銀行の種類と違いとは?特徴を知って賢く使い分けるためのポイント
メガバンク・地方銀行・信託銀行・ネット銀行など、銀行の種類による特色の違い。起業家に合った銀行は?
会社員ならば、手数料の低さやATMの数といった、使い勝手の良さで銀行を決める人が多いです。
しかし起業家となると利便性だけで銀行を決めるわけにはいきません。銀行のサービスや業務が自身の事業と合致するかを見極めて銀行を決めていきます。
中には、「現段階では個人事業主なので特に取引銀行を作る予定はない」といった人もいるかもしれませんが、将来的に必要になる可能性も含めて考えておいて損はありません。事業の未来も見据えて適した銀行を選びたいです。そのために、銀行の種類別の特色を知っておきましょう。
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この記事の目次
銀行の大まかな種類
銀行は経営規模や成り立ちなどによって様々に分類されます。
ここでは多くの人が利用するメガバンクと地方銀行、そして起業家や法人にとって重要な信託銀行について、起業家の視点で見ていきます。
最初に、各銀行の定義について確認しましょう。
1.メガバンク
メガバンクを端的に言えば「営業範囲が全国に及ぶ規模の大きい銀行」です。経営規模や収益額に明確な定義はありませんが、一般には次の3つを3メガ銀行と呼びます。
- みずほフィナンシャルグループ:みずほ銀行やみずほ信託銀行を有する
- 三菱UFJフィナンシャルグループ:三菱UFJ銀行や、三菱UFJ信託銀行を有する
- 三井住友フィナンシャルグループ:三井住友銀行やSMBC信託銀行を有する
メガバンクは規模が大きく業務の幅が広いですが、各グループの銀行業務そのものに大きな差はありません。また、他の普通銀行と同じく根拠法は銀行法です。
2.地方銀行
地方銀行は各都道府県に本店を置き、特定地域で営業活動をしている普通銀行です。特定の地域経済への寄与・発展を目的としている点が特徴です。
また、地方銀行は大きく「第一地方銀行」と「第二地方銀行」があります。成り立ちが若干異なりますが、業務内容に大きな違いはありません。
現在第一地方銀行は「全国地方銀行協会」に、第二地方銀行は「第二地方銀行協会」にそれぞれ加盟しています。
3.信託銀行
信託銀行の設立法は銀行法ですが、「兼営法(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律)」で認可を受けて業務を行っています。
信託銀行では、預金や貸付けといった「銀行業務」のほかに次のような業務を行っています。
個人や法人が持つ財産を「信託」という制度を用いて管理・運用すること
財産には金銭、有価証券、不動産などがある
財産の管理・処分等に関連する様々な業務がある
例えば遺言書の保管や遺言の執行など相続に関わる業務や、企業の株主名簿を管理する証券代行業務、不動産の仲介など
上記のような業務ができる銀行のことを「信託兼営金融機関」と呼びます。
なお、信託に関する業務ができる銀行でも、商号中に「信託」を入れる法律の定めはありません。そのため、信託銀行と名乗っていない通常の銀行でも信託業務を行っていることがあります。ただし通常の銀行では一部取り扱いのない業務があるので確認しましょう。
4.ネット銀行
インターネット銀行、すなわちネット銀行とは対面の実店舗を持たず、インターネット上でサービスを提供している銀行です。明細の照会も振り込みも、インターネット上で行うことが可能です。
なお、実際に現金を出入金する際は、コンビニや提携銀行のATMを利用します。
メガバンクの特徴や注意点
メガバンクといえば、全国に支店を構えるなど、営業地域の広さが特徴です。海外拠点も多く、まさにグローバル企業といえます。また、メガバンクは預金や振込にとどまらず、外貨両替、外国送金など幅広い業務を行っています。
