日本政策金融公庫の融資据置期間とリスケジュール交渉
日本政策金融公庫担当者に聞く、融資のホンネ【第2回】
(2017/08/07更新)
起業家を資金面から支援している日本政策金融公庫。起業にあたって、融資を申し込む方も多いと思います。前回は、日本政策金融公庫の融資制度について詳しく教えていただきました。
今回は、融資契約の前に決めておかなければならない「据置期間」と、融資の返済が難しくなった時「リスケジュール交渉」はできるのか、ビジネスサポートプラザの大澤所長にお話を伺いました。
日本政策金融公庫 国民生活事業本部
東京ビジネスサポートプラザ所長
平成4年、国民金融公庫(現日本政策金融公庫)入庫。横浜支店、大宮支店、東大阪支店、船橋支店、沼津支店、堺支店で4,000社を超える創業者を含む融資審査を担当。平成27年4月より現職。
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日本政策金融公庫の「返済の据置期間」って?
大澤:創業時を考えると、始めた直後すぐには利益が上がらないので、返済原資が生まれませんよね。そこで、利益が生まれるまでは利息だけの返済でいいですよ、という仕組みです。この期間を「据置期間」といいます。
大澤:制度によっても異なりますが、新規開業資金等は最長で2年間です。
大澤:いいえ、据置期間は、融資の決定までに確定していただく必要があります。基本は、担当者と相談しながら決めるのですが、お客様ご自身が仕組みについてご理解していないこともありますので、「据置期間とは何か」という考え方から説明していきます。
ご返済の途中から設定することができないので、お申込の際、申込書の所定の場所に据置期間の記載がないお客様には担当者から「お客様の計画を拝見すると、黒字化までには一定の期間がかかりますが、据置期間は必要ないですか」とこちらからお伺いすることもあります。
大澤:具体的なデータはありませんが、数か月から半年程度で設定しているケースは多くあります。特に創業当初は資金繰りは大変ですし、万が一キャッシュがなくなってしまうと困りますから、迷っているなら据置期間を設けたほうがいいというお話をしています。創業初期は、余裕をもった資金計画を立てるようご案内しています。
据置期間と返済計画はセットで考える
大澤:据置期間自体も返済期間に含まれるというところがポイントです。例えば、5年返済を希望していて、据え置き期間を半年設けている場合は、4年半で返済するという計画になります。
大澤:はい。利息を払っている期間は元金が減らないので、その分その後の負担が増えます。この点は誤解している方も多いので、しっかり説明するようにしています。
事業の黒字化に主眼をおいて考えられていればいいのですが、中には、支払いを後回しにしたいがために、据置期間を2年と記入される方もいらっしゃいます。それでは、計画性に欠けているということになりますよね。
大澤:例えば、美容院を開業する場合。現在、ある美容室で働いていて固定客を200人持っている人が、お客さんを引き継いで(もちろん勤務先の了解を得たうえで)創業する場合、すぐに売上が立つことが見込めますよね。ですから、据置期間はさほど必要ない。一方、お客様を引き継がず創業する場合や、これまで地盤がない遠方などで創業する場合、すぐにはお客さんが見込めないので、固定のお客様がつくまで一定の据置が必要となります。この場合、月に何人くらいお客さんが増えていけば、黒字化が○ヶ月で見込めるということを説明できれば信ぴょう性は高まります。
また、集客の方法でも変わります。例えば、「情報誌に出稿するので、創業直後から集客が見込めそう」なのであれば、ある程度早めに黒字化するでしょう。「お客さんの口コミで地道にしか集めない」という場合であれば、売上につながるのには時間がかかるため、その分の据置期間が必要という計画になります。
大澤:そうですね。据置期間を通して、お客様が事業の中長期的な計画について考えているか、自分の事業計画が整理できているかというのを聞く1つのキーワードになるのではと、個人的には思っています。
お客様も初めてでわかりづらいと思うので、担当者の方でご説明させていただき、個々の事業計画にあった返済期間や据置期間を練っていきます。
また、業種によっても資金繰りの考え方が異なります。病院や介護業のようにお金が入ってくるまで時間がかかってくる事業と、飲食業のようにその場で代金がもらえる事業とでは、必要なキャッシュの量が変わってきますよね。そのあたりも担当者がアドバイスをしながら進めていきます。
大澤:はい。創業前によく確認して、事業の成功に向けてしっかり計画を立てていただきたいと思います。
リスケジュール交渉は、早めの相談がカギ
大澤:可能です。当初予想していなかったことが起こった場合は、早めに相談をしていただければと思います。売上が上がらない、体調を崩した、取引先が倒産したなど、経営をしているとさまざまなトラブルが起こる可能性があります。特に、個人事業や自分が中心になってやっている事業であれば、自分が倒れたらもう事業自体が動かなくなりますから、ギリギリになってから相談するのではなく、あらかじめ相談していただいて、できる方針を一緒に考えていけたらと思います。
大澤:事業計画が変わるので、その後どうなるかという話にはなります。また、他の金融機関や取引先に対する信用はどうなっているのかというところも気になるので、次の相談のときにはそのあたりも伺っていくことになります。
大澤:リスケジュールすると信用に傷がつくという極端な考え方は忘れたほうがいいと個人的には思っています。早めに相談して、もう一回条件を組み直して、また軌道に戻れば、次の資金需要や見直しができると思います。ただ、上手く行かなくなって毎月返済が遅れることになると、やっぱり信用に傷はついてしまうので、事業全体の中長期展望を考えて判断していただきたいです。起こったことからは逃げられないので、それに対してどう向き合うかということです。
繰り返しますが、大切なのは、早めに対処をすること。例えば、3ヶ月入院しないといけないから、半年間だけ利息だけの返済にしたいとか金額を減らしたいというケースであれば、健康になったら元通り返済できるのでキチンとした考えを持っている方。でも、結構頑張ってしまう人が多いですよね。ダメだけど、なんとか自分がやらなきゃと。抱え込まずに、早めに相談して対処を考えるのが、お互いのためにいいと思います。
大澤:ぜひ。資金繰りが厳しい状況になると、お客様としては、広告費などの必要経費を切り詰めると思うんですよね。でも、万事尽くしてぎりぎりになる前に、「こんな対策をしたんだけど、当面はこのようなだから、相談できないか」とお話いただければ。個別の具体的な判断にはなりますが、門前払いになることはありません。
リスクヘッジはしっかりと、何かあったら早めの相談
事業計画を立てるときには返済計画まで検討し、必要であれば据置期間を設定することが、起業の失敗を防ぐことにつながります。
また、事業を運営していく中で、事故や病気、売上の低迷など、何か想定外のことあった場合は迷わずに相談をするようにしましょう。
自分に都合が悪いことというのは、あれこれ考えてしまって、なかなか相談しにくいものですよね。しかし、起業は自分1人でどうにかならないこともたくさんあります。1人で抱え込まず、まずは公庫の担当者にご相談してみてください。
(取材協力:日本政策金融公庫 東京ビジネスサポートプラザ
ビジネスサポート所長:大澤雅志)
(編集:創業手帳編集部)