軽井沢ウイスキーを復活させたい!地域再生の仕掛人・軽井沢総研・土屋 勇磨の挑戦
事業承継を機に軽井沢の地域再生の道へ。カフェ運営を手掛ける土屋氏に聞きました
最近、ワーケーションで軽井沢が注目を浴びています。気候が欧州に似ていることもあり、昔から避暑地としても有名です。
かつて軽井沢には「軽井沢ウイスキー」がありましたが、大手の買収などを経てなくなってしまいました。それを復活させようというのが、軽井沢総研の土屋 勇磨社長です。
リクルートを経て、事業承継によって軽井沢新聞の社長になりましたが、現在は軽井沢総研という会社を起業し、軽井沢や神奈川などでカフェなどを運営しています。また、取り壊し予定だった歴史のある音楽施設「ハーモニーハウス」をカフェ・ワーケーション施設として生まれ変わらせるような事業も行っています。
そんな土屋氏が、次に手掛けるのが軽井沢ウイスキーの復活です。地域再生のコツと、ウイスキープロジェクトについて伺いました。
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軽井沢新聞社社長やFM軽井沢役員を歴任。三笠ホテルカレープロデューサー。2時間待ちの人気店「エロイーズカフェ」創業者。著書『軽井沢ルール』
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この記事の目次
軽井沢で地域再生
土屋:軽井沢新聞社では父が財務を担当しており、金銭面の心配はなく事業運営を行っていましたが、オーナー社長として軽井沢総研を立ち上げてからは、財務まですべて自分でやらなければならなくなりました。
事業の性質上、設備投資が大きくなる一方で売上が思ったほど伸びない創業期は、明け方に目が覚めるなど苦しい日々を送りました。自分がいかに恵まれた環境のボンボンだったか思い知らされましたね(笑)
土屋:基本的には、別荘地軽井沢の発展につながる事業を行っています。具体的には、軽井沢の鹿鳴館と呼ばれた三笠ホテルのメニューを復活させる商品開発事業、歴史的建造物を保存するためのカフェ・シェアハウスなどの飲食および不動産事業、歴史や文化を伝えるためのツアー事業などです。
土屋:ハーモニーハウスは音楽を学ぶ青少年のための合宿所兼音楽ホールとして建てられました。しかし時代が変わり、ハーモニーハウスは年に1〜2回コンサートを行うだけの廃屋のような状態になっていました。
所有する公益団体の財政が厳しくなり手放す話が出た時、私が保存に向けて借り上げることを申し出て現在に至ります。当初は結婚式場としてサブリースする予定でしたが、建築基準法上の制限が厳しい軽井沢では用途変更ができなかったので、カフェ・シェアハウス・貸別荘という3つの事業を展開しています。
地域再生のコツとは?
土屋:もっと人が多いエリアにカフェを展開すれば、軽井沢の別荘文化を広く知ってもらえるのでは?と考えていました。友人が館長を務める商業施設への出店の話が来たのはちょうどその頃で、軽井沢のお店はすでに行列店になっていました。そして2017年に川崎に2号店をオープン、2019年に3店舗目としてみなとみらいの新築の商業施設に店舗を構えることができました。
他店舗展開のコツは、例えばシェフなどの特定の人材に頼らなくても成り立つ仕組みづくりと、施設側にとって魅力的なコンテンツづくりの2点だと思います。後は企業理念の共有ができれば、店舗が離れていてもマネジメントは可能です。
土屋:私は、その歴史を徹底的に調べるところから始めます。そして古いものをそのまま再生するだけでなく、話題のコンテンツも盛り込みます。例えば、ハーモニーハウスのカフェではエッグベネディクトなど、ハワイで流行っているメニューを導入しました。
ハーモニーハウスのストーリーと写真映えするメニューが拡散され、多くのメディアに取り上げられて、多くのお客様が来店するという図式が成り立っています。
土屋:商業施設に入っている都合上4〜6月の2ヵ月間、カフェは全店舗休業しました。軽井沢はGo Toトラベルの影響で昨年を上回る売上が続いていますが、川崎やみなとみらいはまだまだ影響を受けていて、厳しい状態が続いています。
