法定福利費とは?福利厚生費との違いと基礎知識
法定福利費とはどんな費用か?種類や計算方法・仕訳方法を紹介
法定福利費とはどんな費用か、種類や福利厚生費との違いについて解説します。法定福利費は、経費のひとつとして、勘定科目のひとつとして見ることもある項目です。
しかし、具体的にどんなものか説明できない人もいるかもしれません。
法定福利費は種類が限定されており、それぞれの種類は法律に基づいて定められています。
そして、経理や給与担当者、経営者や個人事業主も十分に認識しておきたい重要なものです。
企業経営や会計処理で困らないように、法定福利費とはどんなものか、仕訳方法などもまとめてチェックしておきましょう。
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この記事の目次
法定福利費とは
法定福利費とは、従業員の福利厚生のために支出するよう定められた費用です。福利厚生費とは違い、事業主が負担することが定められています。
企業を経営し従業員を雇用している場合、必ず発生する費用です。
事業主が負担することが定められた費用
法定福利費は、法律に基づき従業員のために事業主が強制的に負担する必要がある費用です。
ただし、その種類に応じて事業主が負担する割合が定められており、残りは個々の従業員が自己負担するものもあります。
事業主が一部の費用を負担することで、従業員は法的な福利厚生制度を少ない個人負担で利用できるようになります。
法定福利費として支出が必要となるのは、社会保険料や労働保険、拠出金などの従業員の健康や労働、生活を守るためのものです。
これらの制度の適用を受けるためには、事業所としての手続きが必要です。
強制的に加入が必要となった場合も、任意で加入する際も、届け出や申請書を提出し、適用事業所となる必要があります。
福利厚生費との違い
もともと福利厚生制度には、法律で規定された法定福利厚生と法定外福利厚生の2つがあります。
法定外福利厚生とは法律が規定しているわけではない福利厚生であり、福利厚生費はこの費用のことです。
福利厚生費は法律では規定されていないため、様々な福利厚生サービスに当てられています。一方、法定福利費は社会保険料など限定された費用のみとなります。
建設業における社会保険と法定福利費問題とは
建築業界では、長い間社会保険未加入についての問題を抱えていました。
末端下請けとなる小さな規模の企業では、社会保険未加入の状態で従業員を雇用しており、彼らはそのまま現場に送りこまれていました。
肉体労働が中心で、怪我や障害のリスクもある建築現場では、社会保険なしに働くのはとても危険です。
そこで、建設現場のすべての従業員が安心して働ける環境づくりとして、法定福利費込の見積書の提出を求める対策がスタートしました。
国土交通省のガイドラインによって、適切な保険に未加入の作業員は現場入場を認められないとされ、見積書では法定福利費を明示することになりました。
また、下請けの見積書に記載される事業主負担分の社会保険料は、工事価格と合わせて請求できます。
法定福利費の種類
法定福利費の種類は、どの企業でも決まっており、福利厚生のような自由な選択肢はありません。
法定福利費は、基本的に従業員を雇用する際に発生しますが、それぞれの法定福利費ごとに従業員の加入要件が定められており、雇用の仕方によっては対象とならない従業員が出ることもあります。
正しく法定福利費を支出、計上するために、法定福利費の種類とそれぞれの加入要件についてチェックしておきましょう。
健康保険
健康保険とは、従業員とその家族の病気や怪我の治療費や出産費用の一部を負担したり医療費を支給したりする公的医療保険制度です。社会保険制度の一つであり、加入することで医療サービスを受ける際の自己負担額が軽減されます。
健康保険の保険料は従業員と会社が折半する決まりです。会社が負担する分が法定福利費となります。
公的医療保険は日本に住むすべての国民に、加入することが義務付けられている制度です。自営業者や無職の人、健康保険の加入条件に当てはまらない人は国民健康保険に加入しなければいけません。
加入要件
健康保険の加入要件は、常時雇用であることです。正社員はもちろんのこと、パートタイマーやアルバイトの場合でも一週間当たり、及び一カ月あたりの所定労働時間が常時雇用者の4分の3以上の人は加入対象となります。試用期間であっても雇用契約書がなくても給料が発生していれば同様です。
パートタイマーやアルバイトの場合、労働時間が要件に満たなくても、以下の要件をすべて満たす場合には対象となります。
1.週の所定労働時間が20時間以上あること
2.雇用期間が1年以上見込まれること
3.賃金の月額が8.8万円以上であること
