時短正社員とは?時短勤務との違いや企業側のメリット・デメリットなどを解説
時短正社員のメリットやデメリットを知って導入を検討しよう
時短正社員は、フルタイム正社員よりも短い時間で勤務する働き方です。時短正社員を導入することで、社員は育児や介護、プライベートとの両立をしやすくなります。
社員のモチベーション向上や離職率の低下にも貢献するでしょう。
その一方で、ただ時短正社員制度を導入するだけでは時短といいながらも結局残業してしまったり、時短正社員のフォローでほかの社員の不満が溜まったりすることも考えられます。
時短正社員のメリット・デメリットを把握してから導入を検討してください。
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この記事の目次
時短正社員とは?
時短正社員とは、正社員としての雇用であり、フルタイムで働く正社員よりも短い時間で働く働き方です。
厚生労働省は、フルタイム正社員を、1週間の所定労働時間が40時間程度で、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結した正社員と定めています。
短時間正社員については、以下のように定めています。
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- 期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している
- 時間当たりの基本給や賞与、退職金などの算定方法等が同種のフルタイム正社員と同等である
正社員だから必ずフルタイムで働くと決まっているわけではありません。時短正社員は、様々な人材に活躍してもらうための仕組みです。
時短正社員を活用することでより幅広い人材の活躍が可能になります。
時短正社員と時短勤務との違い
時短正社員は導入していなくても、時短勤務を導入している会社はあるかもしれません。時短正社員と短時間勤務の違いは、適用条件に関するルールがあるかどうかです。
時短勤務は、育児・介護休業法で定められた制度です。
子育てや介護と仕事の両立を図るためにフルタイム正社員が勤務時間を短くして働くため、対象となるのは育児や介護を行う正社員に限定されます。
一方で、時短正社員には、適用条件に制限がありません。家業の手伝いがある、体力面でフルタイム勤務が難しいといった理由でも時短正社員になる対象となります。
企業が時短正社員を導入するメリット
時短正社員を導入することで、働く側には様々なメリットがあります。一方で企業側にとっても時短正社員を導入することで良い影響が期待できるでしょう。
時短正社員の導入でどういったメリットがあるのか紹介します。
労働力不足の解消
時短正社員を導入することで、より多くの労働力を獲得しやすくなります。
正社員として働く人材の幅が広がるため、ライフスタイル、ライフステージに適した働き方をしたいと考える人が集まりやすくなるのです。
現在、少子高齢化によって労働人口の減少が問題となっています。これからはどれだけ労働力を確保するかが企業の成長に影響すると考えられます。
時短正社員を導入すると、時短正社員制度を導入していない企業よりも労働力を確保しやすくなるとされています。
意欲的で優秀な人材の確保
労働人口が減る中でも、意欲的で優秀な人材がいないわけではありません。しかし、優秀な人材も育児や心身の健康などの理由でフルタイムで働けないケースがあります。
時短正社員を導入すれば、こうしたフルタイムで働くのは難しいがスキルや知識に秀でた人材を獲得できるようになります。
時短正社員の立場を用意すれば、優秀な人材がより安定して働きやすくなるでしょう。
従業員の離職防止や満足度の向上
時短正社員を導入すれば、介護や育児といった理由で退職する人もキャリアを断念することなく仕事を続けられるようになります。
会社がコストをかけて育成、経験を積ませた社員を手放すことは大きな損失です。時短正社員の導入によって、こうした離職を防止可能です。
また、時短正社員はワークライフバランスを実現しやすい働き方でもあります。プライベートを充実させられるので、社員の満足度向上にも貢献します。
パートやアルバイトのキャリアパスとして時短正社員への転換が可能になるのでモチベーションアップにもつながるでしょう。
業務効率や生産性の向上
業務の効率化、生産性を向上させるにも時短正社員が効果的です。労働時間が短い社員がいることで、フルタイムの社員との業務の振り分けがしやすくなります。
