法人の登記住所は変更可能? 本店所在地を決める際の注意点を紹介!

創業手帳

自宅を本店所在地にするメリット・デメリットや、自宅以外の本店所在地の選択肢について解説します。

会社を設立するときには本店所在地を決める必要があります。オフィスを借りるか、自宅を使うかで悩む起業家は多いです。特に人手が必要ない事業や、個人事業の延長で会社を設立した場合は、自宅を本店所在地にしようと考える方も多いでしょう。

今回は、法人登記の際に本店所在地を決める基準や、自宅を本店所在地にした際の注意点、自宅以外を本店所在地にする場合の選択肢について解説します。

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会社設立の必須事項「本店所在地」

「本店所在地」は会社を設立するときに決めなくてはならない必須事項のひとつで、主に「定款」と「登記」に関わります。

定款に記載する本店所在地は番地等を含まない、市町村単位等のおおまかな住所にしておくケースがよくあります。これは例えば「本店を◯◯市におく」としておくと同じ市内なら引っ越しても定款変更せずに済むメリットがあるためです。

※定款についての詳細は、こちらの記事で解説しています

一方、登記する本店所在地は少なくとも番地まで含める必要があります。建物名や部屋番号は省略しても登記できますが、大型マンションや団地の場合など例えば、税金や社会保険関係などの郵便物が届かない可能性がありますので、現実的な対応として書き入れる場合があります。

なお、登記上の「本店所在地」は必ずしも「実際に営業する場所」でなくても問題ありません。(自宅を「本店」として店舗は別に借りる場合など)

自宅で登記する場合の注意点

「自宅で開業」の一番のメリットはとりあえず月々の追加出費なしに始められるという点ですが、法人登記する場合には若干の注意点もあります。

デメリットとしてよく言われるのは、自宅住所が公開されてしまうことです。会社あての郵便物も送られてきます。プライベートとの切り分けが難しくなる可能性があります。

住民票と異なり、法人の登記簿謄本は法務局で誰でも取得することができます。また、新設法人の情報をまとめている民間のサイトもありますので、Googleストリートビューと組み合わせれば、そこが自宅であることは一目瞭然です。

一度登記した内容は、後で変更しても消去されるわけではありません。登記簿謄本において古い情報には「抹消事項」として下線が付きますが、内容自体は見ることができます。法人番号公表サイトでも履歴を閲覧することは可能です。

なお、本店所在地とは別に「代表取締役(合同会社なら代表社員、など)の住所」も登記事項ですので、登記簿謄本を取れば誰でも知ることができます。いずれにしても法人の代表になるならば、自宅住所は一定の条件において公開されるものだ、と認識しておく必要があると言えます。

住居専用の賃貸物件で登記できるか?

「いつか起業しようと思って、最初から事務所可(店舗兼住宅)の物件を借りてました」という用意周到な方は少ないでしょう。いざ自宅で起業しようと思ったら賃貸契約書に「居住のみを目的として本物件を使用しなければならない」などと書かれていることに気づいて戸惑っている、という方もあるかもしれません。

この問題は「法人登記すること」「営業すること」を分けて考えるのがポイントです。

まず、賃貸住宅で法人を登記すること自体を禁止する法令はありません。国土交通省が用意している「賃貸住宅標準契約書」の禁止・制限事項の中にも規定はありませんので、一般論として「登記するだけ」なら賃貸のマンションやアパートでも問題ありません。ただし、規約や契約書に「登記禁止」などと規定がある場合は、そちらが優先ですので確認が必要です。

一方、一般に賃貸住宅が「住宅専用」と利用方法を制約しているのは、「生活の本拠であるために必要な平穏さ」(国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)コメント」 より)を確保する目的があります。内職やさまざまな在宅ワークなど、「平穏」を損なわないと考えられるものもありますが、業種によっては人や荷物の出入りが増えたり作業音などで「平穏」を損なう恐れがあります。そのほか、例えば事業活動で出るゴミは事業ゴミとして、家庭ゴミとは分けて排出しなくてはなりませんので、ゴミ置き場や出し方について家主と調整が必要になる場合もあります。

近隣住民からの苦情や、郵便受けに貼った法人名などから、好ましくないかたちで家主に「発覚」してトラブルになったり、UR賃貸住宅のように発覚すると「ただちに契約を解除し、住宅の明け渡しを求めるとともに、損害賠償金を請求する」と明示しているケースもあります。

賃貸のオーナーから「先にひとこと相談してもらえれば良かったのに、問題になってから言われても今さらどうぞとは言えませんよ」と言われ、話がこじれるのはよくある話。自宅での起業を円滑に進めるために、周りの理解を得ることも大切な段取りのひとつです。法人登記する規模で営業するならば、現実的な対応として、あらかじめ家主と相談するのが望ましいと言えます。

持ち家で起業する場合は用途地域と住宅ローン減税に注意

自己所有の一戸建ての場合、登記することに支障はありません。
ただし、許認可や施設条件がある業種の場合、登記はできても条件を満たさないと営業できないことがあります。

また、所在地の「用途地域」(例えば第一種低層住宅専用地域など)によっては営業できない業種や規模の制限がある場合もありますので、確認が必要です。

また、住宅を購入した際に「住宅借入金等特別控除」(住宅ローン減税)の対象になっている場合、住宅のうちの事業に使用する割合により、控除額が変わったり対象から外れる場合があります。火災保険も住居専用と、事務所や店舗を兼ねる場合では扱いが違いますので保険会社への確認が必要です。

自己所有でも、分譲マンションの場合は賃貸の場合同様、管理組合規約の確認が必要です。賃貸なら最悪引っ越せば済みますが、分譲マンションで近隣トラブルに陥ると思わぬ痛手が発生する恐れもありますので注意しましょう。

賃貸事務所、登記が先か、借りるが先か?

