「実践の経営学者」と「若きAIモンスター」が語る、スタートアップの今
(2018/09/07更新)
リスクマネーの拡充が進み、アクセラレータなどの企業・プログラムが整備されている今、スタートアップに求められているサービスとは。早稲田大学インキュベーション推進室長の井上教授と、「AIモンスター」として話題のEAGLYS(株) 今林社長に伺いました。
この記事の目次
EAGLYS株式会社 代表取締役社長
早稲田大学大学院時に渡米し、Digital Garage US 社にデータサイエンティストとして勤務。その後、JST CREST採択プロジェクトにて暗号技術の研究を行い、社会実装のため2016年EAGLYS株式会社を創業。データを暗号化したままAIを実行する世界初のSecureAIエンジンの研究開発・提供を行う。日経新聞社より「AIモンスター」称号、文部科学省より「セキュリティ・スペシャリスト」称号。
早稲田大学 商学学術院教授 インキュベーション推進室長
1997年、神戸大学大学院経営学研究科博士課程修
了。2008年より現職。独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェローなどを歴任。著書に『模倣の経営学実践プログラム版-模倣を創造に変えるイノベーションの王道』『ブラックスワンの経営学-通説をくつがえした世界最優秀ケーススタディ』など多数。
日本におけるスタートアップの現状
井上教授(以下「井上」):今、資金はすごく集めやすいですね。インターネット環境などの変化で、ちょっとしたアイディアでもお金が集まるようになりました。その代わり、ドリームチームというか、有能な人たちが集まってプロジェクトを起こせるような機会は減るのではないかという危惧があります。同じ目線の起業家たちが出会う場は多くありますが、浅い出会いではそれ以上発展しません。
今林社長(以下「今林」):そうですね。オープンイノベーションやコラボレーションの話はあるのですが、結局お客さまと企業がONE to ONEでつながってしまい、横に連携した状態でプロジェクトが進まないと感じています。プロジェクトやネットワークの構築まで行うところがあれば、違う形でイノベーションが起こると思うのですが。
井上:起業家同士をつなげるプロジェクトマネージャーのような役割の人がその場にいないということですよね。
今林:単純に場を提供しているだけ、という感覚が強いです。 他のベンチャー企業との出会いから、私の会社の技術とのコラボレーションで売っていくというようなアイディアが生まれることはあるのですが、それを具体的にプロジェクト化するところまで持っていくのは中々難しいですね。
スタートアップへのメインストリームの人材流入
今林:スタートアップでは、インターンのはずがいつの間にかマネージャーのような仕事まで任されたりしますが、大企業だと「40歳になってから」ということになります。そのような現状から、キャリア形成の上でベンチャーが有利だと感じる人が増えているのでしょう。今はベンチャーも資金調達しやすくなっているので、初任給を見てもベンチャーの方が高いことがあります。
井上:イノベーターの人と、トップに立つ人と、大企業で管理職をうまくこなせる人は、資質が大きく違うのですが、かつては皆、大企業で働くことを目指していました。しかし今は、将来経営者になりたいと思っている人にとって、ベンチャーという新たな道が見えているのです。そのことを考えると、「大企業がこれからどうやって社内でイノベーションを起こすのかな?」と心配になります。
大手企業のオープンイノベーションについて
井上:大企業はリソースを持っているので、それを活かさない手はありません。イノベーションというのは 、0から1を作ることではなく、すでにあるもの同士の新しい組み合わせを見つけることだと私は考えています。そのためには評価メカニズムとして多様性を持つ必要がありますが、それは今、多くの大企業にはできていません。だからこそオープンイノベーションは日本全体にとっても大きなチャンスだと思っています。
今林:日本では大企業に限らず、新しいものを導入するときに実績を求めてしまうところがあります。私の会社ではAIと暗号技術を組み合わせた「世界初」のシステムを作りましたが、ベンチャーキャピタルに持ち込んでも大抵は「実績はないの?」という話になってしまいます。それでも中には、「新しいね。ちょっと投資してみるよ」というような、技術自体の有用性を判断してくれる人もいます。そういう人を大企業が雇えば新しい判断基準が確立され、良い流れが生まれるのではないでしょうか。実証実験が必要な技術会社は特に、大幅なステップアップにつながる大企業との協力関係を求めています。
スタートアップにとって本当に必要なサービスとは
井上:まずは基礎の部分が必要だと思います。例えば、アイディアを出してプロトタイプを作ったけれど、著作権に抵触していてそれまでの1年間を無駄にした、といったことが起業時には起きがちです。そのため、法律、会計、事務などの自分の専門外のところで気軽にアドバイスをもらえる相手がいるかどうかが重要になってきます。
今林:私もアクセラレータと人事や営業などを相談していました。メールや法律関係のテンプレートなど 、いわゆるドキュメントを無償で提供してもらえたことにも感謝しています。自分で作成するような時間の余裕も、弁護士に依頼するほどの経済的な余裕もなかったので、とても助かりました。
井上:良質なネットワークを持ったプラットフォームがあると、たくさんの人が安定的に起業できます。課題はその企業のステージごとに違ってきますが、いつでも適切なサポートが得られるワンストップな場を持つことが大事ですね。
今林:時間が貴重なので、効率良く必要な情報にアクセスできることはとてもありがたいです。
最後に、スタートアップ創業者に向けてメッセージを
今林:私は本当に、日本から世界企業を生み出したいという心意気でやってきました。今、EAGLYSの海外拠点がアメリカにあるのですが、有言実行を常に意識しながら、世の中のインフラになるものを作っていきたいと思っています。
井上:皆が皆、起業したくて悶々としているというわけではありませんが、今林さんのように何か成し遂げたいことに目覚める瞬間が、誰でも人生の中で訪れると私は思っています。その時に、リスクが高いといった昔の常識にとらわれることなく、一歩踏み出してほしい。私はそう願っています。
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(監修:三井住友銀行グループ SMBCコンサルティング)
(編集:創業手帳編集部)