エアドア 鬼頭史到|ユーザー目線で不動産業界のペインを解決!お部屋さがし・契約の新しいスタンダードを作る
10年間思い続けたサービスで不動産業界の不透明な構図を透明に!
株式会社エアドアは「不動産業界とユーザーにおける情報の非対称性をなくしお部屋さがし・契約の新しいスタンダードを作る」をビジョンに掲げ、オンラインの賃貸プラットフォーム「airdoor(エアドア)」を提供しています。
今回はFounder・CEOを務める鬼頭さんに、起業に至るまでの経緯や、インド初のホテルスタートアップOYOで得た経験、不動産業界の不透明な構図からくるペインの解決方法など、創業手帳の大久保が伺いました。
株式会社エアドア 代表取締役
福岡県出身、立教大学卒業。新卒で不動産業界特化型SaaS企業「いい生活」へ入社。営業部及び新規事業部の部門長を経て、OYO Hotels Japanへ転職。初年度年間トップセールス。2020年に株式会社エアドアを設立し、代表取締役に就任。不動産テック業界に在籍して13年。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
人を巻き込み発信するため選んだ先は
大久保:起業に至るまでの経緯を教えていただけますか。
鬼頭:大学入学後、新しいことに取り組もうとダンスサークルに入りました。サークル活動が楽しくて、もっと課外活動をしていこうと思っていたところ、先輩2人がダンススクールを立ち上げることになり、ダンスインストラクター兼アシスタントとして関わらせていただくことになったんです。
大久保:趣味の延長で、大学在学中に起業したという感じでしょうか。
鬼頭:私はただ右も左もわからず、付いていっただけなのですが先輩2人に教えてもらいながら事業を作り上げていく過程が楽しくて、のめり込んでいきました。
大久保:その後、企業に就職されていますが、何かきっかけがあったのですか。
鬼頭:当時、そのままダンサーの道に進むかどうか悩んでいました。しかし、他のダンサーたちが独自のクリエイティブな世界を持っているのに対して、私自身はクリエイティブに作品をつくるということに、あまり興味を持てなかったんですね。元々、人を巻き込んで何かを発信することが好きだったので、サークルのときもダンススクールでもプロデュースの役割を多く担っていました。
そこで、せっかくなので新卒というタイミングで企業に入って、自分自身で会社をつくることを学んでみようと考えました。当時はリーマンショックの真っ只中で各社が採用自体を見送る会社も多くありました。私も元々志望していた会社が採用自体を見送ることとなり、それだったらベンチャー1本でいこうと決めて当時、私の中で一番刺激的だった不動産テックの「株式会社いい生活」に入社しました。
大久保:そこで不動産業界のことを学べたということですね。
鬼頭:はい。営業部で3年目くらいにマネジメント職に就き、その後はマネージャーや部長など、プレイヤー兼マネジメントを若い年次のときから任せていただきました。そして、入社して7年が過ぎた頃、起業するかどうか悶々とする日々の中で「いい生活」の役員から、起業するなら、営業以外のスキル・経験もしっかりと身につけなさいと言われ、新規事業部を1人で作らせてもらいました。これがとてもよい経験になりました。
「OYO」と出会い得たものとは
大久保:2019年にインド初のスタートアップ「OYO」に入社されていますが、それまでの経緯を教えていただけますか。
鬼頭:新規事業は2年間務めて経験を積むことができたのですが、新卒からずっと「いい生活」に在籍していたので、もっと見識を広げたいと考えていたときに「OYO」に出会いました。
ちょうど「OYO」が日本に上陸するというタイミングで、私が配属されたホテル事業はインド人だけのチームでした。言語に不安があったので、面接も通訳の方に同席してもらいましたが、そのフェーズからすでに楽しそうだなとワクワクしていましたね。
大久保:私自身、日本と韓国の合弁会社の役員を経験していて、考え方の違いなどから大変だったという記憶がありますが、鬼頭さんはいかがでしたか。
鬼頭:そうですね。仕事の9割ができていても1割ができていないと、その1割をとても気にするのが日本の国民性で、インドチームは7~8割OKならOKでしょうという感じでしょうか。残り1割は別にあとからどうにでもすればいいみたいなところがあり、良い意味で、前に進む推進力が非常に強かったです。一方で、朝令暮改も多く、お客様にもその皺寄せが行ってしまったため、そういう部分がなかなか受け入れてもらえない状況にはなりました。