時短正社員がいることに配慮して会議や打ち合わせを効率化したり、ITツールを使った業務遂行の活用が進んだりとより短時間で効率良く働くようになります。
時短正社員自身は、勤務時間や勤務日数が限られている中でも役割を果たすよう求められる立場です。そのため、短時間でも効率良く働こうとする意識が働きます。
こういった社員の増加によって職場の業務効率が上がっていくと期待できます。
企業のイメージアップ
時短正社員の導入で多様な働き方ができる企業として、イメージアップにつながります。
企業のイメージアップは、顧客や取引先からの評価が上がり、中長期的に企業価値の向上に貢献するでしょう。
さらに働き方の柔軟性が高い企業として知名度が上がれば、優秀な人材からの応募も増えると考えられます。
採用活動を強化して人材確保するために時短正社員の導入が有効な手段です。
時短正社員を導入するデメリット
時短正社員の導入によって、企業には多くのメリットがあります。しかし、デメリットがまったくないわけではありません。
時短正社員を導入するデメリットも知っておいてください。
従業員間で不公平感が生じる
時短正社員を導入すれば、時短正社員とフルタイム正社員との間に不公平感が生じることがあります。
具体的には、時短正社員がいない時にフルタイム正社員の業務負担が増加したり、評価基準が同じにはならなかったりする点です。
従業員間での不公平感をなくすためには、それぞれの立場を尊重した処遇や評価制度が必要です。
業務分担の仕組み作りで不公平感をなくすとともに、現場で働く従業員からの声も聞くようにしてください。
残業を課せられない
時短正社員が導入されても、残業してしまえば制度自体の趣旨に反してしまいます。
しかし、残業ができなければ業務の遅延が生じたり、残業する社員との連携が難しくなったりするかもしれません。
残業を課すよりも、業務の優先順位づけやITを使った効率化、職場でのコミュニケーション強化が課題解決への近道です。
そもそもフルタイム正社員も含めて時間外労働を減らすように取り組まなければいけません。
適所への配置が難しい
時短正社員は、勤務時間や勤務日数が少ないため、ふさわしい配置をするために配慮が必要です。
例えば、社外とのやり取りやミーティングが多いポジションに時短正社員を配置すれば、不在の時間に仕事が溜まってほかの社員の負担が増えてしまうかもしれません。
時短正社員を導入する時には、どういったポジションで活躍してもらうかまで考えておくことをおすすめします。
人件費や運用コストが増加する
時短正社員は、パートやアルバイトと比較して社会保険料や賞与、退職金といった企業のコストが大きくなる可能性があります。
時短正社員は、社会保険の加入対象になり、さらにフルタイム正社員と同じ待遇を提供しなければいけません。
短時間勤務でありながら正社員として待遇を維持すると時間当たりの人件費が向上してしまう可能性があるのです。
短期的なコスト増だけでなく長期的な人材確保や生産性向上念頭に置いて判断してください。
時短正社員を導入するステップ
時短正社員を導入するには、ただ時短正社員の待遇を用意して雇用すればいいわけではありません。時短正社員を導入するためのステップを確認しておいてください。
1.現状の分析をし、目的や課題などを明確にする
時短正社員を導入するためには、まず現状でどのような働き方のニーズがあるのか労働環境の分析からスタートします。現状を把握した上で目的や課題を明確にしてください。
時短正社員にどのような役割を求めるのか、職務内容や勤務時間、適用期間を検討します。
例えば、フルタイム正社員が育児や介護でも働き続けられるような環境を目指すのであれば、その目的に適した職務内容や労働時間、適用期間を検討していきます。
2.従業員から意見を聞いて制度案を検討する
時短正社員の目的や現状を把握した後には、実際に働いている従業員やこれから制度を利用する対象者に意見を聞くと良いでしょう。
現場の声から時短正社員を導入した時の業務スケジュールや業務配分を検討して施策を立案してください。
この時点で、時短正社員以外の社員に負担が大きくなってしまうようであれば、制度や施策を見直すことも必要です。
3.時短正社員の労働条件を検討する
制度や施策を策定してから、時短正社員の労働条件を決定します。給与は労働時間に応じて減額するなど支給基準を踏まえた上で合理的に算出します。
