プロが解説!オフィス移転の「原状回復工事」 費用削減のために経営者がすべきこと
オージェント合同会社の矢吹代表に、原状回復工事のポイントを聞きました
(2020/07/28更新)
新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、オフィスの解約や移転を考える企業が増えています。オフィス移転のきっかけは、いつやってくるかわかりません。経営者は、どのタイミングで移転することになっても慌てることのないように、日頃から心構えをしておきたいものです。
オフィス退去の大きなステップの1つに、オフィスの原状回復工事があります。原状回復工事とは、いったいどのような工事で、一般的にどのようなルールの中で行われるのでしょうか。原状回復工事費用の削減をサポートする事業を展開しているオージェント合同会社の矢吹泰正代表に、原状回復工事の概要やチェックポイント、費用相場、専門家に依頼するメリットなどについて聞きました。
IT企業退社後に不動産・建築業界の世界に飛び込み、2016年フリーランスとして原状回復査定や原状回復の適正化をスタート。中小企業から原状回復の相談を受け、原状回復の適正化によってオフィス移転のコスト削減を成功させてきた。2017年11月オージェント合同会社を設立。IT、ベンチャーを中心に原状回復査定及び適正化で多くの企業のオフィス移転コスト削減に貢献。年間200件以上の相談数を維持し、移転コスト削減額30%以上の実績を誇る。オフィス移転を軸としたアライアンス企業も20社を超える。
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この記事の目次
原状回復工事の概要と、経営者ができること
矢吹:原状回復工事とは、「オフィスを賃貸借契約書に書かれた内容に戻す工事」を指します。よく「入居した時の状態に戻すこと」と捉えている経営者の方もいますが、これは勘違いです。
原状回復義務は、オフィスの賃貸借契約内容や、特約の内容に沿って発生します。そのため、原状回復工事について、賃貸借契約書でどう書かれているかをしっかり確認することがとても重要です。まずこの認識を念頭においておきましょう。
矢吹:オフィスの原状回復工事は、契約書ごとにルールが違ってきますが、ほとんどの契約書では「賃貸人が指定する業者が施工する」となっており、その施工費用を賃借人が負担する形を取ります。
また、一般的な住居は、物件の明渡し後に原状回復工事をすることが大半ですが、オフィスの場合は、解約日までに原状回復工事を終わらせなければならないことが多いです。
矢吹:
- 原状回復工事見積書の内容を確認する
- 工事発注書にサインする
通常はこれぐらいです。先程もお伝えしたとおり、オフィスの原状回復工事は、賃貸人が指定した業者が施工する契約になっている場合が大半です。工事も、全て賃貸人側で手配・実施してくれ、賃借人には完了の確認もない場合があります。
賃借人が業者を選んだり、相見積もりで金額を下げたりすることは難しいです。
実際のところ、原状回復工事をするからといって、実務上で賃借人がしなければならないことは、そこまでないと言えるでしょう。
矢吹:まずは賃貸借契約書など、入居時に取り交わした資料の整理をしておいたほうがいいでしょう。賃貸借契約書がない場合は、管理会社に申し伝えてコピーをもらうこともできます。
つづいて、どのような賃貸借契約書を締結したのかを知っておく必要があります。原状回復の項目に目を通して、どういった内容になっているのか事前に確認しておきましょう。敷金の預入額や償却額、解約後にどれぐらいのお金が返還されるかを計算し、キャッシューフローを明確にしておくこともおすすめします。
実務面では、原状回復工事の開始までに、引越しや不用品の廃棄などを賃借人側で全て終わらせておく必要があります。什器等の残置があった場合、廃棄費用の請求があったり、原状回復工事がスケジュール通りにスタートできず、解約日までに原状回復工事が終わらないまま「明渡し遅延損害金」を請求されたりする可能性もあります。必ず原状回復工事の前までに、動産の撤去を完了しておきましょう。
原状回復工事について専門家に相談する意義とは
矢吹:工事する業者は賃貸人の指定で変えられず、工事の監理監修も賃貸人側で行う、となると、賃借人である経営者としては、そのまま工事を発注するしかないと考えてしまいますよね。
実は、そんなことはありません。指定業者制ということで、テナントである経営者は契約上不利な立場に立たされることになりますが、かといって金額が青天井で良いわけでないのです。工事は競争原理の働く金額で発注されるべきです。
先程、オフィスの原状回復は「オフィスを賃貸借契約書に書いてある状態に戻すこと」と解説しました。経営者にとっては、この賃貸借契約書に書かれている内容と照らし合わせ、原状回復工事の見積書の内容が適切かどうかを確認することが非常に重要です。
賃貸借契約書の中に記載されている原状回復の項目は、契約書ごとに内容や書かれている粒度が異なります。細かい契約書になると、「内部仕上表」や「貸方基準書」といった書類が契約書とともに綴じられており、例えばタイルカーペットの型番や塗装の種類まで細かく指定されている場合もあります。
経営者がこれらの書類を見て、指定業者から提示された見積書が適正なのかどうかを細かく判断することは、非常に困難です。そんなときに、原状回復の専門家が登場します。
テナントに代わって、原状回復義務の範囲を定義して見積書が適正かどうかを査定し査定書を発行します。そしてビル側と適正な原状回復工事について協議を行います。これにより、賃借人側は
- 賃貸人から提示されている金額が高いのか安いのかを可視化できる。
- 可視化した情報をもとに、原状回復義務について賃貸人と協議をすることで、工事費用が適正化される。
