チカク 梶原 健司|エイジテックで話題の「まごチャンネル」代表にインタビュー。高齢者市場は今後必ず拡大する!

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年11月に行われた取材時点のものです。

2021年に65才以上が約3割になった高齢化社会日本で、高齢者の孤独感を和らげる端末はどう開発されたのか?

遠隔で暮らしている孫の顔を、祖父母がテレビで簡単に見られるのが「まごチャンネル」です。「電源ボタンすらない」という最小限の操作でテレビに映せるという徹底したユーザーに寄り添った開発は、創業者自身の体験から生まれたといいます。
徹底的にユーザーに寄り添い、シンプルに徹する製品作りや、高齢者の課題をテクノロジーで解決するエイジテックの考え方には学ぶところが多いと言えるでしょう。
運営しているチカク梶原社長に、創業手帳の大久保が聞きました。

梶原健司(かじわら・けんじ)株式会社チカク代表取締役
1976年兵庫県・淡路島生まれ。1999年上智大学を卒業後、新卒でアップルの日本法人に入社。以後12年にわたって、ビジネスプランニング、プロダクトマーケティング、ソフトウェア・インターネットサービス製品担当、新規事業立ち上げおよびiPodビジネスの責任者などを経て、2011年に独立。2014年、株式会社チカクを創業。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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「あと何回親に自分の子どもを会わせてあげられるかな」と思ったのが始まり

大久保:本日はよろしくお願いいたします。NHKの『おはよう日本』のエイジテック特集で大きく取り上げられたそうですね。エイジテックとはどんなものか、改めてご説明いただけますか。

梶原:そうなんです。エイジテックとは、高齢者の課題を解決することに最適化したテクノロジーのことです。弊社では、解決すべき課題が高齢者特有の課題であること、そのテクノロジーの活用により高齢者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が向上すること、そして最後に、高齢者が直感的に操作しやすいUI/UX(ユーザーインターフェイス/ユーザーエクスペリエンス)であることが必要と考えています。

大久保:今後日本はどんどん高齢化が進むといわれていますから、この分野はどんどん発展していくでしょうね。手がけていらっしゃる「まごチャンネル」はまず発想が素晴らしいと感じたのですが、どのように今の商品を開発されたのですか。

梶原:はい、実はわたし自身が「こんなものが欲しい」と感じたところがスタートになっているんです。実家が淡路島で、大学から東京に出てきたんですが、18まで祖父母らと3世代で暮らしていたんですね。普通の農家のおじいちゃんですけど、大好きでした。子どもが産まれ、実家に会わせたいと思っても、実際に帰ることができるのは年に1度ぐらいです。「あと何回会わせてあげられるだろう」と考えたのが全てのきっかけでした。

写真などを見せたいけれど、親にとってはスマホは使いづらい。最初はこちらでパソコンを実家にセットして、共有サービスなどでこちらが操作して孫の写真などを見せていましたが、実家もなかなかうまく使いこなせないし、また、全ての人がこのような面倒なことができるわけではありません。課題を感じ、自分でどうにかできないか?と考え始めるようになりました。新卒から12年間、アップルの日本法人に勤めている時でした。

大久保:高齢者にとっては、少し高度な操作になるとパソコンはなかなかハードルが高そうです。

梶原:そうなんです。親の生活を観察していると、一番使いやすいツールはテレビなんですよね。そこでテレビを使うデバイスの開発を始めました。

自分の親だけではなく、他の高齢者の声もお聞きしたかったので、Facebookで大学時代の友達に声をかけて、協力してくれる人を募りました。東京と大阪で15〜16組ぐらいのご実家にパソコンを持ってうかがったんです。言葉で説明するだけでは曖昧な返事しか返ってこなかったのですが、事前に友人たちにお孫さんの動画をもらっておいて、サプライズでテレビにパソコンを繋いで動画を見せると、反応が全然違いました。皆さんすごく喜んでくださって、「これいくらで買えるのですか」と。自分の両親と同じ反応だったことがまずは嬉しかったですね。

大久保:実際に顧客となり得る方々の声を聞くというのは、製品開発において非常に大事なプロセスですね。そのプロセスでどんなことが得られましたか?

