労災とは?保険の認定基準と補償の範囲・手続き方法について
労災と労災保険について解説!会社に勤める人・事業者が知っておきたい基礎知識
労災は、従業員を雇い入れている事業主が知っておかなければいけない保険です。
また、労働者にとっても、いざという時に自分を守る大切な制度になります。
実際には使う機会があまりないため、なじみがない人も多いようです。しかし、労災が必要になる時がいつかは、わからないものです。
会社としても従業員の生活を守るため、対応できるようにしなければいけません。
いざという時に慌てず、損をしないために、手続きや認定基準など労災の基本的な知識を得ましょう。
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「労災」と「労災保険」
労災と聞くと、おのずと「労災保険」を思い浮かべる人は多いようですが、厳密にいうと労災と労災保険は別ものです。
労災保険について解説する前に、まずは労災と労災保険の基本的な知識について理解しておきましょう。
労災とは
労災とは、「労働災害」を指す言葉です。労働災害を縮めて「労災」と言います。
労働災害とは、仕事上や通勤上の事故などが原因で受けた怪我や病気、障害などを負うトラブルのことです。
労災保険とは
労災保険は、労働者災害補償保険法に基づく制度で、労働災害に遭った人を助ける保険です。
労災に遭って怪我や病気、障害を負った場合、もしくは死亡した場合に、保険が使えます。
労災保険のことを略して「労災」と呼ぶ場合も多く、「労災が使える」など労災といえば保険制度を示すと考えたほうが自然です。
従業員がいる会社は加入が義務
労災保険は従業員がひとりでもいる会社には加入義務があります。保険料は全額会社が負担し、条件を満たしている従業員すべてを労災保険に入ってもらうことが必要です。
労災保険へ加入するためには、事業主が労働基準監督署に届を提出しなくてはなりません。
労災保険料
労災保険料は、労災保険に加入している全従業員に支払った賃金総額に労災保険率を乗じて計算されます。
労災保険率は事業の種類ごとに細かく分類されており、厚生労働省が公表しています。
令和3年までは、平成30年4月に施行された保険料率表に基づいて計算することになっています。
計算のもとになる賃金には、含まれない手当などもあるため、実際に計算する際には注意が必要です。
労災保険料は、業種ごとのリスクの高さなども反映して作られています。例えば、「卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業」は保険率3%ですが、「林業」は60%です。
労災保険で補償されるもの
労災保険で補償されるのは、労災保険の対象となる人のみです。働いているからといっても対象とならない人もいます。
また、労働災害にあたる内容も定められています。
労働中にトラブルが起こり、病気やケガなどの憂き目にあった場合には、それが労災に当てはまるか見極めることが必要です。
労災保険の給付対象者
労災の給付対象者は、会社に勤めている労働者です。労災は会社が加入して、労働者に対して補償責任を負う保険です。
対象となる人はあらかじめ労災保険に入ってもらい、トラブルが起こった際に給付手続きを行います。
労災の給付対象者は、会社に雇われて働いている従業員です。従業員の身分は正社員とは限りませんが、会社の経営者・役員は対象にはなりません。
また、個人で仕事をしている個人事業主・フリーランスも対象外です。
正社員だけでなくパートやアルバイトの方も
労災保険の給付対象者には、正社員だけでなくパートアルバイトなども含まれます。日雇い従業員や臨時で働く人も対象で、外国人も含まれます。
中小企業経営者向けの特別加入制度
労災保険は労働者の保険なので、経営者や役員は給付を受けることはできません。しかし、中小企業の経営者などに向けた特別な加入制度があります。
経営者が入りたい企業は、どこかの労働保険事務組合に労働保険事務を委託することが必要です。
加入できるのは、中小事業主とその家族従事者、代表者以外の役員となっています。また、企業規模の条件は以下の通りです。
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- 融業・保険業・不動産業・小売業:50人以下
- 卸売業・サービス業:100人以下
- 上記以外の業種:300人以下
フリーランスでも職業によっては特別加入が可能
従業員を雇用していないフリーランスでも職業によっては特別加入できることがあります。
建設業の大工やとび職人、個人タクシーの運転手などをはじめ、漁師、林業や衣料品の配置販売事業、廃棄物の収集や運搬などの事業が加入できる職種です。
補償される範囲
労災保険で補償される内容は、以下のようなものがあります。
それぞれ補償の範囲が決まっており、労働災害にあった場合、それがどの区分に当てはまるか知ることが必要です。
療養補償給付
療養補償給付は、業務中や通勤中の災害で怪我や病気になった際の入院や治療、通院の費用として給付されます。
費用を医療機関に支払ってから後日請求も可能ですが、指定医療機関で治療を受けた場合には、治療費の支払いをする必要がありません。
また、通院にかかった交通費も給付対象となります。
休業補償給付
休業補償は、業務中の災害や通勤中の災害に遭い、療養のために働けなくなった場合に給付されるものです。働けなくなった日の4日目から給付が始まります。
給付される金額は、休業1日につき給付基礎日額の60%です。
