キャリアアップ助成金「正規雇用等転換コース」を実際に申請してみた

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厚生労働省「キャリアアップ助成金」正社員化コース受給前にすべき”2つのこと”

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起業家にとって、社員を雇うということは、会社の成長を実感する瞬間であるとともに、社員へ給料をきちんと支払っていくことに対する責任感を感じる瞬間でもあります。

そこで、社員を雇う前に是非知っておきたいのは、「助成金」の存在です。

「助成金」とは、厚生労働省から支給される返済不要のお金のことで、社員を雇用したり、職業訓練をしたり、待遇改善をしたりなど、一定の条件を満たした会社に支給されます。

今回は、そんなキャリアアップ助成金 正規雇用等転換コース(正社員化コース)について、創業手帳が実際に申し込んでみた例をもとに、注意点や概要などを詳しくご説明します。

補助金・助成金は、要件などが変わったり、新しい制度が生まれたりなどがあります。古い情報のままで作業を進めていたら、実は要件を満たせなかった、という事態になるかもしれません。創業手帳は、忙しい起業家のために、創業期に使える補助金・助成金の最新の情報をまとめた補助金ガイドを発行しています。無料で入手できます。

関連記事:補助金/助成金を活用しよう。起業家が選べる4種類をご紹介!

そもそも「キャリアアップ助成金」とは?

この助成金は、6か月以上雇用実績のある契約社員やパート社員を正社員に登用し、さらに6か月継続雇用しており、かつ正社員登用前の6か月と登用後の6か月の賃金を比較した時に、転換時期に応じて5%または3%以上増額していると(※1)該当者1人につき57万円(大企業の場合は42万円)が支給されるというものです。

非正規雇用労働者のキャリアアップにもってこいの制度と言えるでしょう。生産性要件(※2)を満たせば、さらに15万円が上乗せ支給されます。

金額は28万5千円に下がりますが、有期パート社員から無期パート社員への登用や、無期パート社員から正社員への登用も助成金の支給対象となります。

※1:令和3年3月31日までに正社員転換済の場合は賃金5%アップ(賞与を含めることが可能)、令和3年4月1日以降に正社員転換の場合は賃金3%アップ(賞与を含めることはできない)。
※2:直近の事業年度の決算書と3期前の事業年度の決算書を比較して、厚生省の定める一定の計算式に基づいて算出される「生産性」が6%以上改善していること。

7つのコースとは?

厚生労働省では、キャリアアップ助成金について、次の7つの助成金コースを用意しています。

キャリアアップ助成金 7つのコース

  1. 有期契約労働者等を「正規雇用労働者」「多様な正社員等に転換」または「直接雇用した場合」の
    正社員化コース
  2. 障害を持つ有期契約労働者等を「正規雇用労働者」「無期雇用労働者」へ転換した場合の
    障害者正社員化コース
  3. すべて、または一部の有期契約労働者等の基本給の賃金規定等を、増額改定した場合の
    賃金規定等改定コース
  4. 有期契約労働者等と正社員との共通の賃金規定等を新たに規定・適用した場合の
    賃金規定等共通化コース
  5. 有期雇用労働者等に関して正規雇用労働者と共通の諸手当制度を新たに設け、適用した場合、または有期雇用労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、のべ4人以上実施した場合の
    諸手当制度等共通化コース」(※従来の「健康診断制度コース」もここに統合)
  6. 選択的適用拡大の導入に伴い、社会保険適用となる有期契約労働者等の賃金引上げを実施した場合の
    選択的適用拡大導入時処遇改善コース
  7. 有期契約労働者等の週所定労働時間を5時間以上延長し、社会保険を適用した場合の
    短時間労働者労働時間延長コース

総務省の調査によると、非正規雇用者が非正規雇用の仕事についた理由が「正規の職員・従業員の仕事がないから」と答えた割合、つまり正規雇用を希望している割合が、非正規雇用者全体で19.2%、特に派遣社員では42.6%と、非常に高い割合になっています。

不本意非正規の状況(雇用形態別)(平成25年平均)

不本意非正規の状況(雇用形態別)(平成25年平均)
(総務省調査を元に創業手帳編集部が作成)

