アグリツーリズムとは?注目された理由やメリット、事例をわかりやすく紹介

創業手帳

アグリツーリズムで経営の多角化を検討しよう


農業の新たなビジネスモデルとして、「アグリツーリズム」が注目されています。アグリツーリズムは観光客が農村・農場などを訪れて、農業や自然を楽しむ観光形態です。
この観光形態を取り入れることによって、一次産業の農業に三次産業の観光業がプラスされるため、経営の多角化を図ることも可能です。

そこで今回は、アグリツーリズムの概要から体験できること、提供するメリットなどを解説します。
実際にアグリツーリズムを取り入れて成功した事例も紹介しているので、興味のある人はぜひ参考にしてください。

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アグリツーリズムとは?意味・定義・語源について


まずはアグリツーリズムの意味や定義、発祥・歴史について解説します。

意味・定義

アグリツーリズムとは、観光客が農村や農場を訪れて、農業体験や周囲の自然を満喫する余暇活動です。
アグリツーリズムという言葉は、英語のアグリカルチャー(農業)とツーリズム(旅行)を組み合わせた造語になっています。
地方の農村部で実際に農業体験をしてみたり、その土地ならではの自然や生活を体験できたりするのが、アグリツーリズムの魅力です。

発祥・歴史

アグリツーリズムが発祥したのは、ヨーロッパとされています。
フランスやドイツなどは100年ほど前から休暇に関する法律が制定されており、労働者は長期休暇を利用して農村部に出かけ、自然や地元の人との交流を楽しむという習慣がありました。
しかし、農村部を訪れても宿泊施設に泊まるのが難しかったことから、農家にお願いして滞在するようになりました。
その結果、農家は宿泊設備を用意したり、食事を提供したりするようになり、現在のアグリツーリズムと同じ形式に変わっていったのです。

また、日本国内におけるアグリツーリズムは、「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律(農山漁村余暇法)」が1994年に制定されたことがきっかけで広まったとされています。

アグリツーリズムが注目された背景


日本では農山漁村余暇法の制定から広がりを見せましたが、近年特に注目度が高まっています。
なぜアグリツーリズムが注目されるようになったのか、その背景について解説します。

政府による推進

注目された背景のひとつに、政府による推進が挙げられます。
農林水産省では2024年3月に農泊推進研究会を開催し、農泊に関する消費者調査の結果や農村観光の先進国でもあるイタリアへ視察した際の報告を行いました。
農林水産省は、2023年度から農泊推進実行計画を推進しています。
2025年度には農泊地域における年間延べ宿泊者数を700万人泊、関連消費(宿泊や食事、体験)を約1060億円、所得創出を約420億円に達成できるよう取り組んでいます。

アグリツーリズムによって農家だけでなく地域全体の活性化を促進することも期待されていることから、特に過疎化や高齢化に悩む地方の解決策として政府も法律の整備を進めています。

インバウンドの需要増加

2020年から2022年にかけて、新型コロナの感染拡大が影響し、訪日外国人観光客数は大きく減少してしまいました。
しかし、2023年以降は徐々に数が増えていき、2024年1月~12月の訪日外国人観光客数は約3,687万人にも上っています。
2025年に入ってからもペースは衰えておらず、2月だけで約325万人が日本を訪れており、今後も訪日外国人観光客は増えていくと考えられます。

日本を訪れた外国人の中にはリピートで訪れている人も少なくありません。
令和元年のデータになりますが、観光庁の訪日外国人消費動向調査によると、リピーターの割合は61.9%と半数以上の人がリピートで日本を訪れていることがわかりました。
リピートで訪れた外国人は都市部だけでなく、「日本でしか体験できないことをしたい」という考えから、地方へ赴き農泊地域でその地域の伝統や生活、自然を満喫する人も増えています。
そもそもアグリツーリズムの文化は欧米で身近な存在になるため、日本でアグリツーリズムをしたいというニーズが高まっています。