給付基礎日額とは、原則として平均賃金に相当する額となり、直前3ヶ月間の賃金をベースに計算されるものです。
また、休業特別支援金も同じく、4日目から給付基礎日額の20%相当が給付されます。
遺族補償年金遺族年金
遺族補償年金は、労働者が労働災害で亡くなった場合に、遺族に対して受給資格が与えられます。
受給資格者は、労働者の収入によって生計を維持していた配偶者や子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹です。
ただし、労働者の死亡時に一定の年齢、もしくは一定の障害の状態にあることが条件となっています。
遺族補償一時金・遺族一時金
遺族補償一時金は、遺族補償年金を受け取れる権利のある遺族がひとりもいなかった場合に、遺族へ支給されるお金です。
遺族年金を受け取っていた人が年齢の要件から外れた場合にも、遺族年金として支払われる予定だった残額が支払われます。
その際の条件は、すでに受給した金額が給付基礎日額の1,000日を下回っていることです。
葬祭料葬祭給付
葬祭料は、労働者が労災の事故で亡くなった時の葬儀費用について支給されるものです。支給する相手は遺族のほか、会社や友人など、葬儀を行った人になります。
遺族給付を申請していない場合には、申請時に死亡を証明する書類が必要です。
傷病補償年金傷病年金
労働災害による傷病のために療養を始めて1年6カ月経過しても、傷病が治っておらず、傷病等級1~3級に当てはまる場合に給付されます。
給付される額は、障害の程度に応じて年金給付日額の相当分です。
介護補償給付介護給付
傷病補償年金か障害補償年金の受給者のうち、傷病等級・障害等級第1級もしくは「精神神経、胸腹部臓器の障害」がある第2級として現在介護を受けている人に給付されます。
給付額は、介護の状態によって決まります。
労災保険給付の手続き
労災保険給付申請の手続きは原則、本人もしくは遺族が行うものです。
ただし、状況によっては会社が代行することもあるため、労働者と企業の事務担当者の双方が手続き方法について知っておく必要があります。
手続きには様々な提出書類が必要となり、さらに、いくつかの注意したい点もあります。申請の流れと必要書類、注意が必要なケースまで、ポイントを押さえておきましょう。
労災の申請の流れ
従業員が仕事中や通勤中、業務での移動中に事故に遭った場合など、労働者本人はすみやかに会社に連絡をする必要があります。
また、連絡を受けた担当者は労働者に治療の指示などを与え、労災手続きを始めることが大切です。
労働者が会社へ報告する
労災にあたる事故などが起こった場合には、まず労働者本人や本人の状況を確認できる労働者が会社へ報告をします。
入通院が必要な怪我の場合には、会社は最寄りの指定労災病院の場所を伝え、そちらで治療を受けるように指示を与えます。
労働者から会社に伝える内容は以下の通りです。
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- 怪我を負った人の氏名
- 怪我を負った日時
- 本人以外に状況を把握している人
- 災害が発生した状況
- 怪我の部位と状況
労災病院では労働者は労災であることを窓口に伝えてください。また、労災病院で労災保険野対象となる怪我の治療を受ける際は、健康保険証の提示は必要ありません。
会社が労働基準監督署へ報告する
労働者から報告を受けた会社は、労働基準監督署へ報告します。事業主には、労災事故の報告義務があり、状況に応じて報告の期限も決められています。
治療による休業が4日以上発生する場合には、速やかに管轄の労働基準監督署へ「労働者死傷病報告を提出しなければいけません。
また、休業4日未満の場合には以下の時期までの報告することになっています。
1〜3月に発生した事故 | 4月末日まで |
4〜6月に発生した事故 | 7月末日まで |
7〜9月に発生した事故 | 10月末日まで |
10~12月に発生した事故 | 1月末日まで |
労働基準監督署へ労災申請の書類提出
労災の申請は業務災害か通勤災害か、状況に応じて必要な書類を提出することになります。書類は労働基準監督署や厚生労働省のホームページからダウンロードが可能です。
業務災害で主に必要となるのは以下の書類です。
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- 指定労災病院で療養を受けた場合:療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)
- 指定労災病院以外で受けた場合:療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第7号)
- 休業補償を請求する場合:休業補償給付支給請求書(様式第8号)
通勤災害で主に必要な書類は以下のようなものになります。
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- 指定労災病院で療養を受けた場合:療養補償給付の費用請求書(様式第16号の3)
- 指定労災病院以外で受けた場合:療養補償給付の費用請求書(様式第16号の5)
- 休業補償を請求する場合:休業給付支給請求書(様式第16号の6)
労働基準監督署が労災事故の調査をする
労災事故の報告を受けた労働基準監督署は、労災事故の調査を行います。
調査は、労働基準監督署職員が、勤務先や治療を受けた病院などで、提出された書類をもとに行われます。
