社員の副業・兼業は認めるべき?メリットや注意点、禁止の可否などを解説

創業手帳

サイドワークを解禁する企業が主流に!補助金も活用しつつ自社に合った対応や体制整備を進めましょう


働き方改革の一環として、国は労働者の副業・兼業を促進する取り組みを加速させています。その甲斐もあり、2022年10月の調査※では約7割の企業が社員の副業・兼業を「認めている・認める予定」と回答しました。

※経団連「副業・兼業に関するアンケート調査結果」

以上のような流れを踏まえ、今回は社員の副業・兼業を認めるメリットや注意点などを解説します。下記を参考に、自社に合った形で副業・兼業の波にうまく乗じていきましょう。

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社員の副業・兼業を認めるのが主流に


厚生労働省のガイドラインには「裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である」と明記されています。また2023年3月31日からは、社員の副業・兼業を促進する企業を支援する「副業・兼業支援補助金」の公募も始まりました。

さらに、そもそも国が副業・兼業を後押しするのは、勤め先以外でも働きたいと考える会社員が増えているからです。よって、今後はより一層、社員が副業を希望し、会社がそれを認めるという流れが加速するでしょう。

そのため、経営者としては、特別な事情がない限り、その流れに乗じるような施策を考えるのが賢明だといえます。

参考:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」

社員の副業を禁止することは可能か


基本的に社員の副業・兼業を会社が禁止することはできません。労働時間以外の時間をどう使うかは、各労働者の自由に委ねられているからです。

過去には就業規則の副業禁止事項が違法になった判例もあります。例えば「マンナ運輸事件(京都地判平成2012年7月13日)」や「東京都私立大学教授事件(東京地判平成20年12月5日)」などです。

しかし、下記のような場合については、会社が社員の副業・兼業を禁止、または制限することが許されるとされています。

1. 労務提供上の支障がある場合
2. 業務上の秘密が漏洩する場合
3. 競業により自社の利益が害される場合
4. 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」

労働契約法に基づき、社員は会社との労働契約を遵守して、業務や義務を誠実に履行しなければなりません(信義誠実の原則)。この原則から外れる場合、会社は社員の副業を禁止・制限できる可能性があります。

社員の副業・兼業を認めるメリット


社員の副業にネガティブなイメージを持っている経営者も多いでしょうが、社員を他社に送り出すことにはメリットもあります。具体的には下記のような恩恵を受けることが可能です。

社員のスキルアップにつながる

社員にとって副業・兼業は、社内では得られないような知識やスキルを、社外で身につける良い機会になります。会社にとっては、社員をスキルアップさせ、自社の事業を発展させるチャンスです。無料で社員を外部研修に出すようなものだと考えるのも良いでしょう。

また社員が副業・兼業するのは、基本的に自社と競業関係にない異なるジャンルの職場においてです。そのため、日常業務では遭遇しないような性質の知見やノウハウを獲得できる可能性もあります。よって、副業による社員のスキルアップが、自社の思わぬイノベーションにつながることも考えられます。

社員が主体性を育む機会にもなる

会社として副業・兼業を認めることは、社員の自律的・自主的な行動力を育む良いきっかけにもなります。

副業が解禁されれば、自らの働き方について改めて考え直す社員は多いでしょう。また副業に向けて人材を受け入れている企業を探したり、副業関連のイベントやセミナーに参加したりする社員も出てくるはずです。

以上のように、副業・兼業の解禁は、社員に自ら考え、行動してもらうための研修、「人づくり」の機会にもなります。主体性を獲得した社員が、従来より活躍するようになれば、自社の生産性にも好影響が期待できます。

優秀な人材が流出しにくくなる

副業・兼業の解禁は、優秀な人材を自社にとどめるための施策としても有用です。

人材が流出してしまう理由としては、例えば「給料が低い」「ほかの仕事がしたい」といった事柄が挙げられます。自社で給与を上げたり、異なる業務をさせたりできれば理想的ですが、現実にはなかなか困難です。

そこで副業・兼業の解禁が役立ちます。副業・兼業は収入アップに有効な手段です。また他社でも働けるようになることから社員の「ほかの仕事がしたい」という希望も満たせます。

他社から副業人材を獲得することも可能

副業・兼業を認めれば、社員を他社に送り出すだけでなく、他社から人材を獲得することも可能です。そのため、人手不足の解消や優秀な人材の発掘といったメリットも期待できます

副業を希望する労働者は増加傾向にあり、その数は400万人前後に上るというデータがあります。よって、一般の求職者だけでなく、副業希望者にまで間口を広げれば、リクルートはかなりしやすくなるでしょう。

副業に送り出した社員のスキルアップと相まって、社外から新しい知見やノウハウ、人脈などを入れられ、企業の成長につながります。

参考:厚生労働省「副業・兼業の現状」, 副業を希望している雇用者数の変化, p.1

社員の副業に関するデメリット・注意点


社員の副業・兼業を認めることには、以下のようなデメリットや懸念事項もあるので注意しましょう。

社員の労働時間・労働量に配慮しなければならない

安全配慮義務の規定

(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

出典:e-Gov法令検索「労働契約法」

会社は雇用する労働者に対して「安全配慮義務」を負います。安全配慮義務とは、労働者が安全に働けるよう、労働時間や労働量などに配慮しなければならないことです。

例えば、副業によって社員が労働過多になることを知りながら何らの処置を講じず、社員が健康を害した場合、会社の責任問題になり得ます。

長時間労働の防止を理由に副業を禁止・制限することもできますが、その場合、社員から不満が出かねません。そのため、場合によっては労働時間の圧縮をはじめとする働き方改革にも取り組む必要があります。

