起業家にお勧めのトレーニングとは? ヒット中の歴史ビジネス小説を書いた眞邊氏にインタビュー【後編】

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年08月に行われた取材時点のものです。

『もしも徳川家康が総理大臣になったら』がヒット中! 著者の眞邊氏にインタビュー

約7万部と、ヒット中の書籍『もしも徳川家康が総理大臣になったら』の著者である、先駆舎の代表取締役・眞邊明人氏と、創業手帳の代表、大久保が対談。前編では商品をローンチする際の企画方法などについてうかがいましたが、後編では起業に向いている人物像、眞邊氏が取り組んでいるトレーニング法や仕事術についてお聞きしました。吉本興業にもいたことがある眞邊氏ならではの、ユニークな着眼点や取り組みは一見の価値ありです。

眞邊 明人(まなべあきひと)
脚本家/演出家
1968年生まれ。同志社大学文学部卒。大日本印刷、吉本興業を経て独立。独自のコミュニケーションスキルを開発・体系化し、政治家のスピーチ指導や、一部上場企業を中心に年間100本近くのビジネス研修、組織改革のプロジェクトに携わる。研修でのビジネスケーススタディを歴史の事象に喩えた話が人気を博す。2019年7月には日テレHRアカデミアの理事に就任。また、演出家としてテレビ番組のプロデュースの他、最近では演劇、ロック、ダンス、プロレスを融合した「魔界」の脚本、総合演出をつとめる。尊敬する作家は柴田錬三郎。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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戦国三大英傑に見る起業に向いている人物像とは

起業家は信長を見習うべし

大久保:前半に引き続き、よろしくお願いします。眞邊さんが書かれた「もしも徳川家康が現代に蘇って、このコロナ禍を統治したらいったいこの世はどうなるだろう?」という興味深いテーマの小説がヒット中ですが、もしも信長・秀吉・家康の戦国三大英傑が起業した場合、誰が起業家に向いていると思われますか。

眞邊信長の発想が一番、起業家にはためになると思います。信長は完全な戦術家で、戦略はほとんど立てません。余談ですが、彼は戦略がなかったために、本能寺で明智光秀に打たれて倒れるという最期になったと、僕は思っています。

戦略を軍隊に例えた場合、戦略とは攻撃をする方向と範囲だと考えています。つまり、戦略とは、どの方向、どの範囲に攻めるのかを定めることです。これを起業でいうならば、方向とはサービスや製品のことで、範囲はマーケットと言い換えられます。

一方、戦術とは、方向と範囲にヒト・モノ・カネを配備するという話です。このように例えると、戦略と戦術を非常にシンプルに考えることができます。

大久保:なるほど。独創的な発想力や勢いが必要になる創業期では、信長の思考を参考にするといいのですね。

眞邊:範囲が広く、ターゲットとなるヒトが全くいないうえに、上司から根性論で何とかしろと言われる中間管理層の図式が残る企業も少なくありません。

要は、戦略と戦術が一致してないということですね。だから、中間管理職がキャパオーバーになってしまうんですよ。逆に言うと、創業期は戦術が強ければ、戦略はどうにでもできるといえます。

信長の何がすごかったかというと、戦乱の時代にヒト・モノ・カネの全てを揃えたことです。戦争におけるヒトとは、兵隊のことを指します。

当時、兵隊のほとんどは農民でした。農民を戦争の度に駆り出して、戦場に行っていたわけです。当然、戦争がないときは農作業をしているので、田植えや稲刈りの時期は、戦争をしないという不文律ができるわけです。

大久保:そうですね。当時は軍隊というものはなく、農業と兵隊の兼業のような状態だったんですよね。

眞邊:当時の戦争で籠城という作戦が取れるのは、田植えや稲刈りの時期になると、農民は家族を養うために、村へ帰らないといけないからです。だから、持久戦を要する籠城という作戦が効果を発揮します。

武田信玄と上杉謙信が川中島で7回も戦ったのは、戦争が膠着状態になると田植えや稲刈りの時期に入り、農民が帰らないといけないからなんですよ。

ところが、信長は、農民をかき集めた兵隊ではなく、農家や武士の次男を集めて、24時間戦える職業軍人を作り上げました。これにより、織田軍は時間的制約がゼロという圧倒的な優位を得られたわけです。

さらに、武力に磨きがかかるので、劇的に軍隊の戦闘力も高まります。そこに、海外から鉄砲などの最新鋭の武器を入手したことで、ヒトとモノが合体します。そのうえ、信長は、商業の中心の一つである愛知県出身なので、商いで儲けた商人たちから多額の税をもらえる環境にありました。

