社労士が必要になるタイミングは?どんな時に顧問は必要?社労士にも得意分野がある?
自社に合った顧問社労士を探す時のチェックポイントや社労士のメリット・デメリットを詳しく解説
(2020/06/12更新)
税理士と違って社労士はいつどのような役割でお願いすればいいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。
顧問社労士は労務管理から書類作成に至る実務だけでなく、労働コンサルティングもおこなってくれます。創業者や社員の実務負担を軽くしてくれるだけでなく、アドバイザーとして専門家の意見をいつでも聞くことができるため大変心強い存在です。
そんな顧問社労士選びには、タイミングやコツがあるのをご存じですか。
社労士が担う役割と顧問社労士の必要性やつけるタイミング、メリット・デメリットについて詳しく見ていきます。
創業手帳では、創業期から企業の成長段階に応じて生じてくる様々な悩みや問題についての相談窓口を設けています。社労士をはじめ、税理士、弁護士などの専門家紹介も行っておりますのでお気軽にご相談ください。
この記事の目次
社労士って具体的には何をしてくれるの?社労士の役割とは
まずは、社労士の役割について確認していきましょう。大きく分けて、2つの役割があります。
書類作成、提出代行、事務処理
行政機関へ提出する書類を作成したり、期限をチェックして窓口やオンライン経由で実際の提出を行ったり、それらに伴う事務処理を代行してくれます。
従業員の入社に伴う社会保険手続きの他、退職に伴う離職票の発行、産前産後休暇・育児休業取得者の手当金申請、ハローワークや独立行政法人への助成金申請など、その内容は多岐に渡ります。
手続きの内容が専門的であり、提出書類のフォーマットや申請ルールもバラバラであるため、この部分を委託することができればかなり社内負担を軽減することができるでしょう。
コンサルティング、アドバイス
人事や労務問題に関するコンサルティングやアドバイスもしてくれます。就業規則など各種社内ルールの改定・整備、従業員との労働トラブル、組合やユニオンとの折衝などにおいて、専門家の意見を反映させることが可能です。
これらに対応するためには、労働基準法など年々改定されていく法律や規則を十分理解しておく必要があり、知識の更新にリソースを割かねばなりません。元々ノウハウを持っている社労士に依頼することで、問題解決しやすいと言えるでしょう。
社労士をつけるタイミング
創業時から顧問社労士をつけていれば、給与計算や細かい労務管理を行ってくれるため大変助かります。しかし、中小企業において創業時から顧問社労士をつけているケースは多くありません。そのため、どのタイミングで社労士をつけるのかという問題が生じてきます。
社労士をつけることを検討するタイミングとしては、従業員を新たに雇う時や事業拡大時がオススメです。
従業員が10人以下である場合は就業規則の作成が義務ではないため、あえて作成していないという会社もあるでしょう。しかし、従業員数が10人を超えるようになってくると、就業規則の作成が欠かせません。就業規則の作成をするためには人事・労務問題について十分理解した上で専門的な法律についての知識も組み込まねばならず、専門家に任せるのが一番効率的だと言えます。
社労士をつけて万全の就業規則を整えることにより、従業員とのトラブルを未然に防ぐことができるだけではなく、社長や総務・人事部の時間を削減することも繋がります。
また、雇用時に検討できるキャリアアップ助成金や事業拡大に伴うIT導入補助金の申請手続きなど、助成金申請をお願いするタイミングで社労士に依頼し、顧問契約するかどうか検討するのもいいでしょう。
顧問社労士を検討する際は、お願いしたい役割に対応可能か、どの分野に強い社労士なのか、追加業務や追加料金などの契約内容はどうなっているのかなどをしっかりと確認する必要があります。
一言で社労士といっても、依頼費用も違いますし、得意分野や引き受けられる役割も違います。自社にとって、コンサルも含めた相談役として顧問社労士が必要なのか、就業規則の作成や助成金の申請を都度お願いしたいだけなのか、求める役割を考えて社労士を探すといいでしょう。
社労士をつけるメリットと顧問社労士だからこそのメリット
社労士をつけるメリットと、顧問社労士だからこそのメリットに分けてみていきます。
社労士をつけるメリット
書類作成、提出代行、事務処理などの実務を代行してもらうことで大きな負担軽減になります。
年金や社会保険手続き等の労務関係を全て任せられるので、自身のリソースが浮く
定期的に発生する、年金や社会保険にまつわる労務手続きの全てを社労士に依頼することができるため、従業員が本業に割く時間を増やすことができます。
特に、現在これらの手続きを行っているのが社長や専務など役職のある人である場合、事務手続きを外注することによって浮かせることができるリソースは大きいでしょう。
会社ごとに合わせた提案、書類作成が可能
各種行政機関への提出書類は、会社の規模・業種・申請先によってフォーマットが異なることも多いものです。そのため、1から自分で調べて書類を作成し、提出し、申請完了まで管理していくのはかなりの労力を要します。
この部分を委託することができれば、事務に割く時間を減らすことができるでしょう。
助成金の相談、申請依頼が可能
自社で利用できる助成金があれば、必要書類を渡すことで申請書類の作成から申請手続きまで行ってくれます。助成金の申請は該当要件が細かく指定されており、事前申請が必要なものも多いため、書類のミスや段取りのミスで対象外になることもあります。その点、社労士に指定された必要書類のみ渡していれば間違いないので安心です。