アグリツーリズムで体験できること


一口にアグリツーリズムといっても、体験の内容は多種多様です。ここでは、アグリツーリズムに参加することで体験できることを解説します。

農業体験

アグリツーリズムの中でも特に定番となっているのは、農業体験です。作物の植え付けから収穫までのプロセスを体験できます。
例えば、春に田植えをして秋に稲刈りを行い、そのお米をお土産にもらったり、その場で郷土料理と合わせてご馳走になったりします。

都市部に住んでいる人は頻繁に地方まで足を運べないため、日頃の管理は農家が行い、育った農作物をもらえるため、農業従事者ではない人にとって特別な体験が味わえるでしょう。
また、農業体験を通じて自然の中で過ごすことができ、都市部で生活している人は日頃の喧噪を忘れて非日常感を味わうことも可能です。

農村文化・食に関する体験

地方の農村はそれぞれの地域によって文化や伝統が異なります。例えば、その農村ではポピュラーでも、別の地域では見たこともないような文化もあります。
こうした特別な農村文化が楽しめるのも、アグリツーリズムの魅力です。

特に地元の食材を活用した郷土料理体験は、貴重な経験につながります。
参加者は収穫した野菜や果物を活用し、地元の人とコミュニケーションを取りながら郷土料理を作っていきます。
単に美味しい料理を食べられるだけでなく、地元の人との交流も楽しめることから、人気のある体験です。

ファミリー向けの体験

アグリツーリズムはファミリー向けの体験もたくさん用意されています。特に注目したいのが、食育に関する体験です。
子どもはその食材を知っていても、どのように育ち、どのように作られているのかまで理解していない子も少なくありません。
しかし、食育に関する体験に参加すれば、食材の育ち方から収穫の仕方、料理のやり方まで一貫して学べるため、体験を通して食材について理解を深められます。

また、ファミリー向けの体験は親子同士のコミュニケーションを深める場としても最適です。
その地域でとれた新鮮な食材を使ってバーベキューを楽しんだり、キャンプを行ったりすれば、家族の絆を強固にしつつ楽しい思い出もつくれます。

アグリツーリズムを提供するメリット


アグリツーリズムは参加者だけでなく、体験を提供する地域や農家にもメリットがあります。提供する側にどのようなメリットがあるのか解説していきます。

本業以外の収入を確保できる

農家は農作物を生産し、販売することで収入を得ていますが、アグリツーリズムの提供によって本業以外の収入を確保することも可能です。
例えば、農家民宿や地元食材を使ったレストランを経営したり、体験農園を開いて体験プログラムを用意することなどがあります。
また、生産した農作物をより新鮮な状態で販売できるように、直売所を開設することでも利益を得られます。

農業はどうしても天候や季節などの影響で、収入が不安定になりやすいものです。
しかし、これらのサービスとうまく組み合わせることで、年間の収入が安定しやすくなります。

地域活性化につながる

アグリツーリズムを提供するもうひとつのメリットとして、地域活性化につながることが挙げられます。
例えば、観光農園を開いた場合、農作物を管理する人だけでなく観光客を案内する人やお土産を販売する人なども必要です。
家族が従業員となってサポートすることも可能ですが、さらに多くの人に対応できるようにするためには従業員を雇用する必要があります。
このように、アグリツーリズムを通して地域に雇用機会が増えていき、若者の都会への流出を防げるなどのメリットも期待できます。

また、地元の工芸品や郷土料理などの伝統・文化を維持できたり、新たなサービスを提供する場をつくるために耕作放棄地や空き家を活用したりすることも可能です。

アグリツーリズムが抱える課題


アグリツーリズムには地域や農家にとってメリットもありますが、いくつか課題も残されています。

受け入れ先の高齢化

アグリツーリズムの受け入れ先は地方の農山漁村になりますが、このような地域は現在高齢化が進んでおり、実際には観光客を受け入れるのが難しいという現状があります。
農林水産省の調査によると、2020年時点で基幹農業従事者数のうち、65歳以上の階層が全体の約70%を占めており、49歳以下の若年層は約11%しかいないことがわかっています。
農家の高齢化は今後もさらに続くと予想されており、観光客の受け入れ先を増やすためにも後継者の確保や育成が必要です。