これによって、ヒト・モノ・カネが全て揃うわけですよ。

大久保:戦国の時代に、信長は起業に必要なヒト・モノ・カネの3つの要素をすでに確保していたわけですね。

眞邊:そうなんです。これにより、軍隊の機動性が増すので、自由自在に戦略を組めるという相乗効果が出てきます。これが、信長の強さなんですよ。戦国三大英傑の中で、起業に向いているという意味では、創業期においては信長が一番いいといえます。

つまり、ヒトとモノで、これぐらい優位性をもたせられるのかが重要ということです。お金は、後からついてくる話なので。

ロマンティストは起業に向かない

大久保:逆に、眞邊さんが起業に向かないなという偉人はいますか。

眞邊ほとんどの偉人は起業には向いていないですね。例えば、勝海舟や坂本龍馬です。龍馬は、亀山社中という会社を立ち上げましたが、倒産させてしまっていますし。やはり、彼らのようにロマンを追いかけるようなロマンティストは起業には向いていませんね。

大久保:確かにそうですね。信長と龍馬は独創的な発想力という意味では共通していますが、龍馬は信長のように強いリーダーシップで導くというタイプではないですよね。

起業に向いている人とは

大久保:吉本興業を含め、これまでの経歴の中で、様々な人をご覧になってきたと思いますが、起業に向いている人とはどういった人だと思われますか。

眞邊:やはり人としての魅力という部分は避けて通れないでしょうね。

大久保:人としての魅力ですか。カリスマ性ということでしょうか。

眞邊:そうです。カリスマ性も含めて。吉本興業出身ということでいうと、キングコングの西野君は、ある種の人を惹きつけるプレゼンテーション能力が高いと思いますね。

ヒト・モノ・カネで言うと、起業にはヒトとカネを集める能力が一番重要です。

ただ、ヒトとモノで勝負できる天才的な能力を持っている人は、ごく稀にいます。ほとんどの人は、プレゼンテーション能力を高めないと、モノとカネを集めるのは難しいでしょう。

たとえば、自動車やバイクメーカーで知られるHONDAは、創業者の本田宗一郎という天才と、藤沢武夫という名参謀がいました。お互いに補完し合うことで、HONDAという世界的に知られる大企業に育てることができたのだと思います。

起業家というのも、そういうことではないかなと思います。万人に好かれるということではなく、熱狂的なファンを掴める、魅力的な人が起業で成功する要素の一つだと考えます。

大久保:なるほど。万人に好かれる人ではなく、コアなファンを掴める人というのが、起業家に向いているということですね。

ビジネスマン・起業家におすすめの眞邊流メソッドの極意

表情筋のトレーニング

大久保:眞邊さんは、ご著書で「コミュニケーション力は鍛えられる」と主張されていますが、これまでで後天的に身に付けられたスキルや能力はどのようなものでしょうか。

眞邊:僕の場合は、表情ですね。

大久保:表情ですか。具体的には、どういうことでしょうか。

眞邊:例えば、腹筋は筋トレをすれば鍛えられますよね。贅肉がある人でも、ジムに通い続ければ腹筋が割れます。顔には30の筋肉があって、そのうち13の筋肉しか動かすことができません。

一般的に、顔を鍛えるという発想はないですよね。でも、お腹も顔も同じ筋肉でできているので、顔の筋肉も動かせば鍛えられるわけです。

だから、僕は、眉毛を上下に動かすトレーニングを自分で考案して、研修や演出の場面で人に教えています。表情が変わると、人からの評価は大きく変わるものです。

例えば、暗い印象がある人はたいてい眉が下がっていて、目を細めたような表情をしていますよね。下がっている眉毛を上げて、眉と目の間にスペースを作ることで表情が豊かに見えるようになります。

大久保:なるほど。言われてみれば、スペースがあるかどうかで印象は異なりますね。

眞邊:人の印象は内面の問題ではなく、顔の筋肉の可動域の違いにあります。鍛えて腹筋が割れるのと同じように、顔の表情も自分でボディメイクできます。吉本興業で多くの芸人さんを間近で観察する機会があったからこその気づきですね。

大久保:顔のトレーニングは、吉本にいたときに考案されたものでしょうか。

眞邊:顔の筋肉について考え始めたのは、吉本に入る前に、日本印刷という会社にいた頃です。当時、営業マンをやっていましたので、営業マン的な視点から、表情が豊かな芸人さんと自分は何が違うんだろうと考えていました。

