カーボンニュートラル投資促進税制とは?手続き方法や審査のポイントなどをわかりやすく解説
カーボンニュートラル投資促進税制で脱炭素化投資を後押し!
近年は世界中で温室効果ガスの排出を全体でゼロにするという、カーボンニュートラルの実現に取り組む企業が増加中です。
日本でも企業の脱炭素化投資を促進するために、政府はカーボンニュートラル投資促進税制を用意しています。
自社で自家消費型太陽光発電などの脱炭素に貢献する設備を導入する予定であれば、カーボンニュートラル投資促進税制がどのような制度なのか把握しておきましょう。
そこで今回は、カーボンニュートラル投資促進税制の概要や2023年度の変更点、手続き方法、審査のポイントなどについて解説します。
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この記事の目次
カーボンニュートラル投資促進税制とは?
カーボンニュートラル投資促進税制は、民間企業の脱炭素化に向けて取組みを促進する目的で、2021年に整備された税制制度です。
産業競争力強化法による計画認定制度に基づいて、脱炭素化と付加価値向上を両立する設備を導入する際、税制控除または特別償却が適用されます。
税制優遇を受けるためには、エネルギー利用環境低減事業適応計画に向けた中長期の計画を立て、それを所管の大臣から認定を受けなければなりません。
そして、計画に基づいて適用対象となる設備を導入・運用することが条件となっています。
対象事業者
カーボンニュートラル投資促進税制には対象事業者が定められているため、誰もが利用できるわけではありません。
具体的な対象事業者は、青色申告を行っている法人であること、それに加えて産業競争力強化法の事業適応計画の認定を受けていることです。
この2点の条件をクリアしていれば、設備導入によってカーボンニュートラル投資促進税制を活用できます。
事業適応計画の要件
カーボンニュートラル投資促進税制における事業適応計画とは、炭素の排出量削減や環境負荷の軽減を目的に取り組むための計画のことです。
事業適応計画には、以下の要件を含む必要があります。
-
- 現状の炭素排出量の評価
- 炭素排出削減の具体的な目標
- 目標達成のための具体的な施策の策定
- 計画に基づいた施策の実施とその結果
事業適応計画では、事業活動や製品ライフサイクルにともなう炭素排出量の測定や分析を行い、現状の排出量を評価しなければなりません。
その上で、期間内に達成したい炭素排出削減の目標と、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの利用促進などの施策を具体的に設定します。
認定を受けるためには、一定の水準で目標を設定しなければなりません。
例えば、事業適応を開始する3年以内に炭素生産性を最低でも10%(中小企業以外は15%)以上向上させる目標を設定することが定められています。
2023年度の変更点
カーボンニュートラル投資促進税制は2023年度に改正されており、税制適用期間や税制控除率が変更されています。
ここで、2023年度の変更点について解説します。
期間の延長
2023年度の改正によって税制適用期間が2029年3月末までに延長されました。
カーボンニュートラル投資促進税制が整備された当初の適用期間は2024年3月末まででしたが、5年間延長されます。
ただし、税制を受けるためには2026年3月末までに事業適応計画の認定を受ける必要がある点に注意してください。
企業区分ごとの税額控除率
改正によって企業区分が設けられ、企業区分と炭素生産性の向上率に応じて税額控除率が適用されることになりました。
以前は企業区分がなく、炭素生産性の向上率に応じて税額控除率が変わる仕組みとなっていました。
しかし、現行の税額控除率は中小企業者等(租税特別措置法第10条または同法第42条で規定する中小企業者)と中小企業者等以外の事業者の2つに大きく区分されています。
改正前と改正後の税制措置の変更点は以下のとおりです。
企業区分 | 炭素生産性の向上率 | 税制措置 | |
---|---|---|---|
~2023年度(改正前) | ‐ | 10% | 10%の税率控除または50%の特別償却 |
‐ | 7% | 5%の税率控除または50%の特別償却 | |
2024年~(改正後) | 中小企業者等 | 17% | 14%の税率控除または50%の特別償却 |
10% | 10%の税率控除または50%の特別償却 | ||
中小企業者等以外の事業者 | 20% | 10%の税率控除または50%の特別償却 | |
15% | 5%の税率控除または50%の特別償却 |
カーボンニュートラル投資促進税制の対象となる設備
カーボンニュートラル投資促進税制の対象となる設備は、「脱炭素効果の高い製品の生産設備」と「生産工程などの脱炭素化と付加価値向上を両立する設備」の2つに大きく分かれます。
それぞれの概要と該当する設備は以下のとおりです。
脱炭素効果の高い製品の生産設備
環境への負担が少なく、需要拡大が見込まれる製品(需要開拓商品)を製造するために生産設備が対象です。
需要開拓商品に該当する製品の例が以下のとおりです。
需要開拓商品の例 | 備考 |
---|---|
化合物パワー半導体 | 電力の制御もしくは電気信号の整流を行う化合物半導体素子、または当該素子の製造に使用する化合物半導体基盤が対象 |
