ITベンダーで技術職を担当、システム運用やネットワーク構築などのノウハウを習得。
その後2009年にクルーズ株式会社に参画、 同年6月に取締役に就任。翌年5月同社技術統括担当執行役員に就任。CTOとして大規模Webサービスの開発に携わる。
2012年からITベンチャー企業を創業し、3年で180名規模の会社にする。
2016年ITサービス戦略開発会社アルサーガパートナーズ株式会社を設立。
現在、コンサルティングからIT開発までをワンストップで支援するDX一貫サポート事業を展開。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
2社目の起業として「アルサーガパートナーズ」を創業
大久保:これまでの経歴を教えてください。
小俣:20代までは大企業で会社員をしていましたが、途中である方から「お前はベンチャーの方があっている」と誘いを受けたことをきっかけに、ベンチャー業界に足を踏み入れました。
その後、2012年に最初の起業としてソーシャルゲームを作るITベンチャー会社を創業しました。当時私は35歳だったので、起業家の中では非常に遅い起業でしたね。
大久保:1社目の企業は最終的にどうなりましたか?
小俣:1社目に起業した会社は株式売却しました。次は自分がお金を稼ぐためというより日本を豊かにすることを目標にしたいと思い、9年前に起業したのが「アルサーガパートナーズ」です。
大久保:株式売却まではどれくらいの期間でしたか?
小俣:創業3年目で社員数180名くらいの時に株式を売却しました。
35歳まで大手企業にいたからこそ、ベンチャー企業の世界で生き残れた
大久保:大企業とベンチャー企業の両方を経験されて良かった点について教えてください。
小俣:20代の会社員時代は大手企業に勤めていたこともあり、大手企業の仕事の進め方を知った上でベンチャー企業に移りました。大手企業とベンチャー企業の両方の良いところを活かせたことが、私が起業で成果を出せた秘訣の一つと言えます。
大久保:大手企業と仕事を進める時には、やはりそこの仕事の進め方を知らないと、不利なところもありますからね。
小俣:みなさんに伝えたいのは、大手企業で経験を積んでから起業しても遅くないということです。現に私も35歳で起業しても、渋谷の一等地にオフィスを構えられるほど、会社を大きく成長させられました。
大久保:最初にベンチャー企業に転職した際には、どのようなことを意識して働いていましたか?
小俣:ベンチャー業界では、役員クラスに入ることが非常に重要となってきます。
いわゆる「ベンチャー村」という独自のコミュニティが存在しており、ベンチャー起業家同士の横のつながりが非常に強いです。
ベンチャー企業の役員に入ることで、ベンチャー村界隈の起業家とのつながりが増えます。実際に私も日本のベンチャー企業の社長、役員と多くつながりがあります。
この関係性の中から新しいビジネスやイノベーションが生まれることもあり、役員を目指して頑張ったことは非常に意味があったと思っています。
会社をバイアウトしたから気づいた。お金だけでは人生は豊かにならない
大久保:小俣さんが考えるベンチャー経営を成功させる秘訣を教えてください。
小俣:私の経験談から言わせていただくと、創業した会社をクイックに株式売却できたことが良かったと思っています。
まとまった自己資金が手に入ると、ベンチャーキャピタルからの出資を集めるステップを省けるので、すごくスムーズに進められます。意外とこのフェーズが最も労力と時間がかかることが多いです。
さらに、5億〜10億円ほどの自己資金を持っていれば、再投資の利子だけで生活できるようになります。それを目的にするのであれば、起業家はバイアウトを目指すべきです。
大久保:実際に会社をバイアウトして、まとまった資金が手に入って生活は変わりましたか?
小俣:会社をバイアウトしてお金を得た身としては、それが手に入ったからといって何かが変わったわけではありません。ゆっくり暮らせるかもしれませんが、ゆっくり暮らすだけでは人間らしく生きることには繋がりません。
そのため、起業する目的をしっかりと持って前に進んでいかなければ、いざお金を持っても変な使い方をしたり、ばら撒いたりして終わることになってしまいます。
一番言いたいこととしては、お金を手にするだけでは人生は豊かにならないというところです。
大久保:早い段階でコンパクトに成功を収めて、それを元手に次のチャレンジをするのが良さそうですね。私としても、起業ほど面白いものはないと思っています。
今の時代はVCからの資金調達もしやすいですし、スタートアップが有利な時代になったと思いますが、その点いかがですか?
小俣:今の日本では、VCの投資回収率が下がってきている状況です。
そのため、ベンチャー企業が投資先として選ばれることは、難易度が高くなってきています。
そこを乗り越えられると本物のベンチャー起業家になると思うので、その覚悟があるのであればぜひ起業に挑戦してほしいです。
国内IT産業を守るため「オフショア開発」ではなく「ニアショア開発」を普及させたい
大久保:小俣さんにとってのモチベーションは、どこにあるのでしょうか?
小俣:私は「日経平均株価を1万円以上あげること」と「日本国内でITの仕事ができる状況を守ること」をモチベーションに動いています。
海外の受託開発起業だと、日本よりも安い金額で開発を請け負う会社も多くあります。ただ、言語の問題で意思疎通がうまくいかないこともしばしばあります。また、日本は資源国ではないので、海外企業ばかりに依存してしまうと、日本の産業がなくなるリスクがあります。
そのため、エンジニア出身の私としては、IT領域の仕事を守っていきたいと考えています。
大久保:地方で仕事がなく、安い時給で働いている人もいると思いますが、ITやプログラミングなどで仕事ができれば、自ずと時給も上がります。そういったことが実現できると良いですよね。
小俣:我々は「ニアショア」と言ってますが、国内の地方に若者がITで働ける環境を作ることが、日本を活性化させることにつながると思っています。
海外にも優秀な技術者は多いですが、日本にもまだまだポテンシャルは眠っていると思います。そういう人たちの力を掘り起こし、育てていくことが私とアルサーガパートナーズの目標です。
大久保:日本でニアショアができれば、地方に雇用も生まれますし、IT業界にとっても良いですよね。
アルサーガパートナーズがエンジニア採用に困らないたった1つの理由
大久保:日本はエンジニアが足りないという問題を抱えていると思いますが、その点いかがでしょうか?
