【2026年より】「178万円の壁」とは?いつから?事業主が今すぐ始めるべき準備を解説
2026年から「178万円の壁」になる予定

「178万円の壁」とは、所得税がかからない年収が最大160万円から178万円へ引き上げる税制改正案です。
2025年12月現在、一定の所得層では年収160万円までの所得税非課税が実現しています。さらに協議を経て、2026年から178万円への引き上げが実現する見込みとなりました。
本記事では、178万円の壁の仕組みや年収別の減税シミュレーション、従業員・事業主それぞれのメリット・デメリットまで詳しく解説します。社会保険の106万円・130万円の壁との違いも整理していますので、ぜひ参考にしてください。
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この記事の目次
178万円の壁とは

「178万円の壁」とは、所得税の非課税ラインを現行を最大160万円から178万円へ引き上げる税制改正案のことです。2024年の衆院選で国民民主党が提唱し、大きな注目を集めました。
この政策が実現すると、年収178万円までの給与所得者は所得税がかからなくなります。パートやアルバイトで働く方にとっては、税負担を気にせずより多く働けるようになるでしょう。
また、納税者の8割ほどにあたる年収665万円以下の方に、「178万円の壁」が適用される予定です。
なぜ今また議論されているのか

178万円の壁が再び注目を集めている背景には、日本の政治情勢の変化があります。2024年10月の衆院選で与党が過半数を割り込み、野党との協力なしには法案や予算が通らない状況になりました。
この状況を受けて、「手取りを増やす」政策を掲げた国民民主党の発言力が増しています。与野党間での政策協議が活発化するなか、物価高に苦しむ国民の関心も高まり、年収の壁の見直しは避けて通れない課題となりました。
政府・与党の最新方針
2025年12月18日、178万円への引き上げに関して自民党と国民民主党が合意しました。日本維新の会と公明党を交えた4党の税調会長会談において、年収の壁を178万円に引き上げる旨の合意文書に署名しました。令和8年度税制改正法案や同8年度予算について、年度内に早期に成立させることを目指しています。
いつから178万円になるのか

178万円の壁が実現するのは、2026年からの予定です。2025年の税制改正とあわせて、最新の情報を確認しましょう。
2025年の税制改正の内容
令和7年度税制改正により、所得税の「基礎控除」や「給与所得控除」に関する見直しが行われました。これらの改正は、原則として令和7年12月1日に施行され、令和7年分以後の所得税について適用されます。
基礎控除について、合計所得金額132万円以下の場合は95万円に引き上げられました。また、給与所得控除についても、55万円の最低保障額が65万円に引き上げられました。 この結果、基礎控除95万円と給与所得控除65万円の合計額である160万円までは所得税が発生しません。これがいわゆる「160万円の壁」です。
2026年から178万円の壁に引き上げられる
「178万円の壁」が2026年から引き上がるのは、年末に与党の「税制改正大綱」で翌年度の税制改正方針を固め、翌年の国会で税法改正として成立させる、という年次プロセスで動くためです。
今回は2025年12月の大綱取りまとめ期限に合わせ、与党と国民民主党が協議し、「2026年度税制改正」として扱うことで決着しました。そのため、適用も「2026年分から」が基本線になります。
引き上げに伴う年収別の減税額シミュレーション

178万円の壁が実現すると、多くの給与所得者の手取りが増加します。非課税枠の拡大により所得税が軽減されるためです。パートやアルバイトの方だけでなく、正社員として働く会社員も減税の恩恵を受けられます。
160万円から178万円に引き上げられた場合の、年収別の減税額(概算)シミュレーションは以下のとおりです(単身世帯の場合)。
| 年収 | 減税額(概算) |
| 2,000,000円 | 4,000円 |
| 3,000,000円 | 8,000円 |
| 5,000,000円 | 27,000円 |
| 6,000,000円 | 36,000円 |
| 8,000,000円 | 8,000円 |
| 10,000,000円 | 8,000円 |
※復興特別所得税(2.1%)は本表の「減税額」には含めていません
178万円の壁への引き上げは、パート・アルバイトだけでなく正社員にもメリットをもたらします。基礎控除の引き上げはすべての給与所得者に適用され、年収に応じた減税効果が期待できるためです。
ただし、年収665万円を超えると控除額が急減するため、節税効果が小さくなる構造となっています。
従業員側のメリットとデメリット

