中小企業がコロナ禍で生き残るために、今は返済の心配より潰れない対策を!【松本氏連載その3】

創業手帳
※このインタビュー内容は2020年11月に行われた取材時点のものです。

倒産寸前の中小企業700社の再生を支援。9割の会社を成功に導いた“事業再生のプロ”松本光輝氏に聞く

「事業再生請負人」として、17年間にわたって700社以上の倒産寸前の会社に携わり、9割の会社を事業再生に導いた松本光輝氏に、コロナ禍の中で売上げ減少や資金繰りのひっ迫に悩む中小企業の経営者への生き残りの道筋を指南していただくシリーズ企画。

今回は、何よりもキャッシュの確保が肝心と説く松本氏に、緊急融資制度の仕組みや、会社のお金の流れを正確に把握するための「資金繰り表」の作り方、返済条件の変更方法など、具体的な処方箋を提示していただきました。

創業手帳では、資金調達の方法やキャッシュフローの考え方など、会社のお金に関わるノウハウを集めた「資金調達手帳」を発行しています。本記事と併せて参考にご覧ください。無料でお取り寄せできます。

松本光輝

松本光輝(まつもと こうき)
株式会社事業パートナー 代表取締役
1948年生まれ。独協大学経済学部経営学科を卒業後、飲食業の2代目として、バブル期には17店舗を経営し、年商8億円企業に拡大。バブル崩壊後に25億円の負債を抱え、自ら事業再生を経験。その際の知識、経験を生かして、2003年から事業再生専門コンサルタントに。17年間に請け負ってきた中小企業700社の9割を事業再生に導き、数多くの中小企業経営者を救済してきた。2020年7月、あさ出版より『社長! コロナを生き残るにはこの3つをやりなさい』を出版。

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生き残るために最後に必要になるのは「今、キャッシュをどれだけ持っているか」

大久保:新型コロナウイルスの影響で倒産したり、事業を停止して法的整理の準備に入った企業は9月に入っても増加の一途をたどっています。倒産ペースは1日に数件のペースで増えているというニュースも目にしました。中小企業が生き延びるためには、やはり資金の確保が最重要課題になると感じています。

松本:そうです。単純に考えて、会社を経営していて何年も赤字の状態が続いていたとしても、会社に資金がある間は倒産することはありません。逆に、何年も黒字を続けていたとしても、資金が枯渇すればたちまち倒産してしまいます。

大切なことは「Cash is king」。コロナ禍による消費不況が当分続く中で、生き残るために最後に必要になるのは「今、キャッシュをどれだけ持っているか」。

景気の回復が見える時期になるまでに、自分が持っているキャッシュで資金を繋げていけるかが、生死を分ける境目になります。

「新型コロナウイルスの影響で売上げが減少して多くの会社の経営状況が悪化したら、全体として社会不安を引き起こしてしまう。それを避けるために、「できる限りの資金支援を行います」というのが、国の考え方。つまり、現在借りている借入金とは別に支援を行うと言っているわけです。

まずは「倒産しないでください」という政府の姿勢を追い風に活用して

大久保:コロナ禍の今だからこそ実施されている緊急融資制度の内容を理解しておく必要がありますね。

松本:政府が100%出資している政策系金融機関の日本政策金融公庫では、「新型コロナウイルス感染症特別貸付」を実施しており、無担保で融資を受けることができます。7月から制度が拡充され、融資限度額が6,000万円から8,000万円に引き上げられました。

売上高がマイナス20%以上の中小企業などを対象にした実質無利子の限度額も、3,000万円から4,000万円に引き上げられています。返済期間は設備資金で20年以内、運転資金で15年以内。平時であれば運転資金の返済期間は5年程度ですから、今はその3倍の期間で返せばいいことになります。利息は1%程度。1000万円の融資を受けても、利息は10万円ほどです。しかもその利息も政府が払ってくれます。

大久保:政府は20年で返せばいいと。かつてないほどの好条件ですね。

松本:政府にとってみれば、将来に貸した資金が返済できるかどうかよりも、まずは「倒産しないでください」ということなのです。もちろん、借りた資金は返済しなければなりませんが、それは二の次です。この危機を生き残れば、必ずチャンスは訪れます。まずは生き残ることを考えないといけません

「資金繰り表」で会社のお金の流れを正確に把握していますか

大久保:今は返済できるかどうかを考えるよりも、通常よりも有利な条件で受けられる緊急融資を利用するなどして、倒産しないことが重要だと。資金不足に陥らないためには、経営者はどのような点に注意して経営を行っていけばいいのでしょうか。

松本:私のところへ相談に訪れる経営者の方からは、「一生懸命、真面目に仕事をしているのにお金が貯まらない」というお悩みをよく聞きます。しかし、努力して真面目にやっているだけで報われるのであれば、資金繰りに苦労する中小企業はこれほど多いわけはありません。

どうしてお金が貯まらないのか。今までの経営を振り返って考えてみる必要があります。資金繰りに苦労している経営者に多いのは、会社の資金繰り表、事業計画書を作成せずに、“ドンブリ経営”を行っていること。場当たり的な経営に陥っています。これでは、会社の運転資金としてどの程度の額が必要なのかを把握することはできません。

