「先代社長が急逝」したら、どうしますか? 事業承継前に確認しておきたいポイントを解説
社長が急逝した際に、承継をスムーズに進めるために必要なことを解説します
事業承継は、会社の存続を左右する重要な問題です。事業承継がうまく行かずに、会社が解散してしまうケースは少なくありません。事業承継に失敗してしまう原因の一つに、「創業者の急逝」があります。不慮の事故や急病で経営者が亡くなってしまい、引き継ぎの手はずや内容を準備していなかったために事業の継続が難しくなる、というパターンです。
事業承継をする予定がある創業者と跡継ぎにとって、不測の事態に備えて事前の準備をしておくことは必須です。今回は、「先代の急逝」を想定し、突然事業を承継する必要が出てきた際にどんな施策を行なっていけばいいのか、どんな準備をしておく必要があるのかについて解説します。
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この記事の目次
もし何も準備しないうちに社長が急逝したら…
事業承継は、経営者から経営者へのバトンタッチです。ですから、うまく引き継がないと会社の存続を危うくすることにもなりかねません。特に、社長が不慮の事故などで急に亡くなってしまうと、さまざまなトラブルが起こりえます。
仕事とお金の動きがストップして信用が落ちる
創業社長などが経営の実権をすべて握っているような中小企業では、社長が亡くなった途端に、全ての仕事が止まってしまうことがあります。急な引き継ぎ対応に慌てているうちに取引先との間で交わした納期を徒過したり、支払いが滞ったりすれば、会社の信用にかかわります。
社長不在の期間が長引くと、業績悪化の種になる可能性も
跡継ぎを決めていなかった場合には、社長不在の時期ができます。誰が次期社長になるかで揉めてしまい、社長不在の時期が長引くと、この間に良くない噂が立ったり、取引を控える会社などが増えたりすることにつながりかねません。
株を承継した相続人が会社を解散させてしまうケースもある
社長が大株主の場合には、株をそのまま相続した相続人の一存で会社を解散させることも可能になります。特に、相続人がそれまで事業に関わっていなかった場合には、事業価値を正しく判断しないまま会社を解散させてしまうケースもありえます。
このように、社長が急に亡くなってしまった場合に引き継ぎがスムーズに行われないと、会社にとって大きなダメージをうけることに繋がります。適切かつスムーズに事業を誰かが引き継ぐことが大事なのです。
3つの事業承継方法のメリット・デメリット
事業承継は、主に親族が引き継ぐ場合(親族内承継)、親族以外の関係者が引き継ぐ場合(社員承継など)、M&Aで相手先が引き継ぐ場合(第三者承継)の3つの方法があります。それぞれメリットとデメリットがあるため、どの方法が会社にとってベストかしっかり考えることが大事です。
親族が引き継ぐ場合(親族内承継)
子どもや孫など、親族に後継者がいる場合に、よく採用される方法です。特に該当者に対して、先代があらかじめ後継者として教育している場合は、周囲からの賛成も得やすいケースが多いようです。一方で、後継者が経営者としての資質を備えていない場合もあるため、見極めが重要です。
◎メリット
- 創業家の地位を守り、一族経営を継続しやすい
- 株式を相続できるので、資産がなくても株式を保有できる
- 資産を生前贈与するなど、親族ならではの方法で承継を行うことができる
◎デメリット
- 親族の中に必ずしも経営者にふさわしい者がいるとは限らない
- 馴れ合いの経営体制になりやすい
- 身内のトラブルが経営に影響を及ぼすこともある
親族以外の者が引き継ぐ場合(社員承継など)
適切な後継者が親族内にいないものの、社内に有能なナンバー2がいるような場合には、役員や社員が昇進して新社長になることがあります。事業活動を停滞させないで済むの点がメリットですが、株式を保有するための資金繰りに困るケースも多くなります。
◎メリット
- 事業に精通している人が後継となれば、承継がスムーズ
- 経営能力の高い者を選んで任せることができる
◎デメリット
- 株式を買い取れるだけの資金を用意できない場合もある
- 多数派株主からの同意が得にくいことがある
- 候補が複数いた場合、他の候補者や社員と業務上で軋轢が生じることがある
M&Aで相手先が引き継ぐ場合(第三者承継)
M&Aは、株式や事業を第三者に譲渡して経営権を承継させる方法です。上手く進めば譲渡益を得られたり、買い手のノウハウを利用して事業拡大に繋げられるメリットがある一方、急なM&Aで適切な買い手を見つけられないリスクもあります。
◎メリット
- 譲渡による利益を得られる
- 相手先のノウハウをいかして事業拡大のチャンスがある
◎デメリット
- 相手先をよく選ばないと事業承継に失敗する可能性がある
- よい承継会社を探すのに時間がかかる
事業承継で引き継ぐべき3つのものとは?
