商品を作り上げ、ローンチするまでのステップについて、ヒット中の歴史ビジネス小説を書いた眞邊氏にインタビュー【前編】

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年07月に行われた取材時点のものです。

『もしも徳川家康が総理大臣になったら』がヒット中! 著者の眞邊氏にインタビュー

企業の創業期において、強いリーダーシップが求められます。しかし、リーダーシップがあっても、大企業へ成長させる人と、そうでない人が存在することもまた事実です。起業において、成功と失敗の明暗を分けるものとは一体何なのでしょうか。今回は、歴史ビジネス小説という今までにない切り口の書籍『もしも徳川家康が総理大臣になったら』の著者である、眞邊明人氏にお話を伺いました。

眞邊氏は、大日本印刷を経て、吉本興業に入社され、年商20億円を超える新事業を手がけたご経験があり、独立後の現在は、演出家や研修講師としても活躍されています。前編は、8万部という大ヒット中の書籍を世に送り出すまでの経緯や、担当編集者とのコンビで書籍を作り上げるまでの苦労などについて教えていただきました。

眞邊 明人(まなべあきひと)
脚本家/演出家
1968年生まれ。同志社大学文学部卒。大日本印刷、吉本興業を経て独立。独自のコミュニケーションスキルを開発・体系化し、政治家のスピーチ指導や、一部上場企業を中心に年間100本近くのビジネス研修、組織改革のプロジェクトに携わる。研修でのビジネスケーススタディを歴史の事象に喩えた話が人気を博す。2019年7月には日テレHRアカデミアの理事に就任。また、演出家としてテレビ番組のプロデュースの他、最近では演劇、ロック、ダンス、プロレスを融合した「魔界」の脚本、総合演出をつとめる。尊敬する作家は柴田錬三郎。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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組織作りを大事にした家康に焦点を当てたかった

書籍のコンセプト

大久保:『もしも徳川家康が総理大臣になったら』読ませていただきました。着眼点が非常にユニークですが、発想された背景を教えていただけますでしょうか。

眞邊:もともと、新型コロナが発生する前に、徳川家康が主人公でリーダーシップ論をやろうという企画があって、そのときは全然違う話だったんですね。

私は普段、企業の部長・課長クラスの人たち、いわゆる中間管理層を対象とした研修の講師もしています。日本の企業の一番大きな問題点は、中間管理層に全ての負荷をかけてしまっていることです。

徳川家康に注目したのは、家康という人物が、秀吉や信長とまったく違う、組織作りの人だからです。組織を安定させることによって、持続化させるという点が家康が行ってきたことのひとつです。組織の中間層の人たちが機能しないと、組織に永続性は生まれません。そういう意味で、家康を主人公に据えて、組織作りの重要性を訴えるような物語が作れないかと考えました。

大久保研修の講師をされていて、日本の組織作りの脆弱性に気づかれたわけですね。

眞邊:はい。そうこうしているうちにコロナの感染が拡大し、政府が右往左往する様子を見ていて、これはちょうど、組織作りの重要さを訴えるのにいい流れではないかということで、家康を中心にした内閣というストーリーになりました

書籍作りに関して意識したこととしては、時代を一旦バラバラにして面で人を並べることです。僕が歴史を語るときは面で人を並べて、より視界を広げるという、そういうことを大切にしています。

大久保:どういうことでしょうか?

眞邊:学校では、江戸時代、室町時代、平安時代のように、歴史を線で教えられますよね。でも、線でなく面で捉えないと、本当の意味で勉強にならないと僕は思うわけです。

たとえば、戦国時代は平安時代から登場した、いわゆる荘園という仕組みが生まれなければ、武士はもちろん、戦国時代が生まれることはなかったわけですから。この書籍では、主人公の家康だけではなく、時代を超えて偉人たちを集めることが、今回のコンセプトにおける一番大きなポイントですね。

脚本家としての観点

大久保:眞邊さんは脚本家としての顔もお持ちなので、ある種、故人であり歴史上の偉人である家康をプロデュースしたという風にも見えました。非常にユニークな視点だな、と感じたのですが、やはり脚本家としての視点はあったのでしょうか。

眞邊:家康って暗いイメージじゃないですか。やはり脚本家でもあるので、主人公に据えるうえで、暗いイメージの家康をどうするのかという対策は考えましたね。だから、坂本龍馬が必要だったんです。

龍馬という人物には明るさ、「陽」の部分があります。彼が江戸幕府を終わらせるひとりだとすると、江戸幕府を始めた家康との対比によって家康を立たせる。これは脚本的な考え方ですね。

書籍のターゲット、想定読者とは

大久保:では、ここでサンマーク出版の担当編集者である淡路さんに質問なんですが、企画はどちらから出されたのでしょうか。

淡路:さっき眞邊さんもおっしゃっていたように、今回の家康が総理大臣という企画の前にあった、家康が主人公でリーダーシップ論という企画は、僕から眞邊さんに提案しました。

