法人成りでの資産引継ぎ方法とは?資産の種類や仕訳方法・注意点を解説

創業手帳

資産は必要な手続きを経てから引き継ぐ必要がある


法人成りにおける資産引継ぎは、単に個人の資産を法人へ移せば良いわけではなく、「どの方法で引き継ぐか」と「税務上のリスクをどう管理するか」が重要なポイントです。
売買・現物出資・賃貸借など、選択する方法によって消費税や所得税、法人税の扱いが大きく異なります。
また、無償や定額での引継ぎはみなし譲渡として課税されるおそれもあります。
事前に資産の種類と影響を整理し、必要なものだけを適切な方法で引き継ぐことが、法人成りを円滑に進めるための基本です。
まずは、法人成りの際に実務上よく引き継がれる資産の種類から確認していきましょう。

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法人成りの際に引き継ぐことが多い資産の種類


法人成りで引き継ぐことが多い資産は、主に以下の4つが挙げられます。ここで、それぞれの資産について解説します。

棚卸資産

個人事業から法人成りをする場合、個人事業ですでに保有していた資産は法人に引き継がれることになります。
特に商品の在庫や原材料、事務用品などの棚卸資産は、法人成りにおいても最初に引き継ぐことになる資産です。

棚卸資産を引き継ぐ場合、原則として譲渡で引継ぎを行います。譲渡時の価格は通常の取引価格で処理をするのがほとんどです。
例えば、1万円で販売する予定の商品の在庫を引き継ぐ場合、1万円で法人に譲渡する形を取ります。
ただし、型落ちや破損などの影響で通常価格での譲渡が困難な時は、時価で譲渡するケースが多いです。

減価償却資産

減価償却資産は、自動車や業務用機器、PC、ソフトウェアなど、1台あたり10万円以上かかる高額な事務用品などが該当します。
減価償却資産は個人事業主側だと譲渡所得として計上しますが、法人側は固定資産として計上する必要があります。

減価償却資産を引き継ぐ場合、時価で法人に譲渡することになりますが、万が一時価がわからない場合は、会計帳簿に記載された資産や負債の評価額から処理することも可能です。
なお、個人事業主の時に残っていた未償却年数は、法人には引き継がれません。
法人が譲渡を受けて固定資産として計上する場合、新たに耐用年数を設定して減価償却を行う必要があります。

不動産

個人事業主の時に所有していた土地・建物などの不動産は、譲渡で引き継ぐか賃貸で貸し出すのが一般的です。
譲渡の場合、不動産の所有権を法人に売却することになるため、所有権が法人に移行します。

一方、賃貸として法人に貸し出す場合は個人が所有権を持っていることになります。
所有権を変更する場合、「所有権移転登記」が必要で手間とコストがかかることから、法人成りにかかる費用と手間を少しでも軽減したい場合は、賃貸として法人に貸し出すのがおすすめです。

負債

個人事業から法人に引き継ぐものの中には、負債もあります。負債とは、主に返済が必要な財産を指し、買掛金や借入金などが挙げられます。
法人成りをする際に負債の扱い方について、以下3つの方法を選択することが可能です。

  • 個人事業主の間にすべて返済し、法人成りをする会社に引き継がせない
  • 法人成りをする会社で融資を受け、個人に貸付を行い返済する
  • 借り入れている金融機関・公庫に相談し、債務引受で法人名義に変更する

いずれの方法であっても債権者から同意が必要だったり、取引先に名義変更通知を出したりするなど、手続きが煩雑になるケースも多いため、実務上引き継がないケースがほとんどです。

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法人成りによる資産引継ぎの方法


個人事業主から法人成りで資産を引き継ぐことは可能ですが、引継ぎ方法は様々な種類があり、資産ごとに適切な方法は異なります。
具体的にどのような資産引継ぎの方法があるのか、解説します。

売買契約

資産引継ぎの方法において、シンプルでわかりやすいのが「売買契約」です。
個人が所有する資産を法人に売却することになるため、手続きは個人事業主と法人との間で売買契約を結ぶだけになります。

注意すべきポイントとして、個人から法人に資産を移転すると譲渡所得が発生したり、無償での譲渡が贈与と判断され、課税対象になったりする場合があります。
また、法人側は資産を取得するために購入資金を準備しなくてはなりません。
個人側で税金の支払い、法人側で購入資金の準備が必要となる場合もあるため、売買契約にするかは慎重に決めることが大切です。

