【令和8年度税制改正大綱】青色申告75万円控除へ!個人事業主・中小企業への影響をわかりやすく解説
青色申告特別控除の拡充や少額減価償却資産の引き上げが実施予定

令和7年12月19日、与党より「令和8年度税制改正大綱」が発表されました。今回の改正では、青色申告特別控除の最大75万円への引き上げや少額減価償却資産の基準額拡大など、事業主にとって見逃せない内容が数多く含まれています。
インボイス制度の経過措置延長や事業承継税制の期限延長といった、実務に直結する改正も盛り込まれました。本記事では、個人事業主・中小企業の経営者が押さえておくべき主要な改正ポイントをわかりやすく解説します。デジタル化への対応や設備投資の判断材料として、ぜひ参考にしてください。
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この記事の目次
1. 個人事業主への主な影響

令和8年度の税制改正では、個人事業主に関わる複数の制度が見直されます。とくに青色申告特別控除の拡充やインボイス制度の経過措置など、日々の経理業務や納税額に直結する改正が含まれているため注意が必要です。
デジタル化への対応が進んでいる事業者にはメリットが大きい一方、紙での申告を続けている場合は控除額が縮小される見込みです。改正内容をしっかり把握し、必要な準備を早めに進めておきましょう。
青色申告特別控除の最大額が75万円へ
青色申告特別控除の最大額が、現行の65万円から75万円へ引き上げられます。ただし、この75万円控除を受けるには、「優良な電子帳簿」の備付け・保存が必要です。優良な電子帳簿とは、訂正や削除の履歴が残るなど一定の要件を満たした会計ソフト等を指します。
一方で、e-Taxを利用せず紙で申告をおこなう場合の「55万円控除」は廃止される見込みです。紙申告の場合、控除額は一律10万円に縮小されるため、デジタル化への移行が強く促されています。この改正は令和9年分の所得税から適用される予定となっています。
「10万円控除」の対象制限
簡易な記帳で適用できる10万円控除についても、対象者の制限が設けられます。具体的には、前々年の収入金額が1,000万円を超える個人事業主は、この10万円控除を受けられなくなる方向です。
この改正は、一定規模以上の事業者に対して複式簿記への移行を促す狙いがあると考えられます。対象となる事業主は、会計ソフトの導入や記帳方法の見直しを検討する必要があります。なお、この改正も令和9年分の所得税から適用される予定です。
インボイス制度「3割特例」の創設
インボイス制度の負担軽減措置として、個人事業主を対象にした「3割特例」が新設されます。これは、免税事業者から課税事業者になった方の納税額を、売上税額の3割に抑えられる制度です。
現行の2割特例は令和8年9月末で終了しますが、その後の令和8年10月から令和10年9月までの2年間、この3割特例が適用される予定となっています。対象は、2年前の課税売上高が1,000万円以下であるなどの要件を満たす元免税事業者に限られます。急激な税負担の増加を避けるための激変緩和措置といえるでしょう。
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2. 中小企業への主な影響

令和8年度の税制改正では、中小企業の設備投資や事業承継を後押しする施策が複数盛り込まれています。少額減価償却資産の特例拡充や事業承継税制の期限延長など、経営判断に直結する改正が目立ちます。
一方で、賃上げ促進税制については大企業向けが廃止される中、中小企業向けは現行制度が維持されるなど、企業規模によって対応が分かれる点も特徴的です。自社に関係する改正内容を正しく理解し、活用できる制度は積極的に検討しましょう。
少額減価償却資産の基準が30万円未満から40万円未満に引き上げ
中小企業者等が取得した少額の減価償却資産を、取得時に全額経費として処理できる特例の対象金額が引き上げられます。現行の「30万円未満」から「40万円未満」へと拡大される予定です。
この見直しは、制度が創設された平成15年度以降の物価上昇や、PCなど主要な対象資産の価格動向を踏まえたものとなっています。高機能なパソコンや周辺機器などがより経費処理しやすくなり、設備投資の判断がしやすくなるでしょう。
なお、適用対象となる中小企業者等のうち、常時使用する従業員数が400人を超える法人は対象外となります。なお、適用期限は令和11年3月31日まで3年間延長される見込みです。
賃上げ促進税制の見直し
賃上げ促進税制について、企業規模ごとに異なる対応がとられます。大企業向けの措置は適用期限を待たずに令和8年3月末で廃止され、中堅企業向けも要件が厳格化されたうえで令和9年3月末に終了する予定です。
一方、中小企業向けの措置は令和8年度も現行制度が維持されます。人手不足のなかで「防衛的な賃上げ」に取り組む中小企業への配慮です。
ただし、教育訓練費を増加させた場合の上乗せ措置については、全区分で廃止となります。これは「教育訓練費の増加額を税額控除額が上回るケースがある」という会計検査院の指摘を踏まえた対応です。
カーボンニュートラル投資促進税制の縮小
脱炭素化に向けた設備投資を支援する「カーボンニュートラル投資促進税制」について、適用期限が令和10年3月31日まで2年間延長されます。ただし、要件が厳格化され、優遇幅も縮小される点に注意が必要です。
中小企業者の場合、適用を受けるために必要な「炭素生産性向上率」の基準が引き上げられます。高い要件(22%以上)を満たす場合は特別償却30%または税額控除10%、通常要件(17%以上22%未満)では特別償却30%または税額控除5%が適用されます。
現行制度と比較すると、特別償却率は50%から30%へ、税額控除率も引き下げられるため、優遇効果は縮小します。脱炭素設備への投資を検討している場合は、改正前の適用も視野に入れて判断するとよいでしょう。
事業承継税制の期限延長
中小企業の円滑な世代交代を支援する事業承継税制について、特例承継計画の提出期限が延長されます。法人版は令和9年9月末まで(1年6か月延長)、個人版は令和10年9月末まで(2年6か月延長)となる見込みです。
事業承継税制とは、後継者が先代経営者から株式や事業用資産を引き継ぐ際に、贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度を指します。経営者の高齢化が進むなか、事業の継続と雇用の維持を図るうえで重要な役割を担っています。
なお、この措置はあくまで時限的なものであるため、対象となる経営者は早めに承継計画の策定に着手することが求められます。
特定生産性向上設備等投資促進税制の創設
企業の大規模な設備投資を後押しするため、新たな税制優遇措置が創設されます。中小企業者等の場合、5億円以上の投資で年平均の投資利益率(ROI)15%以上を見込む計画が対象です。
要件を満たすと、即時償却(取得価額の全額を経費計上)または税額控除(最大7%、建物等は4%)のいずれかを選択できます。対象資産には機械装置だけでなく建物も含まれるため、幅広い投資に活用可能です。
従来の投資減税と比較すると要件のハードルは高いものの、強力な節税効果が期待できる制度です。適用期間は産業競争力強化法の改正法施行日から令和11年3月31日までとなっています。
中小企業技術基盤強化税制の拡充
中小企業の研究開発を支援する「中小企業技術基盤強化税制」について、新たに3年間の繰越税額控除制度が導入されます。これにより、一時的な赤字などで控除しきれなかった税額を、翌年度以降に繰り越して活用できるようになります。
研究開発投資は成果が出るまでに時間がかかるケースも多く、単年度の業績悪化で税制メリットを受けられないことが課題とされていました。今回の改正により、業績の波に左右されず継続的な研究開発に取り組みやすくなるでしょう。
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3. 共通・その他の影響

