パトスロゴス 牧野 正幸|売上高500億円超の企業へと成長させ退任。2度目の起業では短期決戦を狙う!
「HR共創プラットフォーム」でバックオフィスSaaSを一元管理
日本発のソフトウェアを作るために「ワークスアプリケーションズ」を創業したのが牧野さんです。開発したソフトウェア「COMPANY®(カンパニー)」は、大企業の約6割が導入するほどの大成功を納めました。
牧野さんの2度目の起業として「パトスロゴス」を創業し、バックオフィス業務に特化したソフトウェアを一元管理する「HR共創プラットフォーム」を提供されています。
そこで今回は、牧野さんの2度にわたる起業の経緯や今注目されている業界について、創業手帳の大久保が聞きました。
株式会社パトスロゴス 代表取締役最高経営責任者
日本アイ・ビー・エム株式会社の契約コンサルタントを経て、1996年にシステム業界に革新をもたらす「大企業向けERP」の開発・販売を行う株式会社ワークスアプリケーションズを創業。2001年に上場、CEOとして売上高500億円超の企業へと成長を牽引する。退任後、2020年に株式会社パトスロゴスを創業。人的資本経営に必要なすべてのSaaSと自由自在に即時接続ができ、同時に大手企業に必要な給与・労務・人事業務ともつながる共創型HRシステムの構築、人材の発掘を提供し、日本企業のデジタル化に貢献している。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
グローバルで普及しているソフトウェアが日本市場に合わなかった理由
大久保:起業までの経緯を教えてください。
牧野:1社目に起業したのが「ワークスアプリケーションズ」でした。
当時、グローバルではITコストが上がっていく中で、大手企業ではパッケージソフトウェア、今でいうSaaSを使うのが当たり前で、全てオリジナルで制作する企業はほとんどいませんでした。
私がIBMの契約コンサルタントだった時に、日本はグローバルに遅れをとっているにもかかわらず、システム開発のコストが高いのは何故だろう?と疑問を持っていました。
大久保:その当時は今のようにSaaSビジネスが日本に普及していませんでしたか?
牧野:その通りです。当時「SAP」というヨーロッパ最大のソフトウェア企業が提供するSaaSサービスが海外では流行っていましたが、これだけの機能があれば、大企業のニーズでも対応できると思いました。
ただし、SAPが提供するサービスの中で、どれだけの機能が日本企業に必要か?日本企業の文化に合っているか?という点ではまた別の話です。そこで、SAPの担当者に日本企業向けに仕様を変えたいと相談したところ「これがグローバル基準だから日本が合わせていくべきだ」と断られました。
日本発のソフトウェアを作るため「ワークスアプリケーションズ」を創業
大久保:そのような背景があったのですね。
牧野:グローバルで普及しているサービスが日本に合わないのであれば、日本企業のニーズを満たすソフトウェアを日本発で作っていくしかないと思うようになり、色々なソフトウェア会社に提案し始めました。
ところが、私が提案したソフトウェア企業の多くは「今更?SAPもOracleもいるし」という返答で、新しくソフトウェアを作ることには乗り気ではありませんでした。
さらに、日本企業は多くはオリジナリティを重視する上に、自社がいる業界のことを考えることに必死でした。
大久保:そこに課題を感じたということですね。
牧野:はい。このままの状態が続くことで、日本企業全体の競争力が弱まることだけは避けなければなりません。さらに今や人件費を除いて、ITコストが一番高い時代になっています。
そのような中で、競争力強化が必要不可欠な時代に突入して、1990年前後に今のDXと近い「ビジネストランスフォーメーションが必要だ」と言われていました。
ここで、日本のソフトウェア企業が強くアプローチをして、ITコストを下げる動きがあればよかったのですが、なかなかできていませんでした。
他の人がやらないのであれば自分でしようと思い立ち、ワークスアプリケーションズの起業に至りました。
バックオフィス業務改善のソフトウェア「COMPANY®」は大企業の約6割が導入
大久保:当時はどのようなソフトウェアを最初に作りましたか?
牧野:最初に、大企業が使うべき機能を盛り込んだパッケージソフトウェアの開発に着手しました。
そこを地道に頑張ったので、大企業でもパッケージソフトが使えるんだという認識を広められたと思います。
当時やりたかったこととしては、バックオフィス部門をIT化させることで効率的に業務推進できるようにすることでした。実際に日本の大企業の約6割がワークスアプリケーションズの製品を使うようになり、人事・経理・労務業務を効率化できました。
領域特化型ソフトウェアを一元管理するために「パトスロゴス」を創業
大久保:牧野さんがワークスアプリケーションズを起業して、叶えたかったことを実現されたとのことですが、起業家としてその次に設定した目標があれば教えてください。
牧野:日本企業の多くは属人性の高い業務オペレーションが多く、かなり複雑な構造になっていました。
ワークスアプリケーションズの「COMPANY®」は、大企業が抱える業務を総合的に解決できるサービスですが、人事や採用、労務管理など、個別の領域に特化した製品が日本国内でも増えてきました。
ただし、個別領域に最適化したソフトウェアを導入して、一元化することは難しく、大企業では導入が難しいという状況でした。
そこで、各ソフトウェア間のデータの受け渡しができれば、領域特化型サービスのそれぞれの弱みを補いつつ、強みを発揮できる体制が整えられるのでは?と考え、パトスロゴスを起業しました。
大久保:ワークスアプリケーションズでやっていたことと似ているようで、全く違くアプローチですね。
牧野:ワークスアプリケーションズと競争する製品ではなく、プラットフォームとデータベースを作りました。
よく周りからは、ワークスアプリケーションズで1度成功しているんだから、もうやらなくて良いのでは?と言っていただくことがありますが、私だからこそ話を聞いてくれる人が多く、私がやらなくてはいけないという思いでやっています。
ベテラン起業家の2度目の起業は短期決戦を狙う
大久保:1度目の起業と2度目の起業で、どのような違いを感じますか?