コロナの影響もありOYO自体は縮小しましたが、現在の日本事業は、Tabistという名前に変えて、当時を知る仲間が引き続き挑戦しているので心から応援しています。
不動産業界のペインをオンラインの賃貸プラットフォーム「airdoor(エアドア)」で解決
大久保:「OYO」で得た経験で良かったことはありますか。
鬼頭:はい、ユーザー目線でビジネスを考えられるようになったことです。賃貸マーケットのビジネスに対して「いい生活」にいた当時から、こうすればもっと良くなるのにと課題を感じていたことがありました。しかし、不動産は古くからある業界で、新しい視点ややり方を簡単に取り入れることが難しい部分がありました。ところが、海外の方たちは、まったくそういうのを気にしていないんですよね。大きな目線でサービスをつくっていました。ユーザー目線でペインを解決することについては「OYO」で学んだことは大きいと思います。
大久保:御社で提供しているサービス「airdoor(エアドア)」を開発された背景について教えていただけますか。
鬼頭:2010年に「いい生活」に入社した当時から、今後の不動産業界はネット不動産が当たり前になっていくだろうと思っていました。すでにSUUMOやホームズ、Yahoo!不動産などいろいろなポータルサイトがあって、Web上で物件を探せるスタイルが一般的になっていましたから。
しかし、Web上で物件を探せても、探した物件の存在の有無は仲介業者でしか分からなくて、ユーザーはWeb上の情報の信ぴょう性がわからないというペインを抱えていたんですね。基本、業者目線でサービスが運営されていて、しかも、最終的に契約となると家賃10万円の物件の場合、仲介手数料が家賃1ヶ月分の10万円とされることが多く、その他の初期費用と合わせても結構高いなと思っていました。
不動産業界の裏側をみるとコストカットできる部分もありますが、不動産事業を行う際に、あえて、手数料を減らすような施策をする必要はないと思います。ただ、実際には不動産業者の情報が、きちんとデータベース化されていることを知って、それなら、ユーザー自身で直接データベースにアクセスして物件を探すことができれば、全体のコストをもっと抑えることもできるのではないかと考えたのです。そしてそのかかるコストを元に、ユーザーに請求するコストを考えるべきだと。
ホテル業界なども、多くのオーナーが楽天トラベルなどと提携していて、直接ユーザーとマッチングさせています。不動産業界でも、いつか誰かがこのサービスをやるだろうと思っていたのですが、この10年間誰もやらなかったんですね。だったら自分たちでやるべきだと思いました。
不動産業界のDX化が進まない要因とは
大久保:ユーザーと不動産のオーナーがダイレクトにつながりますが「中抜き」ということでしょうか。
鬼頭:そのように言われることがよくあります。しかし、当社では内見の依頼があれば自社ではやらずに、パートナーである仲介業者にお願いするかたちでやっています。また、契約に関してもしっかりとサポートしていただくことで、パートナーの方々も収益を得ることが可能です。きちんと運営されている仲介業者とは、どんどんパートナーシップを組んで連携していけるように取り組んでいます。
大久保:不動産業界は比較的古い業界だと思いますが、そのあたりはいかがですか。
鬼頭:おっしゃる通りですね。業界自体が古く、高齢化が顕著です。全国には13万人の宅建業者がいますが、従事している方の半数以上は60代以上です。従業員が1~5人以内と小さな会社が大半を占めています。DXを大手が勧めても小規模の会社には浸透しづらく、ご高齢の方が多いことも相まってDX化が難しい業界だと思います。
ですので、プラットフォーム側から変えていったほうが業界的に最適化できるのではと考え、私たちはメディア側を選択したという背景があります。
不動産業界の格差とは?正義を持って向き合う理由
大久保:不動産業界に従事している人の高齢化と人手不足以外に、何か課題はありますか。
鬼頭:情報に格差があることですね。業者しか見れない情報がある場合、ユーザーは業者を頼らざるを得ないという構図になっています。当社のビジョンでもあるのですが、私たちはそのような情報の格差をなくしたいと思っています。