令和8年度の税制改正には、個人事業主・中小企業を問わず影響を受ける項目も含まれています。従業員への食事補助に関する非課税枠の拡大や、インボイス制度の経過措置延長などが代表的な内容です。
これらの改正は、物価上昇への対応やインボイス制度の定着を図る目的で実施されます。経営者・事業主として押さえておくべきポイントを確認しておきましょう。
食事補助の非課税枠拡大
従業員への食事支給が所得税非課税となる会社負担額の上限が、現行の月額3,500円から7,500円へと倍以上へ引き上げられます。
食事補助の非課税限度額は長年据え置かれてきましたが、近年の物価上昇を踏まえて見直しが行われることになりました。社員食堂の運営や食事手当の支給をおこなっている企業にとっては、福利厚生の充実につながる改正です。
この改正により、従来よりも非課税枠内でより手厚い食事サポートが可能となります。従業員の実質的な手取り増加と企業の人材確保の両面でメリットが期待でき、企業の社会保険料負担の抑制につながるメリットも期待できるでしょう。
交際費の飲食費基準
交際費のうち損金算入できる飲食費の金額基準については、令和9年度の税制改正で再検討される予定です。現行では1人あたり1万円以下の飲食費が損金算入の対象となっています。
令和6年度の改正で、この基準が5千円以下から1万円以下へ引き上げられたばかりです。今後の見直しでは、企業の設備投資や賃上げを推進する観点から、交際費課税本来の趣旨である「冗費・濫費の抑制」や会議費の実態を踏まえた検討がおこなわれる見込みとなっています。
具体的な変更内容は令和9年度の税制改正を待つ必要がありますが、今後の動向に注目しておきましょう。
免税事業者からの仕入れに係る経過措置の延長
インボイス制度において、免税事業者等からの仕入れにつき一定割合を控除できる経過措置の期限が2年延長されます。当初は令和8年9月末で終了予定でしたが、令和13年9月末まで延長される見込みです。
控除できる割合は段階的に縮減されていきます。具体的には、令和8年10月からは7割、令和10年10月からは5割、令和12年10月からは3割となり、最終的に令和13年9月末をもって終了します。
| 期間 | 当初予定(制度導入時) | 見直し後のスケジュール |
|---|---|---|
| ~令和8年9月末 | 80%控除 | 80%控除(変更なし) |
| 令和8年10月~令和10年9月末 | 50%控除 | 70%控除 |
| 令和10年10月~令和11年9月末 | 50%控除 | 50%控除 |
| 令和11年10月~令和12年9月末 | 控除不可(0%) | 50%控除 |
| 令和12年10月~令和13年9月末 | 控除不可(0%) | 30%控除 |
| 令和13年10月以降 | 控除不可(0%) | 控除不可(0%) |
また、この経過措置が租税回避に利用されているケースを踏まえ、1課税期間における1免税事業者等からの仕入れで対象とできる上限額が、現行の10億円から1億円に引き下げられます。小規模な国内事業者への配慮と不正利用防止の両面から見直しがおこなわれる形です。
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まとめ
令和8年度の税制改正大綱では、個人事業主・中小企業の双方に影響する多くの改正が盛り込まれました。青色申告特別控除の75万円への引き上げや少額減価償却資産の基準拡大など、デジタル化や設備投資を後押しする内容が目立ちます。
一方で、紙申告の控除縮小やインボイス経過措置の段階的終了など、早めの対応が求められる項目も少なくありません。事業承継税制の期限延長についても、時限措置である点を踏まえて計画的に準備を進める必要があるでしょう。
(編集:創業手帳編集部)








