創業者とSNSの距離感。どのように付き合うべきなのか
令和時代、起業家が行うべき情報発信について
(2020/01/17更新)
ビジネスを起業し、創業者になりたいと考えたとき、いまは「小さく試す」の時代です。以前なら創業にあたり、オフィスを構えてデスクや備品を準備していたものが、リモートワークのツールや法整備が進み、IT化の流れの中で、コンパクトに起業できるようになったのです。
「小さく試す」はマーケティング費にも同様のことがいえます。つまり、いまはソーシャルメディア(SNS)を創業者自らが動かし、発信し、共感を得て、売上につなげられるのです。SNSを通じ、売上の初速が出るのであれば、創業者にとってこれほど心強いものはありません。
結論からいうと、SNSで発信するには「慎重かつ大胆に攻める」が大切です。今回は、創業者とSNSの距離感をみていきます。
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この記事の目次
下剋上が可能になった時代
「人類史上はじめて、中小企業や個人事業主が、大企業から発信される情報に太刀打ちできる時代がやってきたのです」
(出典:「僕らはSNSでものを買う」飯高悠太著/出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)
とは、株式会社ホットリンク執行役員CMO飯髙悠太の言葉です。創業時は誰もが個人事業主や中小・零細企業からスタートします。これまでは、資本のある大企業が多くのマーケティング費用を投じて、広告費を莫大にかけてものを売っていた時代でした。しかし、それらは終わりを告げ、下剋上が可能になったと著者の飯高さんはいいます。同時に
「本当にいい商品やサービスが評価され、購買される時代がやってきた」
(出典:「僕らはSNSでものを買う」飯高悠太著/出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)
ということでもあるのです。
本当にいい商品やサービスを作れば、勝手に売れていく。これまでは、そうしたものづくり神話は本当に神話だと思われていました。しかし、勝手に売れるのではなく、同著では「ULSSAS(ウルサス)」というSNS時代における行動購買プロセスによって、口コミが広まり、商品やサービスは売れていくとされています。
創業者は創業前からSNSをはじめよう
創業者は、創業前からSNSをはじめるのが理想です。ビジネスパーソンですとたいていFacebookアカウントは持っていると思われますが、身内の報告をしたり、昇進や起業の報告をしたりなど、生活面での変化があったときに投稿し、「いいね」を得る程度で、本腰をいれてSNSを運用するということはしてないのではないでしょうか。
ここで、ビジネスに使えるSNSとして、インスタグラム(インスタ)とTwitterがあります。インスタは写真や動画を中心としてつながるもので、Twitterは逆に短文で思考の断片でつながるSNSです。
どちらがよいかは、創業者自身が、写真とテキストのどちらを身近に感じているかで良いと思います。もともと運用しているFacebookにて、写真に「いいね」が多ければインスタを、文章に「いいね」が多ければTwitterを、といった目安にしてみるといいかもしれません。
インスタでは、いかにタグを検索してもらえるかを意識して投稿することとなります。
一方のTwitterは、リツイート機能があり、他者に投稿を流してもらう事により、発信したことに対して共感を得たり、情報をアピールできますので、そうしたリツイートを狙って、応援してもらえる投稿を心がけることとなります。
創業時からSNSをはじめるメリット
「まだプロダクトもできていないのに、SNSで宣伝しても…」
と思われるかもしれません。しかし逆の立場にたって考えてみると、SNSで普段から目にして好感を持っている人が起業して新しいサービスを作ったとき、応援したくなるのではないでしょうか。このような気持ちを心理学用語で「単純接触効果」といいます。他者からの、サービスや創業者の認知が高まれば高まるほど、愛着を持ってみてくれますし、その中の何名かは、最初のお客さんにすらなってくれるのです。