人事評価はフルタイム正社員と同じ基準を使いますが、労働時間の違いも踏まえた目標設定が必要です。
4.時短正社員制度を導入・周知させる
時短正社員の導入が決定したら、関係する従業員に周知するようにしてください。周知する内容は、制度内容や事務手続き、キャリアパスへの影響などです。
さらに管理職には、時短正社員への業務配分や人事評価制度などを周知してください。
周知するには社内報やマニュアルを用意するほか、従業員向けの研修会を開く方法もあります。就業規則にも必ず時短正社員制度の概要や申請手続きを明示しておいてください。
時短正社員の導入を成功させるポイント
時短正社員の導入によって、従業員の働き方や企業のふう土にも変化が訪れます。しかし、時短正社員の導入でほかの問題が現れる可能性も考えておかなければいけません。
ここでは、時短正社員の導入を成功させるためのポイントをまとめました。
適切な賃金を設定する
時短正社員の時間当たり賃金はフルタイム正社員とのバランスが重要です。仕事の内容など合理的な理由がないのに賃金に差をつけると不満につながります。
短時間勤務だからと不合理に低い賃金を設定すれば、時短正社員の働く意欲も減退してしまいます。どの立場の人も納得できる適切な賃金を設定してください。
時短正社員であっても仕事の内容や責任の程度が変わらないのであれば時間当たり賃金はそのままにして労働時間に比例した減額にするのが一般的です。
職責等が変わる時には、同じ職責のフルタイム正社員を基準にして設定してください。
評価方法を検討する
人事評価は多くの場合、賞与や昇給、昇進に反映されます。人事評価の如何によってその人のキャリアパスや生活にも影響するため、慎重に考えておかなければいけません。
もしも評価において設定された目標が時短勤務では達成不可能なものであれば、時短正社員が不当に低い評価にされていることになります。
評価基準はフルタイム正社員と同じにするものの、時間にとらわれないような評価基準が必要です。
勤務時間の長短ではなく成績や能力を適正に反映した評価を行ってください。
時短正社員の教育訓練を行う
時短正社員も、教育訓練はフルタイム正社員と同じように実施します。
ただし、OJTのように日々の仕事を通じた教育訓練は、労働時間が短い時短正社員は機会が少なくなってしまいます。必要に応じて遅れを取り戻すためのOJTも提供が必要です。
職場を離れて行うOff-JTは、時短正社員でも参加できるような日時設定で実施します。
フルタイム正社員と比較して不利にならないように本人の能力や評価に応じた教育訓練を提供してください。
スムーズに導入できるように工夫する
時短正社員を導入しても、単純に制度を整えて就業規則に明記するだけでは不十分です。
社員がしっかり活用できるような工夫を行います。制度の対象者が利用しやすい制度設計にすることもそのひとつです。
同じ時短正社員でも1日6時間×週5日や1日8時間×4日など違いがあります。制度利用者のニーズを聞いて柔軟で利用しやすい制度にすることが必要です。
また、時短正社員の導入で時短にならない従業員の負担が大きくなる可能性もあります。
仕事の進め方や情報共有の手段を見直して、負担が一部に偏らないように配慮してください。
制度のルールを明確にする
時短正社員を導入する時には、就業規則でルールを明確にしてください。ルールを明確にしておかないと、思い違いから無用なトラブルに発展することがあります。
就業規則では、時短正社員の定義や対象者、さらに賃金や休日、社会保険といった内容を記載してください。
厚生労働省が公開している短時間正社員制度導入マニュアルでは時短正社員の就業規則についてひな形を公開しています。ひな形を参考にして自社用の就業規則を作成可能です。
まとめ・働き方改革に時短正社員の導入はおすすめ
育児や介護、プライベートとの両立など人によって希望する働き方は違います。
従業員がより高いモチベーションで働くためにも自分らしく働くための制度設計が求められています。
働き方改革の第一歩として時短正社員の導入を検討してみてください。
時短正社員の導入によって、退職せざるを得ない社員が定着できるようになったり、一度退職した社員が復職できたりと大きな変化が起こります。
まずはどういった制度設計が可能か、現状の労働環境から考えてみてください。
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(編集:創業手帳編集部)