犬猫生活 佐藤 淳|国産、無添加、ヒューマングレード素材のペットフードを主軸に犬猫の「殺処分ゼロ」を目指す
「株式会社」と「一般財団法人」の両軸で犬猫が幸せに暮らせる世界を作る
日本では年間1.4万頭もの犬猫の殺処分が行われています。特に子猫の殺処分率が高く、避妊・去勢手術を受けていない野良猫の高い繁殖率が主な原因です。
この課題を解決するために、ペットケア事業を行う「犬猫生活株式会社」と「一般財団法人 犬猫生活福祉財団」を設立し、犬猫の殺処分ゼロを目指しているのが佐藤淳さんです。
今回の記事では、佐藤さんが犬猫生活を創業する前の背景にくわえ、犬猫生活の事業やプロダクトに込めたこだわり、解決したい課題や今後の展望について、創業手帳の大久保が聞きました。
犬猫生活株式会社 代表取締役
2013年にオイシックス・ラ・大地に入社。EC 事業本部の販売推進室の責任者として、 LTVを高めるための施策全般を管理。2018年に犬猫生活の前身となる “オネストフード” 立ち上げ。国産無添加のペットフードD2Cブランドとしてスタート。2021年 前澤ファンドから出資を受け、今に至る。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
学生起業などを経て、野良猫を保護した経験から「犬猫生活」を創業
大久保:まずは起業までの経緯を教えてください。
佐藤:子供の頃から物に値段をつけて売ることが好きで、フリーマーケットによく出店していました。
その流れで、大学も経営学部に進みました。大学ではビジネスコンテストを運営するサークルに入り、自分で勉強したり、先輩が起業するところを見ていたりしたこともあって、当時から起業は私にとって身近な存在でした。
大学4年生の時に、付き合いのあるベンチャー企業の社長からお誘いいただき、SNSを活用して新卒を採用するサービスを行う子会社の代表を務めることになりました。
大学を卒業して1年ほど経った頃に起きたのがリーマンショックです。市場環境が大きく変わり、SNS事業を行っていた子会社は急遽畳むこととなりました。
大久保:その後、どうされたのですか?
佐藤:そのころ、ちょうど自分で事業を立ち上げたいという思いもあり、ECサイトの運営代行を行う会社を立ち上げました。5年ほど運営し、ある程度利益も立つようになったのですが、もっと社会に影響を与える事業を立ち上げたい、と思うようになりました。
それを踏まえ、自分の実力やノウハウ不足を補うための経験として選んだのが、食材宅配の大手企業への中途入社という道です。
その会社には5年間在籍させていただき、次は何にチャレンジするかと考えていました。EC事業をやっていたこともあり、同じ領域で事業をやりたいと思い、ペットという分野に行きつきました。
大久保:ペットフード事業を選んだきっかけは何ですか?
佐藤:ペットフード事業をやるきっかけとなったのは、前職時代に近所の野良猫がいて、その子を保護したことです。その時は痩せていて気づかなかったのですが、妊娠していて、お家に連れて帰った4日後に3頭生まれました。
そこから猫の食事について調べるようになり、日本がペットフード後進国と言われていることを知りました。
国外でもペットフードは多く作られていますが、やはり日本で作られたものを食べさせてあげたいと思いました。輸送コストの面でも鮮度の面でも、国産の方が優位だからです。
それだけでなく、日本は食の技術が発達しているのに、それをペットフードに活かせていないことがもったいないと思いました。
日本の食技術をペットフードに活かせれば、世界にも十分通用するものが作れるのでは?とチャレンジしたい気持ちが湧いて、ペットフードのEC事業をやることとなり、6年前に創業しました。
大久保:今は学生スタートアップなど、だいぶ起業に対しての認知度は高まっていますが、佐藤さんが大学生の時は、まだ一般的ではない時代でしたよね?
佐藤:おっしゃる通り、学生起業の走りという感じでしたね。
大久保:EC事業は集客してコンバージョンに繋げるところまで、一通りのフローを経験することができるので、自分のビジネスを持つためには、とても良い学びだったのではないでしょうか?
佐藤:どうやったら買ってもらえるんだろう?と試行錯誤するところは、商売の本質です。
フリーマーケットの時と同じですが、どういったものが欲しいのか?どういう見せ方で、いくらだったら買ってもらえるのか?を学ぶことができたのは、今の商売のベースになったと思っています。
事業が軌道に乗るまでに行った工夫とは?
大久保:起業の直前直後などはどのような感じでしたか?
