「社員が入ったら事務手続きは何をする?」採用時の書類手続きガイド

創業手帳

社労士が監修! 採用に関する手続きについて解説します

(2020/04/10更新)

企業では社員の採用がつきものです。ベンチャー起業家の中で、人材採用や採用の手続きに慣れているという方は少ないのではないでしょうか。

採用には、労働条件通知書や身元保証書といった書類の整備や、マイナンバーや雇用保険番号などの個人情報の取得、前職退職時の源泉徴収の回収など、様々な手続きが必要となります。これらを怠ると、社会保険や雇用保険の加入手続きや年末調整で手間取ったり、労働トラブルや労基署の調査が入るなどのダメージを受ける場合があります。

しかし、採用に関する書類の作成や手続きは煩雑なため、難しいものなので、やりたくてもできないという起業家も多いでしょう。

そこで、採用を始めたい起業家のために、入社後の手続きガイドを社労士の監修により作成しました。

また、創業手帳が発行している「総務手帳(無料)」では、採用時の注意点や、人事・労務の仕組みの整備など、人材採用時に必要となるノウハウについて詳しく解説しています。

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

入社時に必要な書類一覧

はじめに、社員が入社したら作成、回収などが必要になる書類を一覧で紹介します。
実際の手続きを担当するのは誰がいいのかを検討し、起業したばかりは創業者自らがやることも大いに考えられます。全体像を把握しておくと採用前に準備ができますね。

  • 労働条件通知書(会社⇒社員)
  • 労働者名簿(会社内)
  • 健康診断書(社員⇒会社)
  • 身元保証書(社員⇒会社)
  • 源泉徴収票(社員⇒会社)
  • 住民票記載事項証明書(マイナンバーの記載のないもの)(社員⇒会社)
  • 雇用保険被保険者証(行政⇒会社⇒社員)
  • マイナンバー(社員⇒会社)
  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届(会社⇒行政)
  • 年金手帳(社員⇒会社)
  • 健康保険被保険者証(行政⇒会社⇒社員)
  • 健康保険被扶養者届(会社⇒行政)
  • 雇用保険被保険者資格取得届(会社⇒行政)
  • 給与所得者異動届出書(会社⇒行政)
  • 扶養控除等申告書(社員⇒会社)
  • 給与振込口座(社員⇒会社)
  • 通勤経路届(社員⇒会社)

各書類の詳しい内容は?

労働条件通知書 契約期間、休日休暇、賃金支払日などの労働条件の基本事項のうち、書面で通知する義務のある事項が記載されているもの
労働者名簿 氏名、住所、雇用年月日など労働者の基本事項を記載したもの
健康診断書 雇い入れ時の健康診断の結果票
身元保証書 身元保証人が社員の経歴や素性に問題がないことを保証し、また社員が将来的に会社に損害を与えた場合には、身元保証人も連帯してその損害賠償の責任を負うことを約束するもの
源泉徴収票 1年間に会社から支払われた給与等の金額と、自分が支払った所得税の金額が記載されたもの(前職がある転職者のみ必要)
住民票記載事項証明書(マイナンバーの記載のないもの) 本籍や住民票コードなどが記載された「住民票の写し」ではなく、必要最低限の個人情報のみが記載されたもの
マイナンバー 個人の識別番号として各市町村または特別区からその住民に指定される12桁の番号(マイナンバーカードの写しなど)
雇用保険被保険者資格取得届 雇用保険の対象者を採用した際、ハローワークに提出するもの
雇用保険被保険者証 雇用保険に加入した際に発行される証明書
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 健康保険・厚生年金保険の対象者を採用した時に提出するもの
年金手帳 公的年金制度の加入者に対して交付される、「基礎年金番号」などの年金に関する情報が記載された手帳(現在は、マイナンバーが確認できる人は提出不要)
健康保険被保険者証 健康保険に加入した際に発行される健康保険の被保険者であることを証明するもの
健康保険被扶養者届 新たに採用する社員が健康保険に加入する場合、その社員が扶養する家族がいる際に提出するもの
給与所得者異動届出書 中途入社の社員の住民税を特別徴収する場合に提出するもの
扶養控除等申告書 社員の扶養家族に関する情報を記入するもの
給与振込依頼書 毎月の給与を振り込む口座を記入するもの(労働基準法により、賃金の支払いは原則として、労働者への直接払いとされているため、振込みによる支払いの場合は、雇用主と労働者の合意があって初めて成立する。「給与振込依頼書」は、給料の受取りを振込みにしてほしいということを、明確に労働者の意思によるものであると証明する役割もある)
通勤経路届 適切な通勤手当を算出するためのもの

とくに押さえておきたい手続きのポイント

労働条件通知書と雇用契約書は両方必要?

