ネオキャリア 西野 太基|売れる新サービスを開発するために重要な2つのポイント
新卒採用でのLINE利用を浸透させ、当たり前にした採用管理システム「MOCHICA」の作り方
「新規事業開発がしたい」という思いで入社する社員が多いという株式会社ネオキャリア。実際に、多くの新規事業開発がなされている中でも、注目を集めているのが、西野太基氏が事業部長を務められている「MOCHICA」です。
「MOCHICA」は、LINEを使った採用管理システムです。LINEのリッチメニュー機能などと連携することで、それぞれの会社のインタビューコンテンツなどを手軽に採用志望者に届けることができ、それによって、採用効率のアップや内定辞退率の減少などが期待できます。
「MOCHICA」は西野氏が中心となって社内起業で立ち上げられたプロダクト。最初は実質2人で立ち上げたといいます。2018年当初の新卒採用市場では、LINEを利用した新卒採用はほぼ行われていなかったものの、MOCHICAや競合プロダクトの浸透によって、現在では5割以上の就活生がLINEを就職活動にも活用するようになったそうです。
MOCHICAを立ち上げたプロセスや、社内起業を成功させる方法などについて、創業手帳の大久保が聞きました。
2015年、株式会社ネオキャリアに新卒入社。新卒採用コンサルティング事業に配属されキャリアをスタート。
配属後、新卒採用コンサルタントとしてのべ300社以上の新卒採用企業の支援に携わる。
2018年、新規事業「MOCHICA」を立ち上げる。
2021年、「MOCHICA」のARRが1億円を突破し、正式にMOCHICA事業部として事業化。
2022年、MOCHICA事業部の顧客数が累計700社を突破。「SNSコンテンツ制作事業」と「メタバース事業」を立ち上げ。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
「MOCHICA」事業部が手がける3つの事業
大久保:西野さんが事業部長を務められている「MOCHICA」の事業概要を教えてください。
西野:「MOCHICA」では、3つの事業に取り組んでいます。
メイン事業は、LINE連携ができる採用管理システム「MOCHICA」です。LINEと連携して新卒採用候補者とスケジュール調整や連絡などを管理できるシステムで、新卒採用に応募する就活生と企業との距離感をより近くすることを狙いとしています。
例えば、新卒採用イベントに応募者を呼ぶ場合にも、LINEで通知することで出席漏れを防ぎやすくなります。
また、LINEの中で「リッチメニュー」と呼ばれる画面を表示させ、その中で企業側のインタビュー記事や動画を埋め込んでおくと、メールなどで通知するよりも見てもらえる確率が格段に上がります。単純にLINEの開封率がメールの開封率の6倍だからですね。さらに、LINEでサムネイルをつけたコンテンツは、メールのそれよりも開封率が25倍も上がります。このように、企業の雰囲気や社員の様子などを伝えることにLINEは適しています。
企業公式アカウントとして採用候補者に連絡が取れるので、LINEと言っても採用担当者の個人LINEアカウントを利用するわけではなく、企業として管理がしやすくなっています。
大久保:LINEを通して就活生に連絡を取ることで、それ以外のコンテンツも見てもらえやすくなるのですね。
西野:そうですね。そこで企業の雰囲気を知ってもらうことで、一般的には知名度があまりない企業であっても、より多くの就活生に自社を知ってもらいやすくなります。
就活生に会社をより身近に感じてもらえる「MOCHICA」事業の延長線上の事業として、昨年始めたのがSNSコンサル事業です。新卒採用でSNSを使う企業が増えてきて、「SNSも支援したらどうだろう」ということで始めました。TwitterやInstagram、YouTubeなどでの新卒採用関連コンテンツ制作を請け負っています。
大久保:もう1つの事業は何でしょう。
西野:今夏から新たに始めたのがメタバース事業です。リモートワークや商談などで利用されているメタバースを、新卒採用領域向けのコンテンツに弊社がデザインするものです。
例えば、新卒採用向けの面接会場をメタバース内で作り、傍らには会社のヒストリールームを作って待ち時間にコンテンツを見てもらい、面接時間になれば採用担当が応募者を迎えに行ってオンライン会議で面接をする。メタバースを利用することで、オフライン面接でよくある採用選考の一連の流れを、このようにオンライン上でも再現できます。