向こう6カ月、できれば1年間の「資金繰り表」の作成は不可欠です。運転資金の確保に追われて常に現金が足りない状態だったり、ギリギリの状態の会社であれば、向こう3カ月の資金繰り表も不可欠になります。

その準備を怠っていると、ある時突然「お金が足りない」という事態に陥ってしまいます。

大久保:たしかに、売上げは増加しているというのに、慢性的な資金繰り難に陥っている中小企業というのは少なくないですよね。会社のお金の流れを把握するために、現金収支をまとめた「資金繰り表」を作成しておかなければいけないと。

松本:作り方は簡単です。今月の入金と出金をそれぞれ別々に書き出すだけですから。入金と出金を差し引きして現金が余る計算であれば、資金不足は起こりません。

その「資金繰り表」を作る前に必要になるのが「日繰り表」です。その月だけの日ごとの入金予定の一覧表と、同じく出金予定の一覧表を作る。そうすれば、日ごとの残金が見えてきます。次に、これらをそれぞれ部門ごとにまとめます。

たとえば、「入金の部」は現金売上、売掛金、手形入金などを記載。「出金の部」には仕入代金である買掛金、給料、交通費や広告宣伝費といった販売管理費が並びます。

大久保:「資金繰り表」を作ることで、どういう効果が得られるんでしょう。

松本:今まで頭の中でボンヤリとしていた数字の動きがはっきりと見えてくると思います。資金が足りることがわかれば通常の経営に精を出していただければいいですし、足りないことがはっきりすれば、いかにして現金を不足させないようにするかを考えていかなければなりません。

大久保:「資金繰り表」を作ることによって、将来の経営の見通しが見えてくるわけですね。

今は迷わず銀行の融資を受けておくべき時期

大久保:今までは漠然とした感覚で「お金が残らないのはなぜだろう」と悩んでいた経営者の方が、「資金繰り表」を作ることによって、資金がどれだけ不足するか見えてくる。そうなると、今度はどうやって資金不足を解消するかという方向に考えを集中することができますね。

松本:現金を作る方法としては、最初に申し上げた日本政策金融公庫をはじめ、銀行から融資を受けるのが第一の方法です。

今回のコロナ禍では、売上げが減少した企業に対して信用保証協会が保証を行うセーフティネット保証制度が拡充されています。すでに信用保証協会から保証を受けている借入れがある場合でも、別枠で保証をしてもらって資金を借りることができます。無担保保証で8,000万円。担保を付ければ、別途2億円まで融資を受けることができます。

大久保:売上げが前年同月比20%以上減少した場合でしたらセーフティネット保証4号が適用されるので、信用保証協会が100%保証した状態で融資を受けることができるわけですよね。

松本:銀行が会社にお金を貸して、その会社が倒産したり返済ができなくなった場合でも、信用保証協会が全額、立て替えて銀行に払ってくれるわけですから、銀行にとってリスクはゼロで利息を稼げる。経営者としては銀行から融資を受けやすくなります。

今は緊急事態、政府も銀行も平時の状況のような融資条件は持ち出していません。景気の悪化から逃れられないと予測される2023年末までの3年間、営業赤字の合計額がどのくらいになるかを予測して、そうした状況の中でも運転資金が不足しない金額を、迷わず今、銀行から借りておくべきだと考えています。

この時期だからこそ、返済条件の変更も選択肢に入れて

大久保:現在すでに金融機関から融資を受けて返済中の会社が資金繰りが困難な局面に陥っている場合、返済条件の変更を求めることで資金を確保するという手段もありますよね。

松本:いよいよ資金が底をついてしまうか、近い将来に底をつくことが予測されたら、銀行に借入金の返済を待ってもらうようにお願いするのも一つの方法です。

「返済条件の変更」(リスケジュール)と言いますが、方法は2通りあります。一つは、元金を一部だけ返済して利息は全額支払う。もう一つは、元金を一定期間、全額返済を留めて、利息は全額支払う。

どちらの返済条件変更でも、資金繰りを楽にすることができます。仕入代金や税金、社会保険料の支払い、その他の経費の支払いに余裕を持つことができるようになるでしょう。

政府は各金融機関に対して、すでに受けた融資の条件変更について、事業者の実情に応じて柔軟に対応するように要請しています。返済条件変更のハードルは下がっているのです。

大久保:返済条件変更を行ったことが原因で、新たに緊急融資を受けることが難しくなることはないんでしょうか。

松本:経済産業省では、業績悪化のためにすでに受けた債務の条件変更を行っていることだけを理由に「新型コロナウイルス感染症特別貸付」やセーフティネット保証の支援対象から外れることはありませんと謳っています。

もちろん、条件変更が記録に残ったり、信用保証協会に対して1%程度の追加保証料が発生するといったデメリットもありますが、国の救済措置として捉えて、躊躇せずに依頼すべきです。一度、資金繰りを楽にして体制を整えることで、危機を乗り越える力を蓄えることができます。

大久保:資金繰りに追われるようになると視野が狭くなってしまいがちなものですが、このような時期だからこそ逆に、普段とは違う形で活路を拓く方法を見出すこともできるんですね。

次回はさらに経営者の方が視野を広げていけるように、事業譲渡などの可能性についてもお話を聞かせていただきたいと思います。

(次回へ続きます)

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(取材協力: 株式会社事業パートナー代表取締役 松本光輝
(編集: 創業手帳編集部)



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