繰越欠損金についてわかりやすく解説!会計処理も紹介します。
繰越欠損金を計上するために繰越期限や控除限度額を適切に管理しよう
企業が赤字を出した時にその欠損金を繰り越せる繰越欠損金は、多くの企業で利用されています。
繰越欠損金を利用するために、青色申告や帳簿書類の備付、適正な管理が求められますが、利用することで法人税等の金額は大きく変わることがあります。
また、将来の税金を減らす繰越欠損金を、会計上正しく反映させるための税効果会計も必要です。
会計処理や帳簿の管理は企業の費用や利益に大きく関わる部分であるため、慎重に行いましょう。
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この記事の目次
知っておきたい繰越欠損金の基礎知識
会計や決算書に登場する用語の中には、詳しくないと理解しにくいものもたくさんあります。
そのひとつが、繰越欠損金です。
なんとなくイメージで、「損が出ていること」などとして認識している人もいるかもしれません。繰越欠損金は節税するためにも必ず知っておきたい用語です。
繰越欠損金と繰越欠損金に関わる制度を理解していないと、数十万や数百万単位で損を被ることもあります。
以下には、繰越欠損金に関わる基礎知識を紹介します。
繰越欠損金とは
繰越欠損金について知るためには、まず「欠損金」の意味を覚えましょう。欠損金とは、所得金額が赤字だった時に、その赤字分を示す用語です。
欠損金は税務上の赤字で、会社の損失とは別の用語なので混同しないようにしてください。
法人税の所得金額を計算する式は、「益金-損金」です。
しかし、企業会計の利益と法人税法上の利益は計算方法が違うため、会計上で利益が出ていたとしても、税務上マイナスになることはあります。
この税務上の赤字である欠損金は、条件を満たしていれば翌会計年度に繰り越せますが、この繰り越す欠損金を繰越欠損金と呼びます。
法人税法では、青色申告の承認を受けていれば、一定期間は欠損金の繰越が可能です。
つまり、繰越欠損金を使うことで将来の所得(黒字)と欠損金(赤字)を相殺できます。
繰越欠損金を計算してみよう
繰越欠損金を理解するために具体例で考えてみましょう。
例えば益金が2,000万円、損金が2,500万円出ているケースを考えてみます。
法人税の所得金額は「2,000万円-2,500万円=-500万円」と計算できます。
この「-500万円」が欠損金です。
この欠損金を翌年以降繰り越して使うことによって、黒字を相殺します。
節税効果については、次で説明します。
繰越欠損金を使うことで節税ができる
繰越控除を利用する | 繰越控除を利用しない | |||
当期 | 翌期 | 当期 | 翌期 | |
当期純利益 | -500万円 | 1,000万円 | -500万円 | 1,000万円 |
繰越欠損金 | なし | -500万円 | なし | なし |
課税所得 | -500万円 | 500万円 | -500万円 | 1,000万円 |
前述のとおり、翌年以降に繰り越した欠損金を、繰越欠損金と呼びます。
繰越欠損金を使うメリットは、翌年度以降の税金を減らせる点です。
具体的には、上記の表を確認してください。
繰越欠損金の節税効果が表れるのは、翌期以降です。
上記の表では、繰越欠損金による繰越控除を利用した場合でも、しなかった場合でも課税所得は「-500万円」で違いはありません。
繰越欠損金の効果が表れる翌期以降を見ると、繰越控除を利用しなかった場合には黒字がそのまま課税所得となっています。
黒字が1,000万円であれば、その1,000万円を課税所得として、法人税を乗じて納税額が決まります。
一方で、繰越控除を利用する場合には、繰越欠損金を差し引くため課税所得は「1,000万円-500万円=500万円」です。
では、実際に法人税等がいくらかかるのかを計算します。
ここでは、仮に法人税の実効税率を30%で計算します。
課税所得が1,000万円の繰越控除を利用しなかった場合の法人税額は300万円です。
一方で、繰越控除を利用して、課税所得を500万円にすると、法人税額は150万円となります。
つまり、繰越控除を利用するかしないかによって、課税所得に150万円の差が生まれました。
当然、繰越欠損金の額や翌期の黒字額が大きくなれば、繰越控除を利用した場合と利用しない場合の差も広がります。
繰越欠損金を損金に算入できる限度額
赤字のあとに黒字転換したとしても、前年度の赤字が影響していることは珍しくありません。
黒字転換したとしても、まだ赤字のほうが大きい場合もあるでしょう。
そのような時に、黒字に対する法人税の納税があると会社の資金繰りにも響きます。
長い目で見て、適切に納税するためにも繰越欠損金は重要な役割を果たしています。
しかし、欠損金の額すべてを損金にできるとは限りません。
中小法人以外の法人は、繰越欠損金を損金に算入できる額が決められています。
中小法人とは、普通法人のうち、100パーセント子法人などを除いて資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるもの、または、資本や出資を有しない公益法人や協同組合、人格のない社団などです。
中小法人は、発生時期に関係なく繰越欠損金の100%が控除され、中小法人に該当する場合には、控除の限度額を気にせずに繰り越せます。
中小法人以外で控除できる金額は、その事業年度の繰越控除前の所得金額に対して、一定割合をかけて求めます。
2018年4月1日以降に開始する事業年度では、100分の50です。
ただし、実際に利用する時には最新の制度を国税庁ホームページから確認するようにしてください。
ホームページでは2022年4月現在の制度を紹介しています。
繰越欠損金が利用できる期間は?