労働時間は副業・兼業で通算となる

労働時間の通算

(時間計算)
第三十八条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

出典:e-Gov法令検索「労働基準法」

労務管理の注意点として、「1日8時間・1週間40時間まで」という労働基準法の制限は、本業・副業で通算となることが挙げられます。時間外労働・休日労働についても、合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内の部分に関しては通算して考えます。

ただし、副業・兼業の内容がフリーランスや独立、アドバイザー、コンサルタントなどに該当する場合は通算されません。また農業・畜産業・水産業、管理監督者、監視・断続的労働者など、労働時間の規則が適用されない業種・職種もあります。

労働時間の通算に関するさらなる詳細は、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」や専門家への相談などでご確認ください。

社員が本業をおそろかにするリスクがある

副業・兼業を認めると、社員が本業よりも外部の仕事を優先するようになる恐れがあります。具体的には仕事中に副業の業務をしたり、睡眠不足や意欲低下で業務に身が入らなくなったりといったことが想定されます。

理解しておくべきなのは、副業・兼業を認めると、社員が自社と他社の労働環境を比較できるようになるということです。いくら職務専念義務があるといえど、やりがいや給与などが他社より著しく劣っていれば、社員が副業を優先するのも無理はありません。

そのため、副業・兼業を解禁する会社には、世間相場よりも働きがいのある労働環境を整備するという意識も必要です。

秘密保持・競業避止に関するトラブルの恐れも

副業・兼業を認めることで、社員が秘密保持義務や競業避止義務に違反する恐れがあることにも注意しなければなりません。秘密保持義務とは社内で得た業務上の情報を外部に漏らさないこと、競業避止義務は社外で会社と競合する業務に携わらないことです。

第一に、他社へ送り出した社員がそれらの義務に違反し、自社が不利益をこうむらないように注意する必要があります。同時に、受け入れた副業人材が、他社に対して義務を違反し、自社を巻き込むトラブルにならないようにも留意すべきです。

社員の副業を解禁するのに必要な準備


社員の副業・兼業を解禁する会社には、以下のような準備が必要になります。

副業を踏まえた就業規則等の改定

副業・兼業を認める旨や禁止・制限の条件などについては、就業規則に明記しておくべきです。

改定の内容は、労働法や判例、自社の権利保護などを踏まえたものにするのが望ましいといえます。改定にあたって、厚生労働省のガイドラインを参考にしたり、弁護士や社会保険労務士等の専門家に相談したりするのも良いでしょう。

ちなみに同省が公開する「モデル就業規則」では、副業・兼業について下記のように規定されています

モデル就業規則

(副業・兼業)
第67条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行う
ものとする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合

出典:厚生労働省「モデル就業規則」, 第14章 副業・兼業

人材の受け入れには契約書等の整備も

他社から副業・兼業人材を受け入れる場合は、契約書の準備も必要です。契約書の内容には、受け入れる労働者の安全や秘密保持、競業避止などの観点を盛り込むのが望ましいといえます。

また雇用する副業人材に対する給与体系や評価制度、研修制度なども整備すべきです。そのほか、受け入れる人材が従事する業務の切り出しも、各部署と連携しながら進めなければなりません。

以上の作業についても、必要に応じて弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談するのがおすすめです。

労働時間管理の仕組みづくり

社員の副業・兼業を認める上で課題となるのが、労働時間の管理です。会社には社員への「安全配慮義務」があるため、副業で労働時間や労働量が過剰にならないよう、勤怠管理を強化する必要があります

例えば、勤怠管理システムの導入ないし機能拡張を検討するのが良いでしょう。クラウドサービス利用料は補助金の対象になるため、とくにクラウド型のシステムがおすすめです。

また秘密保持や競業避止の観点も踏まえて、副業・兼業の届出や状況報告などを整備するのも有意義だといえます。さらに労働時間の通算については、適宜送り出し先の企業とも連携、情報共有をしながら、適切な労務管理に努めてください。

社員の健康管理のための体制整備

安全配慮義務の一環として、会社は社員が副業・兼業によって健康を害することがないよう、健康管理の措置を講じなければなりません。具体的には労働安全衛生法に規定される健康診断や長時間労働者への面接指導、ストレスチェックなどをより一層強化するのが適切です。

また副業・兼業をする社員に対し、健康管理に留意する旨や心身に不調があった場合の相談先などを周知するのも良いでしょう。副業・兼業先とも連携しながら、時間外労働や休日出勤などを減らしていくことも重要です。

社員の副業を認める際に使える補助金

副業・兼業の解禁にかかわる社内整備等には「副業・兼業支援補助金」が使えます。

下記の通り、「送り出し型」と「受け入れ型」の2類型があり、専門家経費やクラウドサービス利用料などの補助を受けられます

類型A 副業・兼業送り出し型 類型B 副業・兼業受け入れ型
補助率 2分の1以内 2分の1以内
補助上限額 1事業者あたり100万円 副業・兼業の人材1人あたり50万円
1事業者あたり250万円(5人まで)
補助対象経費 ①専門家経費
②研修費
③クラウドサービス利用費
①仲介サービス利用料
②専門家経費
③旅費
④クラウドサービス利用費

出典:経済産業省「副業・兼業支援補助金

副業・兼業支援補助金については、下記の記事で詳しく紹介しているのでぜひ参考にしてください。

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まとめ

社員の副業・兼業を認めることには、社員のスキルアップや人材確保などにかかわるメリットがあります。一方、安全配慮や秘密保持、競業避止などの観点で、留意点が増えることには気をつけなければなりません。

国の施策もあり、社員の副業・兼業を認め、推進する流れが主流です。「副業・兼業支援補助金」の活用も視野に入れつつ、その流れにうまく乗じるような対応を考えましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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