梶原:そうですね。やはり実際の反応を見たからこそ、本当に使い勝手がよく、顧客が欲しいものを開発できたと思います。例えば、最初は写真のみの共有でプロトタイプを始めたのですが、実際の反応を見てより訴求力が強い動画の共有に切り替えました。また、当初は無線LANでの接続を想定していたのですが、まず無線LANが通っていなかったり、ネット環境がない家も多かったんです。そこでスマートフォンと同じく、LTEとモジュールのSIMを搭載し、何の設定もいらない、電源ケーブルをつなげばすぐに使える端末にしました。

また、マニュアルに従ってセットアップや操作ができるのか?というところも大事だと思い、実際にデモ機を使って高齢者に試しては、マニュアルの書き直しをくり返しました。最初は端末に電源ボタンがついていたのですが、おばあちゃんは電源を押してもその次に何をすればいいかがわからないんです。

考えてみたら、普段おばあちゃんが使う電化製品は電子レンジや掃除機など、ボタンを押せば動くものばかりです。つまり機能と電源ボタンにタイムラグがないんですね。これは改善が必要だと思い、電源ボタンもなくしました。

大久保:電源ボタンもないというのはすごいですね。やはり実際に試してもらってわかることは多いのですね。

梶原:そうですね。世の中にあふれているサービスって、作り手が使い手でもあることがけっこう多いと思います。ただ、エイジテックに関しては、高齢者が「自分が欲しいものを自分で開発する」ということはなかなか難しいので、開発者がこうだろうと思っていても、本当に高齢者がその通りに操作できるか、どう反応するかということは必ず試してみる必要があると思います。

今後は双方向のコミュニケーションを可能にしたい

大久保:「まごチャンネル」は実際にどのような方が使用されているのでしょうか。

梶原:おじいちゃんおばあちゃんが自ら使い始めるというよりは、子どもが産まれたばかりだったり、就学前の幼児のパパママの方が、ご両親にプレゼントされるというケースが多いですね。サービスを始めて5年ほどになりますが、継続率は非常に高くて、お孫さんが小学生高学年になる方も続けていらっしゃいます。「両親が年を取り、同居することになったから」という方や、「ホームに入ることになり、そこには持ち込めないから」という理由で継続を辞められる方もいらっしゃいますが、非常に稀ですね。

大久保:サービスがスタートしてから細かい変更などはあったのでしょうか。

梶原フィードバックから細かい使い勝手や機能の調整などはするようにしています。例えば、当初は想定していなかったのですが、両家のご両親にそれぞれ1台、合計2台「まごチャンネル」を設置していただいている方がいらっしゃいました。片方の祖父母のうちに遊びに行った動画や、片方の祖父母への誕生日おめでとうメッセージを、両方に送るのはちょっと気まずいという話になり、送り分けができる機能を搭載するきっかけとなっています。

大久保:今後の展望などはありますか。

梶原双方向で会話をしたいという声は前からありましたので、今はテレビ電話の機能も開発中です。今までは一方通行のサービスでしたが、これからは双方向になるようにアップデートしていきたいですね。ユーザーの方々から「こんなふうに使えるのではないか」という声をいただくこともあります。ECにつなげることも可能性としてはありますし、テレビ電話を使えば銀行や行政などと会話することもできます。インフラとして応用できると考えています。

大久保:広告や販売はどのように行っているんですか。

梶原:ありがたいことに、口コミやメディアで取り上げられた際の問合せなどで、どんどん広がっているような状況ですね。コロナ禍で帰省が難しくなった影響もあり、新規契約者の方が3倍以上になりました。販売は自社とAmazonで行っており、広告はWEBで自社で配信しています。

大久保:競合としてはどのあたりなのでしょうか?

梶原:そうですね、スマートフォンで簡単にテレビ電話やチャットができるアプリなどでしょうか。ただ「まごチャンネル」を使用していただいている方々は併用しているケースも多いようで、「まごチャンネル」で写真や動画を送ったあとに、それらのアプリを使用して感想を送りあったりしているようです。「まごチャンネル」はテレビと同じ操作で使うことができたり、お孫さんの動画や写真をテレビの大画面に写すことができる臨場感も大きなポイントですので、そこがスマートフォンのアプリとの差別化にはなっていると自負しています。

作り手が使い手になれないエイジテックでは、高齢者に寄り添った発想が不可欠

大久保:海外進出などは考えていらっしゃいますか。

梶原:海外に広めたいとは思っていますね。ただ現時点で高齢化の問題が深刻なのは日本ですので、まずは日本でサービスの内容を固め、これから来る海外の高齢化に向けて日本から考え方やサービスを発信していきたいと思っています。

大久保:日本は同じ道をたどる海外の国々の先輩になるわけですよね。エイジテックの今後に思うことはありますか?