「創業する」という選択をとること。いまや起業のハードルは低くなりました。起業のアイデアだけを持って悶々とし、「これはきっと当たるはず」と密かに考えている人は非常に多いため、アイデアを出すことにはそれほど価値はなく、実際にそのアイデアをもって創業にまでこぎつけた行動に価値がある、そんな時代になってきています。なので、その姿を発信し応援を得ていくことが売上向上にきっとつながっていきます。
あなたは誰か?を伝える
「いまさら発信しても、後発だからおそい」
「フォロワーの増やし方がわからない」
多くの創業者がSNSで発信しています。今更自分が、と思うかもしれません。しかし、SNS人口は増え続けていますし、SNS間の移動も起こりえますから、いつだって発信は遅くありません。
そして、フォロワーの増やし方ですが、最初のステップとしてはプロフィールです。あなたは何者か。どんな過去を持って起業し、どんな創業をしたくて、未来にどのようなビジョンを描いているか。そのようなことを書くだけでいいのです。年商や年収は不要ですし、「かけだしの社長です」や「ダメなプロダクトですが」といった自分を卑下する言葉も不要です。
創業者はSNSで何を発信すべきか
では、創業者はSNSで何を発信すべきでしょうか。今日食べたランチの話でもいいですが、できればビジネス的な内容、それも最初の顧客に向けた発信が望ましいです。
「相手を限定するほど届きやすい」
(出典:「共感SNS 丸く尖る発信で仕事を創る」ゆうこす著/出版:幻冬舎)
という解説もあります。SNSのターゲットを、最初の顧客に絞って、たった1人のために発信することが重要です。
たとえば、洋服をたくさん持っている人と、センスを持て余している人のマッチングサイトをつくるとします。ビジネスのターゲットを「23歳の女性。自宅で時間を持て余して毎日ユニクロのサイトをみている」ような人に定めるとしましょう。そして、その女性に向けて、情報を具体的に発信していきます。
上記で挙げた洋服とセンスのマッチングサービスの機能として
●なんとか活用したいと考えている大量の洋服
●コーディネーターから提案された着こなし
●新規の小物やアイテムを購入
●古着を販売するリセール
などがあるとします。
すると、創業者がSNSで発信すべきは
●時間を持て余している若い女性向けに
●空き時間をお金に替えたいが、やり方がわからない
●コーディネートを提案して、月1万円稼ぐ
などのノウハウを発信していきます。
このように、ひとりの人に向けて、極めて限定的な発信で構わないのです。
たったひとり、特定の個人に向けた発信では、他の人が置き去りになると思われるかもしれません。しかし、そうではなく、特定の個人に向けた発信のほうが刺さるのです。反対に、大勢に向けた発信のほうが刺さりません。
これは例を挙げると、結婚式の花嫁さんの手紙を考えるとわかりやすいです。花嫁から父親への手紙は、たった1人、ただ1人の父親に向けて書かれたものです。そうでありながら、非常に大勢の心を震わせます。結婚式の手紙を花嫁さんが読み、それが招待客の多くを感動させるのは、それがたった1人に向けた手紙だからです。
一方で、全生徒に向けて発信する、学校の校長先生の話は長くてつまらないと子供には映ります。正確には、大人もつまらないですよね。それは、広く一般に、大勢の人に向けて当たり障りのない話をしているから、刺さらないのです。
よって、目指すべきは、たったひとりのために発信しているのにも関わらず、大勢に涙を流させる「花嫁の手紙」だと考えられます。
創業者とSNSとの距離感
「炎上するのが怖い」
「否定的な意見を見るのがつらい」
そういう気持ちになるのはわかります。しかし、これからビジネスを立ち上げるにあたって、もはやSNS上の口コミは避けて通れません。反対に、ネガティブな口コミは多少はあったほうがビジネスを加速してくれます。
では、創業者が炎上するケースはどのような事情があるのでしょうか。もちろん、違法行為はご法度なのですが、気をつけるべきは過去の違法行為の自慢なども、ネットでは一発アウトです。
しかし近年のSNSでの炎上を見ると、ビジネスモデルや倫理観というよりは、条件が揃って発火しています。
●クリーンなイメージを出しすぎて期待値が高い
●苦しみに共感される被害者が存在する