小俣:弊社では、ありがたいことに毎月800名以上の方々から採用応募していただけています。
さらに、福岡支社を設立する際にも多くの方にご応募いただき、アルサーガパートナーズのブランドが福岡や他の都市でも通用することがわかりました。あとは全国に拠点を増やすだけです。
大久保:それだけエンジニアを引きつけられるのはなぜでしょうか?
小俣:社長の私がエンジニア出身、というところが一番大きいです。
日本ではITゼネコンと呼ばれる多重下請け構造が問題視されていますが、これはシステム開発において元請け企業に委託された業務が2次請け、3次請けのように何層にも渡って再委託される構造を言います。
より深い階層にいるエンジニアは仕様書通りにコードを書く環境で、自分が今何のシステムをつくっているかも分からないということも少なくありません。そのような状況下では発想力のあるエンジニアは生まれず、魅力的なものもつくれません。
そのため当社は直請けにこだわることや、自分で考えて人間らしく生きる人がいるから、ものをつくれるという思いを込めた「人をつくる」というミッションを掲げています。この思いに共感してくれた仲間がありがたいことに多く集まってくれています。
大久保:開発出身の社長と、営業出身の社長はどのような違いがあると思いますか?
小俣:営業が強いと様々な企業との関係性が強く、業績を上げやすいイメージがあります。
逆にエンジニア出身者が社長になると、エンジニアの採用がうまくいきます。その上で、先ほど述べたベンチャー時代の多くの繋がりをもとに営業活動を効率的に進められれば、大規模な営業組織がなくても事業を拡大できます。
実はこの状況を求めている大企業は多くいるんです。営業組織は販管費がかかってくるため、そこのコストをかけていない我々は、適正価格でのサービス提供ができ、お客様から共感を得ている状況にいます。
アルサーガパートナーズを外資系コンサルティング企業に負けない企業に成長させる
大久保:エンジニアの採用に困らず、営業にかかる販管費を減らせるのは強いですね。
小俣:もちろん営業活動は行いますが、コンサルタント、プロジェクトマネージャーなどのエンジニア出身者が直接クライアントと商談を行います。
このやり方は、外資系のコンサルティング企業が行っている手法に似ています。今は外資系企業に仕事が集まっているので、国内のエンジニアへの発注が減っている状況です。
外資系企業はリソースとグローバルな知見を多く持っているので、いい面もあります。しかし、外資系企業への発注が続くと、本国へのロイヤリティにより外貨への流出が生じてしまいます。
大久保:実際に、日本のエンジニアが働いてますからね。
小俣:そうですね。日本人が日本のお客様を相手に仕事をしているのにも関わらず、一定の金額は海外へ上納しなければなりません。
外資系企業のエンジニアはとても優秀なので、彼ら彼女らが頑張れば頑張るほど外貨に流れていき、日本が貧しくなる仕組みになっています。
ただしここ数年では、外資系コンサルティング企業からアルサーガパートナーズに転職してくるコンサルタントが増えています。
このままの勢いで事業を拡大できれば、有名な外資系コンサルティング企業と肩を並べられる日も遠くないと考えています。
大久保:給与や条件とは全く別の角度でのお話しで、私ですら心が突き動かされました。
VC出資ではなく大手企業との連携を選ぶメリット
大久保:今後の展望について教えていただけますか?
小俣:私は生成AI団体の理事も務めているのですが、その領域でもビジネス改革を起こし、日本企業によるIT領域の拡大を実現したいと考えています。
大久保:それはどのような戦略で進めますか?
小俣:新規事業をVCなどで資金調達するのではなく、大手企業と組んで戦っていく戦法を取りたいと考えています。
大久保:投資ではなく提携という形でパートナーを組めば、大企業とも対等な関係で進められますね。
小俣:生成AI技術により自動化できる業務は多岐に渡りますが、例えばカルテの読み込みとまとめ、生成AIを使った面接の自動化、社内の処理業務を解決するなど、幅広いところで活用できます。
日本企業はもっと「攻めのDX投資」を増やすべき
大久保:日本のDXはなかなか進みづらいイメージですが、どのように進めるのが良いとお考えですか?
小俣:日本は「DXの国だ」と騒がれている割に、1995年〜2020年くらいまでのIT投資額に関しては横ばいです。対してアメリカは、追いつけないくらいに差が広がってしまいました。
その理由としては、日本は投資する際に費用対効果を求められます。とはいえ、業務効率化が進んだからといって、人は減らせません。
逆にアメリカではそこにフォーカスするのではなく、攻めの投資でDXを進めています。例えば車を購入して納品するまでの流れが、Webサイトから一目でわかるといった仕組みへの投資です。
IT投資も大手企業に依頼するため、多重下請け構造でコストもかさむ上に、伝言ゲームになっているため、作る意図や思いが届かないまま話が進むことも多々あります。
大久保:エンジニア自体の力にもならないですよね。
小俣:一方で直請け構造だと、本来の意図を理解し、意見交換も直接できる関係性になります。これはエンジニア出身で、全体構造がわかっている人でないとできないことです。
日本でも私にしかわかっていないことだと自負しているので、これからも日本を変えていけたらと思います。
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(取材協力:
アルサーガパートナーズ株式会社 代表取締役社長 CEO/CTO 小俣 泰明)
(編集: 創業手帳編集部)