おおこうち内科クリニック 大河内 昌弘|「大感動医療を世界中に」をモットーに、おもてなしの心で全身を診るクリニック
患者が病院に感じる不満を解消!「患者の家族が手術を見学」など常識を覆す医療を提供
愛知県にある「おおこうち内科クリニック」は、岐阜県との境にあるにもかかわらず、日によっては250人以上の患者が訪れる大人気クリニックです。
人気の理由は、「大感動医療を世界中に」をモットーに、患者視点で心からのおもてなしを実践しているから。しかし、開業当初はうまくいかず、スタッフがどんどん辞めていく事態に追い込まれたと言います。
今回は大河内理事長に、『経営破綻寸前の病院が大感動を売ってみたら大人気になった件について』という著書の中でも紹介されている、同クリニックが取り入れた「おもてなし」についてお伺いしました。さらに、「患者の家族が手術を見学できる」「AI内視鏡を活用して早期ガンの発見をする」といった先進的な取り組みも教えていただきました。
1964年 愛知生まれ
1990年 名古屋市立大学医学部を卒業
名古屋市立大学第一内科に入局
2010年 消化器代謝内科学 臨床准教授
2012年 おおこうち内科クリニック開業
医師 大河内昌弘オフィシャルサイト
著書『経営破綻寸前の病院が大感動を売ってみたら大人気になった件について』
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
会議ばかりの日々に疑問を感じて開業を決意
大久保:起業の経緯をお伺いできますか?
大河内:僕は2012年の48歳のときに、おおこうち内科クリニックを開業しました。当時は大きな病院に勤務していて役職にもついていたのですが、会議にばかり出席する日々に疑問を持つようになったんです。「病気の人の力になりたくて医師になったのに、患者さんに関わる時間が減っているじゃないか」と。
大久保:医師が足りないと言われている中で、ベテランの方は会議にまで時間を取られてしまうのですね。
大河内:大きな組織になればなるほど、現場よりも会議にばかり出席させられる現状があります。僕も、1日中会議に出ていることが珍しくありませんでした。
あとは「ここにいたら頑張っても報われない」と感じてしまったことも、開業を考えたきっかけですね。当時は研修医の教育に力を入れて学会発表をさせるなど、人の2倍も3倍も働いていたのですが、ただ「希少な人だな」と思われるだけでしたから。
大久保:病院という組織で自分の理想を貫くには、偉くなるか開業するしかないのでしょうか?
大河内:病院という組織では、新しい治療をやりたいと思ったり研究をやりたいと思ったりしても、さまざまな制限があります。でも、開業すれば自分がやりたいと思ったことは何でもやれます。自分の意思次第でチャレンジできるのは嬉しいですね。
大久保:開業されてからはスムーズに軌道に乗りましたか?
大河内:スムーズにはいきませんでした。
開業当初はもともと働いていた病院の患者さんに案内状を出して、「来てくださいね」と伝えていました。だから、最初から患者さんがたくさん来てくださったんです。
でも、来てくれた患者さんが多すぎたため、患者さんから「いつまで待たせるの」とクレームがきてしまう事態に陥りました。その結果、焦ってしまったスタッフによって、検査ミスや患者さんの間違いなど、あってはならないようなミスが次から次に発生したんです。
患者さんからは「なんでこんな失敗ばっかりするんだ」と、さらに怒られますよね。毎日怒号が飛び交うなか、スタッフはどんどん辞めていきました。そして患者さんも雰囲気の悪さを感じ取って来てくれなくなる、という悪循環にはまっていましたね。
そこで、まずは何よりもスタッフを大切にしなければ、患者さんを大切にすることはできないのだと気づきました。
地域医療の担い手として、地元の常連さんを大切にする
大久保:患者さんがたくさん来てくれているとき、上手くいっているように見えるときにこそ、気をつけないといけないのですね。
大河内:何も考えずにうまくいっていると思い込んでいると、落とし穴があるなと感じました。開業当初のそんな経験を生かして、「スタッフを大切にする」ということと同時に、「常連さんを大切にする」という方針もしっかりと固めています。
今回カンブリア宮殿に出てからは、関東圏や中四国を含めた日本全国から患者さんが来られるようになりました。もちろんそういった方たちも大事にするのですが、そのせいで常連の患者さんを手薄にはしないように心がけています。
そうしないと、一時的にはたくさん儲かったように見えても、一番大事な顧客をどんどん逃してしまうからです。
大久保:地元の方を大切にしているのですね。
大河内:地元の医療を担うクリニックとして、地元の方々をガッカリさせるわけにはいきません。
うちの良さは、「患者さんに感動を与える医療」です。つまり、おもてなしの心を持って、患者さんが困ってることを察知してお声がけしたり、喜ぶことをしたりするところが強みなんです。
だからこそ、どんなに流行っていても、おもてなしをやめてはいけないと思っています。
自分の家族のように患者さんに接する
大久保:「おもてなし」とは、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?