というメリットを受けられます。
原状回復工事の見積書をチェックするポイント
矢吹:まずは「原状回復義務の範囲」の確認です。賃貸借契約書、重要事項説明書、図面などを開示してもらい、契約書などから原状回復義務の範囲を読み解きます。これらの情報を踏まえたうえで、指定業者から提示された見積書をチェックしていきます。
よくよく確認すると、見積書の中に「原状回復義務の範囲外の工事」が含まれている場合があります。よくあるのが、共有部のエレベーターホールに敷かれているタイルカーペットの貼り替えまで請求されていたり、ビルの中央監視室の設定変更、賃室の空気中の粉塵・二酸化炭素・気流などを測定する環境測定にかかる費用が入っていたりするケースです。これらを賃借人が負担する必要はありません。
施工内容についても、必要のない項目が入っていないか、工事の工法はあっているかなどを確認する必要があります。
続いて、工事面積や個数など、「数量の確認」をします。
例えば、賃貸借している面積が300㎡で、タイルカーペットを全面に敷設しているオフィスがあったとしましょう。原状回復の見積書に、「300㎡分タイルカーペットを張り替えます」と書かれていたら、適切でしょうか。
一般の人が見ると、間違いに気づきにくいですが、不動産賃貸借契約書における300㎡は、壁芯と言って「壁の中から計測した面積」です。なので、実際にメジャーで計測するとタイルカーペットの面積は300㎡もありません。こういったいい加減な計測だったり、復旧する設備の数が違っていたりするところをチェックしていきます。
最後に「工事単価の確認」です。
原状回復工事は指定業者制なので、相見積もりがありません。工事を手配するのは賃貸人、工事代金を負担するのは退去が決まっている賃借人という構図になっているため、工事金額が吊り上がりやすくなるのは当然です。
しかし、先程もお伝えしたとおり、指定業者だからといって金額が青天井でいいわけではありません。専門家は、これまで査定してきた工事単価のサンプリングデータをもとに、見積書の金額が、競争原理の働く工事単価になっているかを確認します。
ここまでが原状回復査定です。
原状回復工事の費用相場と、コストカットの可能性
矢吹:弊社では、査定が終わったあとの賃貸人側との協議にも、原状回復の専門家として技術サポートという形で立ち会います。
協議では、賃貸人側にチェックした査定内容を伝え、原状回復義務として根拠がないものに関しては是正してもらうよう交渉します。もちろん、賃貸人側が根拠を提示できた場合は支払いの義務を認めますが、我々も根拠のない減額交渉はしないので、多くの場合先方が根拠を提示できることはありません。こちら側で要求した是正を認めてもらえれば、最初の見積もりから原状回復工事費用を削減することができます。
矢吹:かかる費用はオフィスに施す工事にもよりますが、相場は以下の通りです。
- 全く造作をしてなく大きな入居工事をしていない場合→2~3万/坪
- 会議室やエントランスに造作物を工事した場合→5~6万/坪
- 照明器具や空調を増設・移設した場合→8万以上/坪
実際に削減に成功した例で言うと、例えば110坪の原状回復工事費用として賃貸人の指定業者から520万円請求されていた案件では、不要工事の削除と工事単価の修正により、最終的に工事金額が200万円になりました。320万円分なので、最初に提示された額から約60%以上の削減に成功したことになります。
ほかにも、845坪で8500万円として提示されていた原状回復工事費用を、1500万円分(約18%カット)抑えることができた例などがあります。
矢吹:賃貸人が指定した業者から、600万円の原状回復工事費用が提示されましたが、なんとその物件自体が取り壊し予定だった、ということがありました。当然、原状回復工事を行う必要もないので、請求を取り消しました。
ほかにも、賃貸人側の都合で原状回復工事の費用見積もりが遅れ、原状回復工事が解約日までに完了できなかったにも関わらず、数百万円単位の「明渡し遅延損害金」を請求された、といったこともありますね。専門家は、こういった複雑なトラブルにも対応します。
専門家を選ぶ時のポイントとは
矢吹:まず査定を無料で行っている業者をおすすめします。さらに、完全成功報酬制で展開している業者を選べば、減額できる場合にしか費用が発生しないので非常に得と言えるでしょう。むしろやらないと損だと思います。
また、専門家をうたっているのに、原状回復についての知識が乏しかったり、レスポンスが悪くメールが全然返ってこなかったりといった、相談する側が期待する実態を伴わない業者もあるようです。オフィス移転は期間が決められているものなので、一度選んだ専門家が求めるサポートをしてくれなかった場合に、やり直すことが難しいので注意が必要です。
査定書の内容は、原状回復工事費用の適正な金額を明記しただけの書類であり、削減を約束するものではありません。査定書の内容だけで判断するのではなく、その専門家が本当に信頼できるのかが非常に重要なので、正式に依頼する前に何度も話を重ねて決めることをお勧めします。
矢吹:オフィスの原状回復は非常に専門性が高く、インターネットが普及した現在でも正確な情報を得ることが難しい領域です。移転計画を立てている企業側が、自力で原状回復工事費用を適正化して退去するのは難しいと思います。また、年に何回もあるイベントではないので、ここにヒューマンリソースを割くのは適切ではないと考えます。
一方で、原状回復工事費用の適正化は賃借人である企業にとって当然の権利です。弊社は、賃借人側の経営者が、払う必要のない原状回復費用を請け負ったことで、移転先の事業に支障をきたすといったことにならないよう、適正化の後押しをできればと思っています。
(監修:
オージェント合同会社/矢吹泰正代表)
(編集: 創業手帳編集部)