4.学生でないこと
5.健康保険被保険者が常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めていること
(常時500人以下の企業でも、申し出によって「任意特定適用事業所」である企業に勤めていること)
厚生年金保険
厚生年金保険は、老齢や障害を負った際の生活を支えるための社会保険です。死亡時には遺族が遺族厚生年金の支給対象となります。厚生年金保険は会社員などが加入できるもので、基礎年金である国民年金に上乗せして厚生年金を受けられる保険です。
厚生年金も健康保険と同様に、保険料は会社と従業員が折半します。会社が支払う部分が法定福利費です。
国家公務員や地方公務員などは共済年金に加入します。自営業者などは厚生年金がなく、国民年金に加入します。国民年金は日本国内の20歳以上60歳未満のすべての人が加入するもので、厚生年金や共済年金に入っている人もそれぞれの制度を通じて国民年金にも加入する仕組みです。
加入要件
厚生年金の加入要件は、70歳未満で適用事業所に常時使用されている人です。健康保険同様に、試用期間も含み、パートタイマーやアルバイトの場合も通常の労働者の4分の3以上働いている場合は対象となります。
パートタイマーやアルバイトの場合、労働時間が要件に満たなくても、以下の要件をすべて満たす場合には加入対象です。
1.週の所定労働時間が20時間以上あること
2.雇用期間が1年以上見込まれること
3.賃金の月額が8.8万円以上であること
4.学生でないこと
5.特定適用事業所または任意特定適用事業所に勤めていること(国、地方公共団体に属するすべての適用事業所を含む)
被保険者数が500人を超える事業所が特定適用事業者にあたります。
子ども・子育て拠出金
子ども・子育て拠出金とは、児童手当やその他の子どもに関する事業に活用される掛け金です。相互扶助のために集められるお金で、直接的に関係のない人もいるかもしれませんが、法定福利費として会社が負担しています。子ども・子育て拠出金は、全額会社負担です。
加入要件
子ども・子育て拠出金は、法人、または従業員5名以上の事業所が加入対象となり、厚生年金に加入している従業員の分だけ負担が必要です。
介護保険
介護保険とは、老化を原因とする病気や体力の低下によって介護サービスが必要となった際にサービス費の一部を負担する制度です。保険料は会社と従業員が折半し、健康保険に上乗せされて徴収されます。
加入要件
介護保険は健康保険の対象となる従業員が40歳になると強制加入となります。
雇用保険
雇用保険は、従業員が離職した際などに必要な給付を行う労働保険です。離職した際に支給される失業保険のほか、育児休業や介護休業などでも各種手当が給付されます。また、あまり意識されていませんが、従業員向けの給付だけでなく、キャリアアップ助成金やトライアル雇用奨励金といった企業向けの給付も雇用保険から行われています。
雇用保険も会社と従業員で分けあって負担しますが、保険料の負担割合は折半ではありません。企業が一定額を法定福利費として負担し、残りを従業員が支払います。
加入要件
企業に雇用されている従業員が加入します。適用要件は、1週間の所定労働時間が20時間以上、31日以上引き続きの雇用が見込まれることです。期間の定めのない正社員のほか、雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇い止めが明記されていない人、更新規定はなくても31日以上の雇用実績のある人などが含まれます。
労災保険
労災保険は、従業員が通勤中や勤務中に発生した傷病、死亡などを保障するための労働保険です。法人個人関係なくひとりでも従業員がいれば強制加入で、保険料も全額会社持ちとなります。
加入要件
全従業員が対象です。ほかの保険とは違って、労災保険は全従業員を包括的に加入させる決まりとなっています。このため、個別の加入手続きはありません。
法定福利費の計算方法
法定福利費は、従業員と会社が折半するもの、会社が一定の金額を負担するもの、全額負担するものがあります。そのため、法定福利費を支払う際には、会社負担の金額がいくらになるか計算することが必要です。社会保険や労働保険の支払いが必要な事業者は、どのように法定福利費を算出すれば良いか、計算式や負担割合を知っておきましょう。
法定福利費の計算式
法定福利費の計算は基本的には、保険料率と「対象となる保険の企業負担分の割合」で決まります。それぞれの保険によって保険料率や企業負担の割合は異なっていますし、給与の金額で見直しが必要なものもあるため注意しましょう。