賃貸借契約

売却が難しい不動産を所有している場合、賃貸借契約を締結させ、個人が法人に貸し出す方法もあります。
賃貸借契約なら個人が所有権を保持したまま法人が利用でき、手続きも賃貸借契約を結ぶだけで済みます。

賃貸借契約では法人が個人に対して毎月賃借料を支払うことになり、そうなると個人側は不動産所得を得ることになるため、毎年確定申告が必要です。
法人成りをした後でも個人側で確定申告が必要となる点には注意してください。

現物出資

現物出資とは、個人事業主が所有する金銭以外の資産を、法人に出資して設立などに必要な資本金に充てる方法です。
現物出資の対象となるのは、不動産や自動車、PC、有価証券などが挙げられます。
会社設立に必要な資本金は1円以上あれば良いですが、法人口座の開設に影響したり、取引先からの信用を得にくかったりするなど、デメリットも多いです。
しかし、現物出資を活用すれば、法人成り直後で現金が不足している場合でも、資本金を増やすことができます。

ただし、現物出資を行うには複雑な手続きが必要です。例えば、裁判所から選任された検査役による調査で時間と手間がかかってしまいます。
また、現物を出資することになるため、実際に金銭が増えたわけではないと理解する必要があります。

贈与契約

贈与契約とは、個人事業主として保有していた資産を法人に無償で引き継がせる方法を指します。
無償で引き継ぐことになるため、法人側は購入資金を準備する必要がありません。
例えば、個人事業で使っていた自動車を、そのまま法人でも使用する際にわざわざ売却するのではなく、無償で引き渡す場合が多いです。

ただし、税務上では「個人が時価で譲渡した」とみなされてしまい、譲渡所得の課税対象となる場合や、法人には受贈益が発生する場合もあるため注意が必要です。
手続き自体は複雑なものではないものの、税金による負担が大きいことから、慎重に選択する必要があります。

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法人成りで資産を引き継いだ時の仕訳方法


実際に法人成りで資産を引き継いだ場合、仕訳はどのように行えば良いのでしょうか。ここで、資産ごとの仕訳方法を紹介します。

棚卸資産の仕訳

個人からの棚卸資産は、売買契約によって引き継ぐケースが多いです。劣化・破損がなければ通常の取引価格で譲渡する形になります。
この時の勘定科目は、個人事業主側で「売上高」、法人側で「仕入高」に設定することが多いです。

【個人事業主側】

借方 貸方
現金 1,000,000 売上高 1,000,000

【法人側】

借方 貸方
仕入高 1,000,000 現金 1,000,000

なお、法人成りをしたばかりで購入資金が足りない場合、掛けで仕入れることも可能です。この場合、法人側の貸方は「買掛金」として処理することになります。

減価償却資産の仕訳

減価償却資産を引き継ぐ場合も、売買契約によって譲渡する形式が多いですが、価格は「時価」で取引きすることになります。
例えば、自動車を引き継ぐ場合、まずは中古車査定額を参考にしながら時価を出します。個人と法人のそれぞれの仕訳は以下の通りです。

【個人事業主側】

借方 貸方
現金 600,000 売上高 600,000

【法人側】

借方 貸方 摘要
減価償却費 200,000 固定資産 200,000 自動車購入(取得価額600,000円)

60万円で購入した自動車の耐用年数が3年で、定額法で償却する場合は、60万円÷3年=20万円が年間の減価償却費になります。
この場合、貸方の勘定科目は「固定資産」となり、減価償却費を計上するごとに帳簿価額は減少していきます。

不動産の仕訳

不動産を個人から法人に引き継ぐ場合、個人事業主側は事業用資産の譲渡として処理を行い、法人側は固定資産の取得として計上します。仕訳は以下の通りです。

【個人事業主側】

借方 貸方
普通預金 10,000,000 建物 10,000,000

【法人側】

借方 貸方
土地 10,000,000 普通預金 10,000,000

なお、賃貸借契約を締結させた場合、個人事業主側は貸方が「事業主借」、法人側は借方が「地代家賃」の勘定科目を使います。

【個人事業主側】

借方 貸方
現金 200,000 事業主借 200,000

【法人側】

借方 貸方
地代家賃 200,000 現金 200,000

負債の仕訳

法人成りの際に個人事業主が抱えていた負債を法人が引き継ぐ場合、誰が債務者になるかによって仕訳方法が変わってきます。
例えば、金融機関と相談し、債務引受で債務者が個人事業主から法人に変更された場合、負債は完全に法人のものとなります。

