労働基準法が2026年に改正される?議論されている課題や企業が必要な準備とは
2026年に労働基準法が改正される見通し

2025年10月時点で、政府は2026年度内での労働基準法の改正を目指しています。
これまでにも時代や経済の構造変化に合わせて、労働関連法制の見直しは行われてきました。
しかし、現行の制度は規制内容が複雑化し、労働者・使用者の双方にとってわかりづらいものになっているのが現状です。
今回の改正では、言葉の定義や労働時間の取り扱い、つながらない権利に関するガイドラインの検討など、制度全体の再整理が議論されています。
この記事では、2026年度の労働基準法改正に向けて議論されている課題や見直し、企業が改正に向けて進めておくべきことを紹介します。
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この記事の目次
なぜ労働基準法の改正が検討されているのか

労働基準法は、労働者の権利を保障するための法律であり、労働時間や賃金、休暇などについての最低基準などが定められています。
働き方については10年前、20年前と比べて大きな変化を遂げました。
例えば、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、一企業だけでなく業界全体で労働環境の変化が求められたところもありました。
また、2019年4月1日から順次施行されていった「働き方改革関連法」も、これまでの労働を見直すきっかけとなっています。
労働基準法に関しても、これまで社会的背景なども踏まえて細かく改正が行われてきました。
2023年4月には大企業では先立って義務付けられていた「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引き上げ」が、中小企業にも適用されています。
ただし、こうした細かい改正を繰り返す中で規制内容が複雑化しており、労働者と使用者の両者にとってわかりづらくなっているのが現状です。
また、週40時間制や裁量労働制が導入された1987年の大改正が行われた当時から、労働に対する考え方や少子高齢化にともなう労働力不足などは大きく変化しています。
こうした背景から、労働基準法の改正が検討されているのです。
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2026年の労働基準法改正に向けて議論されている課題