佐藤:プロダクト開発の段階では、常に時間を費やす必要はなかったため、前職に業務委託で週2日ほど入って、身銭を稼いでいました。そして商品ができあがってからは、完全に前職を辞めて、自分のビジネスに集中しました。
大久保:どのようなビジネスにも助走期間は必要ですよね。資金調達にも時間はかかりますし。
佐藤:前職で働きながらマーケティング領域は詰めていました。いざ製造する工程に移る時には苦労しました。例えばOEM先を探している時、20社に声をかけても話が進まなかったり、ドライフードが技術的に上手く固まらなかったりと、簡単ではありませんでした。
ただし、ECをやっていたからこそ、これだったら売れる、といった確信を持っていました。
大久保:ピボット期はあるのでしょうか?
佐藤:ドライフードからスタートして、おやつやサプリメント、さらに医療系にも広げているため、順調に進んでいます。
大久保:売り方の特徴などがあれば、教えていただけますか?
佐藤:シンプルに、定期購入を推しながら売ってきました。わんちゃん猫ちゃんは基本、決まったものを決まった量食べることが多いので、一回使ったお客様は定期購入をご利用いただけることも多々あります。
犬猫生活がプロダクトに込めた「3つのこだわり」
大久保:プロダクトのこだわりについて、改めて教えていただけませんか?
佐藤:国産、無添加、ヒューマングレード素材、この3つを軸にプロダクトを開発しています。3つ目のヒューマングレード素材に関しては、人間が食べても問題ない食材ということで、近年よく耳にすると思いますが、そこまでこだわって商品開発をしています。
大久保:なぜその3つをテーマとして掲げたのでしょうか?
佐藤:当社が掲げる3つの軸のうち「国産」を満たしている他社はあるものの、多くの企業は「無添加」「ヒューマングレード素材」を満たしていません。
それには2つ理由があって、1つ目は、製造工場の設備を大量生産向きにしていて、粉のものでないと作れず、人向けに流通しているような生肉を使うのが難しい。もう1つは流通の問題で、ペットフードはホームセンターでの売上が最も大きいため、ホームセンターに置ける価格設定でないと売れないところが多いです。
大久保:やはり大手は小回りが効きづらいというところがあるんですね。スタートアップだと、ロットが少なく、ニーズに対応できるからこそ、大手にも勝てるということが言えますね。
佐藤:今のターゲットはニッチではあるものの、今後伸びてくるところを狙っているので、スタートアップの戦略としては良いと思っています。
大久保:小型犬を多く見るようになりましたが、全体のペット市場はどのような動向ですか?
佐藤:小型犬は、ペットとして飼われている犬の9割ほどを占めます。
ただし、わんちゃんの数は、毎年3〜4%ずつ減っています。ねこちゃんは並行か微増です。
一方、ペットフード市場は毎年2%ずつほど、この20年増えています。つまり、1頭にかけるお金が増え、市場が伸びている状況にあります。
要因としては「ペットの家族化」ということが言われていますが、子供と同じ扱いで、自分より良いものをあげる人がいるほどです。
大久保:プレミアムシェアが伸びていくことがわかりました。
大手にはないD2Cメーカーだけが持つ強みとは?
大久保:ホームセンターで買える大手のメーカーの製品と、D2Cのメーカーの製品の違いを改めて教えてください。
佐藤:1番違うのは原価率です。
卸業者のことを考えると、原価を下げていかないと、なかなか利益は出ません。
しかし、直で販売するのであれば、ある程度原価が上がっても大丈夫です。
さらにお客様と直接コミュニケーションが取れるので、当社ではカスタマーサービスに力を入れて、お客様に専門的アドバイスができるようにしています。
それによって、改善ポイントなどもダイレクトに受けて、次に活かせるので、D2Cならではのスピード感も強みです。
大久保:直接声を拾えるのは強いですね。さらに卸で販売するメーカーよりも、比較的高い減価率で売れるという違いがあるんですね。
将来的には「グローバルな総合ペットケア企業」を目指す
大久保:犬猫生活株式会社としての今後の展望があれば教えてください。
佐藤:今はまだ、日本のペットフード屋さんという見え方になっていますが、会社として目指しているのは、グローバルな総合ペットケア企業です。
先ほど、日本のわんちゃんは減って、ねこちゃんは微増というお話をしましたが、アメリカ・ヨーロッパでは増えていて、アジアでもこれから増えていく見込みです。
そこに対して、日本のブランドとして展開していきたいと考えています。
12月には「犬猫生活 往診クリニック」を開設しましたが、さらにペットケア領域で、動物病院やトリミングサロンにも広げていきたいです。
動物病院やトリミングサロンは、業界的な課題でもあるのですが、働く環境がブラックというところも少なくなく、働き手も減少傾向にあります。
そこに我々が入って、業務の効率化や働き方の改善により、長く働ける環境を作っていけたらと思っています。
大久保:売り上げの一部を寄付する計画があるとお聞きしましたが、その点についても教えてください。
佐藤:上場企業における利益に対しての社会貢献支出率で、1位の寄付率は10%ほど。1%寄付していると、上位に入ります。
そこで20%寄付していると、日本一の社会貢献支出企業になるため、我々はそれを目指しています。
こうした社会貢献を軸にした活動をすることでお客様から評価され成長し、上場できるまでに成功した実績を作れれば、様々な業界で社会貢献度合いを競い合うような状況が生まれ、社会変革に繋がるのではと考えています。
大久保:そのような大きなビジョンがあると、働いている方も働きがいがあって良いですね。
前澤ファンドからの出資を受けて「採用面」で大きなメリットがあった
大久保:前澤さんから出資を受けたとのことですが、影響は大きかったですか?