上記3点に追加できる顧問社労士をつけることのメリット
実務負担の軽減に欠かせない社労士ですが、社労士と顧問社労士の違いがわからない方もいるのではないでしょうか。顧問契約をすると労務関連のコンサルティングやアドバイスをおこなってくれます。常に社内の状況を共有することで安心感があるだけでなく、迅速な対応が可能となります。
雇用関係のトラブルを予防することができる
社長や管理者を悩ませる問題の1つに、雇用関係のトラブルが挙げられます。特に従業員とのトラブルが発生した場合、従業員本人の処遇や今後の会社が取るべき行動についてなど、悩むことも多くなっていくでしょう。
こうしたトラブルに詳しいのも、社労士の特徴です。事前に社労士に相談しておくことで、十分に対策をした就業規則の作成や社内規定を作ることができますので、トラブル防止としてもメリットがあります。
トラブルがあった際に、すぐに相談できる
行政機関や従業員とのトラブルが発生した際、専門の第三者機関を挟んで対応するとなると、場合によっては待ち時間が発生したり上手くコミュニケーションが取れなかったりすることも出てきます。
顧問社労士をつけることにより、いつもやり取りしている専門家にすぐ相談できるという安心感を得られます。万が一トラブルが起きた時のことも考えて、リスクヘッジをしておくのもよいでしょう。
助成金の相談、申請依頼ができる
ハローワークや独立行政法人など、企業に対する助成金制度を設けている機関は多いものです。しかし、助成金制度の存在そのものを知る人は少ないのではないでしょうか。知らなければ申請することもできませんし、後になって気づいても提出期限が過ぎていて申請できなかったということも多々あります。
顧問社労士として契約し、社内の雇用状況などを熟知してもらっていれば、
自社が対象となる助成金制度をしっかりと抑えて、期限を逃さず申請してもらえます。社労士に支払う代金がコストとするならば、その何倍もの金額が助成金として入ってくるため、会社が得る金銭的なメリットも発生します。
社労士をつけるデメリット
反対に、社労士をつけることのデメリットについてもみていきましょう。
費用がかかる
当然、社労士をつける際には費用が発生します。自社で全てやる場合の人件費と、社労士に支払う費用とを比較した上で決定しましょう。
依頼する業務を明確化していないと、ミスマッチが起こる
社労士をつける場合は、依頼する業務について明確にしておくことが重要です。こちらは事務手続きから労働コンサルティングまで全て依頼するつもりで契約締結したにも関わらず、実は後々労働コンサルティングをするには別料金が必要だった、というケースもあるようです。
契約の際に依頼する業務を全てリストアップして書面に記載しておくなど、事前に対応しておくのがよいでしょう。
顧問社労士をつける際の注意点と平均相場
労務管理からコンサルティングまですべてお願いして、いつでも相談できるような顧問社労士をつけたいという場合の社労士探しのポイントと一般的な顧問社労士の相場を見ていきます。
顧問社労士の平均相場
顧問社労士に支払う金額は、自社の従業員数で変動するのが一般的です。
・従業員数5名以下の場合:1~2万円
・従業員数10名以下の場合:2~3万円
・従業員数20名以下の場合:4万円前後
・従業員数30名以下の場合:5万円前後
上記のように、人数によって相場が変わるということを念頭に入れておきましょう。事前に見積もりを出してもらうことで比較することも可能です。
顧問社労士と契約を結ぶ際の注意点
顧問社労士と契約を結ぶ前に、必ずチェックしておきたい注意点について見ていきます。複数の社労士を比較する場合にも押さえておきたいポイントです。
依頼する業務の範囲を明確にする
顧問社労士に依頼するのは各種手続きの代行だけなのか、それとも従業員とのトラブルや助成金申請についても依頼をするのかなど、依頼する業務の範囲を明確にしておきましょう。社労士によっては、労働トラブルには詳しくないから対応しない、助成金申請も依頼する場合は別料金がかかる、というような場合もあります。
どこまで依頼をしたいのか、依頼する業務によって料金が変わるのか、というポイントを抑えてから契約するようにしておきましょう。
連絡の取りやすさをチェックしておく
社労士に依頼する業務の中には、特に急ぎの要件も出てきます。定期的に行われる各種保険関係の手続きや助成金手続きであれば事前に締め切りを把握しておくことが可能ですが、従業員とのトラブルが発生した場合には、すぐに連絡を取り合いたいというシーンもあるでしょう。
こうした時に連絡が取りにくかったり、法律や規定を調べるのに時間がかかったりする社労士であると、いざという時に連携が取りにくくなります。
連絡の取りやすさやレスポンスの速さについてもチェックしておくのがよさそうです。
最新のオンラインシステムなどに対応しているかをチェックしておく
ハローワークや年金事務所など、各種行政機関に対する書類提出にも電子化の風潮が高まりつつあります。急ぎの手続きや一部書類不備などで差し戻し対応をする上では電子申請をするのが一番タイムラグを少なくできます。また、記入漏れがあると提出できない、期限が近くなるとアラートを鳴らしてくれる、などのオプション機能もあるため、人為的なミスが起こりにくいのもメリットです。
これから契約を結ぶ顧問社労士が、これらのオンラインシステムに対応しているかどうかもチェックしておきましょう。
現役の社労士からアドバイス!