眞邊さんが日テレHRアカデミアの理事をされていて、歴史とビジネスに関する動画をアップされているのを見て、面白いなと思い、「一緒に企画やりませんか」と声をかけさせてもらったのが始まりです。

そこから、先ほどの話にもあったように、信長や秀吉に比べて家康が絶妙に人気がないので、逆に、家康にスポットを当てたいな、と思ったんです。

大久保:書籍内では、政治や歴史に関する難しい用語に注釈が入れられていて親切だなと感じました。これなら小学年高学年頃から読めますよね。どのような読者を想定されていたのでしょうか。

淡路:そうですね。ヒットする本は「こういう人に絶対読んでほしい」のような、誰かひとりのために作られているようなところがあります。今回の書籍に関しては、「僕が一番読みたい本を作ろう」というのがひとつのコンセプトでした。

小学生のときに司馬遼太郎などの時代小説を全部読んでいる歴史好きな人って、結構いると思うんですね。僕は逆に、時代小説を1冊も完読したことがないんです。すごく読みたい気持ちはあるんですけど。

実際に、司馬遼太郎の『坂の上の雲』を買ったことがあるんですよ。読もうとはするけど、やっぱり歴史が得意じゃなくて、特に現代小説では出てこない独特な用語が苦手で、どうしても挫折してしまう。でも、戦国時代の話とかは好きなんです。

これは、僕自身のことではあるけれど、他にも僕と同じような人がたくさんいるだろうなと。実際に、前回の大河ドラマ『麒麟がくる』も、すごく流行りましたよね。時代小説は読まないけれど大河ドラマは題材によっては見るという人が一定数いて、そういう人に届けたいなと思ったんです。

書籍内の注釈については、僕は歴史の時代の背景とか、意味のわからない言葉が出てきた時にいちいち調べるのが結構面倒くさいと思っていたんですね。ですので、今回は読者の代わりに編集者である自分が、面倒くさがらずにしっかりと注釈を入れようと決めていました。

本当に個人的な思いで注釈を入れましたが、先日、14歳の読者から熱い感想が書かれたハガキが届きました。これは嬉しかった。若い人に政治とか歴史に興味を持ってもらえたら、という思いもあったので、報われた思いでしたね。

ヒットする書籍、商品の要素とは

大久保:8万部と、ヒット中の書籍ですが、何か当たりそうな感覚のようなものは感じられていたのでしょうか。

淡路:僕の中では、当たる予感は非常にありました。実際に企画が進み出して、原稿の面白さとかからして、今までにない本かつ、読みやすくて、一度読んだら離れられない感じがあったので、これは売れるだろうなと思っていましたね。

ただ、一般的に類書と言いますか、今までにあまりない本なので、社内で企画を伝えるときが結構大変でした。

大久保:歴史書でもないし、ビジネス書でもないですもんね。書店の棚のどこに置くのか、そこも悩みそうです。

淡路:そうです。その棚問題は大きかったですね。政治ジャンルの棚となると、どうしても書店の中の奥に位置しているので。タイトルや装丁のカバーをどう工夫したら、ビジネス書や文芸に分類されるのか、という議論を重ねました。本の内部の構成も、できるだけ時代小説っぽくならないように編集しました。

「集合的無意識」を言語化せよ

大久保:眞邊さんと淡路さんのお二人にそれぞれ伺いたいのですが、売れる書籍や商品には、どのような要素があるとお考えでしょうか。

淡路:今回の書籍も含めて思うのは、売れている書籍などに共通するのは、集合的無意識を上手く言語化しているということです。集合的無意識とは、多くの人が潜在的に思っている、心の中で抱えているモヤモヤみたいなものを指します。

このモヤモヤを上手く言語化した商品や書籍って、すごく売れるんですよね。実はみんな持っている感情なんだけど、まだ誰も名前を付けていないみたいなことは、すごく存在しています。例えば「美魔女」もそうですよね。多くの人が「年齢を重ねてもびっくりするくらい美しい人っているよね」と多くの人が思っていたのを「美魔女」と言語化したことで瞬く間に世に広まりました。人間は無意識で思っていたことを言語化されると「そうそう!」と激しく共感します。Twitterだといわゆるバズったりします。

今回の『もしも徳川家康が総理大臣になったら』の例で言うと、今、国民の多くが政治に対するイライラ感をすごく抱えていると思います。でもそこへストレートに「今の政治はダメだ」というような書籍を出しても、一部の政治好きの人には読んでもらえるかもしれませんが、本来読んでほしい読者層には届けられない。