2026年の労働基準法改正に向け、どのような課題が議論されているのでしょうか。ここで、議論されている内容について紹介します。
なお、ここで紹介する内容は2025年10月時点でまだ検討段階にあり、決定されているものではないので注意してください。
フレックスタイム制の部分活用の導入
フレックスタイム制は、2019年の働き方改革の一環として導入された制度です。
あらかじめ決められた総労働時間の中で、日々の始業・終業時間や労働時間を決められる制度になります。
仕事とプライベートの時間を自由に配分できることから、ワークライフバランスの取りやすい働き方として注目されました。
ただし、現在のフレックスタイム制は部分的に活用できず、例えば、テレワークをする日と通常の勤務日が混在しているケースだと使いづらいというデメリットがあります。
こうした問題を解消するために、コアデイの導入によって1日単位で部分的に活用できないか検討されています。
法定労働時間の特例措置の撤廃
労働基準法には、商業・サービス業などで常時10人未満の事業場には「週44時間特例」という制度があります。
これは条件を満たす事業場は1日8時間・週44時間まで労働させることができるという特例です。
しかし、対象となる事業場でアンケート調査を実施したところ、87.2%の企業がこの特例措置を使っていませんでした。
また、同じ業務内容であっても事業場の規模によっては法定労働時間に差がみられることに不公平さがあり、現在推進している働き方改革の流れにも逆行していることから、週44時間特例の撤廃が検討されています。
連続勤務の上限規制
現行の労働基準法だと法定休日として、1週間のうち最低でも1日の休日を付与することが義務付けられています。
ただし、業務の都合や業態によって難しいと判断した場合には、4週間のうち4日休日を付与すれば週休1日制の適用を受けないという特例があります。
しかし、この特例は特定の4週間に4日休日を付与すれば良いので、理論上最長で48日勤務が可能になっていました。
しかも精神障害の労災認定における心理的負荷の判断基準として、14日以上の連続勤務が当てはまることから、労働者の健康を脅かす可能性が高いと判断することが可能です。
こうした問題点を改善するために、現在の特例を2週2日の変形週休制へと見直し、連続14日以上の勤務を禁止する方針で検討が進められています。
勤務間インターバル制度の義務化
勤務間インターバル制度とは、1日の勤務が終了してから翌日出社するまでの間に、一定時間以上のインターバル(休息時間)を設け、労働者のプライベートや睡眠時間を確保するための制度です。
この制度は労働時間等設定改善法の改正にともない、企業の努力義務として導入されました。
しかし、努力義務ということもあって2024年の導入実績はわずか5.7%しかなく、導入を予定または検討している企業も15.6%に留まる形となっています。
こうした背景もあり、現在は抜本的な導入促進と義務化を視野に入れながら、法規制を強化していく流れで検討が進められています。
法定休日の特定義務
法定休日は、労働基準法に基づいて使用者が労働者に与えなくてはいけない休日を指します。
現行の労働基準法では原則週1日以上の休日を義務化しており、どの日・どの曜日を法定休日に特定するという義務はありません。
また、現在は多くの企業で週休2日制を採用しており、法定休日と法定外休日の区別がつかなくなっている現状があります。
休日労働の割増賃金は法定休日と法定外休日で異なることから、法定休日が特定されていないと企業側と労働者間でトラブルにつながる可能性が高いです。
こうした問題点も踏まえ、法定休日を事前に特定することを義務化すべきという声が上がっており、検討されています。
つながらない権利のガイドライン検討
つながらない権利とは、労働時間外に仕事に関する電話・メール対応を拒否できる権利です。
本来労働時間外に使用者が労働者のプライベートに介入する権利はないものの、突発的な電話やメールでの対応や顧客からの要求を受け、プライベートの時間なのに仕事をすることになるケースも少なくありません。
つながらない権利はフランスでの義務化を皮切りに、イタリアやカナダの一部州、メキシコなどでも適用されています。
世界各国で法整備が進められているものの、日本では未だに具体的な施策が講じられていない状況です。
そのため、今回の改正案にともない、つながらない権利のガイドライン策定も検討されています。
副業・兼業における労働時間通算ルール見直し
現行の労働基準法では、事業場が異なる場合でも労働時間は通算されることが定められています。
そのため、副業・兼業をしている場合、本業の労働時間と副業・兼業の労働時間が通算され、割増賃金の算定に影響してきます。
このルールは本業と副業・兼業の労働時間を通算管理をすることが必要です。
しかし、割増賃金の算定が複雑になってしまうことから企業側の負担が大きく、これらを理由に副業を許可しない企業も少なくありません。
より副業・兼業がしやすい環境への整備を目指し、割増賃金の算定において労働時間の通算管理を適用しない方向性で議論が行われています。
有給休暇取得時の賃金算定方式
年次有給休暇を取得した際の賃金は、現行の労働基準法だと以下の方法から算定することが可能です。
1.直近の賃金締切日前3カ月間の賃金総額÷暦日数
2.所定労働時間1時間あたりの固定手当込みの賃金単価×取得時間数
3.健康保険被保険者が労使協定を締結した場合に限り、標準報酬月額の30分の1を1日あたりの賃金とする
この方法のうち、1と3の算定方法に関しては、日給制・時給制の労働者だと不利な賃金額になってしまい、有給休暇を取得すると損をする形になっていました。
こうした問題を改善させるために、有給休暇を取得した際の賃金の算定方式を、2の通常賃金方式を原則とする方向で検討されています。
管理監督者に対する健康・福祉確保措置
管理監督者とは、経営者とほとんど同じ立場で経営に携わる役職です。管理監督者になると労働基準法で規定されている労働時間や休憩、休日に関する制限を受けなくなります。
これは裁量労働制や高度プロフェッショナル制度なども同様に、労働基準法の制限を受けませんが、健康・福祉確保措置が設けられています。
一方、管理監督者の場合は労働基準法で制限を受けず、なおかつ健康・福祉確保措置も設けられていません。
そのため、管理監督者に対する健康・福祉確保措置の導入が検討されています。
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労働基準法の定義に関する内容も見直しが議論されている

