レグテックで仮想通貨取引の縁の下を支える Bassetが挑むゼロイチの安全作り
株式会社Bassetの竹井 悠人氏に事業の展望を聞きました
(2019/11/20更新)
仮想通貨を扱う事業者向けに、ブロックチェーン取引分析・監視サービスを開発している株式会社Basset。2019年9月に、VC(ベンチャーキャピタル)のCoral Capitalから5,000万円の資金調達を達成。11月に開催されたピッチイベント「TechCrunch Tokyo 2019」ではファイナリストにも選出され、事業の将来性に大きな注目が集まりました。
同社は、日本ではまだ普及していないRegTech(レグテック)による、仮想通貨取引の安全性を担保するサービスづくりを進めています。レグテックは、「Regulation(レギュレーション=規制)」と「Technology(テクノロジー=技術)」をかけ合わせた言葉で、主に金融領域の規制に、最先端の技術を用いて対応することを指します。
今後日本にも訪れる、仮想通貨取引が普及した社会に向けて、どのようなサービス・組織づくりを目指していくのか。代表の竹井悠人氏に、展望を聞きました。
東京大学理学部情報科学科卒業、同大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻修了。在学中にGoogle社やパリ南大学等でのインターンを経験。卒業後2013年に情報処理推進機構(IPA)の行う未踏事業に採択された後、いくつかのスタートアップ創業を経験するも、大きな成長には至らず。その後、2016年にbitFlyerに入社、最高情報セキュリティ責任者(CISO)とブロックチェーン開発部長を歴任。ブロックチェーン製品miyabiの設計開発をゼロから行った他、CoincheckやZaifによる暗号資産流出事件の際にも、セキュリティ強化の施策等を行った。2019年7月にBassetを創業。
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この記事の目次
「ゼロイチから何かを作るのが好き」bitFlyerからの独立
竹井:仮想通貨を信頼して使える世の中になるように、
- クラウド型のコンプライアンス(法令倫理遵守)サービスの提供
- コンサルなど、コンプラに関するパッケージ提供
という2本の柱で、仮想通貨の取引所を始めとする金融機関に代わって、取引の安全を見守るサービスを提供しています。顧客は仮想通貨の取引所、金融機関・司法機関です。
具体的には企業のコンプライアンス担当者向けにSaaS型のWebサービスを提供し、業務の負担を軽減してもらうためのサービスを提供しています。
仮想通貨のデータベースにある取引情報を全て読み込み、システム内でリアルタイムに監視、トラブルがあればAIなどを用いて自動的に検出します。また、不正や犯罪が発生した場合、取引先が持っている顧客情報と、我々が持っているデジタルアイデンティティ(ネット上にある個人情報)を突き合わせてチェックするサービスも行っています。
また、仮想通貨を扱う事業者にとって、どのようなコンプラ体制が必要なのかといったシステム部分のコンサルや研修、仮想通貨取引の調査に必要な情報などを提供しています。
竹井:私は東京大学でコンピュータサイエンスを学び、前職のbitFlyerでCISO(最高情報セキュリティ責任者)・ブロックチェーン開発部長といったキャリアを経て、Bassetを立ち上げました。
起業した理由は、私自身スタートアップの空気が大好きだからです。bitFlyerに入る前も、何度か起業した経験があります。国内最大手の仮想通貨取引所であるbitFlyerが取引所として成熟し、安定期に入ってきたタイミングで、ゼロイチで何かを作りたい、さらに新たなイノベーションを起こしたい、という気持ちが高まって起業しました。
Bassetの他の創業メンバーも、bitFlyer出身です。同社で、仮想通貨に関連したコンプラ領域の需要が高まっていることへの期待感を肌で感じ、もともとスタートアップマインドが強かった仲間と立ち上げました。
仮想通貨取引の普及と、普及した後の社会での安全を支える企業に
竹井:Bassetはコンプラ領域をカバーする、縁の下の力持ち的存在です。コンプラ部分の業務は、日本においてまだテクノロジーがあまり入ってきておらず、国全体でデジタル化対応が遅れている部分でもあるので、データ領域のサービス開発を進める力が求められていると思います。
竹井:レグテックは、その名の通り「規制×技術」です。規制に対して、どのように企業が対応するのかという点に注目が集まっています。