一方で、社員を雇用する側、特に起業して間もない創業期のスタートアップベンチャーや中小企業にとっては、人材採用・育成において大手企業に比べて不利な立場に立たされることが多く、「とにかく人材が難しい」と嘆くベンチャーや中小企業経営者の声をよく耳にします。

助成金を受けながら、正規雇用の促進に貢献し、人材採用・育成にも活用できる本制度は、ベンチャー・中小企業経営にとってメリットがあるだけでなく、労使双方がWin-Winの関係を築くことができるため、社会的意義も大きい制度と言えます。

キャリアアップ助成金「正規雇用転換コース(正社員コース)」概要

今回は、7つあるコースの中でも、非正規雇用者を正規に雇用することによって、助成金を受けられる 1.「正社員化コース」について紹介します。

※キャリアアップ助成金で大企業に該当するのは以下の範囲です。

資本金の額 社員数
小売業・飲食業 5,000万円超

51人以上
サービス業 5,000万円超 101人以上
卸売業 1億円超 101人以上
その他の業種 3億円超 301人以上

キャリアアップ助成金受給要件①:対象労働者

雇用されていた通算雇用期間が6か月以上である「有期契約労働者」「無期雇用労働者」「派遣労働者」等の非正規雇用者が対象です。

キャリアアップ助成金受給要件②:キャリアアップ環境

「非正規雇用者の安定度の高い雇用形態への転換を通じたキャリアアップ」を目的としているため、受給要件として、非正規雇用者がキャリアアップを行うための、ガイドラインに沿ったキャリアアップ環境を用意することが求められます。

具体的には、ガイドラインに沿って、事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置するとともに、「キャリアアップ計画」を作成して、それについて管轄の労働局長の認定を受ける必要があります。

受給要件③:正規雇用の実施

正規雇用があらかじめ定めらた制度にしたがって実施されていることを示すため、「労働協約」か「就業規則」が作成され、かつ正しく運用されている必要があります。

これらの明文化された規定は、遅くとも対象労働者の正社員等への転換実施前には整えておく必要があるので注意が必要です。

また、適用者に対して6ヶ月分の賃金を支払ってきたこと、正社員等への転換前6か月と転換後6か月に支払われた固定的賃金の総額を比較して、転換時期に応じ、5%または3%以上昇給している必要があること、などの細かい要件もあるので、厚生労働省のHPで詳細を確認しておきましょう。

> (外部リンク)キャリアアップ助成金|厚生労働省

このように、キャリアアップ助成金の申請には、環境を整備しなければなりません。細やかな要件があるため、起業家ひとりで整備をするのには非常に労力がかかるでしょう。補助金ガイドでは、補助金・助成金の申請を専門家に依頼することのメリットについて詳しく解説しています。
また、創業手帳の無料会員になることで、専門家の紹介が受けられます。紹介にあたって、料金は一切かかってこないので、こちらもご活用ください。

キャリアアップ助成金:正規雇用等転換コース申請・受給の流れ

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キャリアアップ助成金「正規雇用等転換コース」の申請・受給の具体的な流れのは、厚生労働省のHPにある「キャリアアップ助成金のご案内」で詳細を確認できます。

> (外部リンク)キャリアアップ助成金のご案内(pdf)|厚生労働省

申請に必要なもの

就業規則(あるいは労働協約)の作成:前述の通り、遅くとも対象労働者の正社員等への転換実施前に作成して運用されている必要があります。なお、就業規則はただ作っただけではOK!とはならず、キャリアアップ助成金の支給基準に合致した内容になっていなければならないので注意が必要です。就業規則については、下記の関連記事をよく読んで頂ければとおもいます。

【関連記事】起業家のための就業規則入門

キャリアアップ計画書の作成:キャリアアップを指導するスタッフ(キャリアアップ管理者)は誰で、どのような流れで、どのような目標に向けてキャリアアップするか?等を、計画書にまとめて提出しなければなりません。


申請のスケジュール

正社員への転換時に、対象となる労働者が非正規として6カ月以上雇用されている必要があります。また、非正規雇用者を正規雇用するルールを定めた、就業規則(あるいは労働協約)が正社員等への転換時点の前から正しく運用されている必要があります。

よって、起業してすぐ、あるいは創業期の企業が今から準備を始めるとすると、申請は最低1年以上先になります。

また、申請してから審査結果の連絡があるまで約4~6ヶ月を要します。その上、審査通過後、助成金が入金されるまで、さらに1カ月程度を要します。

そのため、申請準備から助成金の入金まで、ざっと1年越しの長期スケジュールとなります。

キャリアアップ助成金が使えるときって?