EVやPHEV向けのリチウムイオン蓄電池 | EV車またはPHEV車用のものが対象 |
定置用リチウム蓄電池 | 7300回充放電後に60%以上の放電容量を有するものが対象 |
燃料電池 | 定格運転時の低位発熱量基準の発電効率が50%以上あるもの、または総合エネルギー効率が97%以上あるもの、または水素のみを原料とするものが対象 |
洋上風力発電設備の主要専門部品 | 一基あたり定格出力9MW以上ある洋上風力発電設備を構成する、ナセル・発電機・増速機・軸受・タワー・基礎が対象 |
生産工程などの脱炭素化と付加価値向上を両立する設備
工場・事業所への導入前後に炭素生産性を1%以上向上させる、機械装置や器具部品、建物付属設備、構築物といった設備が対象です。
企業区分および炭素生産性の向上率に応じて、中小企業は10%または14%の税額控除、または50%の特別償却を受けられます。
なお、すでに広く流通しているLEDなどの照明設備や、使用者の快適性を確保する目的で使用されるエアコンは税制措置の対象に含まれません。
自家消費型太陽光発電の導入にも使える
自家消費型太陽光発電とは、発電した電気を企業や個人で利用するための太陽光発電システムです。
生産工程などの脱炭素化と付加価値向上を両立する設備となるため、カーボンニュートラル投資促進税制の対象になります。
ただし、税制措置の対象になるのは、自己所有しているシステムに限られます。
初期費用なしで太陽光発電システムを導入できるPPAモデルは、所有権がPPA事業者になるので対象外です。
炭素生産性の計算方法
炭素生産性とは、温室効果ガス排出量あたりの国内総生産(GDP)のことです。
この値が大きいほど経済活動において低炭素であることを示し、脱炭素社会への移行度を把握するための指標となります。
炭素生産性は、「付加価値額÷二酸化炭素排出量」で計算可能です。付加価値額は、「営業利益+人件費+減価償却費」で求めることができます。
なお、目標年度と基準年度の炭素生産性の比較は、「(目標年度の炭素生産性-基準年度の炭素生産性)÷基準年度の炭素生産性×100」で求めることが可能です。
カーボンニュートラル投資促進税制の申請に必要な書類一覧
カーボンニュートラル投資促進税制の申請には、認定申請書の作成と添付書類が必要です。
添付書類は複数あるため、漏れに注意して用意する必要があります。主に必要となる添付書類は以下のとおりです。
書類 | 備考 |
---|---|
定款の写し、またはそれに準ずるもの | |
直近の事業報告の写し、賃貸対照表および損益計算書 生産性が相当程度に向上することを示す書類 ※生産工程効率化等設備を導入する場合 |
これらの書類を作成していない場合は、準ずるもの ①計画全体の炭素生産性の向上を示す書類 ②①の付加価値額とエネルギー起源二酸化炭素排出量の根拠書類 ③生産工程効率化等設備の炭素生産性の向上率の根拠資料 |
計画実施によって、計画終了年度に財務内容の健全性が向上することを示す書類 | |
事業適応に関する経営方針の決議、または決定の過程およびその内容を示すもの | 原則2024年4月以降に決議・または決定されたものに限る |
計画実施に必要な資金の使途および調達方法についての内訳を記載した書類 | |
暴力団ではないことを証明する書類 | ①暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者 ②法人でその役員のうちに暴力団員等があるもの ③暴力団員等がその事業活動を支配する者 上記のいずれにも該当しないことを示す書類が必要 |
カーボンニュートラル投資促進税制の申請手順・スケジュール
カーボンニュートラル投資促進税制の申請手順や設備取得などのタイミングは以下のとおりです。
申請手続の大まかな流れ
税制適用のために計画認定を希望する場合、計画開始を予定している時点から約2カ月前に所管の省庁に事前相談しなければなりません。
①事前相談
まず要件に合致するか確認した上で、事前相談から正式申請までに要する期間は1~2カ月程かかり、事業者ごとに進捗が異なります。
②計画申請~計画認定
申請は原則Webで受け付けています。所定の申請書・添付書類を提出してください。その後、認定審査が実施され、約1カ月で結果が出ます。
カーボンニュートラル投資促進税制を受ける際は、計画の審査と合わせて対象設備であるか確認されます。
③対象設備の投資実施~税務署に税務申告
計画の認定後、計画に基づいて税制の適用期間内に対象設備を導入し、事業で使用することで税制措置が受けられます。
対象設備を事業の用に供した年度の確定申告で特例措置の申告をしてください。
④実施状況報告書の提出
事業適応計画を実施している間は、実施状況申告書を毎年提出します。提出時期は、事業年度終了後3カ月以内です。
実施期間終了までの実施状況は毎年度公表されますが、機密に該当する部分は公表対象外にすることが可能です。
なお、実施中に計画を大幅に変更する場合、認定申請を行って再度認定を受ける必要があります。
設備取得などのタイミング
税制措置を適用するためには、2026年3月末までに計画の認定を受け、認定を受けた日から3年以内に対象設備を取得して、事業の用に供する必要があります。
2026年3月末までに認定を受けられなかったり、認定を受けてから3年以内に設備の取得や事業に使用しなかったりした場合、税制措置の対象外です。