海外では、レグテック領域の発展が急速に進んでおり、金融機関のシステムにAIといった技術的なソリューションが多く使われています。これらに関わる事業が、日本にどんどん入ってくる流れは不可避だといえるでしょう。特に仮想通貨は国境を超えてやってくるので、日本だけが取り残されてはいけません。
また、仮想通貨の中でも安定した価値を持つものが出てきており、今後ますます一般に普及していくと考えられます。一方で、お金が絡むところには、悪用や犯罪が生まれやすいという面もあります。個人情報の扱いや、どう制度を整えるか、いかに犯罪に立ち向かっていくかといった部分について、ITを使ったコンプラ業務をしっかり運用していく必要があります。
これらの課題に対応するためには、高度な技術が必要だったり、対応にコストがかかります。なので、レグテックでITを駆使して革新的なコンプラ事業を提供するサービスへの需要が高まっていくでしょう。
竹井:仮想通貨のコンプラ業務をワンストップでサポートできる企業になりたいです。日本における仮想通貨の安全な取引を支え、普及させるための環境づくりを進めるだけでなく、仮想通貨がコンビニや量販店などでも使えるくらい一般化した後も、安心して使えるチャネルづくりを支える立ち位置になりたいという想いがあります。
最高のサービスを生むための組織作り
竹井:やはり、最高のチームを揃えるのが一番難しいですね。これまで複数の起業を経験しましたが、良いメンバーが集まらず畳んだこともありました。Bassetでは息がピッタリ合うメンバーでやっていくという、非常に強固なマネジメントを固めたので、そこからさまざまな領域の人を魅了できるスタートアップになりたいです。
今苦労しているポイントは、お客様が何を欲しているのかをしっかり引き出すことです。お客様が本当に困っているのはどこなのかを明確にし、課題解決のための様々な選択肢を提供し、迅速に対応していく必要があります。頭でわかっていても、実際に実行するのはやはり難しいですね。
業界自体の歴史が浅い分、サービス自体をどのように作っていくかも、既存の金融機関の取り組みなどとは勝手が違います。従来の金融取引で必要だった要素に加えて、仮想通貨ならではの要素をしっかり取り込むコンプラづくりのために、ニーズの汲み取りを進めています。
竹井:メンバーにとって、心身ともに楽しく働けることが一番大事です。世界に革新を起こすプロダクトを作るためには、優れたチームがそれぞれの能力を120%発揮できる環境づくりが必要です。
メンバーに対しては、
- 互いを尊重する
- 意見に耳を傾ける
- フェアに接する
仕事については、
- 自分の仕事に誇りと責任を持ち、新しい引き出しを増やし続けること
- 優先順位をしっかり考えること
- 知らないことはちゃんと認められること
チームワークについては、
- 互いに仕事へのオーナーシップ、責任を共有すること
- 問題を一人で抱え込まないこと、困ったらすぐ助けを求めること
- 互いの批判をするときは、客観的・建設的に行うこと
といった意識を共有していますね。
また、多様性も重視しています。Bassetのメンバーは、国籍が多様です。これは、起業後早い段階から、国籍・性別といった様々な背景を持つ人たちを受け入れよう、ということを決めていたからです。企業は、一度少ないカラーで形が定まってしまうと、あとから変えるのは難しいですからね。柔軟で多様性のある組織づくりを目指しています。
会社といえど、最後は人
竹井:大きな話でいうと、「夢を大きく持って、チャレンジを恐れない」ということが大事だと考えています。私自身、複数の起業を経る中で、やるごとに感触が良くなってきて、やり方も上手くなっている実感があります。恐れた瞬間、引いてしまうので、いろんなことをチャレンジする意識を持とうと心がけていたことが良かったなと感じます。
具体的な話でいうと、特に専門性が高い分野での起業は、世の中に普及したあとの世界や、経済発展の夢を描くことが肝要です。事業を通じて、ミッションを考え、事業をどのように社会に還元していくかという点について、技術的・社会的挑戦を恐れずにやると良いと思います。
最後に、コミュニケーションを丁寧に早くやること。会社といえど、最後は人です。事業をする上で、円滑なコミュニケーションは必須だと考えています。
竹井代表のように、チャレンジを恐れずに事業を進めていくためには、経営のベースとなるノウハウを固めておく必要があります。創業手帳の冊子版は、Bassetのような大きな夢を持つ起業家を支える実務のノウハウをまとめて解説しています。社会にイノベーションを起こす事業展開の参考にしてみてください(創業手帳編集部)
(取材協力:
株式会社Basset/竹井悠人代表)
(編集: 創業手帳編集部)