投資信託や外貨預金など、金融商品の取り扱いはもちろん、法人顧客に対するサービスも様々なものがあります。例えばITを活用して売掛金の回収や経費精算をスムーズにするサービスや、事業承継やM&Aなど、専門的な知識が必要な問題についてアドバイスを受けられるサービスなどがあります。
メガバンクの顧客である事実は自社の信用力も高めるでしょう。メガバンクを主要銀行とすることで取引先からの評価が上がる可能性もあります。
メガバンクの注意点
メガバンクはサービスの規模が大きく、グレードも高いため、中小企業やスタートアップ企業とっては身の丈に合わない内容であることもあります。充実したサービスだったとしても利用者の需要と合っていなければ、その価値を生かすことはできません。
なおメガバンクといえども、近年台頭している金融と技術を組み合わせた新しいサービスの影響を受けています。金融(ファイナンス)と技術(テクノロジー)から「フィンテック」と呼ばれるサービスは、スマートフォンによるモバイル決済や、AIによる投資アドバイザーなど日々進化しています。
現在はメガバンクの営業地域は全国を網羅していますが、フィンテックの台頭により「営業地域が広い」という強みは、メリットが薄れるかもしれません。ただし今後はフィンテックとの共存、もしくは逆風により新たなサービスや商品が生み出されることも期待できます。
起業家とメガバンク
メガバンクは規模が大きいゆえに、中小企業やスタートアップ企業にとってはサービスが使いづらいこともあるかもしれません。しかし、将来的に全国的・国際的な事業を展開するならば、早い段階で顧客になっておくのも有効です。
現状に合わせることは重要ですが、2年後3年後も見据えて利用を検討することをおすすめします。
地方銀行の特徴や注意点
地方銀行は、本店のある都道府県内が主な営業地域です。地域性が高いため「横浜銀行」「千葉銀行」のように、地名を銀行名としているケースも多いです。
メガバンクと比較すると、営業地域が広いとは言えず、提供するサービスのボリュームも小さいと言えるでしょう。しかしサービスを絞った分、ひとつひとつの対応がきめ細やかな傾向にあります。
例えば横浜銀行の公式サイトにおける、法人ページのタイトルは「法人・個人事業主のお客様」となっています。法人化していない個人事業主も受け入れる姿勢が前面に出ています。
地方銀行は地域産業の活性化も経営目的に含まれるため、創業やベンチャー支援が手厚いです。
資金を受ける場合も、事業規模や経営状態に応じて小口の融資に応じてくれます。創業間もない起業者にとっても安心して相談に行ける存在です。
地方銀行の注意点
事業規模や経営状態に応じて丁寧なサービスが期待できますが、もともメガバンクと比較すると、経営基盤は盤石ではありません。
長期化する低金利やフィンテックの台頭により、経営基盤が安定していない地方銀行があるのは否定できません。念のため取引前に、経営状態を事前に調べておきましょう。
一般社団法人全国地方銀行協会の『地方銀行の決算の状況』では第一地方銀行の資本金や自己資本比率を確認することができます。各銀行の公式サイトから決算情報を閲覧することが可能です。
起業家と地方銀行
その地域で長く事業を行うなら、地方銀行は良いパートナーになってくれるはずです。構想がしっかりしていれば、起業前の段階でも相談に乗ってくれるでしょう。その際は銀行経営が安定しているか見極めてから利用します。
信託銀行の特徴や注意点
信託銀行の業務については、個人向けの「資産形成」や「相続」といった業務をイメージする人が多いでしょう。しかしそれ以外も幅広いサービスを扱っています。一見すると個人向けのサービスでも、起業家にも活用できるものがありますので、いくつかご紹介します。
死亡時の死亡保険金について託すものです。死亡保険金を家族に遺すだけでなく、社会経営のために遺すことも可能です。
遺言書の作成、遺言書の保管、そして遺言の執行まで、相続に関する手続きを幅広くサポートする業務です。起業家にとっては、自社株を生前指定した後継者に相続させることができる「遺言代用信託」も注目のサービスでしょう。