社労士をつけるタイミングについて、ポライト社会保険労務士法人 マネージング・パートナー 榊 裕葵氏にポイントを聞きました。
東京都立大学法学部卒業。2011年、社会保険労務士登録。上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、ベンチャー企業に対しては、忙しい経営者様が安心して本業に集中できるよう、提案型の顧問社労士としてバックオフィスの包括的なサポートを行っている。創業手帳ほか大手ウェブメディアに人気コラムの寄稿多数。「日本一わかりやすい HRテクノロジー活用の教科書」(日本法令)を2019年上梓。
榊:ほとんどの起業家の方が、起業と同時に顧問税理士を付けると思います。
しかし、社労士については、顧問契約をするタイミングや、そもそも顧問契約が必要かどうか、ということで迷っている起業家の方も少なくないようです。
社労士は人事労務の専門家ですが、対応できる業務や得意分野は幅広いので、「何となく顧問契約をする」ではなく、自社のニーズに合わせて契約をすることが重要です。
人事労務手続や給与計算のアウトソーシングをしたいということであれば、顧問料の安い社労士や、システマチックで合理的な対応をしてくれる社労士法人が良いでしょう。
給与計算のような定期業務は社内で対応できていて、単発的に複雑な手続や就業規則の作成を依頼したい場合がある、ということであれば、そもそも顧問契約は必要なく、都度、スポットで契約をするという形でも間に合います。
逆に、社労士に相談しながら二人三脚で会社の労務管理を整えていきたい、ということであれば、顧問料の高い安いだけでなく、社労士の能力や人柄を重視して顧問契約をすべきでしょう。
一般的な労務相談だけでなく、業界特有の事情を踏まえた深い相談をしたい場合は、「美容室専門」「IT業界専門」というように、特定の業界に特化している社労士と顧問契約をするのがお勧めです。
あるいは、「積極的に助成金に取り組んでいきたい」というように、会社に明確な目標があるならば、助成金に強い社労士と顧問契約をする、というように、業務特化型の社労士と顧問契約する方法もあります。
社労士業界でも分業や専門特化が進んできていますので、労務コンサルはA先生、助成金はB先生というように、ニーズに応じて、複数の社労士を使い分けていく、という考え方も、今後は珍しいものではなくなってくるかもしれません。
いずれにしましても、「何となく社労士と顧問契約をする」ではなく、自社のニーズを明確にして、そのニーズに合った社労士と契約をすることが重要、ということです。
まとめ
顧問社労士を依頼する上で特に考えておきたいのは、依頼することによりどれだけ自社のリソースを増やすことができるか、という点にあります。1000人の会社で1人の社員が持つ影響力と、5人の会社で1人の社員が持つ影響力は全く違ってきます。
社員数が少ない会社であればある程、本業に集中する時間を確保したり後々発生するトラブルを防いだりするためにも、労務周りの体制を万全に整えておく必要があるでしょう。
特に近年、雇用形態が多様化しています。働き方改革が施行されたり労働基準法が随時改定されたりするなど、働く人の権利に着目した動きもみられるようになってきました。こうした時代だからこそ、いざという時に相談できるプロフェッショナルを味方につけておくとよさそうです。
創業手帳では、起業家のガイドブックとして創業手帳冊子版を発行しています。専門家紹介や創業期に役立つ情報を発信していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
(編集:創業手帳編集部)