ただし、そうすることで誰にどんな影響が出るのかについては、かなり慎重に考えています。正しいことをやっている会社に不利益が出てしまうようであれば、上手くいかないと思っています。なので、私たちのやろうとしていることは正義なのか、のようなところはめちゃくちゃ気にして事業を進めています。筋が通っていなければ、特に人の縁を大切にする不動産業界においては受け入れられないしうまくいかないと思っているからです。
大久保:他の業界以上に、正しいかどうかについて問われるということですね。
鬼頭:そうですね。説明すべき人には事前にきちんと説明することが、非常に重要な業界だと思います。私自身、この10年で学ばせていただきました。やはり、既得損益の強い業界で起業するのであれば、修行期間のようなものを経たほうが、成功への近道になると思っています。
大久保:不動産業界は、業者ファーストのイメージがあるのですが、そこを変えようということですね。
鬼頭:はい。私たちは不動産業界の不透明な構図を、ユーザー目線で解決することを基本としています。以前勤めていた「いい生活」では不動産会社が主になるBtoBサービスでした。「OYO」のときはユーザーファーストが強かったように思えます。現在の私たちは、ユーザーのことを第一に考える、その上で、その考えは業界で受け入れられるかを検討して問題なければ進めていくという方針で運営しています。
大久保:すでに行き渡っている仕組みがある業界で、スタートアップが受け入れてもらうことは難しいと思います。何か工夫されていることがあれば教えていただけますか。
鬼頭:既存の仕組みと共存できるということをしっかり説明しています。既得権益が強い業界では、信用できるものがない前提で勧めるのは相当パワーが必要です。そこで、お付き合いのある大手企業にお願いして掲載させてもらい、事例をつくって横に展開していくという方法でやっています。
大久保:大手企業が掲載していることで信用できますよね。
鬼頭:そうですね、信用をとても大事にしています。
大きな目線で、社会に向けてサービスを提供することが大切
大久保:これまでを振り返って、気をつけていたことや、やっておいてよかったと思うことがあればお聞かせください。
鬼頭:「誘われたら断らない」ということを意識して、20代を過ごしたのが良かったと思います。行きづらいとか気まずいみたいな感覚があると、足を遠ざけてしまいたくなるのですが、誘ってくれた方も意味がないことには誘わないと思うんですよね。実際に、そのときに出会った方に、今ご縁をつないでいただくことがよくあります。気が進まないときも、なるべく断らずに行ってみるのはすごく重要だと思います。また、誘われたときにどんな人が来るのかということも、あえて聞かないようにしていましたね。
大久保:起業してから1番つらかったことなど、教えていただけますか。
鬼頭:どちらかといえば、起業前のほうがつらかったですね。起業したいという強い気持ちはあるけれど、やりたいことが決まらないという時期が、めちゃくちゃつらかったです。そんな時に「いい生活」でマネジメント、そして部門の立ち上げなどを任せてもらえたことは非常に良い経験になりました。起業してからは、いろいろとつらいことがあっても、前を向いてやるしかないと思っているので、なんとか乗り越えられています。
大久保:御社の今後の目標などをお聞かせください。
鬼頭:今後は、プラットフォームの物件数をさらに拡張していきたいと思っています。現在は東京と神奈川だけですが、全国にある約1,500万の民間賃貸の物件すべてが「エアドア」に掲載できるように、取り組んでいきたいと考えています。そして最終目標は、不動産業界の情報の格差をなくし、ユーザーにとっても業界にとっても良い仕組みにすることです。
大久保:最後に、創業手帳の読者の方に向けてメッセージをお願いします。
鬼頭:起業しようかどうか悩んでいる方は、ぜひ挑戦してもらいたいですね。そして、社会にサービスを提供することに目線を向けて挑戦すると良いと思います。それがやりがいになっていきますし、大きな目線で挑戦するといろいろな人たちが協力してくれると思います。一緒に頑張りましょう!
(取材協力:
株式会社エアドア 代表取締役 鬼頭史到)
(編集: 創業手帳編集部)