VCは投資先をどう見つけている?3つの経路とアプローチのコツ
フェノックスジャパン代表・名雲氏インタビュー
(2016/10/13更新)
フェノックスジャパンの代表として多くの投資案件に関わる名雲俊忠氏に、起業家向けのアドバイスを伺うインタビュー。
前回はフェノックスジャパンが投資先を決める際の基準を教えていただきました。今回は、引き続き投資対象を発掘するルートや、投資を受けたい起業家に向けてのアドバイスについてお話を聞きました。
野村総合研究所にて情報・通信業界の戦略コンサルタントとして活躍。2004年にコンサルティング会社を設立。長年に渡り、情報・通信業界に関わる市場調査、戦略コンサルティング、提携・M&A支援、ベンチャー支援、IRコンサルティングなどに従事した経験を持つ。現・株式会社フェノックス・ベンチャーキャピタル・ジャパンCEO。
フェノックスの投資判断はポテンシャル第一
名雲:まず、5つの観点から投資企業のスクリーニングをかけ、最終的には、ファイナンシャルな部分と、リーガルな部分を見ます。ビジネスや技術としてポテンシャルが高ければ、資金やヘルプの出し方で良い方向に持っていけるかどうかを判断できますので。
リーガル面は、訴訟などの状況を見ます。もし問題があっても、それを解決できるかという視点で。
名雲:日本の場合は、最初にファイナンシャルやリーガルの面から入るという風潮がありますね。最初にそれらでスクリーニングをしているイメージです。我々は、それとは逆。まず見るのはビジネルのポテンシャルですから。
ビジネス以外の阻害要因があっても、それが取り除けるのであれば何も問題はないのです。
投資対象を発掘する3つのルート
名雲:フェノックスは、これまで年間8,000件の会社を世界中で見ています。そのうち、デューデリするのは500件くらい。
名雲:スタートアップの詳細な評価ですね。業界ポテンシャルと、その会社のポジショニングを調査することです。やり方は全部決まっていて、チェックポイントに沿って情報をまとめて毎週水曜日にチームで発表しているんです。
名雲:そのもとの案件はどこから来るかというと、大きく分けて3つあります。
まず1つ目は、インキュベーターやアクセレーターのイベントです。ここ経由のスタートアップは上昇志向が高いです。そこにくる企業のトップ何社に目をつけます。ただ、良いところは他も狙いますから、24時間、48時間以内に決定しなくてはなりません。とにかくスピードが大事なので、先ずは500万円ぐらいを投資しようと思うのですが、優秀な企業は「選び放題」ですからお金を受け取ってもらえないこともあります。
名雲:お金だけでは動いてもらえないので、その人たちのビジネスをどう大きくするかとか、グローバルネットワークがあるとか、他のメリットが提示できるかどうかで決まりますね。
こういったイベントからの情報というのが、まず1つ目です。
名雲:2つ目は、ベンチャーキャピタル同士のネットワークですね。アンドリーセンやセコイアといったベンチャーキャピタルとも案件のやり取りをしていますし、私たちがデューデリをして、彼らが投資するときに一緒に入る、というやり方があります。
名雲:普通だったら情報はあげないというところですが、他のキャピタルが注目しているかという情報は、我々にとっても気になること。サムスンやGoogleはとてもアグレッシブですし、お互いにメリットがあれば情報交換しますよ。
名雲:そうですね。3つ目は、さまざまなネットワークの活用ですね。例えば、弁護士。日本と違って、アメリカの場合は会社の登記は全部弁護士の仕事ですから、会社の情報はまず弁護士に行くんです。そこから「面白い会社があるよ」という情報をもらったりします。
他にも、スタンフォードなど、起業家のサークルがある大学が多いです。部活動で会社をつくっているんです。それなりにレベルの高い人がやっていますから、これもソースの元になりますね。
また、インド系起業家コミュニティや、ロシア系の起業家コミュニティとか、シリコンバレーの中にも強いネットワークがありますから、そこにも網を張っていて、情報をキャッチしたりします。
それ以外にも、直接申し込みに来ることもありますよ。