創業手帳は、平成27年2月1日にHさんを採用しました。

お互いの相性を見極めるため、Hさんとは、まずは契約社員として雇用契約を結びました。Hさんが創業手帳の職場環境を気に入り、創業手帳もHさんを引き続き必要とするならば、6か月後には正社員に登用されるチャンスがあることも合意されました。

このような場面において、キャリアアップ助成金は活用できます。

キャリアアップ助成金受給前にすべき2つのこと|就業規則に要注意!

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さて、キャリアアップ助成金を活用することを決めたら、6か月後の正社員登用時まで何もしなくても良いかというと、そういう訳にはいかず、助成金を受給するためには、事前の段取りが肝心です。

Hさんを正社員に登用する前に、創業手帳は会社として「2つのこと」を行わなければなりませんでした。この「2つのこと」を行わなければ、正社員に登用しても助成金の申請は却下されてしまうのです。

「キャリアアップ助成金計画書」提出

1つ目は、「キャリアアップ計画書」を、会社を管轄するハローワーク(都道府県によっては、労働局)へ提出することです。

「キャリアアップ計画書」とは、「当社においてはこのようなプランに基づいて、社員のキャリアアップを推し進めていきます」というマスタープランのようなもので、契約社員やパート社員を正社員に転換する前に、ハローワークへの提出を済ませておかなければなりません。(※3)

※3:新型コロナウイルス特例として、もし新型コロナウイルス感染拡大の影響で事業所が休業するなど対応に追われ、キャリアアップ計画書や変更届の提出ができない場合、その影響が終わった後、7日以内にその理由を記した書面を添えて提出することができます。

「就業規則」改定

2つ目は、就業規則をキャリアアップ助成金対応に改定することです。キャリアアップ助成金を受給するためには、就業規則に定められた手順に基づいて、正社員への登用を行わなければなりません。就業規則には、正社員登用の時期、登用試験を受けられる対象者、登用のための手続きなどを定める必要があります。

社員数10名以上(パートやアルバイトも含む)の会社の場合は、上記のキャリアアップ助成金に対応した就業規則を、会社を管轄する労働基準監督署へ提出する必要もあります。

細かいことは、社労士さんに依頼するのが◎

助成金受給前にすべき2つのことを紹介しましたが、創業手帳の場合は、キャリアアップ計画書の作成や、就業規則の改定・届出は、社会保険労務士の先生にお願いをしました。

キャリアアップ計画書の記載内容や、就業規則の文言に問題があった場合、助成金が支給されなくなってしまうリスクがあります。

厚生労働省が出しているキャリアアップ助成金のリーフレットを読みながら、会社自身で申請をすることも不可能ではないですが、理解するのに相当の時間がかかりますし、勘違いなどにより助成金が不支給になってしまっては大変もったいないです。

それを踏まえ、報酬をお支払いいしてでも、確実に助成金を受給するためには社会保険労務士の先生にお願いをしたほうが良いと創業手帳は判断しました。

社労士さんへの報酬はどれくらい?

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社会保険労務士の先生への報酬は、先生によってまちまちですが、成功報酬で10%~20%くらいが適正な相場水準だと思われます。着手金の有無は先生によりますが、顧問契約とセットの場合は着手金無し、助成金だけのスポット契約の場合は着手金が必要な先生も多いようです。また、昨今は、審査が厳しくなったり長期化しているので、成功報酬制ではなく実工数に応じた手数料制の料金体系にしている先生もいらっしゃるようです。

経験豊富な先生に依頼しよう!

また、どの先生にキャリアアップ助成金の申請を依頼するかは、報酬の額だけでなく、その先生がどれくらい助成金の申請の経験があるのかということや、万一の場合に備え社労士賠償責任保険に加入しているか、助成金についての業務委託契約書を結ぶ場合には免責条項はどうなっているのか、などを確認すると良いでしょう。

キャリアアップ助成金の申請書類が受理された後は?