梶原日本の全人口に占める65才以上の高齢者の割合は上昇を続け、2021年には約30%になりました。今後マーケットとしてどんどん拡大していきますので、高齢者に対してのサービスやテクノロジーが今後より進歩していくと思います。日本が最先端を走っているという意味でかなり稀有な分野だと思いますので、そこはすごく大きなチャンスだと思ってやっています。

既にエイジテックの定義として述べましたが、高齢者向けのテクノロジーに必要なことは、解決すべき課題が高齢者特有であること、そしてQOLの向上が目的であること、そして、使いやすいUI/UXを追求することです。

何でもかんでも技術を使えばいいというわけではないんです。例えば高齢者の見守りをするために、監視カメラをつければいいじゃないかという意見がありますが、高齢者の立場に立ってみたら、監視されることが本当に気持ちのいいものかどうかという問題が出てきますよね。使い手が作り手になることが難しいエイジテックは、作り手の押しつけが起こりやすい領域だったりもします。高齢者に寄り添った技術の使い方をする必要があるということですね。

大久保:日本の家電はボタンが多いという話をよく聞きますが、高齢者の方々に使いやすいデザインをということになると、引き算的な発想が必要になるのでしょうか。

梶原:そうですね。家電に詳しくて、いろいろと自分でカスタマイズしたいという人は別ですが、たいていのお年寄りにとっては、ボタンが少なくて必要最低限の機能が備わっているもののほうが使いやすいと思います。シンプルで誰にとっても迷わず使える、ユニバーサルデザインにいきつくのではないでしょうか。バリアフリーという言葉がありますが、これからはデジタルなものに対してもバリアフリーが求められてくるのだと思います。

大久保:お孫さんが好きなおじいちゃんおばあちゃんって多いと思うんですが、日常的にそのお孫さんの姿が見られると、精神的にもいい影響がありそうですよね。

梶原:実はまさに国立研究開発法人国立長寿医療研究センターさんと共同研究をしていまして、まだ中間報告の段階ではあるんですが、「まごチャンネル」は孤独感の解消などに対しても何らかのいい影響があるのではないかと研究を進めているところです。

昔は自分も3世代で同居していましたし、当時はそれが珍しいことではありませんでしたが、生活様式がどんどん変わって核家族化が進み、高齢者だけで住むケースが増えてきました。

2030年には80才以上が1500万人に達しますが、80才になると視力は健常な成人の約半分、記憶力や学習能力も低下していきます。さまざまな課題が考えられますが、その中で孤独感というのは無視できない課題なのではないでしょうか。若い世代はSNSなどもありますし、日常的に他の人間とつながることができる手段がありますが、高齢者だとなかなかそれが難しいですよね。

自分の親を見ていると、孫を見るということを通して、自分が子育てしていた頃のことを思い出していると感じます。「孫がかわいい」ということだけでなく、当時の感情やシーンが思い出されたり、様々な感情や回想が脳を活性化しているのではないかと思いますね。

大久保:本能的なところで、やはり孫に子どもを重ねているんでしょうね。高齢者の孤独感という課題が先にあり、梶原さんはそれを解決するために「まごチャンネル」を作られたということなんですね、きっと。

梶原:YouTubeに上がっているスティーブ・ジョブスの動画の中で強烈に覚えている一節がありまして、ジョブスがアップルに戻ってきたばかりの話なんですが、「自分も昔はテクノロジー先行で、それで解決できるものを探していたけれど、今はまず課題を見つけてそれをどう解決するかというときに技術を探しに行くようになった。そうじゃないと、本当にいいものは作れないんだ」と言っているんですね。

規模はもちろん違いますが、本質的でいい言葉だなと思い、ずっと大切にしている言葉です。

大久保:本日は貴重なお話をありがとうございました。

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(取材協力: 株式会社チカク代表取締役 梶原健司
(編集: 創業手帳編集部)



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