労働条件通知書には、労働基準法で定められた記載しなければならない必須事項が5つあり、「絶対的明示事項」と言います。

  • 労働契約の期間に関する事項
  • 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
  • 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに交代制で就業させる場合の就業時転換に関する事項
  • 賃金(退職手当及び臨時の賃金は除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

上記、1~5の絶対的明示事項は、以前は書面交付が義務付けられていましたが、2019年4月以降は電磁的方法による交付も可能となりました(メール本文に記載したり、PDFファイルを添付してメール送信するなど)。

※「雇用契約書」との違い
雇用契約書は、労働者を雇用する時に、事業主と労働者の間で交わす契約書です。
2部作成し署名・押印したあと、事業主と労働者がそれぞれ保管するのが一般的となっています。
(実務的には「この内容で確かに合意した」という証拠にするため、労働条件通知書に署名押印欄を設け、「労働条件通知書兼雇用契約書」として締結することが望ましい)

このように、採用にかかる手続きや書類の作成は、実務的な処理をすることがあるため、専門家に依頼をしたりアドバイスを受けると安心です。「冊子版創業手帳(無料)」では、このような業務をアウトソーシングにより効率化する方法について詳しく解説しています。また、無料で専門家も紹介していますので、ぜひご活用ください。

身元保証書の有効期限とは

身元保証書とは、会社が採用した社員の身元を、第三者である身元保証人によって保証させる書類です。また、身元保証人が社員の経歴や素性に問題がないかの保証だけでなく、会社に損害を与えた場合に連帯して賠償責任を負うことを約束させるものでもあります。

身元保証書の有効期限

  • 期間を定めなかった場合は、契約成立の日から3年間のみ(ただし、商工業見習者の場合は5年間)
  • 期間の定めた場合も、5年を越えてはならない
  • 契約更新もできるが、5年を越えてはならない

有効期限以外に、身元保証書の作成で考慮すべき主な事項は以下のとおり。

  • 身元保証人の人数(複数名のほうが安心)
  • 身元保証人の続柄(資力のある成年者が原則)
  • 極度額(上限額)の決定(本人の業務内容や給与等を踏まえ、過大ではない額とすべき)

身元保証人の署名押印は、実印である必要はありませんが、慎重を期す場合は、身元保証人が架空の人物でないことの証明として、実印による押印を指定し、印鑑証明書の提出を求めるという対応も考えられます。

雇入れ時の健康診断は絶対に受けさせなければいけないの?

労働安全衛生規則第43条で、全11項目の実施が事業主に義務付けられており、実施を省略することはできません。ただし、社員が医師による健康診断の結果(3カ月以内に実施したのもの)を提出した場合、雇入れ時の健康診断に相当する項目については省略することができます。

なお、雇入れ時健康診断の実施時期は、雇入れ時の直前又は直後とされており、具体的な期限までは明確にされていません。しかし、おおむね入社前後3カ月以内の実施が望ましいと考えられます。

郵送でできる手続きもある

社外に対して行う主な手続きは、3つあります。

  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届(扶養親族がいる場合は「健康保険被扶養者(異動)届」も)
  • 雇用保険被保険者資格取得届
  • 給与所得者異動届出書

このうち、1は日本年金機構の事務センターに、3は労働者の1月1日現在の住所地の市区町村に、原則郵送で提出します。

2は会社の住所地管轄のハローワークに提出しますが、こちらも郵送が可能です。ただし、郵送の場合には手続き完了後、書類が返送されるまでに1カ月ほどかかる場合もあるので、急ぎの場合は直接ハローワークの窓口に持参した方が良いでしょう。

なお、2020年4月から、資本金・出資金等の金額が1億円を超えるなどの特定の法人は、上記2を含む雇用保険の手続きや、その他の労働保険、社会保険の手続きの一部において、電子申請が義務化されます。

ベンチャー企業は、法的な意味では電子申請義務化の対象にならない可能性が高いと思われますが、業務効率化のため、電子申請に積極的に取り組んでみることをおすすめします。

健康保険の扶養家族はどこまでをさすの?

健康保険法の扶養親族(被扶養者という)の範囲は、次のように決められています。

  • 被保険者(社員本人)の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹(※)で、主として被保険者に生計を維持されている者
  • 同居している叔父、叔母、甥、姪などの3親等以内の親族、内縁の配偶者の父母、連れ子など

また、被扶養者に収入がある場合は、年間収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)である必要があります。

さらに、同居している場合は、その額が被保険者の年間収入の2分の1未満であれば被扶養者になることが可能です。別居の場合は、年間収入が被保険者の仕送りより少なければ被扶養者になることが可能です。

※兄姉については、平成28年10月より同居要件が不要となりました。

まとめ

分かりにくい社会保険系手続きですが、もれなく実施してトラブルを回避しましょう。

このような手続きは、専門家に依頼するほうが安心です。しかし社労士の顧問料を毎月支払うというのは、創業期においては難しいかもしれません。「冊子版創業手帳」では、社労士にピンポイントで依頼できるサービスを紹介しています。また実際に活用している起業家のインタビューも掲載していますので、ぜひ参考にしてみてください。

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