リモートワークが普及した影響か、軽井沢の貸別荘は募集開始から1日で25件の問合せがあり、驚いています。軽井沢全体で移住者が増えていて賃貸物件が足りない、建て売りやマンションが完売、といった話をよく聞きます。ワーケーション施設もいくつかできていますが、こちらはまだまだこれからという感じです。
事業承継を経て起業、地域再生の道へ
土屋:リクルートでは、営業スキルの他にマーケティングやマネジメントを学びました。それはとても役に立ったのですが、今通っているビジネススクール(大学院)で学んでいる経営学は絶対に学んでおいたほうがいいと感じています。サラリーマンの時であれば、雇用保険の給付金が使えるのでとてもお得です。
土屋:事業承継はすでに仕組みや顧客があって、ビジネスとして成り立っているところからスタートできるのがメリットですが、オーナー権まで移行していないと結果を出しても感情論でクビを切られることがあります。これは親族だと甘えが出るので、特に難しい課題だと思います。
その点で起業した場合は自分の裁量で自由にできる反面、資金面などが苦しい時は夜中に目が覚めることも多々ありました。社会人学生は、2年間は時間的に縛られますが大いに学べますし、向上心のある仲間もたくさんできました。
サラリーマン時代は親の会社を継ぐことが決まっていたので、リクルートで勉強させていただいたことは今でも財産です。
軽井沢ウイスキーを復活させて地域再生に貢献したい
土屋:もしMBAに通っていなかったら、今回のウイスキー蒸留所にチャレンジすることはなかったと思います。メルシャン軽井沢蒸留所の話を聞いたのは今から4年前ですが、その時は収益化までの期間が長すぎること、設備投資が莫大であることなど、参入障壁が高すぎて諦めていました。しかし大学院でファイナンスの授業を受けた時、「これはいける!」と思ったんです。
土屋:私が軽井沢青年会議所の理事長を務めていた2016年に、例会でお招きした講師の方からメルシャン軽井沢蒸留所の話を聞き、いつかこれを復活させてみたいと思うようになりました。
そして昨年、MBAでファイナンスの授業を受けている最中、「これはできるのではないか?」とチャレンジしたい気持ちが抑えられなくなりました。これまでの事業は銀行借入を中心に展開していましたが、ウイスキーは投資商品としても成り立ち、エグジットも想定できるので、株式による資金調達も可能と考えたからです。
土屋:かつて造られていた軽井沢ウイスキーは世界でも高く評価されており、2015年には海外のオークションで1本1,400万円以上の値がつきました。
スコットランドに似た冷涼な気候、浅間山麓の旧小沼村を水源とした水、そしてシェリー樽にこだわったウイスキーをもう一度造ると決めています。
土屋:浅間山麓の水源地近くの旧小沼村エリアに広大な土地を確保しました。この地に、なだらかな傾斜を生かした蒸留所を建設します。蒸留所は未来に残る地域の資産とならなければなりません。設計は世界的に有名なデザイナーに依頼しました。
原料となるモルトは、近隣の提携農家さんに依頼して試験栽培が始まっています。コメの需要が全国的に減る中、モルトの生産が地域の農業の発展につながればと思っています。近隣のワイナリーと提携してワイン樽による後熟も視野に入れています。できる限り地域と連携しながら進めていく予定です。
土屋:まずは蒸留所の建設に向けた資金調達で、現在エンジェルラウンドで絶賛募集中です。すでに多くの方からご支援のお申し出をいただいていますが、まだまだ必要な資金には到達していません。
ウイスキーの製造技術についても、技術者を募らなければなりません。こちらもメンバーを募集中です。
土屋:一度きりの人生なので、結果がどうであれ、やりたいことをやりましょう!
無料で配布している「事業承継手帳」にも、今回の土屋氏のような事業承継に関わるインタビュー他、様々な起業家インタビューを掲載しています。ご活用ください。
(取材協力:
軽井沢総合研究所/代表 土屋勇磨)
(編集: 創業手帳編集部)