休業補償の受任者払い制度も検討を
労災に遭った労働者に対して安定的な生活を保障するためには、受任者払い制度の検討も必要です。
労災での休業補償は、労働者に振り込まれるまで時間がかかります。労災で休業している期間は、有給休暇も使えず、金銭的にひっ迫することが多いものです。
その間の労働者の生活の安定を図るべく会社が補償金相当の金額を立て替え払いする制度が受任者払いです。
受任者払いを行う場合には、労働基準監督署へ「休業補償給付支給請求書 様式第8号」、または「休業給付支給請求書 様式第16号の6」に「労災被災者本人の委任状」と「受任者払いに関する届出書」を添付して提出します。
支払い前に委任状を書いてもらうとトラブルの原因になるため、委任状は実際に立て替え払いを行ってから書いてもらうことが大切です。
労災認定・労災保険の給付
労災の調査が終わり、労災と認定されると、申請した労災保険の給付を受け取れます。
認定の内容に不服がある場合には、管轄労働局の労働者災害補償保険審査官に審査請求することも可能です。
労災認定が降りるまでの期間の目安としては、怪我や病気の治療や休業給付で1カ月程度、後遺障害などの場合には数カ月かかることもあります。
労災の認定基準
労災は労働基準監督署による調査によって認定されます。労災には業務災害と通勤災害があり、認定基準を満たしていないと給付が認められません。
それぞれの認定基準と認められないケースを理解し、労災申請をするかどうかの目安にしましょう。
業務災害
業務災害とは、業務に当たっている際に業務によって起こった災害です。条件としては、業務遂行性と業務起因性が注目されます。
業務遂行性では、怪我などをした時に仕事をしていた、会社の支配下にあったかがポイントです。
社内外で業務をしている時はもちろん、業務中のトイレや休憩なども含まれます。
また、業務起因性では、業務中の行為が原因で災害が発生したかどうかが問題です。その業務に当たっていれば誰でも遭う可能性のある災害の場合、起因性が認められます。
通勤災害
通勤災害とは、就業場所と家との往復中の災害です。
ただし、就業場所へ向かっている理由が就業と関係しているかどうか、通勤経路を大きく外れていないかがポイントになります。
認められないケース
業務災害では、休憩中の事故で認められないケースがあります。たとえば、不慮の怪我でも自分でたばこを吸っていて、やけどを負った場合には認められません。
また、勤務中の怪我でも、業務に関係のないトラブルに巻き込まれた場合には労災にはなりません。
たとえば、仕事上の怨恨で暴力を受けた場合は労災になる可能性がありますが、個人的な恨みで暴力を受けた場合には労災に認められないでしょう。
通勤災害では、就業場所と家を往復していても、その理由が休日に忘れものを取りに行ったなど、就業に関係ない場合には認められません。
また、通勤経路を大きく逸脱していた場合にも認められません。
ただし、通勤途中でコンビニに立ち寄る、保育園に送迎するといった日常的な行動の場合には通勤中として認められます。
新型コロナウイルス感染症について
医療・介護従事者が新型コロナウイルスに感染した場合、業務外の感染が明らかでない場合に限り、労災として認められます。
コロナウイルス感染者を診察した医師や、利用者がコロナウイルス感染者だった訪問介護員、不特定多数の人に問診や採血をしていた看護師などです。
また、職場でクラスタ―が発生した場合や業務中に感染者と接した人なども労災認定されています。
労災保険申請時の注意点
労災保険を申請する際には、いくつか注意したい点があります。行動をミスすると不便な思いをしたり、思ったような給付が受けられないこともあるため、気を付けましょう。
医療費の立替ができない人は労災病院へ
労災保険の給付は、後払いが基本です。治療費も基本的には後払いとなっており、それまで労働者が立て替えを行うことになっています。
ただし、労災病院・労災指定医療機関で治療を受けた場合には、窓口での支払いが必要ありません。
そのため、医療費の立て替えが難しい人や高額になりそうな場合には、労災病院や労災指定医療機関で受診することをおすすめします。
また、会社は労災の報告を受けた時点で労災病院または労災指定病院を労働者に伝え、スムーズに病院へ向かえるようにサポートしてください。
労災病院は全国に32カ所あり、労働者健康安全機構のホームページから、労災指定医療機関は厚生労働省のホームページから検索できます。
申請手続きには時効がある
労災病院など以外の医療機関で治療を受けた場合には、給付の手続き期限に注意しましょう。
それぞれの手続きによって期限が設けられ、それを過ぎると時効になってしまいます。
療養補償給付、休業補償給付、葬祭給付、介護補償給付、二次健康診断等給付は2年、障害補償給付、遺族補償給付は5年です。
公的年金の併給では労災給付が減額される
遺族年金や障害年金を受給する際には、労災給付がその分減額されます。
これは併給調整制度といい、両方の制度から給付を受けることで災害に遭う前の賃金より給付が高額になることを避けるための制度です。
まとめ
労災保険は、労働者やリスクの高い事業主のための保険制度です。様々な給付があり、給付ごとに受け取れる人や条件も違います。
労働者自身はもちろんのこと、事業を行う人も認定基準や手続きなど、知っておきましょう。
申請から給付までには時間がかかり、申請には時効もあるため、ルールを理解した上で速やかな行動をとることが大切です。
(編集:創業手帳編集部)