コロナ禍を経て採用活動のオンライン化も進みましたが、逆に面接時間にZoomをするだけですと、企業と就活生の距離は遠いままです。そこで、メタバース上で面接を待つ時間や、面接官が就活生を迎えにいく体験などまで作り込むことで、よりリアルな採用体験が実現できるようになるんです。
大久保:なるほど。就活生も急に面接をして緊張して話せないとか、そういうことがなくなりそうですね。
西野:そうなんです。
「人と企業をもっと近くに」という思いで「MOCHICA」と命名
大久保:西野さんのキャリアについて教えてください。
西野:2015年新卒でネオキャリアに入社して、最初に配属されたのが新卒採用コンサルの部署でした。マイナビなどの求人サイトや求人広告、就活イベント、採用広報の制作物などを販売し、その活用方法も含めて企業様の採用パートナーとしてコンサルティングしていました。
そこで3年間セールスを担当しつつ、その部署内で立ち上げた新規事業が「MOCHICA」でした。
大久保:「MOCHICA」を立ち上げた狙いはどのような点にあったのでしょうか。
西野:新卒採用支援に従事する中で、新卒採用マーケットのコミュニケーションに「不」があるなと感じたんです。
就活生は大手志向の方も多く、名前を知っているところからエントリーしますよね。でも最終的には、ほとんどの就活生はそうした有名企業には入社しません。
就活をする中で知ることになった中小企業や、BtoBの会社など、社会的な知名度は高くない企業に就職することになるケースが大半です。
一方で、就活生の中での知名度は低いけれども、雰囲気やカルチャー、実力などを知ってもらえれば魅力的な企業はたくさんあります。しかし当時の新卒採用市場では、そのような企業と就活生をうまくつなげるツールがありませんでした。
そこで「ヒトと企業をもっと近くに」という思いを込めて、「MOCHICA」を立ち上げました。
大久保:音から名付けられたんですね。
西野:「MOCHICA」の最大のセールスポイントはLINEとの連携機能です。2018年にサービスをリリースした頃は、まだ新卒採用でLINEを利用することは当たり前ではありませんでした。まだメールが採用活動時のメインの連絡手段として使われていたんですね。
しかし就活を行う20代前半の大学生世代はすでにプライベートではメールで連絡することはなく、LINEがメインの連絡手段になっていました。そこで我々は、「採用活動でもLINEで連絡することが当たり前の時代になる」と考えたんですね。
大久保:それで「MOCHICA」にLINE連携機能をつけられたのですね。
西野:LINEを利用することで、応募者にそれぞれの企業をより身近に感じてもらえるようにできるはずだ、と考えていました。
社内起業は課題先行で作る
大久保:「MOCHICA」は非常に伸びているLINE連携採用管理システムだということですが、そのように売れるサービスを開発するためのポイントは何でしょうか。
西野:まず、「売れるサービス」を作るという発想から入ってはいけません。お客様が抱えている課題を発見することが先です。
弊社にも、「新規事業をやりたいです」といって入社してくる社員が多いですが、それは順番が違いますよね。
製薬で例えると、例えば、新しい薬を作るのは治せない病気があるからですよね。ビジネスもそれと同じです。解決できない課題があるからこそ、その課題を解決するために新しいサービスが必要とされます。
独立起業の場合、既存のサービスを真似して起業するということもありかもしれませんが、特に会社員がする社内起業の場合はそうもいきません。あくまで解決したい課題があることが先です。
大久保:確かにそうかもしれませんね。西野さんはどのようにしてその課題に気づかれたのでしょうか。
西野:新卒採用支援の現場でコンサルタントをしている中で、名前も知られていないような中小企業の中にもすごく良い社風や成長環境がある企業にたくさん出会いました。でも採用には苦戦されている現状があったので、その課題を解決したい、となるのは自然な流れでした。
大久保:課題があって、お客さんも見えていたのは大きいかもしれませんね。
西野:そうですね。課題とお客さんがいれば、あとはソリューションを作って磨き込んでいけば事業になりますから。まずは現行のサービスでは解決しきれない課題を見つけること。それが社内起業では最重要ではないでしょうか。
社内起業を成功させるために重要な2つのポイント
大久保:社内起業を成功させるために重要なポイントは何でしょうか。
西野:まずは社内からの信頼貯金が重要ですね。「この人なら任せられる」「逃げない」と思ってもらえる信用です。
もう一つは社内のヒト・モノ・カネを集めるために、会社の人を口説けるようなビジョンや営業力も重要になってきます。