繰越欠損金が利用できる期間は、それぞれの事業年度が開始した日の10年以内に開始した事業年度の欠損金額です。
ただし、2018年4月1日前に開始した事業年度に生じた欠損金額の繰越期間は9年となっています。
企業によっては、複数の事業年度で赤字になっているかもしれません。
そのような場合には、古い事業年度から順番に繰り越して、損金に算入します。
繰越欠損金を利用するための条件
繰越欠損金を利用するためには、一定の条件を満たさなければいけません。
条件の中には、事前に準備が必要なものもあるため、これから欠損金が出る可能性がある場合や、節税を検討している人はチェックしてください。
1.欠損金が生じた事業年度に青色申告で確定申告をしている
繰越欠損金を繰り越して活用するためには、その欠損金が生じた事業年度に青色申告をしていなければいけません。
つまり、欠損金が生じたから繰り越そうと考えても、そもそも繰越控除を活用できない場合もあります。
青色申告は帳簿などの要件はありますが、利用すれば様々な税制面での優遇が受けられます。
繰越欠損金が生じるかどうかわからない場合でも、青色申告をしておくと良いでしょう。
2.以降の事業年度も、連続して確定申告をしている
繰越欠損金は、その欠損金を繰り越す事業年度まで連続して確定申告する必要があります。欠損金のある翌年度以降は白色申告でも構いません。
3.帳簿書類などを保存している
欠損金の控除は古い事業年度から順番に行います。
間違うことがないように、必ず帳簿や書類は管理してください。
青色申告は、法令で定められた帳簿書類の備付けをしていない場合には、過去にさかのぼって取り消される場合があります。
法人税法では帳簿類の保存期間については、原則7年と定めています。
しかし、繰越欠損金の控除を受ける場合には欠損金が生じた年度の帳簿書類の保存期間は10年です。
誤って7年で破棄することがないように注意してください。
間違いを防ぐためには、保存期間を一律10年とする方法も有効です。
また、帳簿書類の保存期間は会計年度の最終日基準ではなく、法人税の確定申告書を提出した日の翌日から起算します。
3月に決算をして5月末日に確定申告した場合には、10年保存の帳簿書類を破棄するのは、10年後の6月1日以降です。
3月で決算だからと考えて、うっかり4月に破棄してしまうと備付書類の不備となります。
税務調査で指摘されることがないように、慎重に管理します。
繰越欠損金の税効果会計とは
繰越欠損金は、会計上の数字ではないので計上しても税引前当期純利益と法人税等に影響を与えません。
しかし、将来の課税所得に影響する部分なので税効果会計の対象です。
繰越欠損金の税効果会計について紹介します。
税効果会計とは
税効果会計は、会計上の収益と費用を税務上の益金と損金に対応させる処理です。
会計上の利益と、税務上の所得は算出方法が違うので、会計上は赤字でも税務上赤字にならないこともあります。
税効果会計の目的は、将来の所得を増やす、もしくは減らす金額に対応する税額を当期の会計に反映させることです。
会計上の収益や費用は、税務上のものとは必ずしも同じになりません。
その差が一時的なもの、将来的に解消されるものである場合には所得が加算、減算されて会計と税務での差異はなくなります。
例を挙げて考えてみましょう。
会計上の収益、税務上の益金がともに500万円で、会計上の費用が400万円、税務上では費用と認められないものがあって300万円だとします。
この場合に法定実効税率を30%で計算するなら、当期純利益100万円に対する法人税等は30万円で、税引後当期純利益が70万円です。
しかし、会計上の当期純利益は100万円ですが、税務上の所得は200万円です。
すると、法人税等は200万円×30%=60万円と計算できます。
会計上の税引前当期純利益100万円に対して、法人税等は60万円です。
税務上損金にできない費用があることで、当期純利益に対して法人税が一時的に高額になってしまいます。
ただし、一時的な差異によって会計上の費用と税務上の損金が違う場合であれば、いずれは差異が解消されます。