賃貸事務所を借りれば自宅にまつわる問題は回避できます。一方で賃貸事務所を借りて、特に1人で起業しようとする場合にハードルとなりやすいのが、「連帯保証人」問題です。

法人登記前に賃貸事務所を借りようとすると、個人としての契約になりますので、多くの場合誰かに連帯保証人を引き受けてもらわなくてはなりません。しかし、先に自宅住所で法人登記を済ませてから事務所を借りる手順にすると、契約者が法人となり、代表者が「個人として」連帯保証人になることで実質的に1人で完結できる場合があります。

物件や契約条件によりますので不動産会社と相談が必要ですが、連帯保証人になってくれる人を確保するのが難しい場合には段取りのひとつとして検討の余地があります。

なお、居住用の家賃は消費税非課税ですが、事業用の家賃は課税されます。例えば住宅としても使えるワンルームマンションを事務所用に借りる場合は、「事業用」として契約する必要があります。

そのほか自宅以外で安価・手軽に登記する方法

自宅での登記にまつわる問題を比較的低コストで回避する方法として、バーチャルオフィスやシェアオフィスの活用も選択肢のひとつです。

バーチャルオフィス、シェアオフィスにはさまざまな形態、条件のものがありますが、「専有スペースなし、住所の利用と登記可、郵便物の受け取り」といった、最低限のサービスを受けられるものなら月額数千円程度で、グレードを上げた「専有スペースあり」の場合でも、賃貸事務所より安く借りられる可能性があります(地域、物件、付加サービスなどによります)。バーチャルオフィスやシェアオフィスを利用することで、狭い賃貸事務所を借りるよりも共用スペースや会議室が使えるなどメリットがある場合もありますし、登記だけで日常は自宅を拠点に、という使い分けをする方法もあります。

なお、一般的にバーチャルオフィスの登記では法人口座の開設は難しいと言われていますが、金融機関と契約をしているバーチャルオフィスなどもあります。バーチャルオフィスを契約する際には、銀行口座がつくれるかどうか事前に必ず確認しましょう。

創業手帳の創業コンサルティングでも、登記についてのご相談を承っています。

特殊詐欺やマネーロンダリングなどに口座を悪用されることを防ぐため、年々法人口座開設の審査は厳しくなっています。登記場所が自宅や普通の賃貸事務所を借りていても口座開設を断られる場合がありますので、あきらめずに複数の金融機関で申請しましょう。

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登記住所の変更はできる?


登記住所の変更自体は可能ですが、法人の代表者や会社の住所は公開されているため、手続きを行わなければいけません。この手続きのことを「本店移転登記」といい、手続自体は法務局に対して行います。会社などの法人の住所を変更する際にはこの手続が必須となるので、必要な書類をしっかりと揃えましょう。

登記住所の変更に必要な書類

会社などの法人の住所を変更する場合には「本店移転登記」が必要になることを前述しましたが、この手続にはいくつか書類を用意する必要があります。

・本店移転登記申請書
・株主総会議事録(定款変更が必要な場合)
・株主情報を記載したリスト(定款変更が必要な場合)
・取締役会議事録(取締役会がない場合は取締役決定書)

登記住所を変更する流れ

登記住所を変更する場合、定款の変更が必要な場合とそうでない場合で手続きの流れが異なります。定款の変更が必要な場合は株主総会を開催し、株主からの承認を得る必要があります。

必要な書類を揃えたら法務局で申請を行いましょう。申請の際には「登録免許税」が発生します。会社の旧住所と新住所が同一の法務局の管轄であれば3万円となりますが、旧住所と新住所の管轄が異なるのであれば、法務局ごとに登録免許税を納める必要があるため、6万円を支払わなければいけません。

本店移転登記が完了したあとに必要な手続き

会社などの法人の住所変更(本店移転登記)が完了したら別の手続きも行う必要があります。
・法務局への各種届出
・税務署への各種届出
・労働基準監督署、ハローワークへの各種届出
その他にも利用しているサービスに関する住所変更の届出が必要となります。

会社などの法人住所の変更に関してはさまざまな手続きが必要になります。漏れなく手続きを完了させるために、あらかじめ作業をリストアップしておきましょう。

まとめ

自宅を本店所在地として登記する場合のメリット・デメリット、他の選択肢などを解説しました。事業における自宅の活用にあたって、確認や事前に必要な相談などについてしっかり把握し、スムーズな起業につなげましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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