中小企業庁が公表している「経営者のための事業承継マニュアル」によれば、事業承継で承継すべき対象は「人(経営)」、「資産」、「知的資産」の3つです。それぞれにどんな要素が含まれるか確認しておきましょう。
人の承継
経営権、後継者の選定・育成、後継者との対話、後継者教育など
資産の承継
株式や事業用資産(設備・不動産等)、資金(運転資金・借入金等)、許認可など
知的資産の承継
経営理念、経営者の信用、取引先との人脈、従業員の技術・ノウハウ、顧客情報など
事業承継を成功させるポイントとは?
事業承継を成功させるために抑えておきたいポイントをいくつか紹介します。。
社長が健在のうちに承継の詳細を決めておく
特に小さい会社ほど、社長の役割が大きい場合が多く、いざというときに誰も事業を引き継げず、手も足も出なくなってしまう危険性が高い傾向にあります。 社長が健在の内に新社長を決める諸々の取り決めを行うことに抵抗があるかもしれませんが、事業承継はいずれ必ず起こる問題ですから、早めに対策を講じておいたほうが安心です。
経営が安定しているときに考える
経営状態が不安定なときに、最善の承継策を考えるのは困難です。特に、M&Aによる事業承継などの場合には、経営が安定していなければ事業の適切な評価・判断ができません。社長が健在の内に、というポイントに通じるものがありますが、承継の準備は経営が安定している時に考えるとよりよいでしょう。
承継には時間がかかることを知っておく
事業承継はすぐに実現するものではありません。後継者選びから教育、事業の安定かまで見越すと5年、10年程度のスパンが必要になることもあるでしょう。先延ばしにせず、先を見越して早めに取りかかる意識を持つことが大事です。
専門家を交えた協議を
事業内容や会社によっても、スムーズな承継のために必要なポイントは異なるので、弁護士や税理士などの専門家を交えて、社長と後継者がしっかり協議をしておくと安心です。
事業承継後の計画を作成する
いざというときにスムーズな事業承継が実現するよう、承継後の計画を作っておくことも効果的です。事業承継から数年~10年という中長期的なスパンで、営業利益や人員目標などの計画を作ります。作成の際は、中小企業庁のテンプレートなどを活用すると良いでしょう。
銀行の遺言代用信託を利用する
自社株を誰に承継させるかはっきりさせておくには、遺言代用信託という方法が利用できます。遺言代用信託は信託銀行などに財産を信託して、委託者が健在の間は本人のために管理・運用してもらい、亡くなった後は、配偶者や子に財産を引き継ぐことができる信託です。事業承継の場合、相続が発生した際には、相続手続きを待つことなく、あらかじめ定めた事業承継者がただちに株主となり、経営に必要な議決権行使を行うことができます。
事業引継ぎ支援センターを利用する
M&Aのように第三者へ事業承継する場合には、「事業引継ぎ支援センター」で相談することができます。全国47都道府県に設置され、後継者不在による中小企業・小規模事業者の廃業を回避するために、M&Aによる第三者承継をサポートしています。M&Aについては、この分野に強い法律事務所に相談するのも良い方法です。
まとめ
急な事業承継では、会社の財務状況の把握、金融機関などへの対応、従業員や顧客への速やかな周知など、やるべきことが一度に多く押し寄せます。 精神的にもデリケートになりがちな状態でこれらを行う必要があるとを考えると、事前の準備・計画を承継者、後継者間で綿密に立てておくことの重要性が分かるでしょう。
事業承継には数年単位の時間がかかります。 一方で、「いつ世代交代が来ても大丈夫」という段階に持っていくことができれば、承継のみならず事業そのものを円滑に進める安心材料にもなります。将来的に承継の予定があるが、まだ具体的なことは取り決めていない、という人は、是非一度互いに相談してみてください。
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