名雲:圧倒的に数が多くて、我々も注目しているのは、最初に言ったインキュベーターやアクセレーターのところでトップになるような企業ですね。
“貪欲に投資先を探す”戦略で好循環を生む
名雲:そうですね。ベンチャーキャピタルは999だめでも、1つ成功すればいいというところがあって。でも、我々は成功確率を上げるためにはどうすれば良いかを考えていて、数をこなすというベタな戦略も取っています。
これだけの会社がある中で、どこが良いかというのは、自分たちで調べて評価すれば見えてきます。そして、その情報は他の人の役にも立つんですよね。ほとんどリサーチ会社やコンサル会社がやっているようなことをやっていますよ。
そういった調査をベンチャーキャピタルとして徹底的にやることで、いろんなことが分かりますし、MITの先生や、投資先の会社や、他のベンチャーキャピタルとの信頼関係も生まれます。すると、良い循環も生まれるんですよね。
普通だったら知り得ない情報が入ってきますし。いい会社の情報は、ネットにはないんです。そういった情報にアクセスできるようになるというのがこの方法の大きなメリットですね。
名雲:そうですね。面白いことに私たちのところに来たおかげで、日本の会社同士が仲良くなって、「半々でリスクを取って一緒にやろう」ということもありますよ。うすうす、自分たちだけで100%出来ることはないということが分かっているんでしょうね。いい意味の協力関係ができていると思います。
フェノックス自身もまだスタートアップ段階
名雲:投資していない会社についても、面倒を見ていますね。年間500社デューデリして、その情報がありますから、LPには毎月レポートとして「今月のデューデリで良かった会社」出しています。実際に投資するのはそのうちの1社か2社ですが、それ以外の会社の情報も全部。これは我々のユニークな点かもしれません。
普通のベンチャーキャピタルは、自分たちが投資している会社の情報は出しますけど、それ以外は出しませんからね。
名雲:多くの情報が公開されることでいいエコシステムや循環が生まれると思うからです。今は大変ですけど、5年くらい経ったら次のステージに行けるのかなって。フェノックス自体もまだ6年目。スタートアップに投資しているけれど、フェノックス自信もスタートアップなんです。だから、普通のベンチャーキャピタルとは違うことをやっているというところもあります。
投資家から起業家への3つのアドバイス
名雲:PRをすることですね。特に技術系の会社の人は、自分のやっていることが楽しいし、その技術に惚れてしまう。自分では凄さ・良さは分かっているけれど、それが他の人に伝わっていないんですよね。だから、しっかり強みをアピールすること。
あとは、柔軟性を持つこと。日本は、あれダメ、これダメといった禁止事項が多くって。業界の慣習かもしれないけれど、それに囚われずに、柔軟にやり方を変えるということが大切だと思います。
また、技術系の会社は技術に惚れ込むあまりシーズに特化するという傾向があります。でも、「何を解決したいから、何をやる」ということをはっきりさせて、その手段がダメなら別の手段を考えなければいけないんですけど、それが難しいんですよね。そこに引っ張られずにできるようなチームが作れていると、良いかもしれません。
名雲:いい意味でのPRのために相談するのは良いですね。でも、難しいことをするのではなくって、自分たちのやることを目に見える形で紹介するということから始めるのも大切。
アメリカだと、かならずビデオでどういう会社かを紹介するんです。我々も、会社を調べるときには概要を見て、その次は動画。
名雲:もちろんビデオのできの良し悪しもあるし、まだ製品化されていないものはイメージ映像ではあるんだけれど、それで良いんです。目指すべきものを分かりやすく伝えるということから始めてはどうでしょうか。
シリコンバレーのベンチャーキャピタルから見て、日本の会社はよく分からない。ブラックボックスみたいな状態です。そこを抜けて、上手にPRできれば、資金提供を受けやすくなりますから。
日本のベンチャーは、持っているものはとても良いので、世界を見て、自信を持って、もう一段上にいくことを目指してください。
(取材協力:株式会社フェノックス・ベンチャーキャピタル・ジャパンCEO/名雲 俊忠)
(編集:創業手帳編集部)