新型コロナで大打撃のイベント業界 奮闘する経営者に、経営維持のポイントや、今後の展望を聞いた
株式会社トライフルの久野華子代表に、イベント業界の今後についてインタビューしました
(2020/04/28更新)
新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の影響で、特に大打撃を受けているのが、イベント業界です。国内外で、予定されていたさまざまイベントが相次いで中止となり、資金繰りや雇用の維持に大きな課題を抱える企業が少なくありません。新型コロナが収束する見通しも立っておらず、業界全体への影響は計り知れません。
そんな中、イベント・展示会への外国語人材派遣を展開している株式会社トライフルは、スタッフの雇用や、経営を維持するために奮闘しています。代表の久野華子氏に、いまイベント業界でどんなことが起きているのか、現在展開している事業維持の施策や、新型コロナで明るみになった業界の課題などについて、リアルな話を聞きました。
1988年、大阪生まれ。新卒で入社した株式会社ニッセンにてモバイルサイトのマーケッターを経験。退職後、約1年間バックパッカーで40カ国を巡る世界旅行をする。旅行中に発展途上国で、生まれた環境による格差を目の当たりにしたことから、2017年1月「誰もが自分らしく働ける社会を作りたい」という理念を掲げ、外国語対応人材の派遣と紹介を行う株式会社トライフルを創業。代表取締役を務める。 トライフルでは創業から3年で20カ国/1600名の登録者を抱え、東京モーターショーをはじめとした主要展示会にて、大使館や官公庁など200社以上のクライアントに採択されている。
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この記事の目次
新型コロナの拡大によって、事業にどんな影響が起きたのか
久野:日本と世界38カ国で、イベントや展示会を中心に、外国語を話せる人材の派遣・紹介をする事業を展開しています。派遣するスタッフは通訳やイベントスタッフなど、紹介するスタッフは免税店の販売員や海外営業、語学講師といった職種に携わっています。派遣や紹介の際の成約手数料で収益化するビジネスモデルです。
久野:新型コロナが発生した直後、2020年1月の後半から2月の前半にかけて、海外展示会や、インバウンド系のプロモーションが一部中止になりました。しかし、国内のほとんどのイベントは続行されていました。
その後、クルーズ船での集団感染が報道された頃から国内の感染者が増え始めると、国内のイベント・展示会の中止が相次いで発表されました。一方で、この時点でまだイベントの決行を試みる主催者もいて、弊社としては人材の感染対策や、出動の判断に悩むことが増えました。
感染者が世界規模で増えた現在では、すべてのイベント・プロモーション・展示会が中止となりました。いま、弊社は営業資料のブラッシュアップや、人材紹介事業のみ行っています。人材紹介の採用面接については、ビデオや電話面接で対応し、収束後に本採用を行う、という企業様がほとんどです。
人材派遣事業については、コロナ収束後を見据えた、秋以降の展示会やイベントのお問い合わせが続々と入ってきておりますが、予定通り開催されるかどうかについてはまだ微妙なところです。
クラウドファンディングや署名活動で、業界の現状を知ってもらう機会が広がった
久野:現在は、イベントに関わる多くの企業で経済活動が止まってしまっている状態です。オンラインでできる、登録キャストによる語学レッスンなど、新しい取り組みもいくつか行いましたが、オンラインではサービスが無料や格安で提供されるのが常識になっており、なかなかリアルのイベントと同じようにマネタイズすることは難しいと感じています。
初の試みとして行った、クラウドファンディングとイベント業界に補償を求める署名活動については、一定以上の成果がありました。
クラウドファンディングは、新型コロナの影響で仕事を失ったスタッフにお見舞い金を支払うために募りました。多くの方に支援いただき、計100万円以上の調達を達成しました。
署名活動は、国に対して、コロナウイルスで仕事を失ったイベント業界関係者に休業補償を求めるもので、1900件以上の署名が集まり、先日参議院財政金融委員会でも取り上げられました。