さて、キャリアアップ計画書が無事に受理され、就業規則の改定も無事完了すると、次は、Hさんの正社員への登用です。正社員への登用は、就業規則に定められた手順を踏んで、登用のための面接試験を公正に実施し、その上で、Hさんの正社員への登用が決定しました。

Hさんが契約社員として採用日されたのが平成27年2月1日でしたので、正社員への登用日は平成27年8月1日でした。

Hさんとは、正社員としての雇用契約書を新たに取り交わしました。正社員としての雇用契約書は、助成金の申請時に添付書類として提出が必要です。

そして、正社員登用後、さらに6か月継続勤務すると、ようやくキャリアアップ助成金の支給申請ができるようになります。(※4)すなわち、平成27年8月1日から平成28年1月31日までの6か月間が、助成金の支給審査の対象となる正社員としての雇用期間ということです。

ただし、実際に申請ができるのは、「正社員登用後、6か月分の賃金を支払った日」の翌日以降なので、当社の場合は、賃金は末日締め翌月27日支払なので、平成28年2月28日から申請できることになります。

※4:正社員転換後の6カ月は、各月11日以上の出勤が必要となります。新型コロナウイルス感染拡大の影響による休業等で、出勤日日数が11日未満となる場合は、休業手当が100%支払われた場合を除き、その月は1カ月とカウントすることができず、申請できるタイミングが後ろ倒しになりますのでご注意ください。

助成金の申請期限に注意!

ここで絶対に気を付けなければならないのは、助成金には申請期限があるということです。申請期限を過ぎてしまうと助成金は支給されません。キャリアアップ助成金の正規雇用等転換コースの場合は、「正社員登用後、6か月分の賃金を支払った日」の翌日から起算して2か月以内です。

創業手帳の場合は、助成金の申請を委託した社会保険労務士の先生がしっかりと期限管理をしてくれていましたので、安心して助成金の申請をすることができました。キャリアアップ助成金に限らずですが、助成金の申請においては「いつまでに、何をしなければならない」という期限管理に失敗をして不支給となってしまうことがいちばん多いようですので、期限管理には細心の注意を払う必要があります。(※5)

※5:新型コロナウイルス特例として、もし新型コロナウイルスへの感染、もしくは感染予防の影響等で支給申請期間内に助成金の支給を申請できなかった場合、その影響が終わった後、1カ月以内にその理由を記した書面を添えて申請することができます。

添付書類も忘れず準備しよう!

さて、キャリアアップ助成金の申請にあたってですが、支給申請書を1枚持って行けば良いのではなく、添付書類として、助成金の対象となる社員の方の、雇用契約書、賃金台帳、出勤簿などが必要となります。また、正社員登用のルールが定められた就業規則の写しも提出することになります。

助成金の申請書類は、会社を管轄するハローワーク(都道府県によっては労働局)の窓口へ提出し、窓口で簡単な審査を受け、それでOKならば、労働局で本審査に入ります。

審査は、かなり細かい!

助成金の審査に当たっては、雇用契約書や就業規則の内容に不整合はないかということや、賃金台帳と出勤簿を突き合わせて残業代に払い漏れがないかということ、本人は雇用保険や社会保険に正しく加入しているかなど、審査において細かくチェックされます。

創業手帳の場合は、あらかじめ社会保険労務士の先生に全ての書類をチェックしてもらった上で、助成金の申請をしましたので、何の指摘も受けずにスムーズに助成金の支給決定を迎えることができました。

申請した書類の内容に不備があると、再提出や修正を求められたり、追加書類の提出が必要になったり、場合によっては不支給決定がなされたりしますので、社会保険労務士の先生に依頼をすることで、そういった書類の内容の不備によるリスクも回避できるでしょう。

申請から入金まで、どれくらいかかるの?

助成金の支給申請から入金までには、現在のところ4カ月から6カ月くらいかかっているようで、創業手帳の場合も、実際に入金がされたのは、申請から4~5カ月後くらいでした。

申請件数が多くて、助成金を審査する担当者のマンパワーが追いつかない状況が続いているようなので、時間がかかってしまうのはやむを得ません。

ですから、助成金については「必ずこれくらいのタイミングで入金される」ということで、資金繰りの当てにはしすぎないほうが安全だと思います。

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(監修:特定社会保険労務士・ポライト社会保険労務士法人
監修者名 榊裕葵(さかき・ゆうき)
(編集・加筆:創業手帳編集部)

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