芸人さんは、一つひとつのリアクションが大きいので、見ているほうは自然と引き込まれてしまいます。「これは、一体なんだろう?」という疑問をずっと抱いていました。

そして、吉本興業に入社してから、芸人さんをずっと観察しつつ、独自で勉強してトレーニングという形で完成しました。

大久保:顔の筋肉を鍛えれば、気分の浮き沈みに関わらず、人によい印象を与えることができると。これは、取引や交渉をする営業マンはもちろん、人脈作りが重要な起業家にもおすすめのトレーニングですね。

「憧れの著者の本を音読」のすすめ

大久保:眞邊さんのブログを拝見しましたが、様々な本を取り上げていらっしゃいますよね。その中でも、おすすめのビジネス書はありますか。

眞邊:最近読んだ本の中では、『ファクトフルネス』が面白かったですよ。僕はただ、一般的な読み方とは異なる読書法で読んでいます。

大久保:一般的には黙読する方が多いと思いますが、眞邊さんはどのような読書法を取り入れられているのですか。

眞邊:僕は、黙読は一切しません。読書の際は、全ての文章を声に出して読んでいます。なるべく、文章を早口で読むという運動をしています。

大久保:音読はいつ頃から始められたのでしょうか。

眞邊:3年前位からですね。

大久保:顔の筋トレや音読など、体に覚え込ませるまで繰り返し行うことが大切なのですね。起業する際も、タフさが求められるので、眞邊さんが実践されているようなトレーニングは起業家にも大事ですよね。

眞邊:そうですね。僕は、自分がわかりやすいと思う方法を実践したり教えたりしています。

大久保:なるほど。ほかにも、起業家におすすめのトレーニング法などがあれば、教えていただけますか。

眞邊自分が尊敬する人の本を声に出して読むことですね。例えば、ソフトバンクの孫正義さんが好きな人は、彼の自伝を読むのがおすすめです。

自伝には「私はこれをした」「私は何々をした」「私はこういうときにこう考えた」などと書かれています。それを何度も声に出して読むことで、まるで自分が考えだしたり、経験したりしたかのように自分に孫さんを重ねることができ、彼の思考や経験を体験できます。

大久保:尊敬する起業家がいる人は、その方の自伝を音読してみるといいですね。

仕事を10分単位のタスクに切り分ける

大久保:次に、眞邊さんの仕事への向き合い方、タイムマネジメントについてお伺いします。リモートでお仕事される機会も多いかと思いますが、普段使っているツール類などはありますか。

眞邊:僕が一番活用しているのは、Google Chromeのタイマー機能ですね。

大久保:タイマー機能ですか。実際にどのように活用されているのでしょうか。

眞邊:僕は、一日のスケジュールを全部Excelで10分のタスクに切り分けています。タイマーを10分おきに設定して、タスクを片付けていきます。

大久保:タイマーを10分に設定する理由は、集中力を増すためでしょうか。なぜ10分なのでしょうか。

眞邊:そうです。僕は飽きっぽい性分なので、集中力を高めるためにタイマーを10分ずつ設定しています。

マルチタスクをしないといけないときも、全ての仕事を10分刻みにしてから取りかかります。10分おきに違う仕事をするので、ダラダラすることはありません。僕にとって、タイマー機能は必須ですね。

これから起業する人、起業家に向けてメッセージ

大久保:最後に、起業家や起業を考えている読者に、メッセージを頂けますか。

眞邊:ひとつは、「最悪のケースを考えておく」ことです。ここで、一番大事なことは、起業で失敗しても死ぬことはないということです。「絶対に成功する」という思考だけで起業すると、リスクを考えなくなります。それは、非常に危険なことです。

その点、最悪な状況になっても生活はしていける、といったリスク回避のための思考は持っておいたほうがいいですね。

そして、2つ目は「やらないことを決める」です。起業で失敗する多くの人は、不安からやることを足してしまいます。軌道に乗っている仕事があっても、「不安があるから他の事業も始めよう」というように失敗する人が多いです。

強みはひとつに絞ったほうがいいです。そのためには、恐怖という感情がよいリスクヘッジになります。最悪をイメージすれば、結構リスクを防ぐことができます。失敗しても死ぬことはないと思えるかどうかが重要です。この2つがあれば、起業はできると思います。

大久保:今日は貴重なお話、お時間を頂きありがとうございました。


『もしも徳川家康が総理大臣になったら』眞邊明人 サンマーク出版
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