税引前当期純利益と法人税等を当期の会計に正しく反映させるのが、税効果会計です。
税効果会計では、法人税等の金額を当期の会計から減少させる処理によって差異を調整します。
具体的には、差異に対する法人税等を計算して、借方で繰延税金資産、貸方に法人税等調整額を計上します。
税金の前払いをしていると考えて、それを繰延税金資産で処理すると考えるとわかりやすいかもしれません。
上記のケースでは、法人税等60万円に対して、法人税等調整額を30万円計上します。すると、会計上の税引後当期純利益は、
税引前当期純利益100万円-法人税等60万円+法人税等調整額30万円=70万円
と計算できました。
繰越欠損金を計上したあとは差異が解消されるタイミングで、逆仕訳を行って処理を行います。
繰越欠損金の税効果会計
繰越欠損金は会計上の数字ではなく、利益と法人税等のバランスを崩すわけではありません。
しかし、繰越欠損金によって将来の課税所得を相殺できるため、将来の税額を減少させる差異と同じような効果があり、税効果会計の対象です。
税効果会計の会計処理
ここからは、どのようにして繰越欠損金の税効果会計を行うのかを具体的に紹介します。
税効果会計の仕訳
まず、X1年度に500万円の赤字だったケースを考えます。
X1年度の税引前当期純利益は、-500万円でした。
繰越欠損金として、500万円計上します。
ここでは、法定実効税率30%として繰延税金資産を計上するので、-500万円×30%=150万円を計上します。
仕訳は以下の通りです。
・X1年度
借方 | 貸方 | ||
繰延税金資産 | 150万円 | 法人税等調整額 | 150万円 |
税引前当期純利益が-500万円、法人税等調整額150万円となり、税引き後当期純利益は-350万円と計算します。
・X2年度
X2年度は利益が100万円出たケースを考えましょう。
繰越欠損金から100万円を損金に算入します。
100万円×30%で30万円を繰延資産から取り崩すので、以下の仕訳となります。
借方 | 貸方 | ||
法人税等調整額 | 30万円 | 繰延税金資産 | 30万円 |
税引前当期純利益が、100万円に対して法人税等調整額が30万円です。
税引後当期純利益が70万円と計算できます。
・X3年度
X3年度は、利益が200万円でした。
繰越欠損金から200万円を計上します。
借方 | 貸方 | ||
法人税等調整額 | 60万円 | 繰延税金資産 | 60万円 |
税引前当期純利益が200万円で、法人税等調整額が60万円です。
税引き後当期純利益は、140万円と計算できます。
繰越欠損金の限度額がある場合には、金額を調整しなければいけません。
繰越欠損金の注意点
繰越欠損金の税効果会計で処理するには、回収可能性適用指針に従って、回収可能性を判断し計上するように定められています。
繰越欠損金は、将来の課税所得を減らす効果があり、税金の前払いといえます。
しかし、将来的に黒字になることがなければ、将来の減税効果は生じません。
黒字にならないまま利用できる期間を過ぎてしまえば、効果も失われてしまいます。
そのため、回収可能性があるかどうか判断してから繰延税金資産として計上しなければいけません。
繰越欠損金が将来減少させる所得金額に対して、毎期計上している課税所得金額が上回っている場合には、問題なく繰越欠損金を繰延税金資産に計上できます。
また、大きく上回るようなことがなくても、業績が安定して推移していれば繰延税金資産として計上しても問題ないと考えられます。
一方で、業績が不安定な場合には、今後5年間の課税所得見積額を限度として計上します。
まとめ
繰越欠損金は、創業したばかりでまだ業績が安定しない企業や、社会情勢の変化で一時的に赤字になった企業にとって、使いやすい制度です。
繰越欠損金を計上するためには、確定申告で繰越欠損金に関する事項を所定の別表に記載してください。
欠損金が発生した期の手続きと、繰越欠損金として利用した時では記載する書類や手続きに違いがあるので注意しましょう。
繰越欠損金は、節税に役立つため、欠かすことなく利用してください。
(編集:創業手帳編集部)