178万円の壁が実現すると、従業員にはさまざまなメリットが生まれます。所得税の負担軽減により手取り収入が増え、働き方の自由度も広がるでしょう。
| 区分 | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| メリット | 手取り収入の増加 | 所得税の負担が減り、働いた分だけ手取りが増える |
| 働き方の自由度向上 | 年収を気にせず希望どおりにシフトに入れる | |
| キャリア形成の機会拡大 | 労働時間増加でスキルアップや正社員登用のチャンスが広がる | |
| デメリット | 社会保険料の負担発生 | 130万円を超えると扶養から外れ、保険料が発生 |
| 扶養手当の減額・廃止 | 配偶者の会社から支給される家族手当がなくなる可能性がある | |
| 世帯全体の税負担増 | 配偶者控除の縮小により、配偶者側の税金が増える場合がある |
178万円の壁はあくまで所得税に関する制度です。所得税の壁が緩和されても、社会保険に関する年収の壁は依然として働き方の選択に影響を与え続けることになります。
年収が130万円を超えると、配偶者の社会保険の扶養から外れます。その場合、国民健康保険と国民年金に加入しなければなりません。国民年金保険料と国民健康保険料をあわせて、年間で30万円以上の負担増となるため、手取りが逆に減ってしまうケースもあるでしょう。
また、配偶者の年収が一定額を超えると、配偶者手当が減額または廃止される企業もあります。このように、本人だけでなく、世帯全体の収入への影響を確認することが大切です。
事業主側のメリットとデメリット

178万円の壁への引き上げは、事業主にとってメリットとデメリットの両面があります。人手不足の解消が期待できる一方、人件費や社会保険料の負担増加にも備えなければなりません。
以下に、事業主側のメリットとデメリットを整理しました。
| 区分 | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| メリット | 人手不足の解消 | パート・アルバイトの働き控えが減り、労働力を確保しやすくなる |
| 生産性の向上 | 既存従業員の労働時間が増え、業務効率がアップする | |
| 採用コストの削減 | 新規採用の必要性が減り、求人広告費や教育コストが抑えられる | |
| デメリット | 人件費の増加 | 労働時間増加に伴い、賃金や時間外手当の支払いが増える |
| 社会保険料の負担増 | 加入対象者が増えると、事業主負担分の保険料も発生する | |
| 労務管理の複雑化 | 従業員ごとの年収管理や給与計算システムの改修が必要になる |
パートやアルバイト従業員の働き控えが解消されることで、生産性の向上が望めます。人手不足が深刻な業種にとっては、人材確保と生産性アップのメリットが大きいと考えられるでしょう。
また、慣れた従業員に長時間働いてもらえることで、新人教育のコストや手間も削減できます。新規採用の必要性が減れば、求人広告費や面接対応の負担も軽減されるでしょう。
労働力を確保しやすくなる一方で、人件費負担が増えます。コストが増えることになるため、より資金繰りに意識を払う必要が出てくるでしょう。また、時間外手当や深夜手当の発生にも備えなければなりません。さらに、新しく社会保険へ加入する従業員が発生するかもしれません。社会保険料は労使折半のため、事業主の負担も発生します。
社会保険の壁は残る