大河内:「自分の家族だと思って患者さんに接すること」を、自分にもスタッフにも徹底しています。
例えば、自分の父がお腹が痛くて苦しんでいて、急いで病院に連れて行ったとします。そんなときには受付で、「お父さんの顔色がとても悪いので、早く診てください」と言いますよね。でも多くの病院の受付スタッフは、「みんな調子が悪いので、あなただけ特別扱いはできません」と返事をするんです。
でも、その病院のスタッフが、同じ状況で自分の家族を連れて行ったとき、同じ対応をするでしょうか?おそらく自分の身内だったら配慮してくれるはずですよね。
だからうちのスタッフは、駐車場まで患者さんを迎えに行きます。CT検査などの大きな検査は近くの総合病院に予約をするのですが、患者さんが間違ってクリニックの方に来てしまったら、自分の車で総合病院へ送ることもあります。つまり、本当に自分の家族と同じように、患者さんと接しているんです。
大久保:そこまでの手厚い対応をしている病院は、なかなかありませんよね。では、治療面でこだわっているのはどんなことでしょうか?
大河内:全身を診る医療にこだわっています。
病院に行ったときに「この症状は、うちでは診れません。他の病院に行ってください」と言われたことはありませんか?
昔は、夜中に熱を出したり調子が悪くなったりして町のクリニックを尋ねたら、絶対に診てくれましたよね。「とにかく診てあげよう」という風潮でした。しかし今は、病院に行っても「熱があるなら診ません」「子どもは診ません」と平気で断られます。
でも、それでいいのでしょうか?
糖尿病の人が風邪になったり、肺炎になったりすることもあります。1つの病気だけで完結することは稀なんです。「胃が痛い」という場合も、胃が悪いわけではなくて、心臓や肺、骨などが悪いこともあります。内臓からの痛みが胃の痛みとして感じられているケースもあります。
つまり「胃しか診ることができない」医師では、その人の本当の病気を見つけられないかもしれません。だからこそ僕は、「全身を診る」、ひいては「どんな人でも見捨てない」医療を実践しています。
サービス提供前に値段を知らされないのは病院だけ?
大久保:その他に、おおこうち内科クリニック独自の取り組みはありますか?
大河内:治療の値段表を作っていますね。
多くの病院では、さまざまな検査をして薬を出して、最後の最後に会計で「3万円払ってください」と伝えてきます。まるで、「良い医療を提供するんだから、これだけのお金払うのは当たり前だ」という態度ですよね。
でも、飲食店だったらどうでしょうか?シェフが、「今日は美味しいものを作ります」と勝手に料理を出してきて、帰り際に「3万円です」と請求してきたら怒りませんか?そんなにお金がかかるなら、先にメニュー表を見せてほしいと思うのが普通ではないでしょうか。
病院には、日雇い労働者の方もお金持ちの方も来ます。レントゲン1枚でも1,000円~2,000円はかかりますから、最初に値段を伝えることで、「今日はお金がないから、その検査はやめる」という選択を、患者さん自身ができるようにしていますね。
患者さんの家族も手術の見学が可能
大久保:確かに、他の業界ではありえない「値段を知らされないままサービスを提供される」ということが、医療現場では当然のように行われていますね。
大河内:医療はあまりにも閉鎖的なんですよね。密室の中で、患者さん本意ではなく医師たちの都合のいいように治療が行われているわけです。
実業家の方々とお話をしていると、他業界は医療業界とは逆に、オープンにして信頼されるように努力していることがわかります。例えば、最近オープンキッチンも増えてきましたよね。厨房で料理していたのを、見える場所で調理するお店が出てきています。