牧野:時間の違いが大きくあります。1回目は30歳で起業したので、これから何十年と続けていく気持ちで事業を考えました。未来は雲、むしろ宇宙の先にあるような気でいました。逆に今回は、そこまで長期的にはあまり考えていません。
さらに、今は十分にノウハウを持っていますし、過去一緒に働いていた人が集まってくれました。資金調達に関しても、1社目で入ってくださったベンチャーキャピタルが出資してくださりました。
そのため、1社目と比べ物にならないくらいの成長スピードで進む必要があり、より大きな覚悟が求められます。
大久保:ベテラン起業家は短期決戦でやるんですね。
これからの20年で日本の人材業界に大変革が起きる
大久保:長く業界を見ている牧野さんだからこそ、注目していることが他にもありますか?
牧野:人材業界に注目しています。
転職が当たり前になっている現代では、大手企業に長くいることだけが良い時代ではなくなってしまいました。他社で働く人の情報が簡単に手に入るため、多くの企業で人事制度や給与水準を大きく見直さなければなりません。
このような背景もあり、スキルアップしながら転職して、給料を上げていく人材も増えていくでしょうね。
さらに、日本はリーダーシップ教育への投資が積極的に行われていませんが、アメリカでは日本の100倍以上も投資していると言われています。
これからの20年で、日本での人材業界に大変革が起きると思っています。
大久保:賃金が上がるというお話は、優秀な人はさらに所得が増え、そうでない人は変わらないというように、二曲化していくのでしょうか?
牧野:そうですね。ただし注目すべき点は底上げという部分です。今後の日本は、全体的に景気が良くなっていく雰囲気にはなると思います。
今まで日本が賃金を上げられなかった原因は「生産性」ではなく「物の価格」を上げられなかったことです。価格を下げるのが善、上げるのが悪だという考えにあります。
実際に今、グローバルな動きに伴い、仕方なく日本でも値上げが実施されていますが、それで良いと思っています。
値上げすることで、企業の売上が上がり利益が増えれば、給与も増やせるでしょう。
チャレンジをした結果の「失敗」は「成功」に等しい
大久保:給与を上げる人材育成という点で、参考になるような組織論があれば教えてください。
牧野:そもそも、会社として「失敗しないほうが良い」という考えがあると思いますが、失敗しなければ成長はありません。
もちろん同じ作業ばかりをやらせれば、失敗するリスクは低いのですが、成長のためには失敗も許容せざるを得ません。
ワークスアプリケーションズでは、チャレンジした結果に対しての失敗は、建前ではなく本当に褒めていました。むしろチャレンジしないほうがマイナスだという考えでした。
ワークスアプリケーションズは「働きがいのある会社No.1」に何度も長く選ばれており、それに対して私は「働きがいを求めるな」という本を出しました。
どういう意味かというと、自分を中心に考えられる人は、良い会社に入りたいとは思いません。自分が周りを良い人材にできる自信があるからです。
逆に周りに影響を与えられない人が良い環境を求める傾向にあります。そのため、ワークスアプリケーションズでは、そういう方を採用しないようにしていました。
大久保:組織が複雑化した時には、企業や事業も切り分けることも選択肢の一つになると思いますが、その点いかがですか?
牧野:企業としての継続性や、株主に対しての利益相反を考えた時に、中期的に儲かるのであれば切り分けるべきです。しかし、10年先になったら損するかもしれないけど、今投資すべきかという点でYESを言える経営者はなかなかいないと思います。
自分で約束したことを、自分で壊すことはなかなかできないので、20年やったら、創業者は次のステップに進むべきなのかもしれません。
日本を変革するためには「標準化」が必要
大久保:今後の展望を教えてください。
牧野:SaaS製品のプラットフォームとなる、標準のデータベースを提供していきますが、もう一つ先に「標準化」という概念があります。
経営学や統計学、AIなどで人材の分析をすることがあると思いますが、各企業やサービスごとにデータが違うため、正確に評価できません。例えば、同じ課長職でも、部下の人数や社内での役割などの情報の有無により、データの正確性が変わります。
そこで、将来的に標準となるデータベースを活用することで、日本の改善・改革、企業の賃金を変える、ということに大きく影響を与えることになるでしょう。
この人事の標準データを使った新しいサービスが出てくればもっと面白いですし、ユーザーとなる企業ももっと良くなっていくと思います。
これが私がパトスロゴスを作った最終目標です。
大久保:起業家へのメッセージをお願いします。
牧野:人事制度や会計制度、部下の育成など、どこの会社も同じ悩みを抱えていますが、どの会社も課題を乗り越えています。
そのため、初めて起業した方は、色々な課題に直面すると思いますが、1人で抱え込まずにアグレッシブに周りに相談しながら、自分が思い描く起業家の道を突き進んでください。
大久保の感想
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(取材協力:
株式会社パトスロゴス 代表取締役最高経営責任者 牧野 正幸 )
(編集: 創業手帳編集部)
牧野さんと話して感じたことは「正義感」です。1回目の起業、2回目の起業いずれも「この業界は本来こうあるべきで、正しくしなければならない」という強い意志を感じました。
大義から生まれる情熱が連続して大きな仕事を成し遂げる原動力になっていると感じました。
この記事を読んで頂いている皆さんにとって、牧野さんのような「大義」はなんだろう?と考えてみると気づきがあるかもしれないですね。
自分にとっての「大義」「この業界をこう変えたい!」という思いがあればX(twitter)などのSNSで#創業手帳をつけてコメントくだされば、創業手帳公式SNS中の人がレスさせていただきます。