(社会保険料は、標準報酬月額に保険料率をかけて算出します。標準報酬月額とは、給与の金額を区切りの良い段階ごとに区分したものです。企業負担分である法定福利費は折半となるため、それに2分の1をかけます。
具体的な計算式は、
健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率×1/2
厚生年金保険料=標準報酬月額×厚生年金保険料率×1/2
介護保険料=標準報酬月額×介護保険料率×1/2
です。健康保険料の式で用いた健康保険料率はそれぞれの健康保険者によって異なります。協会けんぽは都道府県ごとに保険料率が異なっており、健康保険組合では独自に定めた保険料率や基準に基づき保険料を算出しています。
雇用保険、労災保険は、賃金総額に保険料率をかけて保険料を算出します。雇用保険の会社負担は、一般事業所で3分の2となっています。
子ども・子育て拠出金の計算式は、標準報酬月額(標準賞与額)×子ども・子育て拠出金率です。拠出金率は2020年4月から0.36%になっています。
各保険の負担料率
それぞれの保険の保険料率と負担料率を表にまとめました。法定福利費は、正しい料率で会社負担分を支出し、個人負担と合わせて納付しましょう。定められた以上の金額を会社負担で支払ってしまうと、超えた部分は給与扱いとなり、源泉所得税などの課税対象となるため注意が必要です。
社会保険 | 保険料率 | 会社負担 | 個人負担 |
健康保険料 | 10.00% | 5.00% | 5.00% |
厚生年金保険料 | 18.30% | 9.15% | 9.15% |
介護保険料 | 1.79% | 0.90% | 0.90% |
雇用保険料 | 0.90% | 0.60% | 0.30% |
子ども・子育て拠出金率 | 0.36% | 0.36% | – |
労災保険料 | 0.30% | 0.30% | – |
介護保険料の保険料率は協会けんぽのケースです。
また、労災保険料は事業ごとに異なり、厚生労働省の労災保険料率表によって定められています。例えば、卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業は3/1,000(0.30%)ですが、建設事業は6.5/1,000〜62/1,000です。
法定福利費を計上するタイミングと仕訳方法
法定福利費は、それぞれに納付をしたら経理処理をすることが必要です。法定福利費の処理には、従業員から負担分を預かることから従業員の負担分と会社負担分を合わせて納付することなどがあります。法定福利費に関係する経理処理と処理ごとの仕訳の方法についてまとめました。
従業員からの徴収
法定福利費を計上する際には、従業員から負担分を徴収し、その分も計上する必要があります。従業員からの徴収が必要なのは、社会保険料と雇用保険です。子ども・子育て拠出金と労災保険料については必要ありません。
従業員から負担分を徴収したものは、「預り金」もしくは「立替金」で処理します。主に給料の支払時に発生する処理です。
仕訳は以下のようになります。
給与手当 / 普通預金
給与手当 / 預り金(従業員負担分)
預り金を除いた金額は給料として従業員へ支払われます。
社会保険料の納付
従業員から社会保険料の負担分を預かった時と同時に社会保険料を納付するわけではありません。社会保険は、納付告知書が毎月20日頃に年金事務所から送付されるため、(納付告知書を確認し、従業員負担分と会社負担分を合わせて納付します。
社会保険を納付したタイミングで、「預り金」として処理してあった従業員負担分と合わせて、会社負担分を「法定福利費」として処理します。
法定福利費 / 普通預金
預り金(従業員負担分) / 普通預金
預り金(従業員負担分)は、給与手当から引いた金額と同額です。
労働保険料の納付
労働保険料は、雇用保険の従業員の自己負担分と法定福利費である会社負担分を合わせて納付します。労災保険については、従業員の負担はありません。労働保険料は、労働保険申告書を提出した日、もしくは納付した日に経費計上しましょう。
仕訳は以下のようになります。
法定福利費(労働保険・事業主負担分)/ 現金
立替金(従業員負担分) / 現金
まとめ
法定福利費とは、社会保険や労働保険の事業者負担の保険料のことを指します。福利厚生とは異なり、法で定められた費用であり、法定福利費の支払いは会社の義務です。会社は各保険に加入し、加入要件を満たす従業員を保険に入れなければいけません。
加入後は、それぞれの保険や拠出金ごとに正しく保険料などを計算し、会社負担である法定福利費を誤りなく納付、経理処理をしましょう。従業員負担分が発生するものについては預り金の処理なども必要となり処理が煩雑化するため計上ミスに注意が必要です。
(編集:創業手帳編集部)