また、計画が認定される前に取得した設備も対象外になります。
カーボンニュートラル投資促進税制の審査に通過するためのポイント
カーボンニュートラル投資促進税制を適用するためには、認定審査に通過しなければなりません。
ここで申請に通過するためのポイントを紹介します。
炭素排出削減の目標が明確で実現できるか
事業適応計画には、炭素排出削減の目標を設定します。その際、目標が明確かつ実現できるものであることが重要です。
事業適応の目標は、どういう理由で実施するのか、何に取り組むことでどのような結果を目指すのか簡潔に記載します。
また、より具体的な目標を示すために、期間中に削減するべき排出量の割合を数値で記載することが大切です。
実現不可能な数値では審査が通らないため、現実的な内容・数値を設定することがポイントになります。
具体的な計画内容と実施期間を明記しているか
申請書には、事業適応計画の内容や実施期間も明記しなければなりません。
具体的内容の項目では、「初年度は○○の導入でCO2排出量を年間○t削減し、炭素生産性を○%向上させていく」といったように、実施期間中の計画を具体的かつ簡潔に記載します。
また、事業適応の実施期間も「開始時期○年○月、終了時期○年○月」と年月で記載します。この時3年以内になるように実施してください。
炭素排出量の測定・報告・検証の体制が整っているか
事業適応の実施期間中は、毎年施策の結果報告をする必要があります。その際、正確に炭素排出量を測定して結果をまとめ、報告しなければなりません。
そのため、認定を受けるにあたって、正確な炭素排出量の測定や報告、検証が受けられる体制を構築することが求められます。
導入する設備や事業所・資金調達方法などを明記しているか
申請書には、計画に基づいて導入する設備や実施する事業所の場所、必要な資金額と調達方法なども明記してください。
導入する設備の内容では、導入する事業所名や設備の種類・名称、炭素生産性の向上率、数量、事業の用に供する時期、合計金額を記載します。
資金調達方法では、調達方法に応じて調達先の名称と金額の内訳を記載してください。
例えば、融資によって調達する場合、「政府関係金融機関からの借入れ」と「民間金融機関等の借入れ」の2種類の項目があるので、利用するほうの項目に金融機関名と調達額を記載します。
出資や社債の発行など、融資や自己資金以外の調達方法はその他に記載してください。
カーボンニュートラル投資促進税制の認定事例
すでに多くの企業がカーボンニュートラル投資促進税制における計画認定を受けています。具体的にどのような計画で認定を受けているのか、その事例を紹介します。
株式会社アミノアップ
自然由来の機能性商品原料を製造しているアミノアップは、2021年11月から2024年5月にかけて事業適応計画を実施しました。
工場・事務所の屋根への太陽光パネルの増設や工場の機械室への蓄電池の設置、エネルギー効率の高いスプレードライヤー機の導入を計画しました。
新しい設備の導入によって、炭素生産性を25.1%に向上させる目標を定めています。
1年目の炭素生産性は計画どおりの結果にならなかったものの、2年目にはおおむね計画通りに進み、また3年目には基準年度と比較して25.1%向上し、目標を達成しました。
ローム・アポロ株式会社
半導体や電子部品などの製造を手掛けるローム・アポロは、2021年12月から2024年3月にかけて事業適応計画を実施しました。
化合物半導体などの脱炭素化製品の開発、これらの製品を製造する工程の省エネ化技術の開発、脱炭素化に貢献する技術をグループ会社の向上に展開するといった活動によってCO2の排出量削減し、炭素生産性を18.3%に向上させる計画を立てます。
具体的な取組みとしては、パワーデバイス生産ラインの設置や生産装置付帯設備更新、省エネ性能の高い生産装置の更新などが挙げられます。
これらの取組みによって、3年目の炭素生産性は2020年度と比べて333.3%にも大幅に上昇する結果となりました。
オムロンヘルスケア株式会社
血圧計や吸入器などを開発しているオムロンヘルスケアは、2022年8月から2025年3月にかけて事業適応計画を実施しています。
工場に自家消費型太陽光発電システムの設置、工場内のコンプレッサー・動力・空調にセンサーや正業装置と連動した自動運転するエネルギー生産性改善制御装置を導入によって、炭素生産性を182%向上させる計画を立てました。
1年目は炭素生産性の目標数値に達しなかったものの、基準年度と比べて27.4%向上しています。
また、2年目は事業適応計画以外の取組みでCO2排出量の削減に成功し、炭素生産性が19.8%上昇する結果となりました。
まとめ・脱炭素化投資にカーボンニュートラル投資促進税制を活用しよう
カーボンニュートラル投資促進税制を活用することで税制控除や特別償却が適用され、経済的な負担を抑えて脱炭素化につながる設備の導入が可能です。
積極的に脱炭素化投資して炭素生産性向上に取り組めば社会貢献ができ、企業としてのイメージアップにもつながるでしょう。
カーボンニュートラル投資促進税制や計画の認定には細かい要件があるので、経済産業省のホームページで申請方法や参考資料などを確認した上で、申請を行ってください。
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(編集:創業手帳編集部)