たくさんの方から、イベント業界に対してのあたたかいお言葉とご支援をいただき、本当に感謝しております。イベント・展示会産業というのは、来場者として参加される方は多いものの、サプライヤーはB to Bの産業ですので、一般の方に実態を知っていただく機会はなかなかありませんでした。クラウドファンディングや署名活動をきっかけに、イベント業界で今起きている課題や、イベント業界に携わるフリーランスへの認知・理解が進んだと考えています。
今後の見通しについてですが、大規模イベントの再開は、準備の関係もあり、最短でも2020年秋までは難しいと予測しています。これに加え、オリンピック延期の影響で展示会場が使えなくなるという点も頭が痛いです。
一方で、企業の販促プロモーションや展示会出展への関心については、逆に需要が高まっていると感じております。収束後には、展示会出展への助成金交付も予定されており、小規模な販促プロモーションから始まり、小規模な商談会、大型展示会や大型イベントと再開されるでしょう。
新型コロナの影響でイベントが開催できなかった分、収束後は例年よりも多くの需要が見込めるのではと予想しております。この需要に対応すべく、弊社では準備を進めております。
久野:資金繰りと雇用については、セーフティーネットや助成金をうまく活用して、弊社で雇用しているスタッフについては、全員の雇用を守り、解雇はしない方針です。また、フリーランスで契約しているキャスト(通訳者・イベントスタッフ等)については助成金の申請方法などを細かくアナウンスして、廃業を防ぐべく奮闘しております。
イベント業界全体の課題と、今後起きる変化について
久野:今回、新型コロナでイベントや展示会が中止になったことで、
- 感染症が興行中止保険の補償対象外であること
- 中止の明確な判断基準がないこと
- 業界で契約書を交わす文化が無いこと
という3つのポイントが、業界全体の大きな問題として明るみになりました。
イベントが中止になった際の損害を保証する興行中止保険では、今回のような感染症による中止は適用外です。そのため、会場のキャンセル料などは基本的に主催者が負担することになります。これが、多くの企業に打撃を与えています。
イベント中止の基準が明確に設定されないまま、自粛が叫ばれたことで、主催者の方から「開催するか決行するか」の判断に迷ったという声も多く聞きました。出展料や参加費についても、東京マラソンのように返金しないイベントもあれば、全額返金対応を取るところもあり、対応にばらつきがあります。
そして、日本のイベント業界では、案件ごとに契約書を交わさないことが多く、キャンセル料の規定などについて、しっかり話し合わないまま仕事が進んでいくケースが多々あります。この体制も、今回のコロナショックでトラブルの要因となっています。
久野:新型コロナの経験を経て、感染症にも対応できるようなイベント保険の実装や、契約書締結の徹底、業界としてのキャンセル規定の統一が求められることになると思います。これまでは、イベント業界ではあまり重視されてこなかった領域ですが、今後は対応が必須になってくるでしょう。
またオンラインでのウエビナーやイベント開催についても、今回のコロナショックで初めて対応した企業がほとんどで、多くの企業がマネタイズまで持っていけていない状況です。今後は、オンラインのイベントでどうマネタイズするのか、また動画のライブ配信に関わる規約(肖像権や参加方法など)といった、「リアルのイベントとのシナジー」について議論が進んでいくと思います。
久野:いまは誰もが苦しく、先も見えない状況で、どの会社の経営者も厳しい判断を迫られていると思います。ですが、明けない夜はないですし、いいものは無くなりません。弊社も「収束後に残ったものは、コロナショック以前よりも価値が高まるのだ」という気持ちで、ひたすら耐え忍んでおります。
いまできることをひとつずつ確実にこなし、助けあいながら収束を待ちましょう。もし何かコラボレーションできることや、弊社が社会のためにできることがあればお気軽にお問い合わせください。
(取材協力:
株式会社トライフル/久野 華子代表取締役)
(編集: 創業手帳編集部)