企業に属していない起業家は、自身による老後資金の準備がより重要です。また、家族のいる起業家にとっては自身に万が一のことがあった場合の備えも大切です。
家族を守り、事業継続の道のりを準備できる「遺言信託」や「生命保険信託」は、利用するメリットがありそうです。
また、法人向けのサービスは、従業員に対する年金や財産形成、法人自身の資金調達・資産運用など、多岐にわたります。
従業員向けには定年退職後の生活を守ることができる「年金信託」や、従業員の勤労意欲を鼓舞するとされる「自社株発行」があります。
そのほか、信託銀行の業務サービスとしては、不動産を証券化して売却することで資金を得る「資産流動化の信託」や、敵対的買収を防止できる「信託型ライツプラン」などがあります。
信託銀行の注意点
信託銀行には一般的な銀行とは異なる多くのサービスあります。普段は目にしないメニューですので耳慣れないものが多いかもしれません。信託銀行によっても詳細が異なりますので、手数料や仕組みをよく理解したうえで判断しましょう。
なお、支店数がそれほど多くないため、店舗所在地やインターネットサービスの内容が充実しているかなども確認しておくと良いです。
起業家と信託銀行
信託銀行は通常の銀行業務とは一味違ったサービスを提供しています。魅力的なものが多いですが、どれも長く続けていくことが前提のサービスです。事業もしくは個人として、長期的に利用できるか慎重に見極めます。「将来的に法人のサービスを活用したいが今は時期尚早」といった場合は、個人で利用して時期を見て法人口座を開設してもいいでしょう。
ネット銀行の特徴や注意点
ネット銀行の特徴はコストパフォーマンスの良さとスピーディな対応です。実店舗がない分、賃料や人件費のコストダウンがはかられるため、「手数料が安い」「預入金利が実店舗のある銀行よりも高い」といった傾向を持ちます。
また、法人の口座開設もインターネット上で完結します。実店舗のある銀行でも、口座開設インターネット上で申し込める場合がありますが、原則的な申し込み方法はありません。また一般的に口座開設では、メガバンクは審査が厳しく、ネット銀行のほうがハードルは低いとされています。
なお、実店舗のある銀行も、インターネット上で明細の照会や振り込みができますが、それは「インターネットバンキング」と呼ばれるサービスの一種です。実店舗をもつ銀行は、従来型のサービスにインターネット上でのサービスを上乗せして提供していますが、ネット銀行は、インターネットバンキングを専業業務として行っています。
ネット銀行の注意点
取引先銀行のネームバリューを重視している場合には不向きです。また、アドバイザーとしての役割は求めにくいでしょう。
ネット銀行は融資もインターネット上で完結しますので、「融資に関しては借入額や返済プランを担当者と相談しながら進めたい」と考える人は実店舗のある銀行が適しています。
さらに、サービスの幅もメガバンクや地方銀行、信託銀行と比較すると少なくなります。
ネット銀行と起業家
ネット銀行は低い手数料で高い利便性を有していますが、その分サービスが厳選されています。担当者と対面で話すことはできませんし、サービスもニーズの高い「融資」やお金の「移動」に限られています。
特徴がはっきりしていますので、利用できるところは最大限利用し、不足する部分は他の銀行で補うなど、メリハリをつけて付き合っていくといいでしょう。
ニーズに合った銀行を選ぶことで、事業がスムーズに
銀行によって特徴が異なりますので、事業や目的に沿った銀行を選ぶことが大切です。
ポイントは、長期的な視野で自社のニーズを考えることです。最初は創業融資が主な目的だとしても、今後事業を拡大するならば、その後のニーズにも対応できる銀行が必要だからです。
成長に応じたサポートを受けることで、事業拡大もスムーズに行えるはずです。今後の展望も踏まえて適した銀行を選びましょう。
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(編集:創業手帳編集部)