- 普段から信頼貯金を貯めておくこと
- 社内メンバーを口説くビジョンと営業力
大久保:独立起業の場合とそこは同じですね。
西野:そうかもしれませんね。立ち上げ当初は部署に4人メンバーがいたのですが、専属で動いていたのは実質私を入れて2人だけでした。最初は人がいないので、何でもやっていましたね。
大久保:独立して起業しないんですか。
西野:それは就活生やメンバーにもよく言われますね(笑)。独立起業の場合は、リターンが大きい点は魅力ですが、その分リスクが大きいと考えていました。
しかし、私の場合は新規事業立ち上げではありますが、社内起業の場合、金銭的なリターンは独立した場合よりも少ないかもしれませんが、失敗しても路頭に迷うようなことにはなりません。むしろ挑戦したことで得られた経験は個人としても、会社のナレッジとしても価値があるものだと評価されることさえあります。
さらに私の場合ネオキャリアのヒト・モノ・カネのリソースを使うことができるので、個人で独立起業するよりもスケールの大きなビジネスにチャレンジができます。このメリ・デメを考えると、独立してまで起業しようとは考えません。
大久保:逆に社内起業だからこそ感じるデメリットなどはありますか。
西野:デメリット、ということではないのですが、「いつでも首を切られるかもしれない」というプレッシャーは常にあります。独立して起業する場合には自分の会社だからその心配はありませんが、企業の場合、私よりも上手く事業をハンドリングできる人がいれば首を切られてしまいますから。私もプレッシャーに負けないように、学び続けていますし、結果を出し続けたいですね。
大久保:逆に成長のチャンスでもありそうですね。
西野:そうですね。プレッシャーの中で成長できるというところはありますね。
あとは社内起業の場合、人がいるといっても、採用する人を自由に選べるわけではない点にも注意が必要です。なので、立ち上げ当初からより良いメンバーにきてもらうべく、いろいろな採用イベントに顔を出して「MOCHICA」のアピールをしていました。
競合との戦い方
大久保:「MOCHICA」をリリースした2018年当初、LINEを就職活動に利用されている就活生はどの程度いたのでしょうか。
西野:全体で5%程度でした。その上、企業の採用担当やリクルーター個人のLINEアカウントと個人的に繋がっているような状況でした。
弊社ともう1社の競合企業とでプロダクトを創り、新卒採用実施企業への販売を始めると、2019年にはLINEの新卒採用市場での利用シェアが一気に20%まで引き上がりました。その後も2020年に40%、2021年に50%とどんどん普及してきています。
大久保:それはすごいスピード感ですね。
西野:コロナ禍で採用のオンライン化が進んだのも追い風になりました。
大久保:競合企業がいることについてはどう思われましたか。
西野:確かにライバルではありますが、個人的には「仲間」のようにも感じていましたね。競合も出てくるということは、市場として「アツい」ということでもあるので、切磋琢磨していけたらなと思っていました。
一時は10社くらいまで競合がいましたが、現在は4社程度になっています。
弊社は新卒採用領域で20年やってきたケイパビリティと顧客データベースがあったので、その点は激しい競争の中で生き残っていくうえで強みとなりました。
「MOCHICA」のこれから
大久保:今後、「MOCHICA」をどのように大きくしていかれるのでしょうか。
西野:「今当たり前になっているものよりも、これから当たり前になるものを作ろう」という気持ちでやっています。
これまでも、LINE、SNS、メタバースなど、「今後当たり前になるよね」というところを先鞭つけてやってきたので、これからも先を読んでやっていきたいです。新卒採用市場は比較的小さな市場なので、サービスを世に出してから市場に浸透していくのが速い点は、やっていて非常に面白いですね。
大久保:面白そうなことにどんどん取り組んでいくのですね。
西野:「MOCHICA」事業部としては、「すべての企業を第一志望に」というミッションを掲げています。
当社のサービスを通じてお客様には「ヒトと企業をもっとちかくに(MOCHICA)」を実現いただくことで、毎年新入社員みんなが「第一志望の会社に入社できた」と胸を張って言ってくれる。そんな採用活動を実現して欲しいと思っています。そのために今後も、SNSやメタバースなども含めて、それぞれの企業をより身近に感じてもらえるようなサービスの開発にどんどんチャレンジしていきたいです。
(取材協力:
株式会社ネオキャリア MOCHICA事業部長 西野 太基)
(編集: 創業手帳編集部)