労働時間や休日など、あらゆる課題に対する議論が行われていますが、さらに労働基準法で使われている言葉の定義やあり方なども議論の対象となっています。
ここで、どのような定義・あり方が見直されているのか解説していきます。
労働者の定義
現行の労働基準法において、労働者は「職業の種類を問わず、事業または事業場に使用される者で、賃金を支払われている者」と定義しています。
しかし、現代は雇用契約・労働契約以外の契約をもとに働いている人も少なくありません。
この役務提供者は実態として労働者と同じような働き方であるにも関わらず、労働基準法には該当しないことが問題となっています。
フリーランス新法や労災保険におけるフリーランスの特別加入制度などが新たに制定されている中で、労働基準法においても定義を変え、保護の対象を広げるかどうか検討されています。
事業の定義
労働基準法における「事業」は、事業場を単位として適用されています。そのため、労働保険や就業規則、36協定の届け出などは事業場ごとに手続きを行う必要がありました。
しかし、近年は働き方も多様化しており、労働者は必ずしも事業場で働かなくても良くなっているのが現状です。
こうした実態は、労働基準法における事業の定義とのズレにもつながっています。
例えば、労務管理や意思決定、義務の履行が行われる場面・場所などを考えた際に、これまでと同様に事業場を単位とするのか、それとも企業を単位にすることも認めるかを検討するべきとされています。
労使コミュニケーション
多様化する働き方や経済情勢の急速な変化の中で、法律では原則的な水準を設け、個別の企業や事業場などで労働者の実情も加味しながら調整・代替を行う「労使協定」が必要とされています。
労使協定は事業場で過半数労働組合がある時は労働組合と、ない場合は過半数代表者と使用者の間で締結されるものです。
しかし、厚生労働省の「令和6年労働組合基礎調査の概況」によると、労働組合の推定組織率16.1%で徐々に減少傾向にあり、過半数労働組合がない事業場が多い状況にあります。
さらに、過半数代表者に関しても、適切な方法で選出する必要があったり、労働者集団の意見を伝える役割・能力に課題が多かったりするなど、問題点を抱えていることも少なくありません。
こうした背景から、労使間でのコミュニケーションをより実質的かつ効果的なものにするために、法的な整備が必要だとされています。
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2026年の改正に向けて企業が進める準備

まだ具体的に改正するかどうか、改正した場合の規定などは明確に決まっていません。
しかし、2026年度内に改正が決定した場合、慌てずに労働環境を整備していくためにも、今のうちから準備を進めておくことも可能です。
ここで、企業が今のうちからできる準備について解説します。
就業規則の改定
まずは就業規則の見直しと改定が挙げられます。
2026年の改正に向けて、14日以上の連続勤務の禁止や法定休日の特定、勤務間インターバル制度の義務化など、就業規則に大きく影響を与える要素が盛り込まれる可能性があります。
まだ具体的な内容は決まっていないものの、今後就業規則や雇用契約書を変更しなくてはならない可能性が高いです。
就業規則は基本的に労働基準法に反することを禁止しています。
そのため、改正後すぐに対応できるよう今のうちに就業規則を見直し、改定が必要になりそうな箇所をピックアップしておくと良いでしょう。
勤怠システム・給与システムの改修
労働基準法の改正にともない、休日や賃金などの制度で変更しなくてはいけない部分が出てくる場合もあります。
この改正の影響によって、勤怠システムや給与システムの改修が必要になってくるかもしれません。
クラウドの勤怠・給与システムであれば、法改正の内容がアップデートで自動的に反映される場合もあります。
2026年は大規模な改正となることが考えられます。
しかし、その後も時代の変化に合わせて定期的に法改正は行われていくものと考えられるため、自動的に反映されるクラウドの勤怠・給与システムの導入も検討してみてください。
従業員に対する説明やマニュアルの見直し
労働基準法の改正を受けて就業規則などを変更した場合、従業員に周知させる必要があります。
周知方法は、事業所内での掲示や書面の交付、電子データによる公開などがあり、直接説明をしなくても良いことになっています。
しかし、つながらない権利などの新しいルールに関しては、文面だけだとわかりづらく、直接説明したほうがわかりやすい場合も多いです。
従業員がきちんと新しい制度やルールを理解できるように、丁寧に説明をしていく必要があります。
従業員の理解度を深めるためにも、今のうちから意識改革や教育を図っておくことも大切です。
さらに、労働環境の整備にともなうマニュアルの見直しも行っておいてください。
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まとめ・2026年の法改正に向けて必要な準備を進めよう
2026年に予定されている労働基準法の改正は、企業と労働者の双方にとって大きな転換点になり得ます。
法改正の方向性を早めに把握し、就業規則や労務管理体制を見直すことが重要です。
最新の情報を確認しながら、働きやすく公正な職場環境づくりを進めていきましょう。
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(編集:創業手帳編集部)