●ムラ社会の内部を公開する
以下、解説していきます。
クリーンなイメージを出しすぎて期待値が高い
たとえば、「手作りごはんの温かみ」「貧しいけれど頑張っている人を支援」などのミッションでビジネスを売っている場合。企業そのものがクリーンなイメージを持っていると、顧客の期待値が過剰に上がります。toBの仕事であれば、営業職の方が期待値コントロールを行いますが、それをtoCのビジネスでも期待を過剰に上げすぎないことが大事です。
期待値をコントロールしないと、クリーン過ぎる会社イメージは、何かあったときの炎上の火力が強くなりすぎてしまい、会社存続の危機に繋がりかねません。
苦しみに共感される被害者が存在する
アルバイトやパートの立場にいる方が、明確に苦しめられていたり、それだけではなく、一般には既得権益層とされる40代~50代の既婚男性が相手であっても、ブラック労働を強いていると絶対に炎上します。つまりブラック労働を強いる側だとされていたフランチャイズオーナーでさえ、企業本部からの圧政を受けたとして炎上する世の中です。
また、お客様の否定も絶対にいけません。「うちの客はバカ」という発言やクレーマーを晒すなどの行為。インターネットのネガティブな評判を裏で手を回して削除させたなども、反対に炎上を招いてしまって逆効果です。
ムラ社会の内部を公開する
以前、とあるテレビ番組で手作りの和食を売りにしたチェーン店の特集が組まれ、放送後に炎上しました。その和食チェーンでは、会社のトップによる店長への厳しい叱責とブラック研修が批判を呼んだのです。あまりに閉じたムラ社会では、内部では面白い・ためになる・共感を呼ぶと思われた行為が市場にさらされると厳しい目で見られることがしばしば起こります。
それを避けるためには、「人材の流動性を持たせる」ことが大切です。外部の人材を入れたり、退職していく人を快く見送って業界の成長を願ったりといった、健全な流動性を持つことが、炎上を避けるために、意外にも重要なのです。
と、上記のようにさまざまな事情にて、ソーシャルで大きな批判を浴びることがあります。しかそれは裏を返せば、ビジネスへの期待の裏返しでもあるので、創業段階でそれほど恐れることはないのではないでしょうか。
SNSでリピーターをつくる
創業期には、新規顧客を獲得するために熱心になりがちです。よって、新規顧客を集めるため、LTVを計算したり広告を打ったりといった施策を考えます。しかし、ビジネスでもっとも大切なのはリピーターをつくることです。
最初のファンになってくれた方は、SNSで熱心に宣伝してくれます。よって、そうした方を大切にして、熱量の高いファンの方向けに情報発信していけば、最小限のコストで大きな売上につなげられるのです。ファンの方が熱心に発信してくれる以上の価値をリターンとして返していけば、ビジネスとして成立します。
わかりやすい発信は、部下への指示力の向上につながる
そして、インスタグラムやTwitterで、創業社長自らが情報発信することは、部下への指示能力を向上させることにつながります。つまりは、ビジネス力が大いにアップするのです。見た人が、わかりやすく、行動につながりやすい発信を心がけることで、これから創業して人の上に立つ上での、マネジメント力に一役買ってくれるのです。
●つねに相手目線での表現力
●数字を高めることへの執着
●利害関係のない人と健全な人間関係を構築
●やっかみや嫉妬に動揺しないメンタルの鍛錬
最初の顧客を作り、リピーターを得るだけでなく、SNSでの発信にはこれだけのメリットがあります。
まとめ
創業者とSNSの距離感についてみてきました。結論としては、慎重かつ大胆に発信していこうというものなのですが、最初の顧客づくりやリピーター獲得に大きなパワーを発揮してくれるのがSNSの力です。
インスタグラムやTwitterといった、市場化されたメディアで発信することは、創業時のビジネスにおいて大きな力になってくれます。たまには批判もやってくるかもしれません。しかし、誰からも応援されているように見える大物起業家も、みんな嫉妬との付き合い方には悩んでいるのです。
だらかというわけではありませんが、自分だけのオリジナルの付き合い方を見つけて、ビジネスを伸ばしていきましょう。応援してくれる人はきっと現れます。
(編集:創業手帳編集部)