この場合、個人事業主側で借入金はなくなるため、「事業主借」で処理する場合が多いです。
一方、法人は新たに借入れをしたという扱いになることから、事業主貸として処理することになります。

【個人事業主側】

借方 貸方
借入金 400,000 事業主借 400,000

【法人側】

借方 貸方
事業主貸 400,000 借入金 400,000

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法人成りで資産引継ぎをする際に注意すべきこと


個人事業から法人成りを行う際、事業で使用していた資産をそのまま法人へ引き継げば良いと考えがちです。
しかし、引継ぎ方法や資産の内容によっては税務・会計・資金繰りに大きな影響を及ぼすことがあります。
想定外の税負担やトラブルを避けるためにも、事前に注意点を把握しておくことが重要です。

引継ぎができない資産もある

法人成りでは、すべての資産を自動的に法人へ引き継げるわけではありません。
例えば、個人名義の保険契約や一部の許認可、個人に帰属する権利関係などは、そのまま法人に移せないケースがあります。

また、リース資産や賃貸借契約についても、契約内容によっては名義変更や再契約が必要になるため注意が必要です。
営業許可なども法人成りをしてから新たに取得しなくてはいけません。事前に資産内容と名義を整理し、引継ぎ可否を確認しておいてください。

消費税がかかるケースがある

個人から法人へ資産を引き継ぐ際、個人事業主が課税事業者に該当する場合は、資産を譲渡する際に消費税が課されてしまいます。
消費税の納税義務の有無や課税区分を誤ると、後から修正申告が必要になることもあります。法人成りのタイミングと消費税の関係は、慎重に検討してください。

ただし、取引きによっては消費税がかからない場合もあります。例えば、以下の取引きはすべて非課税です。

  • 土地や土地の上に存する権利(建物は課税対象)
  • 預金や貸付金、売掛金などの有価証券
  • 現金、小切手、約束手形などの支払い手段
  • 商品券やプリペイドカードなどの物品切手
  • 社会福祉事業・更生保護事業などの資産、身体障害者物品
  • 土地・住宅の貸付(社宅等居住用建物は非課税、事業用建物は課税対象)

必要な資産を選んで引継ぐ

法人成りをするからといって、すべての資産を法人に移す必要はありません。
事業に直接関係のない資産や、引き継ぐことで税負担が大きくなる資産は、あえて個人に残すという選択肢もあります。

すべての資産を引き継ごうとすると、かなりの時間と手間がかかってしまうことから、本当に必要な資産を見極め、取捨選択して引き継ぐことが大切です。
見極めによって税務・会計処理をシンプルにし、将来のリスクを抑えることができます。

借入れへの影響がないように注意する

個人事業で行っていた借入れは、原則として自動的に法人へ引き継がれるわけではありません。
法人として新たに借り換えが必要になる場合や、個人保証が求められるケースもあります。

資産だけを法人に移し、負債が個人に残ると、バランスが崩れ資金繰りに影響が出る可能性もあります。
金融機関との事前相談を行い、借入れと資産引継ぎの関係を整理しておくことが大切です。

課税リスクに注意する

資産引継ぎの方法によっては、譲渡所得税や法人税、消費税など複数の税金が関係してきます。
例えば、評価額の設定を誤ったり、処理方法を間違えたりすると、税務調査で指摘を受けるリスクも高まります。
節税になると思って行った処理が、結果的に課税リスクを高めてしまうというケースも少なくありません。税務上どのような扱いになるかを事前に確認することが重要です。

無償・低額譲渡はみなし譲渡になる

個人から法人へ資産を無償、または著しく低い金額で引き継ぐと、税務上は「みなし譲渡」と判断されることがあります。
この場合、実際に対価を受け取っていなくても、時価で譲渡したものとして課税される可能性があります。特に高額な資産や減価償却資産は注意が必要です。
形式だけで判断せず、時価や税務上の取扱いを踏まえた引継ぎ方法を選ぶことが、トラブル回避につながります。

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まとめ・法人成りと資産引継ぎは事前の準備で円滑に進められる

個人事業主が所有していた資産は法人成り後に引き継ぐことも可能です。
それぞれの資産で適した引継ぎ方法が異なり、また個人と法人で会計処理や税務対応なども違ってくるため、慎重な判断が求められます。
まずはどの資産を引き継ぐのか見極めてから、最も適切な方法で引き継ぐようにしましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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