でも、医療現場では手術室に連れていき、家族は外で待ってくださいと言われます。だからうちでは、患者の家族に手術室まで入ってもらいます。医療こそ信頼される努力をしなければならないと思うからです。
昔ながらの殿様商売で、「こちらのやり方に従ってください」ではいけません。値段を先に知りたい患者さんにも、手術を見たいご家族にも応える必要があるはずです。
外国人を受け入れるためにタガログ語の予診票も準備
大久保:病院のホームページを拝見して驚いたのが、とても細かい病気の解説が載っていることです。きめ細かい情報発信に注力されている背景を教えてください。
大河内:患者さんは自分が病気になったとき、絶対に詳細を知りたいと思うんです。だから、うちはわかりやすい説明をすることにこだわっています。
医療用語が難しくて、医師から説明を聞いても説明を読んでも理解できない、という人がいてはいけません。ですから、うちのホームページには医療マンガを載せて、医療関係以外の人でも簡単に病気や治療を理解できるように心がけています。
大久保:英語だけでなくベトナム語やタガログ語など、6カ国語で表示されていることにもびっくりしました。
大河内:外国語に対応しているのは、僕自身が家族を連れてアメリカ留学したときの辛い経験がきっかけです。
当時、子どもをアメリカの小学校に入学させるためには、予防接種を打たせなければなりませんでした。そこで、保健所に連れて行ったのですが、担当の医師に母子手帳のワクチン接種証明書を見せたところ、「日本語なんか見てもわからない」と、何の説明もなくいきなり5本の注射をしてきたんです。
今から15年ぐらい前ですから、まだ一度に複数のワクチンを打つことが一般的ではありませんでした。それなのに、話も聞かずに注射をするという横暴なことをされて、とても辛い思いをしました。
大久保:それはひどい話ですね。
大河内:そうですよね。でも、日本に帰ったときに「日本人も同じことを外国人にしているのではないか」と気づいたんです。
今は中小企業が外国人の方をたくさん雇っていますよね。それなのに、コロナの時期に外国人を一番差別したのは日本人でした。熱がある外国人はどこにも行けないようにしたうえに、どこの病院も受け入れてあげなかったんです。
だから僕は、外国人を受け入れることに決めました。そこで、愛知県にいる外国人がどこから来ているのか調べてみると、英語圏ではなく東南アジア圏が圧倒的に多いとわかったので、タガログ語にも対応したという経緯です。
大久保:外国語に対応しているのは、「どんな人も見捨てない」医療を実践していることに繋がりますね。
大河内:その通りです。
日本に来たばかりの外国の方は日本語の予診票を読めませんから、その人の母国の問診票を用意してあげて、安心してワクチン接種を受けてもらうことは大切だと思います。実際に僕が予防接種を打ちに行く地元企業では、外国人の従業員の方が、よくうちのホームページのタガログ語の予診票を印刷して持ってきてくれますよ。
外国で辛い思いをした自分だからこそ、日本で働いてくれている外国人の方には優しい医療をしたいですね。
AIが日本の医療に与える影響
大久保:さまざまな先進的な取り組みをされている大河内さんは、これからの日本の医療はどうなっていくとお考えでしょうか?
大河内:これからの医療は、生き残れるクリニックと潰れるクリニックが二極化すると考えています。
1つの例として、AIが発達してきたことで機械が人の代わりをするようになり、飲食業でも雇われる人が減っていますよね。
医療も同じことが起きるのではないでしょうか。
実は、採血もロボットができるようになっています。だから、そのようなAI技術が進化していくと看護師さんの代わりができるようになるかもしれません。医師も同様で、技術の高くない医師は淘汰されていくと思います。
大久保:医師もAIに取って代わられるということでしょうか?