僕はそのイライラの奥の無意識で多くの人が思っている、つまり集合的無意識は「今、日本に強いリーダーシップをもったカリスマ的な人がいればな〜」だと思ったんです。

その思いを汲み取るように、『もしも家康が総理大臣になったら』というタイトルをつけました。また毎日ネガティブなニュースばかり報道されるので「確かに、あの江戸幕府をつくった人が総理大臣になったら、どうなってただろう」と考えさせるようなエンタメ的な要素を加えました。要は、どう言語化するかがすごく大事だなと思いますね。

大久保:ネーミングは大事ですよね。「創業手帳」ではないですけど、ニーズに対して名詞というか、商品名をつけるという感じですね。

眞邊:僕は、タイミングも大事だと思いますね。企画を考えてたときの僕の計算では、11月に本が出れば売れると思っていたんですよ。その時期を過ぎると、恐らくコロナは終息するだろうと思っていました。終息すれば、今回の書籍のニーズが減るので、どこまで行けるかなと。

それが、3月に入って「これまだ行けるかな?」と不安になっていたときに、政府が愚策の連発を始めたので、こちらとしては想定外でしたね。ここまでひどくなるのかというぐらい世間の人の不満が高まっていましたから。

書籍の出版は、担当編集者との共同作業

大久保:今回の書籍を執筆するにあたって、苦労されたことはありましたか。

眞邊:執筆に手こずりました。この本は淡路君の協力がなかったらできなかった。自分で言うのも何ですが、僕は執筆のスピードが早い方なんです。ただ今回は時間がかかりましたね。

大久保:「創業手帳」のような一冊が薄いものや、ブログ記事などは、そこまで時間はかかりませんが、書籍の執筆となると、体系的に思考が重要になってくるかと思いますが、やはり一点集中して執筆されていたのでしょうか。

眞邊:僕はずっと連続ドラマの脚本を書いていたので、連続性のある執筆には慣れていて、あまり思考が途切れる状態にはならないですね。

次のシーンを書いて、淡路君に読んでもらう、という繰り返しです。淡路君が僕の最初の読者なんですよ。

大久保:なるほど。淡路さんが「読みたい本を作りたかった」と先ほど、おっしゃっていましたね。著作は、著者だけで執筆するものと思いがちですが、やはり編集者との共同作業という面もあるわけですよね。

眞邊:そうです。ほぼ共作に近いと言ってもいいくらいです。僕は大久保さんと一緒で、歴史小説や司馬遼太郎の文体が好きなわけですよ。執筆すると、どうしてもそうなってしまいますが、淡路君に原稿を読んでもらうと、「この書き方は難しい」と指摘されるんですね。

大久保:マニアの人がマニアックに書いてしまうと、一般化しないということですね。読者に近い編集者の視点を入れることで、文体を一般化していくことが大事という。

淡路:まさに、それを意識していましたね。

書籍を通じて伝えたいメッセージ

大久保:この書籍の読者に向けて、こう読んでほしいというようなメッセージがあれば、教えていただけますでしょうか。

眞邊:僕がこの本で書いたのは「偉大なリーダーシップはいらない」ということなんですよ。これは、企業の人たちにも言っていて、カリスマ社長というのはいい面、悪い面があるということです。「いいところの光」と「悪いところの光」は、必ずやってきます。

だけど、強い組織というのは、そういったカリスマ社長のようなリーダーがいない組織です。僕は、これはすごく重要なメッセージだと思っています。そのうえで大事なことは、結局、「誰かが不自由を受け入れなきゃいけない」ということです。でも、国民は自由や権利を主張しすぎて、不自由を受け取る人がごく一部に限られていると僕は思うわけですよ。

いわゆる、社会的弱者といわれる人たちに全部偏ってしまう。それはね、間違いだと思うんです。だから、組織について考えるときは、まず最初に「自分がどの不自由を受け入れるのか」から決めることが大事なんです。そういう風に読んでくれると、いいなと思いますね。

大久保:ありがとうございました。後半では、起業家や経営者におすすめのトレーニング法についてお聞きしたいと思います。
(次回に続きます)

『もしも徳川家康が総理大臣になったら』眞邊明人 サンマーク出版
新型コロナの対応を誤った日本の首相官邸でクラスターが発生。政府はAIで偉人を復活させ、最強の内閣を作り上げる。時代を超え、オールスターで結成された内閣は「コロナを収束させ、人々の信頼を取り戻す」をミッションに大胆な政策を実行していくが…。ビジネスと歴史が合体した、新感覚の教養エンターテイメント小説。

(次回に続きます)

起業を目指す人を支援する冊子「創業手帳」では、時代の先を読むキーパーソン、起業家のインタビューを掲載しています。新しい知見の情報源としてぜひご活用ください。

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(取材協力: 脚本家/演出家 眞邊明人
(編集: 創業手帳編集部)



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