所得税の壁と社会保険の壁は、まったく別の制度です。178万円の壁への引き上げが実現しても、社会保険の加入基準には影響しません。
178万円の壁が実現しても、社会保険の「106万円の壁」「130万円の壁」は別制度として存続します。
106万円の壁とは
106万円の壁とは、一定の条件を満たすパート・アルバイトに社会保険(健康保険・厚生年金)の加入義務が発生する年収ラインです。2024年10月以降、従業員数51人以上の企業で働く場合に適用されています。
要件に該当する企業に週20時間以上で勤務する場合は、所定内賃金が月額8.8万円以上(年収換算で約106万円)になると社会保険に加入することになります。詳細な加入条件は以下のとおりです。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上(年収約106万円)
- 雇用期間が2か月を超える見込み
- 従業員数51人以上の企業に勤務
- 学生ではないこと
なお、令和7(2025)年の年金制度改正法により、所定内賃金が月額8.8万円以上(年収約106万円)とする賃金要件については2026年10月を目処に撤廃される予定です。
つまり、「106万円の壁」は「週20時間の壁」に置き換わるイメージです。
130万円の壁とは
130万円の壁は、配偶者の社会保険の扶養(被扶養者)から外れる年収ラインです。106万円の壁の条件に該当しない方でも、年収が130万円を超えると扶養から外れます。
扶養を外れると、勤務先の社会保険に加入するか、自分で国民健康保険・国民年金に加入しなければなりません。特に注意が必要なのは、勤務先が従業員50人以下で厚生年金に加入できない場合です。この場合、国民年金と国民健康保険に自ら加入することになり、保険料は全額自己負担となります。
事業主が進めるべき準備

178万円の壁や160万円の壁への税制改正、さらに社会保険の適用拡大など、年収の壁をめぐる制度は大きく変化しています。パート・アルバイト従業員を雇用する事業主は、これらの変化に備えた対応が求められます。
早めに準備を進め、従業員とのコミュニケーションを図ることで、トラブルを未然に防ぎましょう。
①最新の税制・社会保険制度の情報収集
まず取り組むべきは、税制改正や社会保険制度の最新情報を正確に把握することです。年収の壁に関する制度は頻繁に変更されるため、常にアップデートが必要になります。
2025年12月時点での主な変更点は以下のとおりです。
- 所得税の非課税枠:103万円→160万円(2025年分)→178万円(2026年分から)に引き上げ
- 配偶者控除の上限:103万円→123万円に引き上げ
- 扶養控除の上限:103万円→123万円に引き上げ
- 106万円の壁:2026年10月を目途に賃金要件撤廃予定
- 130万円の壁:2026年4月から「雇用契約ベース」での判定に変更予定
制度の内容は今後も変更される可能性があるため、企業の人事・労務担当者は、常に最新の情報を収集しましょう。厚生労働省や国税庁の公式サイト、顧問税理士・社労士からの情報提供を活用することをおすすめします。
②従業員への丁寧な説明と意向確認
制度変更の内容を正しく理解してもらうため、パート・アルバイト従業員への説明会や個別面談の機会を設けましょう。税金と社会保険は別制度であることを伝え、誤解を防ぐことが重要です。
特に確認すべきポイントは以下の3点です。
- 年収を増やしたいか、扶養内で働き続けたいか
- 社会保険に加入するメリット・デメリットの理解
- 配偶者の勤務先の家族手当の支給条件
労使の双方でコミュニケーションを取りながら、希望する条件の折り合いをつけることが大切です。
③社会保険の加入対象者の把握と手続き準備
従業員が労働時間と年収を増やした結果、社会保険の加入対象になるケースが増える可能性があります。自社の従業員のうち、新たに社会保険加入の対象となる人数を事前に把握しておきましょう。
社会保険の加入要件や扶養判定方法が変わると、企業独自の配偶者手当や勤務制度、短時間正社員制度などの運用も見直しが必要になります。
「従来は支給していた手当が支給対象外になった」「勤務時間の設定が保険加入に影響する」など、就業規則や給与規定等が社会保険制度と整合しないと、後になって従業員とのトラブルにつながる可能性もあります。
④シフト管理と人員配置の見直し
年収の壁が引き上げられると、これまで働き控えをしていた従業員がより多くシフトに入れるようになります。一方で、社会保険の壁を意識して労働時間を抑えたいという従業員もいるでしょう。
従業員ごとの希望を把握し、シフト管理や人員配置を柔軟に見直すことが大切です。繁忙期と閑散期のバランスを考慮しながら、適切な労働力を確保できる体制を整えましょう。
まとめ
178万円の壁とは、所得税の非課税ラインを160万円から178万円へ引き上げる税制改正案です。2026年より、178万円の引き上げられる予定です。
パート・正社員ともに減税の恩恵を受けられますが、社会保険の「106万円・130万円の壁」は別制度として残ります。どのような変更が起こるのかを理解したうえで、労使間でコミュニケーションを取りましょう。
(編集:創業手帳編集部)