大河内:僕はChatGPTをよく使うのですが、すでに症状と検査値を入れると診断をしてくれる鑑別機能が登場しています。
そんなAIの発達をうけて、このクリニックでは2023年6月から「AI内視鏡」を導入しました。「AI内視鏡」は、過去の内視鏡検査画像を大量に学習したAIを活用して、「早く正確に」胃がんや大腸ガンを診断するものです。もちろん検査自体は専門医がしますが、人の目ではわかりづらい早期ガンの発見を補助してくれます。
さらに、内視鏡検査中にリアルタイムで早期ガンのある領域を表示しますから、早期ガン発見率が高くなったり見逃しが減ったりすることが期待されていますね。
このように、ChatGPTやAIは、有名な大学を卒業した知能労働者の代わりもできるようになってきました。
大久保:資格を取ったから安泰という時代は終わったんですね。
大河内:AIがさらに進化していくと、将棋の対局場面中に「藤井名人は現在60%の勝利確率です」などと画面に表示されているように、医師も「この先生なら70%治します」「この先生は30%しか治せません」と診察を受ける前に評価される日が来るのではないかと思うのです。他の医師、クリニックと差別化をはからないと生き残れなくなるわけです。
だから僕たちは、AIには絶対できないと言われている、「人に感動を与える」「心を揺さぶる」おもてなしに注力しているんです。これからは、医療もサービス業になります。おもてなしを取り入れない医療は、AIに取って代わられるのではないでしょうか。
大久保:資格職の方もAIに取って代わられるだろうというお話でしたが、上のレベルの方は違いますよね。
大河内:そうですね。上のレベルの方は残ると思います。恐らく患者さんは、病院に行く前に症状からAIである程度の診断をしたうえで、様子を見るか病院に行くかを選択するようになります。
ですから、能力が高い医療従事者は求められ続けますが、AIに負けるような医師だと生き残れないと思いますね。
日本中に「スタッフが輝く」企業を増やしたい
大久保:今後の展望をお聞かせください。
大河内:現在うちには、クリニックだけでなく、さまざまな企業の方々がたくさん見学に来られています。
その中には、有名企業の幹部の方や社長さんもいらっしゃいます。みなさん医療に興味を持ってるわけではなく、「なぜこの組織が、患者さんにこれだけの感動を与えるのか」「なぜここのスタッフは、こんなにも楽しそうに働いているのか」という組織づくりの秘訣を知りたくて来ているんです。
ですから僕は、今後も医療業界だけじゃなくて、企業にも通用する人や組織の育て方を指南することに力を入れていきたいと考えています。そうすることで、もっと日本中に、「スタッフが輝く」「地域に喜んでもらえる」ような素晴らしい企業が増えてほしいと思いますね。
『経営破綻寸前の病院が大感動を売ってみたら大人気になった件について』
大河内 昌弘 フローラル出版
病院でこんな事を感じたことのある、あなたにこそ読んで欲しい1冊です。
・医者の説明はわかりづらい!
・待ち時間が長く、診療はたった3分?
・予約が困難!
・患者の症状より教科書通りの説明ばかり!
・たった一言でいい、安心できる言葉が欲しい!
・患者である前に人間です。話を聞いて欲しい!
内部にいるからこそわかる、冷徹で非常識な医療業界。その業界常識をうち破り、「患者第一のおもてなし」を取り入れ、大人気になった病院があります。
その「おもてなし」導入ストーリーが本書です。
来院患者が、みんな大感動して大人気になった理由を、すべて明かします。
大久保の感想
創業手帳冊子版は毎月アップデートしており、起業家や経営者の方に今知っておいてほしい最新の情報をお届けしています。無料でお取り寄せ可能となっています。
(取材協力:
おおこうち内科クリニック 理事長 大河内 昌弘)
(編集: 創業手帳編集部)
大河内さんの凄いところは、医師なのでそこまでしなくても良いと思うかもしれないというほど、他の業界の良いところを取り入れる点だ。
・AI(AI内視鏡をいち早く導入している)
・外食産業のオープンキッチン
・ホームページは愛知の事情に合わせベトナムやタガログの多言語対応
・サービス業におもてなしの精神
・合理的なオペレーションやスタッフのモチベーションアップというような先進的な業界の手法
と病院だけでなく色々な業界からヒントを得て自分の経営に活かしている。アンテナを張るだけでなく、常に患者のことを考え、緊張感や覚悟を持っていないと、単にニュースや知識としては分かっていても、実際に現場に落とし込んだ行動にならないはずだ。そこを徹底してやっているのが凄いところだ。
ホームページを見たときに「洗練されたデザインではない」第一印象を受けたが、見ていくと、外国人労働者のために多言語で書かれていたり、漫画や映像を交えて、病気や治療について詳しく解説されていて、患者のことを考えてこういう表現になったのだと納得がいった。
取材の中で「医療は本来はもっとこうあらねばらない」という憤りや理想を感じた。
本当にやりたい医療を追求するために開業した大河内医師だが、勤務医のときは本来の医師がやるべき医療以外の仕事に忙殺されていたそうだ。医師不足、医療財源不足の中で「非効率が忙しい中で見直す余裕もなく残ってしまっている」のが日本の医療の多くの現場なのかもしれない。そんな中で、大河内さんはゼロから立ち上げて、模範になるような病院の仕組みを築いた。
取材で話を聞いていて、こんな医師、病院が増えたら素晴らしいと思ったが、だからこそ、大河内医師はこうした発信や啓蒙活動を積極的に行っているのだろう。