佐藤:採用の部分で大きな影響を受けました。
前澤さんが人を募集していることをトピックとして発表してくれたおかげで、400件ほどの応募をいただき、かなり優秀な人材を採用できました。
大久保:前澤さんは業務にも結構関わってこられているんですか?
佐藤:1〜2ヶ月に1回は定例で業績報告をしつつ、新しいビジネスのディスカッションがメインになっています。
大久保:ペット業界など好きな人がいる領域は、採用でも役立ちそうですし、事業も広げやすそうですね。
佐藤:VCとの会話の中でも、担当者がわんちゃん猫ちゃんを飼っているかで熱量が変わってきます。さらに採用に関しても、転職を考えていなかったけど、この企業ならと申し込んでいただいた方も多かったです。
大久保:最初のマーケティングをしっかり準備してきたからなのか、事業展開を淡々と進められているように見えるのですが、その点いかがですか?
佐藤:苦労はしています。資金調達も1ヶ月遅れたらやばい、というスレスレを生きてきました。
とはいえ、私も38歳である程度経験してきたところもあり、大変なことを乗り越える術は身につけてきました。
「一般財団法人 犬猫生活福祉財団」の取り組み
大久保:財団をされていると伺ったのですが、詳しく聞かせていただけますか?
佐藤:「一般財団法人 犬猫生活福祉財団」の取り組みには大きく2つの軸があります。
1つ目の軸は、自分たちで運営している財団で、保健所で殺処分の対象となるわんちゃん・ねこちゃんを一時的に施設で飼育して、新しい里親を探す、「犬猫タウン前橋」「犬猫タウン吉岡にゃんこシェルター」といった保護施設を運営しています。
さらに、野良猫ちゃんの避妊・去勢手術を専門でやる不妊去勢専門病院「犬猫タウン前橋病院」の運営も行っています。実は殺処分の対象になるのは、大半が子猫です。理由としては、野良猫の繁殖力が強いからで、そこを抑えていくためです。
一般の病院より安価に処置できる価格にしており、補助金などを使うとさらに実費負担を少なくできます。
2つ目の軸としては、お金と人の採用をサポートしています。
お金に関しては、応募いただき、審査して、お金を助成する活動をしています。
人に関しては、わんちゃん・ねこちゃんを専門としたボランティア求人情報サイトを運営しています。
大久保:わんちゃん・ねこちゃんは昔からペットとして飼われているにもかかわらず、やらなければいけないことがたくさんあるんですね。
佐藤:地域差があって、人が少ないと団体も少なくなり、その分譲渡などの活動も薄くなってしまう現状がありますね。
大久保:最後に記事を読んでいる方へのメッセージをお願いします。
佐藤:日本の未来はあまり明るくないと言われている中で、会社は利益を出すためのものでもありますが、社会を良くするための機能という側面もあります。
会社を通して、社会を変えるチャレンジをして、一緒に日本の未来を作っていけたらと思います。
もう1つは、世界で勝負をしていきましょう。日本の中だと市場も減ってきてしまいます。そのため最初から世界に向けてチャレンジできる市場で勝負していくことをお勧めします。
大久保の感想
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(取材協力:
犬猫生活株式会社 代表取締役 佐藤 淳)
(編集: 創業手帳編集部)
犬の頭数は減るけれども、大事にされるのでペットフード市場は伸びるというのは面白いですね。
起業家は、全体は縮小していても、伸びている部分に着目するとチャンスを掴めるかもしれないですね。