観光地化による環境悪化

農村地域に観光客を呼び込むことによって、環境や文化が破壊されるリスクも懸念されています。
本来アグリツーリズムは自然豊かな地域で、その土地ならではの文化を体験することを目的としています。
この目的の中に「地域の自然・環境を守る」ことは含まれていません。
そのため、観光客が過ごしやすくなるように新たな宿泊施設を建設したり、行きやすいように道路を整備したりするなど、大規模な環境変化によってその土地の自然が悪化してしまう可能性も考えられます。

認知度の低さ

アグリツーリズムは1994年の農山漁村余暇法の制定から国内で広がり始めましたが、世間の認知度はまだ低いのが現状です。
せっかく受け入れ態勢を整えていたとしても、人が来なければ意味がありません。
そのため、認知度の低さを解消できるように受け入れ態勢を整えつつ、SNSなどを活用したプロモーションも行う必要があります。

また、近年は政府の推進によってアグリツーリズムに力を入れる地域も増えていますが、その一方でどのように差別化を図るかも重要となっています。
認知度を高めつつ、ほかの地域では体験できないことにアプローチすることで、参加者の増加や地域のブランド価値の向上にもつながるでしょう。

アグリツーリズムの成功事例


実際にアグリツーリズムを取り入れたことで、地域の活性化につながった事例もあります。ここで3つの自治体による成功事例を紹介します。

北海道長沼町

北海道長沼町は、2004年に「長沼町グリーン・ツーリズム特区」の認定を受け、関係団体による推進協議会・運営協議会を設立し、町全体で地域資源を活かしたアプローチを展開してきました。
例えば、学生向けに3泊4日の宿泊プランを用意し、複数の農家が受け入れ先となって農作業の体験を提供しています。
田植えや稲刈り、雑草取り、農産物の収穫まで、その時期に実際農家が行っている作業を学生が体験し、農家の人とコミュニケーションを取りながら農業体験を行います。

実際に農業体験に参加した人は、学校を卒業してから再び長沼町を訪れたり、定期的に野菜・お米を購入してくれたりするなど、長期間にわたって交流が続いているようです。
また、関東や関西エリアなどの修学旅行生の受け入れを主体としていましたが、2017年から海外の修学旅行生の受け入れも開始しており、インバウンド需要も取り込んでいます。

参考元:空知総合振興局|長沼町グリーンツーリズム事業

三重県鳥羽市

三重県鳥羽市は、伊勢海老を中心とする漁業が盛んであり、日本一現役の海女さんが多い町としても知られています。
鳥羽・志摩の海女漁の技術は国の重要無形民俗文化財にも指定されているほどです。
そのような地域に根付いた海女文化を活用し、持続可能な地域づくりを目指すために相差地域海女文化活性化協議会が設立されました。

主な取組みとしては、現役の海女さんと触れ合える海女小屋や海女文化資料館の設置、海女に関連するグッズなどを販売する施設の整備、相差ガイドの育成などが挙げられます。
また、旬の海の幸を堪能できる宿泊施設を設け、海女文化を取り入れた宿泊プランを販売することで、相差地域への入込客数を増やしつつ、宿泊施設に食材を提供することで地元漁業の活性化にもつなげています。

参考元:海女文化を活かした活性化構想計画

静岡県伊⾖市

静岡県伊豆市は、修善寺温泉や世界農業遺産にも認定された水わさびの伝統農法など、観光資源が存在している地域です。
しかし、観光施設の老朽化などにともない観光入込客数が減少しており、またほかの観光地への通過点になっていることも課題として挙げられています。
このような課題を解決するために、伊豆市は民間企業と連携して宿泊施設やワイナリーの開業に取り組みました。
その結果、2017年度の実績は前年度と比較して売上131%、宿泊者数も115%増加しています。

参考元:農林水産省|多様な農泊の取組事例集

まとめ・アグリツーリズムで農業と地域を活性化しよう

アグリツーリズムでは都市部で暮らす人が地方の農山漁村を訪れ、農業やその地域の文化・伝統を体験できます。
まだまだ課題は残されているものの、農業や地域の活性化につながることから、積極的に活用してみましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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